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*****


 

 ――クレイトン公爵家から一通目の手紙が届く三日前。


「あ、アズナの実がなってる! あ、ここにも! あっちにも! クルク、こっちよ」


 自分の愛馬をゆうどうしながら、気持ちのいい風がくトトルのおかを進んでいく。

 足元には、三日前までは小さな花をかせていたたけ十五センチの草が、小さな実をつけていた。


「一日で実が落ちちゃうから、今日中に採れるだけ採っておかないと。なんだか雨が降りそうだし……」


 雨で実を落とされてはたまらない。一つでも多くんでおこうと通い慣れた場所を一心不乱に採取していく。

 夢中になって地面に視線を落とし、アズナに心をうばわれていたため、ふと視線を上げる

と、丘にいたはずが、いつの間にか山に入り、かいどうの近くまで来ていることに気がついて、さっと血の気が引く。


「あら、ここの街道は……最近盗賊が出るから近づかないようにって言われていたのに……。引き返さないと。念のためこれを使っておこうかしら……」


 我がカーティス家の隊商も何度もおそわれたため、王国騎士団に討伐のらいをしたと父が言っていた。

 今日もラーガの森から少しはなれたトトルの丘に来るのも躊躇ったのだが、アズナの実がどうしても必要で、採取時期も短いため、意を決して来たのだ。

 今シーズンをのがすと、また採取まで一年待たなければならないし、素材店に売っているものはかんそうしていて効果がうすいので、どうしても採れたてのアズナが欲しかった。

 街道に近づかないようにと思っていたのに……、魔道具のことになると夢中になるくせをなんとかしなくては……。

 左手にめた自作のマジックアイテムにそっと手を当て、発動する。


「よし。これで、私とクルクの姿はだれにも見えないわね」


 その時、遠くから数頭の馬がけてくる音が聞こえた。何となく嫌な予感がして、下道が見える場所に移動する。


うそっ」


 そのひづめの音がする先には、馬に乗った十数人のらい者たちが、白馬に乗った一人の女性を追いかけているのが見えた。

 彼らは明らかにこちらに向かってきている。

 例の盗賊たちだろうか……。

 ざわりと恐怖が押し寄せ、反射的にクルクのづなを引いて丘にもどるため、森の奥の元来た道を進む。

 ――大丈夫。

 このままマジックアイテムで姿を隠して息をひそめていれば、万が一近づいてきても、彼らは気づかず通り過ぎて行くはずだ。

 私一人では、どうしようもできっこないに決まっている。

 激しい心音を耳に感じながら、街道から離れた場所へと足を進めた。

 大丈夫よ、このまま……。このまま。

 馬の蹄の音と、山にひびく男たちの女性をはやてる声が近づいてくる。


「逃がすな逃がすな! 上玉だぞ!」

「護衛ともはぐれて一人だ! この先の騎士団のちゅうとん地に逃げ込まれる前にさっさとつかまえろ!」


 その言葉に女性が捕まる場面が頭をよぎり、ひざが震えた。

 彼女は捕まったらどうなるだろうか。

 言葉にするのも恐ろしいことが起きるのだろう。

 震える足で立ち止まったままでいると、クルクがじっとこちらの様子をうかがうように見て

いる。

 街道の方からヒヒーンとかんだかい馬のいななきが耳に届き、ハッとした時、クルクが街道に向かってツンと軽く手綱を引っ張った。


「クルク。……そうよね。私なら、ここの森にはくわしいもの……。こんな時のために色々かばんめて持ってきてるんだから……」


 ぎゅっとこぶしを握りしめてクルクにまたがり、震える手で手綱をつかんで街道に向かった。

 馬の足音がだんだんと近くなる度に、手綱を摑む手の震えを誤魔化そうとうでを軽く叩く。

 逃げてくる女性の姿を確認すると、クルクの腹を軽くり、街道に向かった。

 腕につけた魔道具で姿を隠しながら、いつでも他の魔道具が取り出せるようにそれらの入ったポシェットに片手を突っ込む。

 森の中を追いかけられている女性にへいそうしつつチャンスを窺っていた時、一人の男が彼女の乗っている馬に矢をた。


「あっ!」


 矢は白馬の左のももさり、白馬が体勢をくずして女性が投げ出された。こちらもあわててクルクに急ブレーキをかける。

 幸い女性にはなさそうで、地面に転がった彼女はむくりと起き上がったが、その彼女を盗賊たちが取り囲んだ。

 私は慌ててポシェットから小箱を取り出し、ふたを開けて、中のツマミを半分ほどひねった。

 キイイィィン……と甲高い音と共に目の前の盗賊たちが次々とその場に倒れ込んでいく。


「何だ!? おい……どう……し」

「おい! なん……だ……」


 周りの人間が急に倒れて行く様に盗賊たちは驚きながらも、そのまま全員地面にした。


「全員寝たかしら……」


 そっと彼らの元に足を運ぶと、グゥグゥと大いびきをかいて男たちはねむっている。

 人間にしか効かない睡眠用魔道具なので、何が起きたのかと混乱している馬が数頭いたが、構ってはいられなかった。

 魔道具を解除して女性に駆け寄ると、彼女の白馬が心配そうに主人に鼻を寄せている。


「大丈夫よ、眠っているだけだから。……貴方あなたにご主人様を運ぶのを手伝ってもらえると

うれしいんだけど……その脚では厳しいかしらね」


 矢の刺さった脚からは当然血が流れていて、早く手当てをした方が良さそうだ。


「クルク。彼女を乗せていいかしら」


 クルクは女性のそばれいに膝を折った。


「っ! ……おっも!」


 彼女を乗せるため持ち上げようとするも、意識のない人間のなんと重いことか。

 ずりずりと引きずる形で彼女を引っ張ると、彼女の白馬も彼女の体を持ち上げようと地面と体の間に鼻先を差し込み手伝ってくれた。


「よし、なんとか乗せられたけど……街に戻るにも貴方の怪我した脚では厳しそうね。雨も降りそうだし……。とりあえず近くのどうくつに向かいましょう。……盗賊は放置しておいてもいいわよね……。半日は寝てくれるはずだから」


 そして、私たちはその場を離れた。


「……ん」


 眠っていた彼女の側で白馬の手当てをしていると、小さな声が聞こえた。


「お目覚めですか? 落馬されたようですが、お怪我はありませんか?」


 雨音が響く洞窟の奥で、パチパチと小さなに照らされた彼女がうっすらと目を開ける。

 彼女の耳元では小箱がリンリンとここい小さなすずの音を響かせていた。


「え!?」


 驚きに目を見開き、ガバッと体を起こした彼女がキョロキョロと周囲を見回す。


「ここは……? 確か森で……」

「安心してください。お嬢様を襲った盗賊たちはここにはいませんし、気づかれることもないと思います」

「……お嬢……? あっ! ええと、貴女あなたが……助けてくださったのですか? どうやっ

て。……まさか、急にねむに襲われたのは……」


 きでまだ頭がぼんやりするのだろうか、少し混乱したように彼女が問いかけた。

 こちらを見つめるひとみに、綺麗なアメジストだなぁと思わずれる。流れるプラチナのかみもあまりに綺麗で、絵画から抜け出たような美しい顔をふちっていた。

 引きこもり歴も長く、社交活動も全くしない私がこんな綺麗な人と話すこともないので、きんちょうしてしまうのは仕様がないだろう。


「ええと……。たまたま襲われているのを見かけて……。助けようと思って貴女たちと並走していたんです。そこで貴女が落馬して盗賊たちに囲まれてしまったので、この『ねんころボックス』を使いました」


 そう言って、彼女の横に置いていた小箱を手に取る。


「……ねんころボックス?」


 何それ? という表情丸出しの彼女に蓋を開けて説明する。


「これはですね。赤ちゃんを寝かしつけるために私が作った魔道具なんですが、ちょっと出力が強くなった上、音も不快な失敗作なんです……。この中にあるツマミを捻れば動かした目盛りの時間だけ眠るので、……盗賊たちは半日ほど眠ったままかと思います。お嬢様には目覚めの鈴の音をお聞かせしたので……寝ていたのは二時間というところでしょうか」

