第十五話 経済
人口の増加に伴い起きてくる問題。
それが食糧問題だ。
賊たちのアジトから奪った食料や貴金属などは全て商人との取引で生活に必要な道具や食料に当てている。
ピース村に出入りしていた商人は小規模で賊だらけの村に来るリスクの代わりにやや利益を多く得ていたが、賊による心配がなくなり、さらに大口の取引を手に入れたのだから、リスクの高い勝負に勝利したといっていい。
「アレス様のお陰で我々商人も大繁盛ですよ!」
「勝負に勝てるものは、勝負に挑戦した者だけだ。
貴方が成功したのは貴方が勝負することを選んだからだ。俺のおかげではない」
「商人相手にそんな事を言ってくださるのはアレス様くらいですよ。
次回はもっと頑張らせていただきます!」
一時的にはこれでいいが、有限な対策だ。
支払うものがなければ食料は買えない。
対策としては農地を広げ、畜産規模を拡大し、採取や狩りなどと併用していくくらいだろう。
即効性が有るのは採取や狩りだ。
間伐部隊が要領をつかみ俺個人の力量の価値が低下したので、俺は狩猟部隊と働くことにした。
単純な木材加工ではほぞ組を教えておいた。
どうやら一部の技工者だけが知る方法だったようで驚かれた。
精巧なものはそれこそ熟練の技術が必要だが、簡単なものなら多少粗があっても釘などの節約には大いに役に立つはずだ。
「す、すごい! よくこの距離を頭を一発で!」
「風と矢の軌道を把握することだ。それに獲物の呼吸、自らを自然と一体化させるつもりで打てば標的に吸い込まれていく」
「な、なるほど……精進します!」
今まで人の手の入っていなかった森の中には多くの自然の動物や食べることの出来る植物が存在する。それ以外にも乾燥させれば縄や網などに仕える物、繊維を取り出せば洋服などになるもの、様々な薬草に調味料、それに岩塩など、森というものは本当に多くの恵みを人に与えてくれる。
我々はそれを必要な量だけ頂いて、この森を存続させるために努力していかねばならない。
いたずらに狩り尽くしてしまえば、結局困るのは自分たちなのだから……
「アレス様、魔物を見つけました」
「うむ、すぐに向かう」
俺のメインの役目はこれだ。
森にいる魔物退治。
魔物は動物と異なり、非常に獰猛で強力だ。
人間や動物を積極的に襲い、喰らい、ある程度の命を喰らうと増える。
様々な種類が存在し、中には人よりも高い知能を持ち魔法を扱う者まで居る。
全ての魔物はダンジョンから生まれる。
基本的に魔物はダンジョンから出ることは少ないが、たまにはぐれ魔物と言ってダンジョン外に出るものが居る。そのまま外で命を喰らい集団を作るようなものもいる。
そして、最も恐ろしいのはダンジョン内で大繁殖してしまった魔物が一斉に外に出る氾濫という状態だ。これが起きてしまうと周囲の人間としや環境に壊滅的なダメージを与えてしまう。
溢れ出した魔物をすべて倒し、さらにダンジョン内の魔物を間引く、もしくはダンジョン最奥の神代の魔道具を停止させなければいけない。と、俺の知識が言っている。
「豚、オークか」
オーク、豚のような顔、下顎から巨大な牙がそそり立っている。
肥満体型のように見えるが、あれは筋肉の塊、手に持つ巨大な棍棒を軽々と扱い、動きも鈍くない。魔物としては弱い方に入るが、それでも非常に危険な存在だ。
オークが二体、まだ増えていないと見える。
魔物の特徴である赤黒く鈍く光る瞳は獲物を探している。
「早いところ、始末しよう」
俺は弓を構え、息を整える。
射
矢を放ち、すぐに次の矢をつがえ、今と同じ動きを瞬時に再現する。
射
そして弓を捨て剣を抜きながら木々の間を疾走る。
放った矢は二匹のオークのそれぞれの片目を貫く。
「「グアオオオオォォォォっっ!!」」
悲鳴がハモる。
突然の攻撃に混乱しているうちに、一気に飛びかかり、一刀で首を落とす。
もう一匹はもがきながら棍棒を振り回そうとするが、その腕を切り落とし、首も切り落とす。
「ふぅ……」
「す、すげぇ……っ!」
「うまく行ってよかった。先に発見してくれたおかげで楽に戦えた」
「いえ、本当に凄いです!」
「運が良かった。それよりも魔石を回収しよう。魔物が寄って来たら困る」
魔物の中には魔石があり、死後時間が立つと死体と一緒に溶け出す。この溶け出したものは穢れと呼ばれ生物にとって毒になり、魔物にとっては餌となる。穢れの匂いに誘われて他の魔物が集まってくるために死んだ魔物からはできる限り早く魔石を取り出さなければいけない。
また、魔物からは素材を得る事もできる。例えばオークならその立派な牙と骨が武具の素材となる。
肉などは魔物の毒があって食べると嘔吐下痢に苦しむので食にはむかない。
魔物から魔石を外すと液化せずに灰になる。魔石をつけたまま素材を取り、その後魔石を外す。順番が大事だ。
魔石には価値がある。
内部に魔力を貯めることが出来るために、魔道具にとって必要不可欠だ。
粉にして顔料として用いて魔法陣などを描くときにも使われる。
強力な魔物ほど大きな魔石を持っているので、オークの魔石は一つで4人ぐらしの家族を10日間腹一杯にしてやれるぐらいの価値がある。
さらに魔物を倒すメリットが有る。灰化させた後には硬貨が現れるのだ。
今更かもしれないが、この世界の貨幣について説明しておこう。
石貨、銅貨、鉄貨、銀貨、金貨、白金貨が存在しており、それぞれに数字が書かれている。
1,10,100,1000,10000,100000。
これらは全て古代遺物アーティファクトだ。
創造神ケイウス様がこの世界に与えたもので、なぜか魔物が落としたり、ダンジョンなどから算出される。
ダンジョン内にたまに存在する古代遺物|価値と対価に物を突っ込むと、この貨幣が得られる。
ダンジョン内に生まれる宝箱の中や、最深部に有る光る白い箱の中には大量の貨幣が入っていることがある。
複製不可能なマジックアイテムなのでこの世界は全てこの高価によって経済活動が行われている。
「まぁ、皆知っていると思うがな」
「アレス様は物知りですなぁ……」
すべて口に出ていた。
「ふむ、なぜか知っているのだ。便利だが、少しズルをしているような気持ちになる」
「素晴らしいことだと思いますよ」
村人たちは俺のことをよく褒めてくれる。それがとても嬉しかった。
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