第十一話 課題山積

「村周囲一帯の治安悪化によって村の外へ出られなくなっていることは早く解決したほうがいいな」


 紛争地帯のような場所になってしまい、治安が悪化することはよくあることだ。

 脛に傷を持つものや盗賊野盗などが活動しやすく、それを取り締まる側の人間が、そいつ等と同族なんだからそりゃそういう輩からしたらやりやすいな。

 すでに被害も出ていて村人は簡単な武装をして村を護るのが精一杯という感じだな。


「よし、まず第一はこの問題にとりかかろう。


 そういえば、俺はこの家に滞在していいのか?

 許可を得られれば適当に住むところは自分で用意するが」


「もちろん我が家を使ってください! 爺も安心します」


 ジフ殿とは先程言葉をかわし、お嬢様をお頼み申しますと深々とお願いされていた。

 任せておいてくれ、俺の身命を賭してメルティを守り抜く。


「では、少し道具を作りたいので外に出る。日が沈む頃には戻る」


「わかりました。私は基本的にこの家におります。

 お気をつけて行ってらっしゃいませ」


「ああ」


 人に送られて家を出る。そして、帰るべき家がある。そのなんと幸せな事か。

 荷車から必要な荷物を取る。道中手に入れた布などは村で使ってもらうようにメルティに渡してある。

 村の人達も俺の事を知らされたのか来たときのような奇異な物を見るような目はなくなり、目が合えば会釈をされる。俺も挨拶を交わしていく。

 そのまま村の門にたどり着く、


「少し出る。この村を護るための道具の材料を取ってくる」


「どうかお願いします!」


 人にお願いされるのは、悪くない。頼られていると、頑張れる。

 何かに動かされるのではなく、自分の意志で動くことは、こんなにも気持ちがいいのだと、細かなことから気づきを得られる。そんなことも、幸せに感じてしまう。


 村を出て、高台から周囲の様子を伺う。


 「あの辺り、それからあそこらへんか?」


 野盗盗賊が身を潜めそうな場所をいくつかあたりをつけていく。

 そのあたりの木々を使って武具や村を護る兵器を作るという策もあるが、厄介者の排除と同時に、相手が持っていればそれを利用するばいいのだ。

 天気がいい、風が気持がいい、走るだけで身体が温まり、心地が良い。

 世界は広い。俺は自由だ。幸せだ。


「これからすることに比べて、なんと清々しい気持ちだろうか……」


 俺は、異常なんだろうな。これから行うことは私刑だ。

 自分たちのために他者を殺める。ある意味、野盗や盗賊がしている行動と変わらないのかも知れない。それでも、相手が覚悟をして他者を襲ったり殺したりするのと同じ様に、俺も覚悟している。メルティのために村の障害は排除する。と。


「やはりいたか」


 3箇所目で当たりを引いた。

 少し不自然な木々はカモフラージュだったようで、洞窟の入口を隠している。

 そして洞窟の入口にはガラの悪い男が二人、見張りとして立っている。

 見た目だけで人を判断してはいけない、もしかしたら普通に暮らしている善良な人間たちかも知れないのでまずは調査だ。

 そのあたりにあった石を投げる。


「ん? なんだ?」「おい、見てこいよ」「んだよ、めんどくせーな」


 二人の意識がそれた間に。俺はすでに洞窟に侵入している。

 気配を殺し、音を殺すことぐらい造作もない。知識があるからな。

 そのままゆっくりと洞窟の奥へと進んでいく、薄暗い通路に松明が置かれており、地面もある程度整えられており、根城にするのには理想的と言える。

 ただ、ダンジョンではなく、普通の洞窟だな。ま、ダンジョンを根城にするのは自殺行為だが。

 用心深くいくつかのトラップがあったが、鳴子などの単純なものなので避けるのは造作もない。

 暫く進むと話し声が聞こえる。見張りも居るし完全に安心しているのか大声でギャハギャハと騒がしい。


「だからよー、ヒーヒー泣いて命乞いしながら腰振らせて、たっぷり出してやって、助かったと思った時にちょいと首元に刃を当てると、そりゃーもう具合がいいんだよ」


「てめぇも趣味が悪ぃなぁ」


「死体相手に興奮するお前に言われたかねぇ」


「んだよ、お前だってこの間ガキ相手におっ立ててたじゃねぇか」


「ギャハハハハ、その後蹴り上げられてぶっ殺しちまってたなぁ、あれはウケたぜ」


「うるせぇぶっ殺すぞ! たく、最近は商売敵が増えちまってよぉ、仕事がしづらくて仕方ねぇ」


「やっぱ、あの村。あそこを襲うしかねぇんじゃねーか?」


「そうはいってもあそこは場所が厄介でよぉ」


「……それこそ商売敵さんと手を組んでってのはどうだい?」


「いや、襲った後に俺達が襲われるだけだろ」


「そうだなぁ、結局外をうろついてる奴らを襲うのが一番か……」


「世知辛い世の中だぜ」


「全くだ」


 ふむ、黒だな。真っ黒だ。

 すぐにでも始末したいが、まずは全体の把握だ。

 下衆共の部屋を後にする。

 奥には食料庫、寝床、物置など、生活に必要な設備が整っている。

 そして、鉄格子に、血の匂いのする部屋、想像にたやすく、ヘドが出るような行為を行う場所なのだろう。


「ま、今から似たようなことを貴様らに行うがな」


 物置からナイフと剣、弓を拝借する。

 どうやらこの場所の野盗は13人、騒いでいた奴らの部屋に7人、寝ているのが2人、一番奥の個室が二人、たぶんこれが親玉だろう。そして見張りが2人。

 まずは寝床でいびきをかいて寝ている奴らから始末していこう。


「ごおおおおぉぉぉ、うごおおおおぉぉぉぉ……」


 大いびきをかいている男は俺が傍らに立っても気が付きもしない。

 もう一人も同様だ。


「うごおおおおおぉぉぉ、おごっ」


 口をふさぎ、首を掻っ切る。

 ふごふごと数秒暴れると絶命する。

 同様にもう一人も始末する。


「のこり、11人」


 人を襲った因果を今、お前らに返してやろう。




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