二章 舞踏会
2-1
それから数日後、父に
「……」
父がスッと差し出してきた手紙に、思わず半歩後退し、まるで
「この国広しといえど、王太子直々に送ってこられた舞踏会への招待状を、そんな目で見るのはお前くらいだろうな」
「
なぜかそれを
「これは、断れませんよね……」
「王太子直々のご招待だからな」
「ですよね……」
父のどうしようもないというその言葉に、一気に体の力が
「それから、公子様からドレスが届いてるんだが……」
「はい!?」
父の合図で、部屋のど真ん中に
「このドレス、今流行のマダム=シュンローのサロンのデザインじゃない。さすがクレイトン
流行に
そんな姉の言葉にひゅっと息を
「あと、
追い打ちをかけるように、ブランカがさらに箱を三つ開けて私に見せた。
「
そう言いながら私にドレスを
ドレスと共に送られた美しい靴もイヤリングも、細工や刺繍が睡蓮を模した揃いのものだ。
「お父様、
「送った……。が、やはり『せめて一度会いたい』と……」
「そんな……」
ガックリと
「メッセージカードも付いておりますが?」
「読まなきゃダメ!?」
私の切実な声に、姉と父、ブランカまでもが冷ややかな視線を向けてきた。
「
「姉様、
「貴女が実際に礼儀を欠くかは別問題でしょう?」
姉の正論すぎる直球が
『舞踏会にエスコートさせていただきたいなどと
はらり……と私の手からこぼれ落ちたメッセージカードを姉が拾って内容を
「あらあらあら」
「ティア、一度会ってみてはどうだ?
めて会ってから』と先方が言うなら、会ってみて、相手を
「あぁ、気配を消す練習ですね……」
「いや、そうじゃなくて……」
毎年建国祭では
毎年の建国祭は特に国王陛下への
最後の手段は「姿を消す
「あ、あの腕輪はつけていくなよ。使い道の
「……デスヨネ」
思わず内心舌打ちをするが、父は私の不満そうな顔を見て「持っていくんじゃないか」と心配しているようだ。
「それでは失礼します」とさっさと部屋を出ようとしたところ、「そういえば」と呼び止められた。
「パレンティア。最近また
父の低い声に、ぎくりと体を
父に告げ口したのは恐らくブランカだろう。
後ろに
「お父様。
「昨日は何時に寝たんだ?」
私の言葉を
「お
裏切り者のブランカの発言に父の口元が
「午前三時だと……?」
「あ、あの……。お父様。もう少しで今開発中の魔道具の実験が上手くいくところだったんです。それにその前の日は早く寝たんですよ!」
なんとか
「前日は、午前二時半だったと
「ブランカ!」
またしても、ブランカの余計な一言で、父の
「パレンティア! 今日から研究室の使用は午後九時までとする。ブランカ! 午後九時になったら私の元に研究室の
「かしこまりました。
「まま、待ってください! それでは研究時間が一日五時間も減ってしまいま……あっ」
思わず口から出た
「五時間だと……?」
「い、いえ。その……」
「今日は……研究室使用禁止だ」
父親の
「いつまで
「ブランカが告げ口するからこんなことになったんじゃない~」
夕食が終わってからも
その中にあった、『ミリア=ヘンガー』と差出人の名前が書かれた手紙が目につく。
彼女はアカデミー時代からの私の
「会いたいな……」
アカデミーには、祖父の
魔道具作りに関心を持ち始めた
十三歳で、期待に胸を
そんな中でも、唯一
退学から三年経った今でも
そんな
「……ねぇ、
「そんなことあります? 結構旦那様も
「騎士団って
騎士団に興味がないのでよく分からないが、
「どうでしょう? 公子様も社交界で人気ですし、お嬢様がお助けになったというアリシア様も社交界の中心的人物と聞きますし、知らないなんてことありますかね?」
「そうよねぇ……」
ブランカと私は研究室でビーカーに淹れたお茶を飲みながら深いため息をつき、王太子からの招待状を手に取った。
「目立ちたくもないけど、
「ええ。究極の
「「……」」
言葉をなくした私に、気遣う様子も見えないブランカが追い打ちをかけてくる。
「結婚しちゃえばいいんじゃないですか?」
「無理よ! 無理! 分かってるでしょう? 私に社交性のかけらも無いことくらい。
『結婚』を考えただけで、なんだか胃のあたりが痛み始め、思わずそこに手を当てる。
想像するだけで胃が痛くなるような女など、公爵家だってお断りだろう。
いや、それよりも、悪評高い私に求婚すること自体が既に公爵家に
「これは、有言実行しかないのではないでしょうか?」
「有言実行?」
「はい、お嬢様が噂通りの令嬢を演じるしかないかと」
そう言って、ブランカが一冊の本を私の目の前に置いた。
「何これ?」
「今王都で話題になっている
「対策を練って舞踏会に行かないと。話を聞く限り『
「ひっ!」
ブランカの言葉に、思わず体が竦み上がった。
確かに、このまま王宮に行っても、単なる地味令嬢という印象だけが残ってしまいかねないし、クレイトン公子の求婚を断るためにも『悪評令嬢』を演じてみるのが一番いいかもしれない。
手渡された小説をぎゅっと
「やるわ……」
「え?」
「やるわ。悪評通りに。私の研究ライフを守るためにも」
そう言うと、ブランカは少し楽しそうな目をしながら、「お手伝いいたします」と
く
「それでは、『噂通りの令嬢』にふさわしいドレスと、
「ええ、もう寝るわ。今日は研究室が使えなくて逆に
そう言って、ブランカにありがとうと言い、ベッドに足を向けた。
あぁ。あんな事件さえ起こらなければこんなことにはならなかったのに。
あれもこれも全部盗賊たちのせいだ。
そう
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