第二十五話 ギャベル王

「ええいっ!! どうなってる! 無能共が!!」


「お、親父、今俺の手駒が探ってるからもう少ししたら」


「もう少しもう少し、何度そのセリフを聞いたっ!! ええい、バルドっ! 親衛隊も街に出せ!」


「よろしいのですか? どうやら城内に侵入者が出たようですが……」


「ぐぬぬ……すぐに其奴を俺の前に引きずり出してこい!!」


「お、親父、俺が行ってこようか?」


「お前が行って何になる! 心配事が増えるだけだ! お前はここにいろっ!」


「あ、ああ……」


 会話を聞いてるだけだと盗賊共のねぐらで聞いたような下品なやりとりだ。

 これが、王、国を統べる人間とその側近の会話とは……


「はぁ……」


「何者だ!?」


 しまった。思わずため息をついてしまい、気が付かれてしまったか。

 バルドと呼ばれた男がこちらに突っ込んできて身を隠していたカーテンごと剣で切り裂いた。

 ボワッっと炎がカーテンが火を噴いた。

 なるほど、魔道具か……


「ば、バカっ! ま、魔術師ども火を消せ!」


 脇に控えていた魔法使いが水の魔法で火を消していく。

 なるほど、このバルドという男は、それなりの腕が立つが、あまり頭は良くないようだ。

 俺は炎に室内の人間が気を取られているうちに壁を走って王の間の入口に到達する。

 警護する兵を気絶させ、扉に持っていた槍を差し込んでこの空間を閉鎖する。

 鉄製の槍を扉に通してぐにゃりと曲げて結んだので、簡単には外せないだろう。


「な、な、何者だ!! いや、何者でも構わん、殺せ殺せー!!」


「うおおおっ!!」


 室内の兵士、といっても、なんというか、攻め方が訓練された兵士とは程遠い、良い装備をしている賊、といった動きだ。

 拍子抜け過ぎる、せっかく魔法を使える人間も居るのに、隊列もなにもないから裏を取って先に魔術師を気絶させ、バラバラと寄ってくる賊を倒していけば室内の兵は少なくなる。

 王と周囲を守る数名と、アレがメルティの相手という蛆虫か……


「ひっ」


 俺が殺気を含んだ目で見ると、じょろじょろと小便をもらいしている。

 はぁ……あんなものに、あのメルティを……

 メルティを……許せんな……


 怒りが心を支配していく。

 抑えていた殺気が、この世で最も愚かなことを考えたギャベルへと向かう。

 バタバタと周囲に立つ兵士たちが倒れていく。


 「こんな程度で、良く国を落とせたものだ……貴様の部下なぞ訓練された兵の敵ではないだろう」


「ギャベルっ! 避けろぉ!!」


 バルドは叫びながら魔法剣で斬りつけてきたが、軽く避けてぶん殴った。

 壁に叩きつけられぐったりと意識を失った。

 その姿を見て、ギャベル王は失禁、出すものをすべて出して悪臭を漂わせていた。

 そして、正気を失ったようによだれを垂らし焦点の合わない瞳でべらべらと喋りだした。


「くははははっ、ひお、人質を取ったのだ!

 こむ、小娘だった、王の、娘を」


 ……止めろ、それ以上口を開くな……


「きひひひひひ、あの、め、め、」


 止めろ、貴様がその高貴な名を口にするな……


「あの売女、メルティとかいう女を!! めんどくさいことせずにあのまま手籠めにでぶおっ……」


 何かが頭のなかで切れた音がした。


 



 ばぁんと大きな音がして王の間の扉が破壊された。


「……っ、これは……!?」


 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。


 俺は、ナニカを殴りつけている。


 ゴンゴンゴンゴンゴン。


 周りの兵は目を覚ましても小便をたれて逃げ惑って壁に集まっていた。


 ゴンゴンゴンゴン。


 耐えられぬ怒りが、俺に、ソレを、殴らせていた。


「アレス殿!! もう、もう、お止めくださいっ!! メルティ様にそんな物を見せるおつもりか!!」


 メルティ、そうだ。俺はメルティのために……

 燃えるような怒りが、落ち着いていく。

 そこにあったものが平たく変化した物に打ち付けていた拳をとめる。

 振り返れば、知った顔がいる。

 カイン、ベイル、それとジーノがこちらを見ている。


「アレス殿、国盗りは成りました。

 メルティ殿を迎える王座をこれ以上そのようなもので汚しては成りません」


「カイン……」


「皆のもの、この場で見たことを口外することを禁じる。

 さ、アレス様、皆でメルティ様をお迎えに上がりましょう」


「ああ、そう、そうだったな。

 メルティに国を取り戻すと、俺は、約束したな」


 上を向くと、空が見えた。

 天井は無くなっていた。

 足元には、何かがあったが、興味もなかった。


 俺は、メルティの国を取り戻した。






 それから数日、俺とカインはピース村へと向かっていた。

 開放されたレイクバックはカインを中心にレジスタンスも協力して混乱を納めてくれた。

 ギャベル側についた街は、すでにカインや積極的に協力を申し出てくれた街の兵によって落とされ、ピース王国の実権は取り戻すことが出来た。

 カインは、メルティこそが正当なピース王国の後継者なのでその正当な王に王座についてもらうという形でどんどん話を進めていってくれた。

 本当に助かった。

 俺は、戦うくらいしか出来ない。

 メルティの敵を、排除することしか……

 

 この先代の王の忘れ形見による国盗りは、苦しめられていた国民にとって喜ばしい話題として国中に広がることになる。

 そして俺は、新女王の剣として国中に名が広まることになる。


 しかし、俺はそんなことはどうでもよかった。


「今は、一刻も早くメルティに会いたい」


 それだけが俺の原動力になっていた……


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