「あの甲高い音は、それだったのですね……」

「ええ。ちょっとみみざわりでしょう? 改良中なんです」

「とてもいいタイミングで出てこられて……、びっくりしました。並走なさっていたのも気づきませんでした」

「ああ、それはですね、これで姿や音を消していたんです」


 そう言って、腕につけたブレスレットを彼女に見せた。


「それは?」

「姿を隠す魔道具です。これをつけていれば、私を含め、私にれているものは姿が見えず、声や音を出しても周りには聞こえなくなるんです」

「そんな魔道具が?」


 綺麗なむらさきずいしょうの瞳を見開いた彼女が言った。


「ええ、実はぐうぜんの産物なのですが……。『ねんころボックス』と違って、改良以前の問題で、まだ同じものを再現できないんです」


 そう言って、実演して見せようと腕輪に嵌め込んだせいせきに手を触れ魔道具を発動すると、彼女の瞳がさらに大きく見開かれる。

 もう一度魔精石に手を触れ、魔道具を解除した。


「どうですか?」

「すごい。本当に全く見えない。これを貴女が? らしい魔道具ですね。そんなもの王都でも見たことも聞いたこともありません……。おかげで助かりました。ありがとうございます」


 未完成品をろうするのはずかしいが、『すごい』とめられて悪い気はしない。


「……とんでもないです」


 と照れながらもなんとか笑って返事をする。


「……っ」

「どうされました?」


 急に固まった彼女に何かとたずねると、慌てたように彼女は自分の白馬に視線を移した。


「あ、それにヴァイスまで手当てをしてもらって。何から何までありがとうございます」

「いえ、手当ての間も痛いでしょうに、嫌がる様子もなく、いい子で処置をさせてくれました。とてもかしこい子ですね」

「ええ。自慢の相棒で、大事な家族なんですよ」


 彼女は立ち上がり、ヴァイスに目線を合わすようにして優しい手つきで白馬をでる。

 さっきまで横になっていたから気づかなかったが、身長は兄様と同じくらいありそうだ。

 兄様も結構背の高い方だと思うけれど……。

 そんな彼女にぴったりのドレスは顔の造作とふんも相まって、あっとうてきな高貴さと美しさがにじていた。

 私は異国出身の母に似て、この国の女性の平均身長よりも小さいので、横に並ぶと『ちんちくりん』に見えることだろう。

 そんなことを考えながら、愛おしむようにヴァイスを撫でる彼女と、彼女をしんらいしているように鼻をこすける白馬の様子を微笑ましく見ていた。


「ところで、ここはどこでしょうか?」

「ここは、レダ山の中腹にある洞窟です。もう少し先の領境まで行けば騎士団の駐屯地がありますが、雨ですし街に戻るにも同じくらい時間がかかるので、今夜はここで一晩明かそうと思うのですが、いかがでしょうか?」

「そうですね。確かに、……この雨では山を降りるのは危険ですね」


 洞窟の入り口に視線をやった彼女は、「明日の朝には私のそうさく隊も来るでしょうから」と困ったように笑った。


「ですが、貴女のご家族は心配されていらっしゃいませんか?」

「いえ、薬草採取で帰らないのはにちじょうはんなので、特段心配されることはないですね」


 薬草や、魔道具の素材を採りに行くのに二、三日家に帰らないことは多いので、ブランカに言っておけば特に心配はされない。そう考えたら、私は本当に自由にさせてもらっているなぁと痛感する。


