第十八話 盟友

「お久しぶりですアレス様」


 歳は41。この街セファクリシンを治めており、名を持つカイン=セファクリシン。

 もともと冒険者で風魔法を使える。だが、身体も鍛えられていて戦場では馬を走らせヒット&ウェイでの戦いを得意とする。冒険者時代は長杖による杖術という戦闘スタイル。中距離からの打撃と魔法による攻撃で戦い、最終的にはゴールドまで至っている。

 その頃に稼いだ金と名声で人を集めこの荒れた街を復興させ今では代表の座に座っている。

 前任は善人だが無能なタイプだったので、有能な善人である彼は街の人からの信頼も厚い。気持ちの良い男で、俺も一目を置いている。


「カイン様、以前も言いましたが私にそんな態度を取っては街の人達に示しがつきませんので、一隣村の村民として扱ってください」


 そんな男だが、共闘以来どうも俺に対して丁寧に対応しすぎる。


「ははは、私がアレス様に敬意を示すことに文句をいう人はこの街にはいませんよ。

 アレス様は謙遜が過ぎます。貴方はこの街を2度救った英雄ですよ。

 賊に苦しめられた時代を知っている者は貴方を崇拝さえしている。

 そして、この間のグレータースパイダーの襲来。あれは私もおしまいだと思いましたよ……本当に、アレス様にはどれほど感謝してもしつくせません」


「あれは街の皆や冒険者たちが勇敢に立ち回ったおかげ、私一人ではもっと犠牲は増えていました」


「本当に貴方は……いや、それよりも火急の用と聞いたのですが?」


 談笑しながら席に座ると、さっと真面目な顔になる、その鋭い眼差しは戦いのときのそれに近い。


「すまない、俺も少し話しすぎた。

 単刀直入に言おう、俺はギャベルを倒すことにした」


「!?」


 流石に俺の提案に目を見開いて驚いている。


 「本気、なのですよね? いえ、解っています。アレス様は冗談でこのような話をする方ではない……。うむ、わかりました。我々も立ちましょう」


「なっ……!?」


 あまりにも即決。俺が驚いてしまう。


「驚かれましたか? 嬉しいですね、アレス様から一本取りました」


「本気、なんだな。言葉を返すようだが、そういった冗談を言う人間ではない。

 もしかしたら、戦争になるぞ?」


「ええ、なるかもしれません。

 でも、戦争になるなら勝つ方につきます。

 少なくとも、アレス様と敵対することに比べたら、ギャベルをぶん殴るほうが遥かに楽です。 だって、アレス様が味方なんですから」


「……ありがとう」


「礼は不要です。いやぁ、私は運が良い。メルティさんの村から最も近い街にいて、アレス様と最も早く友誼を結べた。ふふふ、いやぁ、久しぶりに血が滾る。冒険者の頃の気持ちに戻ったようです」


「そんなに戦争したいのか?」


「いえ、その先の話です。

 そんな私の話より、行動するなら早いほうがいい、他の街にも寄られるつもりだったでしょう?」


「ああ、そのつもりだ」


「それはこちらでやっておきましょう。

 なあに、アレス様の名前はすでに響いています。

 あの大馬鹿者のギャベルがふんぞり返っている城以外では貴方の名前の価値は計り知れない。

 砂上の楼閣の主、裸の王、奴は今死刑台への階段を登りました。

 直接レイクバックへ向かってください。

 宿、大いなる大河に宿泊して機を待ってください使いを出します。

 なに、時間はかかりません」


 カインは興奮しているのか立ち上がり部屋をウロウロと歩きながら矢継ぎ早に提案をしてくる。こういう頭の回転の良さも彼の持ち味だ。


「いいのか? 俺は助かるが」


「いいんです。今は私の有能さをアピールするいい機会ですから」


 本当に楽しそうにニコリと笑いかけてくる。


「もともと有能だと思っているが」


「ははは、ありがとうございます。

 さ、忙しくなります。今日は館にお泊まりください。

 夕食後にもう少し話を詰めましょう、今後のことについても」


「済まないが、そうさせてもらう」


「レイドリック! ベルド! いるか?」


 ガチャリと扉が開くと外で待機していた兵が二人入ってくる。


「アレス様を客間にご案内を、それと兵たちを訓練場に」


「はっ!」「ははっ!」


「それではアレス様、続きは夕食のときに」


「わかった」


 そのまま客室へと案内され、夕食まで時間を潰す。

 途中兵たちの勇ましい雄叫びが聞こえてきた。きっと訓練に熱でも入っているんだろう。


 「そういえば、グレータースパイダーとの戦い以来合同訓練は何度か行ったが、皆元気だろうか?」


 グレータースパイダーは厄介な魔物だ。

 大量の子を産み、基本的には巣を作って罠にはめる形で獲物を取るのだが、ある程度その地で巣の存在が知れ渡り獲物を取れなくなると、気まぐれに移動する。

 その移動過程に存在したものや、巣を作られた一帯は死の大地となるために、気まぐれな死神という二つ名を持っている。

 運悪くその死神がセファクリシンの街に向かって、そしてピース村方向へ進んでいると聞いて討伐隊を組織した。

 なかなかの成長個体でその大きさは20mほど、セファクリシンの街程度は容易に飲み込んでしまう。

 尖兵となるスモールスパイダー、子を産む特殊個体を守る黒い厄災ブラックスパイダー、そしてそれらを統べる女王グレータースパイダーと対峙したのは街までもう2キロも無い平原。

 すこしでも遅れていたらとゾッとしたものだ。

 多くの人間が協力してくれてなんとかクイーンスパイダーを撃退し、他のスパイダー達も殲滅できたが、ああいう災害がいつ訪れるかわからないのがこの世界の恐ろしいところだ。


「戦略級魔道具、いや、戦術級魔道具でもあれば……街も村も守れるかも知れないが……あんなもの余程の大国の大都市でもなければ無いからなぁ。

 理論は知っているから、道具さえあれば作れるかも知れないが、そんなことをしたら村の経済が崩壊してしまう……赤色以上のダンジョンあたりの最深部に挑めば、素材か、魔道具自体……

 いや、そうなれば数ヶ月はダンジョン攻略にかかってしまう。

 その間メルティに何かあったら、俺は狂ってしまうかも知れない……」


 ブルッ。


 冒険者証が小さく震えた。メッセージを受信した。

 俺はそのメッセージを確認する。


『ゴムリヲナサラナイデクダサイネ。メルティ』


 歓喜のあまり冒険証を握りつぶしそうになってしまう。

 ああ、こんな俺を心配してくれるメルティ、まさに女神。


「ん?」


 いま、知識に違和感を感じたが、喜びですぐに忘れてしまった。


 『スベテジュンチョウ、キニスルナ』


 返信を書く手が震えて固い文章になってしまったが、これで心配は払拭するだろう。


  ああ、メルティ、俺、頑張るよ。


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