第十三話 賊狩りの英雄
太陽が出て、メルティとジフと食事を取る。
食事を終えたら今日も賊を狩る。
どこかの誰かから奪ったものだろうが、賊たちの私財は全て村で利用させてもらう。
大きな街や首都ならば、兵士に賊を突き出して報奨金をもらうような選択肢もあるが、辺境の国境近いこのあたりに対応してくれる施設はないし、奴隷化させるような施設もないということで、申し訳ないが、賊即殺で対応させてもらう。他人を殺したり傷つけたりして物を奪うということは、相手からも同じことをされても文句は言えないだろう。文句があるなら、俺に言え。
「それにしても、このあたりは本当に酷いな」
餌代わりに馬車に乗って道を行き来していれば、出るわ出るわ。
護衛もない馬車がこの道を通るのは自殺行為だな。
メルティたちもそりゃ襲われる……
近くに巡回を送れるような大きな都市もないし、そもそも国境でいろいろとわけありな積み荷も多い、そして今は紛争状態で治安維持もクソもない。
いろいろな条件が重なって今このあたりは賊天国になっている。
さならがら俺は地獄からの使者と行ったとこだろう。
毎日入れ食い状態で賊を狩っていく、他の賊に気づかれると困るので、情報は漏らさないように徹底的に潰していく。
賊にも色々あるみたいで、数名程度だと蓄えもなくなかなか厳しい生活をしている者も多い。
人数が増えてまとまった動きができる賊になると、やはり蓄えも多い。
そして、非常に困ったことも、起きる。
「た、助けて……私達は無理やり……」
さらわれてきた女性が、子を産んでいた。
女盗賊である可能性もあるために、拘束させてもらってメルティに指示を仰がなければいけない。
扱われ方的に、本当にさらわれてきたのだろうとは思うのだが……女盗賊は前例もすでに有ったので、安全のために仕方ない。
「子に、罪は無いからな……」
できれば元の村や街に返して、親子で幸せに生きて欲しい……
後にメルティが話を聞いてくれて、村ごと野盗に焼かれてしまい帰るところも無いということで、メルティの村で生きていくことになる。
子にとって俺は親殺しになってしまうことに、少し後ろめたさも有ったが、母の涙ながらの感謝と、最近豊かになっている村の生活に満足してくれているという話で少し救われた。
そんな生活をしばらく続けていると、賊の間でもおかしいという話が広まって、俺の存在がバレてしまった。
俺は一時的に村から離れて、盗賊のねぐらに居を移した。
立派な宝はそこに移して、賊狩りからわざと逃走者を作るようにして、俺の居場所とそこに蓄えられた宝をアピールした。
何度か小規模な襲撃は有ったが、俺が求めているのはそんなチンケな者ではない。
幾度かの失敗でこりたのか、盗賊共は共通の敵のために手を取り合うことにした。
「おらぁ!! 出てこい!! ぶっ殺してやる!!」
「ふざけやがって! 八つ裂きでも足りねぇぞ!!」
宝があるために、洞窟ごと焼くなどの手段は取れない。
出口を完全に囲う形で即席の陣を作って、大量の弓兵が狙っている。
俺が外に出た途端に矢の雨が降ってくるだろう。
もちろん、俺にも策はある。
ここをアジトにした理由は、裏に隠し通路があるからだ。
もちろん賊も馬鹿ではないので、幾度もの偵察でその出口も突き止めて兵を敷いている。
しかし、俺は自分の手で別の出口を作っていた。
裏手の森にすぐに潜めるこちらの出口はわざとわかりやすくしている元々の裏口の存在によってうまく隠されていた。
数名の侵入者を血祭りにして死体を外に放りだし、裏口からの侵入を不可能にするために出口を崩落させる。その騒ぎに乗じて本命の裏口から森へと出る。
ゲリラ式に周囲の賊を狩っていく。
異変に気がついた頃にはもう遅い。
「お頭ぁ!! 裏の奴らがぁ!!」
「何だと!! 敵は一人じゃないのか!?」
「わかりませんっ!! ぐはぁ!!」
森に潜んだ弓兵から矢は大量に手に入った。森を飛び回るように移動しながら、弓を仕掛けていく。
「くそっ! 盾を出せ! 今なら洞窟は手薄だろ! 突っ込むぞ!」
森の色んな場所から射られた集団が洞窟の入口に殺到していく。予定通りだ。
大量の盗賊が洞窟になだれ込み、そして洞窟が大爆発を起こした。
新たに作った出口の部屋に移動しており、そこへと続く2つの扉を開けようとすると洞窟内に設置した爆薬に火が落ちるようにしておいた。
あとは残党狩りだ。
弓である程度を倒したら、守りを固めた集団に特攻を仕掛ける。
謎の敵からの弓の攻撃と爆発によって大混乱を起こしている賊はあっという間に瓦解する。
逃げ惑う奴らを弓で撃ち、襲いかかる奴らをなぎ倒していく。
「ば、化け物が……!」
「た、助けてくれ……」
逃げ惑う人を打ち倒していると、どちらが悪いのかわからなくなるな。
それでも、俺は、お前らをやらなければいけない。
メルティの村を害する輩は、俺が許さない……
「ぶっ殺してやる!! てめぇら!! 囲め囲め!!」
まだ多少は骨があるやつが残っている。
リーダーっぽい奴を中心に腕自慢が俺を囲う。
「馬鹿だな」
「なにぃ!!」
完全に囲ってしまったら、遠距離攻撃が出来ないだろうが、いちいちそんなことは説明してやらない。俺は敵から奪った手斧を四方八方に投げつける。
うまくガードできたやつも居るが、バタバタと倒れていく。
「く、糞がぁ!!」
結局囲んだところでかかってくるのは二人か三人、息も全く合っていない。
敵の方から俺に命を差し出してきているようなものだ。
せっかく大盾があるのだから、それで押しつぶすように攻められたほうが苦労しただろう。
所詮は賊の寄せ集めだ。
「お、俺は抜ける! やってられるか!?」
「てめぇ、卑怯だぞ!」
「う、うるせぇこんな化け物だなんて聞いてねぇ、ギャフゥゥ」
投げ斧が首元に突き刺さり、巨体を大地にさらす。
「く、くそおおおおぉぉ!!」
巨大な戦斧を振り回し突進してくる。すでにお仲間はみな足元に倒れている。
眼の前を戦斧の刃が掠める。風が髪を巻き上げる。俺は足元に在った槍を足で蹴り上げる。
「ぐぼあぁ!!」
突然足元から伸びてきた穂先が、賊の首に突き刺さる。巨大な戦斧はビュンビュンと風を切りながら遠くへと飛んでいった。
「ひ、ひぃ! に、逃げろ!! こんなの適うわけねぇ!!」
「逃さんよ」
それからは、一方的な殺戮だった。
この地域一帯の賊を狩った俺は、賊狩りの英雄となった。
その道は、大量の賊の血によってどす黒く、赤く、塗られている。
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