「とりあえず、食事にしましょうか」


 そう言って、かたからかけている手のひらサイズのかわのポシェットをゴソゴソとさぐり、なべやお皿、パンとハムに果物などを取り出すと、彼女が不思議そうに鞄を見つめた。


「……その鞄、たくさん入っているんですね。出てくるものとサイズが合ってないような気がするのですが」

「あぁ、これは『マジックバッグ』と言って、見た目の五十倍の物が入るんです。物を入れたからといって、重くもなりません。今日は薬草採取に来ていたのですが、採取に来る時はものや盗賊対策のものをたくさん持たないと、家の外出許可が下りなくて。かといってそれをつうに持つと重くて歩けないので」


 驚いたように彼女が大きな瞳を見開いた。


「『マジックバッグ』? まさか……」

「ええ、マジックボックスのれっ版みたいなものです」


 安直すぎる、ネーミングセンスがない、とブランカに言われたのはだまっておく。

『マジックボックス』とは、王家が所有する収納ほうの施された国宝で、収納上限のない箱だ。

 かの有名な天才どう『オルレイン』によって創り出されたゆいいつの魔道具。

 魔道具は、ほうじんと呼ばれる回路と、魔精石と呼ばれる石が連動することにより発動する。

 オルレインは約三〇〇年前に世界に魔道具を広めた人で、彼の存在が人々の暮らしを豊かにしたと言われている。

 このソレイユ王国では誰もがりょくを持っているものの、実際に魔法が使える人間はごくわずか。魔法を使える者は簡単に火を出したり水を出したりできるけれど、千人に一人、いるかいないかだ。

 だから、誰でもあつかえる魔法のような便利な魔道具に人々はかんした。

 時間をかけずツマミ一つで火のつくかまど。ボタン一つで安全なあかりをともすランプや、自動的に井戸から水をみ上げて、取っ手を捻れば水が出るホースなど。

 どれほど生活が豊かになったか計り知れず、人々はその後も生活の向上を目指して魔道具の研究を続けている。

 どこの国よりも素晴らしいものをと、ここソレイユ王国でも魔道具研究とうを作り、第二のオルレインを生み出そうと国家予算をぎ込んでいた。

 そんなオルレインが作った魔道具の中でも特に有名な『マジックボックス』。

 噂では、中に入っているのはほうもつに置き切れない財宝だとか、討伐したりゅうふういんされているなど色々な噂があるが、しんほどは確かではない。


「王家のマジックボックスは貴重な魔法石と難解な魔法陣の技術を使して作られたものだと聞いていますが、私のこれは安価な魔法石で作っていますし、オルレインの技術も完璧にかいせきできた訳ではないので、収納に上限があるんです。でも、私一人分ならこれだけ

収納できれば十分なので」

「いや、そうじゃなくて……。マジックバッグ自体が流通していないので……」

「確かにそうですね。でも、やはり消費者が求めるのは『上限なし』のものではないでしょうか?」

「……。上限があっても、誰もが欲しがると思いますけど……」

「うーん。どうでしょう。作るのに結構手間暇がかかるものなので手間賃に材料費、実際の効果を見た時に、値段が割に合わないと思いますけど……」


 素材集めから、魔法陣の構築。魔法石を精製したり、やくざいみ込ませたり、……加工等も考えると出来上がるまで一年以上はかかる。その時間を商品に上乗せするとなると、内容の割に値段はね上がる。もっと効率よく作る方法はないかとこうさくしているが、中々上手くはいっていないのだ。

