第二十四話 決起
「アレス様、連絡が来ました」
「そうか……」
レジスタンスのメンバーと決行当日の入念な打ち合わせ中に待ちに待った知らせが来た。レジスタンスのメンバーも待ちに待った知らせに沸き立つ。
「使いの方は上でお待ちいただいています」
「わかった、すぐに行く」
レジスタンス本部の上には酒場がある。そもそも紹介がなければ入れない酒場のさらに奥にレジスタンス本部につながる道が隠されている。
客の半分はレジスタンスのメンバーで、不穏分子が侵入するようなことがあれば、そのまま闇に消えていくことになる。街の暗部であるスラム街、裏路地での行方不明なんて日常茶飯事で、まともな調査もされない。街の人間からすれば、あんなところに行くほうが悪い。である。
「貴方がアレス様」
「はじめまして」
使いの男性は、なるほど流石に普通の男ではない。握手を交わした瞬間にわかる。
プロの人間だ。
「こちらを」
手のひらに書かれた文様から文が出てきた。収納魔法的なものなのだろう。文が出ると文様は消えてしまった。
「失礼する」
文を開ける。
なるほど、カイン殿は優秀だ。それに、動きが早い。
「理解した。こちらの準備は出来ている、この予定日に決行する」
「わかりました。主には身命を賭けてお伝えする」
文を空に投げるとボワっと火を放ち消えてしまった。次の瞬間、その男の姿がすうぅと消えていく。
警戒していたメンバーがあたりを見渡すが、もう遅い、俺の返事を聞いている途中にすでに店の入口から抜けていった。返事やそこに居たように見えたのは魔法の類だろう。扉の音による聴覚情報も、開くという資格情報も魔法によって隠されていた。こういう使い方があるのか、これは、敵に使われると厄介だな。ここで見れて良かった。
「た、頼もしい仲間がいますね」
「そうだな、その仲間のためにも迅速に動こう、皆、結構は今日の夜、ギャベルの耳に我らの蜂起の情報が入る前に、一気に決めるぞ」
「おおおおぉぉっ!!」
ガチャンと店につながる扉に鍵が付けられ、頑丈な木によって封印される。
レジスタンスは本部から様々な場所につながっている地下下水通路に通じている。
作戦はすぐにレジスタンスで共有され、事前の準備どおりに皆が動き出す。
俺もすぐに準備に取り掛かる。
作戦は単純明快、教科書通りの陽動、そして突入だ。
レジスタンスによる街の各地による武力蜂起、それにより街の治安維持部隊と城にいる親衛隊は各所へと出動する。手薄になった城へ、俺が侵入しギャベルの身柄を拘束する。
街の治安維持部隊はすでにレジスタンスと通じており、実質は親衛隊だけを相手すれば良い事になっているが、情報の漏洩はどんなところからも起こることは百も承知だ。それにも対応できるように密に打ち合わせは行ってきた。
街の人間もレジスタンスを支持する人間が多い、レジスタンスの蜂起を今か今かと待っているほどだ。もしレジスタンスが行動を開始すれば、街の人間は邪魔にならないように行動してくれるだろう。ただ、加熱して城へ突撃されても困るので、俺の城への侵入は城門を突破する形ではなく、秘密の入口からこっそり開始する。
「もうすぐか……」
そして俺は城の中庭に通じる通路で待機を合図を待っている。
各所の蜂起と親衛隊の出撃が確認できればすぐに合図が来る。
城の気配を探ると慌ただしく走り回っているのを感じる。
すでに行動は開始されている。
「ひゅーーーーーーーーーううううううぅぅぅぅぅう」
鳥の鳴き声のような音が中庭に響く。合図の矢音だ。
気配を殺し、隠し戸を押開ける。
中庭に人の気配はない、少し離れた場所では兵士たちが松明を構えて慌ただしく動いている。
闇夜に紛れてそのまま素早く城の壁に移動する。
「ふっ!」
壁のくぼみや窓の囲みを利用して、城の上に上がる。
上から見ると街は騒然としており、兵の塊を示す松明の火が慌ただしく動いている。
その光景が、少し美しくも見えてしまうが、その下では皆が必死に戦っている事をすぐに思い出した城の天井を移動していく。
最も高い建物、その窓から侵入し、元王であるギャベルがいるであろう王の間を急襲し、一気に頭を落とす。それが俺の役目だ。
なんとか見つからずに城の一番中央に到達する。
流石に内部は慌ただしく兵が行き交い警備が緩む気配はない、むしろ警戒態勢で分厚い警備がなされている。
僅かな隙間をついて場内に侵入する。
カインの使者のような真似は出来ないが、窓に油を使い音を消して糸を使い鍵を開け、そして窓を隠すカーテンの裏に入り込む。
「ん?」
流石に風の動きは隠しきれない。
警備の兵の意識が少しこちらを向く。
小石を指で兵の背後に弾き小さな物音を立てる。
「なんだ?」
振り返り物音を確かめようとする兵士の背後から一気に接近し、眼の前の扉を開けて中に入り込む。
そのままその兵士の意識を刈り取る。殺しはしない。
事前の調べでここは物置で有ることは調べがついている。
俺はその兵士の装備を剥がし身につける。
そのままではきついので、身体を変化させて身につけられるようにする。
やや長さが足りないが、明らかにおかしい感じはしない。
俺は素早く廊下に出てこの兵士が守護していた場所に戻る。
第一関門はクリア。
あとは周囲を探るような動きをしながら守備兵のふりをしながら進んでいく。
「城内異常ありません!」
「うむ」
兵たちが城内を慌ただしく動いているおかげで俺も動きやすい。
階段を降りて王の間に続く廊下に進む。
「待て!」
「はいっ!」
「そなたはここの担当では無いようだが?」
「はっ! 先ほど不審な物音がしたために報告に上がりました!」
「そうか、なら私が聞こう、その場所はどこだ?」
「はっ詳しい場所はこちらの図でご説明いたします!」
「うむ、ではそこの詰め所で聞こうついてこい」
「ははっ!」
王の間の両隣は兵たちの詰め所となっており、部屋の中では多くの兵が街からの報告などをまとめている。その数、14名。
「では、報告を聞こう」
「はっ、それではこちらが現場の地図になります」
懐に入れた地図を広げる。
同時に大量の煙が周囲を包み込む。
「なっ、なにご、ぐぇ!」
「な、何だ! 何も見えっぐはっ!」
「く、ふ、不審者っああ!?」
突然のことに混乱をしている兵を倒していく、視界は封じたが、俺はすでに全員の位置を見ている。
室内に居た兵士を全て気絶させる。
「さて、ギャベル王とご対面と行くか」
俺は、詰め所の扉を開けて大声で叫ぶ。
「侵入者だ! 火を放って上に逃げたぞ!」
そして、踵を返して窓から外に出る。
壁を伝ってすぐのベランダ、そこが王の間の裏になる。
俺は、兵たちが上に上がっていくのを確認し、静かに王の間へと入るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます