一章 望まぬ婚約
1-1
「
私用に
ノックもなしに勢いよく開けられたドアから、血相を変えた父と兄が
「まぁ、兄様のご婚約が整ったのですか? おめでとうございます。お相手はどな……」
「お前だ! パレンティア! お前に
見せつけるように私の目の前に
「わた……し?」
「……そうだ。クレイトン
「またまた、お父様ってば、
笑えませんよ、と
「冗談ではない……」
と、父がひらひらと私の目の前に差し出した手紙の
「ラウル=クレイトン次期公爵と言ったら、『
「兄様のおっしゃる通りですわ。そんな方が私に
王国の
我が国、ソレイユ王国に二つしかない公爵家の一つだ。
「ちなみに、この手紙は二通目だ。三日前にも同様の手紙が来たので、『長女のローズとお間違えではないか。次女のパレンティアはとても
父の言葉に、その先は言わないでと手で制すと、父も口ごもった。
「……貴族のご
そんな方に会えと? 引きこもりを
月とスッポン。もはや住む世界の
「……そうだな。王太子
困ったように言葉を選ぶ兄に、それ以上言わなくていいと手で制す。
「無理! 無理無理無理! 無理です!!」
言いながら、ガタン! と勢いよく席を立ったのがまずかった。アズナの実と混ぜようと事前に用意していた薬液の入った容器が
「ぎゃあぁぁあ! 一週間かけて
三日三晩、満月の光に当てながら
こんなうっかりで!
「落ち着け、ティア! 落ち着け! 兄がなんとかしてやるぞ!」
「いくらなんでも『ぎゃあ』はないだろう……」
「お
兄の
「よ……良かった」
「お前は、本当に
ため息混じりの父の声など耳に入らず、ブランカと薬液のこぼれた机の上を片付けながら父に視線を向ける。
「と、いうか。お父様、私の悪い
!?」
「もちろんだ。『
「僕だって、社交の場に出る
チラリと父が視線だけで『本当は何か心あたりがあるんじゃないか?』と言ってくるが、心あたりはないとブンブンと頭を左右に
こちとら引きこもり歴三年で、もう貴族男性とつながるような……。
「この手紙には、お前への求婚と、……それから先日家族を助けてもらったお礼がしたいと書いてあったが。何のことか分かるか?」
さっぱり分かりませんと首を
「……!! ああああ! 一週間前ラーガの森で、ご令嬢にお会いして……」
「……どんなご令嬢だった?」
父と兄がごくりと
「美しい月の光のような銀の
「
「間違いなく『社交界の
兄の質問に、まずいと
「パレンティア……お前、まさか」
「その……森に採取に行った際に、アリシア様が……
「「……盗賊って……」」
父も兄もふらりとめまいがしたかのように
「あ! でもでも! お父様と兄様の言いつけを守って護身用魔道具を大量に持って行っていたのでことなきを得ました!」
「『ことなきを得ました』じゃない! なぜそれを報告しない!」
ごもっともの
「ごめんなさい。私はカーティス家の者だと名乗っていないし、高貴な方だとは思ったんですが、正体を明かしたくないようで名乗られませんでしたし、……お
「無事だったから良いものの、どんなに護身用の魔道具を
はぁ……、と目の前の二人が深い……深ーいため息をついた。
外出時、私に護衛はつかない。
家族や幼い頃から
特に採取をする時は、あっちも行きたい、あれも採りたいと言うと、困らせるんじゃないかと気にしてしまうので、好きに動ける一人が楽なのだ。
そのため、一人で外出する際は護衛をつけない代わりに、ありったけの護身用魔道具を持たないと外出させてもらえない。
でも、あれだけの護身用魔道具があれば、騎士数人分に
それでも基本的には、どこかに行く際はブランカと一緒に
「……で、助けたのは分かった。それがなぜ婚約したいという話になるんだ?」
「さぁ……?」
首を捻り返事をすると、兄が「ハッ! 分かった!」と手を打つ。
「アリシア嬢は常に社交界の中心だから、お前の悪い
「に、兄様……?」
「そして、ティアが家の中で
確信に目を
「そして、助けられたアリシア嬢がティアの
なるかー! と、ツッコミたいが、これしかないと拳を握りしめて言い放つ兄の言葉に開いた口が
「王都で人気の小説ですね。『家族に
「兄様、そんな小説の内容を真に受ける貴族なんていないでしょう? まして高位貴族のクレイトン公爵家ですよ」
とにかく。と、兄とブランカの妄想に呆れながら父に向き直った。
「お父様……、お願いですから、……お断りしてください」
「もちろんだ。……しかし、ほら、返事は急がなくていいので、一度見合いの席をと書いてあるから、その上で断……」
「お父様!」
「ありがとうございます! 私の至らぬ点をここぞとばかりに返事のお手紙に書き連ねてくださいね。
そう言って、私は父が
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