 と、その時、私のお腹の虫が「ぐぅ」と、食事を要求する。


「あ……はは。とりあえず食事にしましょうか」


 あまりの恥ずかしさに笑って誤魔化しながら、簡単なサンドウィッチと、野菜と干し肉のスープの調理に取りかかった。


「あの……今更ですが、お名前をおうかがいしても? 私はパレンティアと申します」


 温かなスープを手に、向かいに座った彼女に尋ねた。

 美しいプラチナの髪に、とおるような青味のむらさきの瞳は今にも吸い込まれそうで、食事をする姿も上品だなぁとつい視線が行ってしまう。

 着ているドレスはオーダーメイドの一級品と一目で分かるし、かもす雰囲気は、明らかにいっぱんじんではなく、高貴な血が流れていることを窺わせる。

 今の王家に王女はいないはずなので、高位貴族のご令嬢ではないだろうか。

 社交界に詳しくないので、心当たりはないけれど……。


「あ、……ええと」


 言いにくそうに口ごもり、視線をらす仕草にお忍びかとピンと来た。

 どう見ても高貴な令嬢で、もしやかなわぬこいに駆け落ちでもしようとしたのだろうか。

 ――例えば、おうちに仕える庭師の男性と恋に落ち、二人で手に手を取って生きていこうと約束していたとか。


「……ひょっとして、この先で誰かとお約束があったりしますか……?」

「あ、いえ。その……。それは、もういいんです」


 間違いない! あまりに気まずそうに視線を逸らす彼女の雰囲気が全てを物語っている。

 相手の男性は来なかったのだろう。

 彼女の実家から手切れ金でももらったのか、こわくて逃げ出したのか、真実は分からないが、苦しそうにうつむく彼女の気持ちを思うとあまりに可哀かわいそうで、思わずなみだが滲んだ。

 こいびとに裏切られた挙句、盗賊に追われてこんな洞窟で一晩過ごすことになるなんて……。

 彼女を助けられて良かったと心から思う。


「え!? パレンティア様!? どうなさいました!?」


 心配そうに私の顔をのぞき込む彼女はあまりに美しく、どうしてこんなてきな彼女を捨てたのかと、相手の男のこの先の不幸を望むばかりだ。

 恋人であれ、家族であれ、……友人であれ、信じていた人に裏切られた時の心の傷は簡単にはえたりしない。

 ましてや高貴なご令嬢が駆け落ちしようとしただなんて、社交界に知られたらもう『傷物』として見られてしまうのは明白だ。

 ここで名前を聞かれても、名乗りたくないのも理解できる。


「いえ、ごめんなさい。無理に言わなくて結構です。……つらかったですよね。恋人に裏切られるなんて……。私、誰にも言いませんから」

「……え? あ、……ええ。そうですね。でももう本当にいんです。だからそんな顔をなさらないでください。それに貴女との素敵な出会いがありましたし。あんなにも恐ろしい盗賊たちから助けてくださった貴女に、最大級の感謝をささげます」


 そのあまりにもじゅんすいすぎる澄んだ瞳に、思わず返事に詰まってしまう。


「……」

「あの……?」


 私が返答しなかったのを不思議に思ったのか、彼女は困ったように首をかしげた。

 どこまでも澄んだ紫の瞳には私がどんなふうに映っているのだろうか。

 正義感にあふれた勇気のある少女に見えているのだろうか。


「……ごめんなさい。その、本当はお礼を言われるような立場じゃないんです。あの時、貴女が襲われるのを見て、隠れていようと思ったんです。……怖くて足が動かなくて。でも、クルクが……クルクのおかげで貴女を助けることができたので、お礼はクルクに言ってください」


 きっと彼女は私が何を言っているのか分からないだろう。けれど本当に、迷っている私の背中をクルクが押してくれたのだ。

 ――だって、私は、一度はその場から逃げた。


「でも、貴女が私を助けてくれた事実は変わりません。きっかけがクルクだったとしても、動いてくれたのは貴女です。貴女が助けてくれなくては、怪我をしたヴァイスでは逃げ切れなかったし、私もどうなっていたか分かりません。貴女の勇気に……感謝することが間違っているなんて言わないでください」


 その言葉に……恐らくあんの涙が溢れた。

 本当は、魔道具が動作不良を起こしたらどうしようとか、余計なことをしたかもとか、……私の判断ミスで二人とも死んだらどうしようとかぐるぐると考えていたのだ。


「あ、ありがとう……ございます」

「え、いや。パレンティア様、お礼を言うのは助けていただいた私の方です!」

「いえ、そう言っていただけて嬉しかったので。ありがとうございます」

「いや、ですから……」


 しばらくなぞのお礼合戦が続いた後、思わず二人とも声を出して笑い、やっと止まっていた食事にかった。

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