第十七話 隣町

 メルティとピース村の人たちを守るために俺は馬を疾走らせる。

 賊討伐とは、話が違う。

 国、と言っても実際にはいくつかの街や村の集合体。非常に小規模な国だ。

 それでも、盗賊共に比べれば規模が違う。

 もちろん話し合いで解決できればいい、このご時世国から独立や他の国に街や村の所有権が移動することは珍しくない。結局、変化した後にその体制を維持できるかどうかだ。

 国から独立を一方的に宣言しても、例えば経済的に、もしくは武力などの力によっての介入に対抗できれば、それこそ自分で国を起こすことだって出来る。

 今この国を治めているギャベルだって、国を奪い取ったわけだ。

 国を奪い取ったのだったら、奪い取られることだって考えなければいけない。

 メルティの父を害し、さらには欲望のまま村とメルティを不幸にしようと考えたこと、万死に値する。


 俺が許さん。


 しかし、人間と違って村は移動できない。

 賊狩りのように俺が目標となれば俺が移動すればいいが、村が標的になってしまえば、最悪村を捨てなければならない。

 だから、今回は不殺を貫く。

 あの村に手を出すことがどういうことになるのかを解ってもらう。

 場合によっては力を示す。

 相手の出方によっては、メルティのために国を取り戻す行動に出るかも知れないが、それでも、王以外は殺さない。

 戦う以外の選択肢としては、あの村をそのままにしておいたほうがメリットがあると知らしめることだな。

 村人たちもある程度の魔物なら相手をできるようになったし、村での食料生産や、俺の知識を利用したいくつかの道具作りを通して、それなりに高い技術が育ってきている。


 ……いや、駄目だな。


 噂に聞く今の王の性格的に、限界まで毟り取られ続ける未来しか見えない。

 うーむ、交渉するのが面倒になってきたぞ?

 ろくでもない無礼者に、礼を持って対応する必要なんて有るのだろうか?

 そもそも、王は国のために尽くすもの、国は民あってのもの、民を蔑ろにする王は王に非ず……


「メルティを害する輩は人に非ず」


 基本方針が決定した。

 やはり、ギャベルを潰す。

 大量虐殺をしたいわけではないので、余程の馬鹿でなければ殺さぬようには配慮するが、村を、メルティを害する輩は、人に非ず、非情に対応するしか無い。


 礼には礼を、無礼には無礼を。


「もちろん、いたずらに争いを起こすつもりもないが……」


 色々と考えていると、村からレイクバックの街への間にある最初の町セファリクシンに到着した。

 賊の影響で苦しんでいたが、今ではすっかり環境が改善しており、俺達にかなり好意的に接してくれている。基本的に物資のやり取りはこの街が中心なので、恩義も有るし、ビジネスパートナーとしても優秀と思ってもらっている。


「アレス殿! 本日はどうされましたか?」


 門番にも顔は通っている。


「ひさしぶりだな、先触れもなく申し訳ないが、カイン殿と話がしたい。

 緊急で」


「……アレス殿がそうおっしゃるのであれば、余程の事態、すぐに連絡をつけます。

 アレス殿はどこに滞在なさりますか?」


「冒険者ギルドで待っている」


「わかりました。すぐに使いを出させます」


 一度魔物討伐の手伝いをしてから街の兵たち、それに街を治めているカイン殿は俺なんかに敬意を払ってくれる。ありがたいことだ。

 その時魔物の素材などを卸した関係で、冒険者ギルドにも登録してある。

 戦いの後に猛烈な勧誘を受けて、メルティも今後役に立つからと後押しされたので一応冒険者になっている。

 冒険者というのは、名前通りに世界中を冒険するようなロマン溢れる者も存在するが、ギルドという組織に所属する何でも屋だ。獰猛な動物や魔物退治、指定された薬草などを取ってきたり、そういった依頼をこなして報酬を得たり、魔物や動物を収めてお金に変えたり、ダンジョンに入って宝を得たり、いろいろなタイプの冒険者が居る。ギルドに所属しない者でも似たようなことが出来るが、ギルドに所属すると、冒険者の証を支給される。この証が非常に便利だ。ギルドへの貢献が証を維持することに必要になるが、それさえこなせば、身分保障、自己の能力の簡易的把握、仲間と設定した証同士が平地であれば多少の時間的なラグがあるが短文による連絡を取ることが出来る。そして、なんと財布になる。

 証自体に保存魔法があり、硬貨であれば収納できる。簡単な偽硬貨対策にもなる。証は自分以外ではあつかえないために、非常に安全にお金の管理ができる。この証自体もアーティファクトで証を作ることの出来るアーティファクトによって産み出される。

 この安全な財布のために冒険者になるものも多く、結果として実入りの少ない薬草採取や雑用系の依頼も滞ること無く、人々の困り事を冒険者が解決するという社会維持にとって良い影響がある。

 悪事を働きギルドが把握すれば冒険者証は停止されるために、犯罪抑止力としても意味がある。

 ただ、明確な証拠がなければいけないので、残念ながら冒険者で盗賊のようなことをすることは可能だ。というか、ギルドはめったなことではこの制度を使わない。

 悪事の線引が難しいからだ、例えば俺は賊殺し、人殺しだ。だが、相手が賊だから罪にならない。

 もっと言ってしまえば、襲われたから、殺した。これも罪に当たらない。不特定多数の人間を無作為に意味もなく殺しているようなやつが取り押さえられるような事態があれば、取り消されるが、多分そんなやつはその場で殺される。取り消しが起きる一番の理由は権力者の都合だ。だが、ギルドはそれを厳しく戒めているので、公共の秩序の維持に必要な処置以外で執行されることはない。見せしめだな。

 最長3年に一度はギルドで更新作業をしないと、文字通り消えて無くなってしまうので、注意が必要だ。うっかり忘れて全財産と冒険者ランクを失う人間が、ごく少数いるそうだ。気をつけないとな。

 ランクというのはギルドへの貢献が数値となり記録され、それが積み重ねられると証が更新時に豪華に変化する。

 石級ストーン、銅級カッパー、鉄級アイアン、銀級シルバー、金級ゴールド、白金級プラチナ、金剛石級ダイヤモンド、神魔石級ミスリルに分かれている。

 俺はまだアイアンだ。


「アレス様、カイン様がお会いになるそうです」


「ありがとう」


 知識を整理してると、使いの者が現れた。

 セファリクシンの街の代表者、カインとの面談へと挑む。


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