第二十三話 レジスタンス

「もういいぜ」


 目隠しを取ると思ったよりも明るい部屋、室内には十名ほどの人が居ても狭さを感じない広い部屋だ。


「ようこそ英雄アレス殿、私がレジスタンス、リーダーのジーノだ」


「英雄はよしてくれ、アレスだ」


 差し出された手を握る。強いな。

 歳は40半ば、に見えるが実際は50ほどか?

 長年の実践の中で鍛えられた雄々しい身体、年齢と貫禄をかんじさせるヒゲ、そして人のすべてを見透かさんとする鷹のような目つき。国への反逆というリスキーな組織を束ねるにはこういったカリスマ性が必要だ。彼には十分にその素質があるように感じる。


「噂は本当だな、お前ら、絶対に余計なことをするなよ、俺達なんてこの人にかかれば一瞬だ」


 ざわざわと室内が騒がしくなる。そんな物騒なことはしないのだが、襲われなければ。一部敵意を感じていたので少し警戒しては居たが。


「アレス殿、最近セファクリシンの領主が動いているのは貴方と関係あると考えていいのかな?」 


「いい耳を持っているんだな。そうだ」


「つまり貴方は、この国、いや、愚王ギャベルを倒すつもり。と考えていいのかな?」


「そうだな、愚王が賢王でなければそうなるだろう」


 おおーーーっ! と歓声がわくが、ジーノが制する。


「方法は?」


「今カインが周囲の街村を説得してくれている。

 せめて敵対しないように動いている。

 それらの手はずが整ったら、一気に城を落とし直談判する。

 メルティを諦めてピース村に手を出さなければ、あとは国民に委ねる。

 もし、メルティやピース村を狙うなら……殺す」


 周囲の人が一斉に武器に手をやる。ちょっと想像したら殺気が漏れてしまった。

 謝罪しておく。


「なるほど……城を落とす、とおっしゃられたが、兵はどれほど準備を?」


「俺一人で」


「……聞き間違いかな? セファクリシンの兵や最近急成長しているピース村の戦力は?」


「必要ない、俺一人で話に行く」


 周囲からとんだバカを連れてきたものだ! ただの妄言吐きじゃないかと落胆する発言が出る。

 まぁ、仕方がないか。


「少し見当違いをしていたようだ。アレス殿、今日はあえて嬉しかった。

 貴方の活躍をお祈りしている。

 ベイル、アレス殿を外へお送りしてくれ」


「アレス殿、ちょっと肉体を戻してもらえませんか?」


「ベイル? 話は終わったぞ?」


「別に構わんが、マントをとってもいいか?」


「……どうぞ」


 俺はマントをとる。

 ダボッとした洋服をむりやり紐で結んでいるので、その紐を外し、絞り込んでいた筋肉を開放する。

 ぐおっ……これは、なかなか、いい負荷がかかるな。

 トレーニングに使えそうだ。

 絞り込んでいた筋肉は久しぶりの解放に喜んでいるように拍動する。


「なっ……!?」


「ぬ、少し、服がきつくなってしまったな」


「そ、その技は、殺し屋の……」


「ジーノ様、アレス殿はこの秘術を、やってみたら出来た。と軽々とおっしゃいました。この方は我々の尺度で測りきれるようなお方ではありません。

 信じてみませんか?」


「むう……アレス殿、もう一度いいか?」


 再び手をさしのべられる。しかし握手ではない。

 傍の者が一瞬で大机を片付けて頑丈そうな小さな机と椅子を用意する。

 どっかりとソコに腰掛けて慣れた所作で構える。

 今度は机に肘をついた、いわゆるアームレスリングの形で。

 俺もよく兵たちと遊びで行う。


「わかった」


 俺も向かいの席に座る。

 がっちりと手を掴む。

 なるほど、先程は相手も様子見といった感じか。

 丸太のような腕がパンパンになっている。

 今まで相手したどんな相手よりも、桁違いに力強い。


 まさか、リーダーが負けるはずねぇよなぁ! 俺はリーダーに5万だ!

 いや、あのアレスだぞ、悪いが俺はアレスに10万だっ!


 あっという間に賭場に変わってしまった。


「それでは、両名とも、準備はよろしいですか?」


「ああ」


「平気だ」


「では……」


 静寂が訪れる……


「GO!!」


 ドンッ!! とジーノの身体が弾けるような感覚が腕から伝わってくる。

 凄まじい力だ、間違いない、こんな力を受けるのは初めてだ。


 「ぐおおおっ!!」


 さらに力が加わってくる。凄いっ!


 バカなっ、微動だにしない!

 おいおいおい、ハードオークので作った机が悲鳴を上げてるぞ!

 や、やべぇ……すげーもん見てるぞ俺達!!


 周囲が盛り上がっている。


「素晴らしい力、堪能させてもらった」


「なぁ!!?」


「ふんっ!」


 少し力を込める。ぶるぶると震えながら腕が傾き始める。


「うううううおおおおおおぉぉぉぉっ!!」


 ここで一気に崩れないとは、なんと雄々しき力、これは長い年月の鍛錬の現れ。


「見事、感服しました」


 一気に力を込めて机に腕を倒し込む。


「そこまでっ!! 勝者、アレェェェェェスウウウゥゥゥゥl!!」


 うおおおおおおおおおおおっ!!!!!


 大歓声が起きる。大丈夫か? 秘密の場所じゃないのか?


「……こんな負け方をしたのは、生まれて初めてです……これでもダイヤモンドまで行ったんですがね」


「俺もこんなにも力を受けたことはありませんでした」


 ガシッ! 今度は熱い握手を交わす。


「アレス殿、貴方を信じましょう。

 我々が出来ることは何でも言ってください。

 ベイル、アレス殿についていきなさい」


「ははっ!」


「そういえば、酒場で連絡を待たなければ行けないのだった」


「ああ、その件はこちらで引き受けましょう。大丈夫、店主にはちゃんと説明します」


「アレス殿、いや、アレス様。このベイル貴方様の手足となって働きます。

 今後ともよろしくお願いします」


「そんなにかしこまらないでいいのだが、だが、頼もしい。よろしく頼む」


 ベイルとも握手を交わす。


  それからレジスタンスのメンツと一人一人挨拶をし、握手を交わした。

 レジスタンスの一部にはかつて賊だったメンツも居たが、レジスタンスに参加した人間たちは過去のことは水に流して付き合ってくれると約束してくれた。

 俺に会うと卒倒してしまう人間も居たが、そのうち慣れてくれるだろう。


「決行の日まではこちらをお使いください。宿に知らせが来たらすぐにお知らせします」


「ありがとう、助かるよ」


 首都滞在の家まで提供してもらい、準備は万端だ。

 街の詳細な地図、場内の構造図など、結構の日までの準備は万端に備えておく。

 レジスタンスは決行日には各所で陽動を駆けてくれるらしい、王直属の部隊でなければ、事前の手回しでどうにでもなるらしく、親衛隊部隊を引っ掻き回せば、城の守りはずいぶんと薄くなる。


「そうは言っても、直属の兵は城を離れませんから、300は居ますよ……」


「まぁ、なんとかなるさ」


「アレス様が言うと、本当にそうなる気がしてきます」


「うん? いや、本当にそうするぞ?」


「……そうですね。背中は、守ります」


「それは心強いな」


 決行の日は、すぐそこまで近づいていた。 

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