第十六話 縁
村人たちとの労働を通じてなんだか仲間意識も強くなっている。
なお、このところメルティとは会っていない。
会えていないという方が正しい。彼女は今やばいほど忙しい。
人が増えたために必要になった戸籍の作成やら何やらで回復したジフの監視下で労働している。
彼女が頑張っているなら、俺はもっと頑張らねば行けない。
ここのところは狩り採取について魔物刈り、そして地図作成がメインの仕事になっている。
やはり人の手が入っていない場所が多いために、魔物溜まりになっている場所もある。
もしダンジョンなどが有るのなら、きちんと人の手を入れなければ、大きな被害を生むことになってしまう。
周囲の地形を把握して正確な地図を作り、様々な採取物などを記載した地図をつくれば、村の財産となる。
そしてなにより、この地図作成は、楽しいのだ。
「おお、こんなところに泉が……水も……平気そうだな。おお、水辺に甘露スイレンが有るじゃないか。
煮込めば砂糖が作れるぞ。それにウキビヤシ、やけどの薬になる。これはメモしておこう」
地図に泉を書き込み詳細はメモにイラスト付きで書き込む。
地図の記号のページを見ればその地の詳細がわかるように作っているのだが、最初は稚拙だったイラストも繰り返し練習すると段々と上手くなっていく。継続は大事だし、これはなかなか良い趣味になった。
そんな感じで、俺は人生を堪能しながら仕事に勤しむ日々を送っていた。
このときは、充実した日々のせいで失念していた。
忘れてはいけないことを……
「馬鹿な! ここまでくるのに俺達がどれだけ苦労したか!!」
「解っているわ。これは、完全に私のミスだわ」
メルティの眼の前に有る文章は、このあたりの領主であるギャベルが以前の申し出に対応しなかった罰として、より大量の物資と兵役、それとメルティの身を要求してきた。 期限はたったの10日。
「アレス、貴方が村長となってこの村を守ってくれれば私は安心してギャベルの元に行くわ。 私の代わりに村長になって」
「断る。俺はメルティに全てを捧げると誓った。
命令が違うぞメルティ、俺になんとかしてと命令すればいい。
俺は、なんとかする」
「そんな事言えるわけ無いじゃない!
小さいとは言っても国相手になるわ!
アレスは村のために本当に良くしてくれている。
村も信じられないほど豊かになったし、皆とっても幸せそう。
私は仕事に忙殺されそうになって皆が楽しそうに出かけていくのを羨ましいと思ってこっそり逃げ出そうとしたらジフが絶対に逃げ出させてくれないし、すっかり皆とアレスが仲良くなって私には見せてくれないような笑顔で返ってくるのをキーーーーーって思ったりもしたけど、もう大丈夫だから」
「だめだ。俺はメルティが幸せでなければいけない」
「だったら! だったら私も一緒に楽しく仕事したいわよ!なんでずっと机の前でおんなじ文章に延々名前を書き込み続けて毎日が終わっていくの!? 太陽の下で皆とキャッキャウフフしたいの、アレスの筋肉の躍動を間近でみていたいの!!」
「ならそう命令すればいい、俺はなんでもする」
「アレス……私を……助けて……」
どっちだろう? と思ったが、どちらからも仕事からも、領主からも救えばいい。
「任せておけ」
俺は踵を返し部屋を出る。
村を出ようとすると、武装した村人が集まってきた。
「アレスさん、俺等も戦う」
「皆……気持ちはありがたいが、皆はこの村をしっかりと守っていてくれ」
「そんなアレスの兄貴! 俺達を連れて行ってくれ!」
日々の木こり生活と栄養状態の改善によって男たちはすっかりと鍛え上げられていた。 族から奪った戦斧や大剣を軽々と扱う。
もちろん、日々の遊び感覚で指導もしている。皆筋がいい。すじがいい。
狩猟部隊も今でははるか先の飛ぶ鳥をいとも容易く撃ち落とす。
膂力の必要な大弓も軽々と扱う者もいる。
彼らが村周囲の櫓から村の警戒に当たれば、村へと続く道は死路へと変化するだろう。 門までたどり着いても、今度は筋肉の壁のような兵たちが待ち構える。
「私達だって戦えます」
女性でも関係ない、気配を消して森の中の採取を行い魔物を発見する手伝いをしてくれている。
理想的な斥候となってくれるのは間違いない。たとえ村の裏手から奇襲をかけようとも彼女たちの監視を逃れることは出来ないだろう。
「皆がこの村のために力をつけてくれたことはよく知っている。
だからこそ、だからこそ君たちが村を守ってくれれば、俺は安心して交渉に行ける。 解ってくれ。俺の帰る場所を皆が守ってほしい」
「アレスさん……」
「アレスの兄貴」
「アレス様……」
「絶対に帰ってきてくれますよね?」
「当たり前だ。俺の変える場所はこのピース村以外にはない」
「よしっ皆! 絶対にこの村を護るぞ!!」
「「「おーーーーーっ!!!」」」
村人たちの士気は高い。これならば俺は安心して村とメルティを任せられる。
「く、く、悔しい……っ!!」
村人たちの団結を遠くから見ていたメルティが、自分が混じれないことに嫉妬の炎を燃やしていたことを俺は知る由もなかった。
なお、村人とメルティの仲は別に悪いわけではないことを付け加えておく。
俺は、馬に乗り村を後にした。目指すは領主ギャベルの居るレイクバックの城下町。
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