月宮雅と最後の恋をする。

〈月宮雅の自宅・夜〉


――俺達はソッ……と、雅の部屋の前へ向かう。


雅の部屋前で俺は、異様な緊張感を感じていた。


……“燈馬が死んだ”なんて、雅に伝えたらどうなるのか――正直、想像もつかないのだから。


……ポンポン――。


【瞑】

「んっ……」


【燈馬】

「ふぅ……雅、悪い……“ちょっとお客さん連れて来ちゃった”」


雅の部屋に入るのを躊躇していた俺は、瞑にお尻を叩かれ、そのまま何も考えず雅に話し掛けた。


【雅】

「さっき……“外で話し声聴こえたけど”――“女の子なのかな”」


【瞑】

「そうよ――“女の子よ”……? “ちょっとお邪魔させて貰うわね”?」


【燈馬】

「あっ――ちょ……?! 瞑――?」


――ガチャッ……バッ――。


【雅】

「あっ……あの? 燈馬くん……? “一体どう言う事”……なの?」


【燈馬】

「ふぅ……ちょっと雅に話さなきゃならない、かなり“重大なコト”があってだな――」


【雅】

「それって……“別れ話とかなの”――?」


【燈馬】

「……ソレについては、今から話すから、黙って話を聞いてくれないか?」


【雅】

「ふぅ……分かったよ。ただ――“二人共”……“シテ来たのかな”?」


【瞑】

「まぁ……“そうね”? ね……燈馬?」


【燈馬】

「……あぁ――“俺達はさっきまでヤッてた”さ……」


【雅】

「うん……だよね? “そんな匂いがした”もん――」


……雅は前回と変わらず美しかった。


畳の部屋で、姿勢良くチョコンと椅子に座る雅。


白いワンピース姿を魅せ、悲しそうに顔を伏せるその姿は、駄目だと分かっていても……。


俺にはグッと来ていた――。


【瞑】

「とりあえず……立ちっぱなしもなんだし、座ろうか?」


【燈馬】

「そう……だな」


俺は瞑と一緒に畳に座った。


本当に何から話すべきなのか分からず、異様に重苦しい部屋の中、少しだけ静かな時間を過ごす。


でも……いつまでも、こんな無駄な時間を過ごすわけにもいかない――。


俺は意を決して、雅に全てを話す事にした。


【燈馬】

「ふぅ……そんじゃ、“重大な話をしようか”――」


【雅】

「うん……“イイよ”? ちゃんと燈馬くんの話を聞くから」


【燈馬】

「ワリぃな……こんな夜遅くによ――でも、ちゃんとお前に伝えなきゃなんねぇ……“大事なコトがある”」


【雅】

「……うん」


――シュルシュル……。


雅は手を前に置き、どこか落ち着かなそうにモジモジさせる。


依然……顔を伏せたまま。


俺はそんな雅の姿を見て――物凄く申し訳なく思い、一瞬だけ戸惑った。


コレから話す内容は、雅にとって……。


本当に“ツラいモノ”になるからだ――。


でも……もう遅い。俺は瞑を連れて雅の家まで来てしまったのだ。


後はもう――淡々と事実を告げるだけ。


退路はドコにも無いのだから……。


【燈馬】

「雅……お前は本当に驚くかも知れないが、“お前の目の前にいる俺は”……“燈馬じゃ”――“ない”……」


【雅】

「……へっ? な……ナニ言ってるの? 目の前に居る燈馬くんが――燈馬くんじゃ……ない?」


【瞑】

「……そうよ? そして――私は“燈馬の彼女”なの」  


【雅】

「……ちょっと待って? 話が分からないよ……」


【燈馬】

「だから言ってんだろ……“重大なコト”だって――」


【瞑】

「ちなみに……彼女である私も断言するけど、本当にアナタの目の前にいる燈馬は、“燈馬じゃないわよ”……? ふふっ――信じられないと思うけど……」


【雅】

「――“だから何が言いたいの”? もう少し簡単に教えてよ……本当に分からないよ私……」


【瞑】

「ふぅ……燈馬? 本当に“一発で分かる様に”伝えてあげて? 月宮さん……混乱してるから――」


【燈馬】

「あぁ……なら、“超簡単”に言ってやる――」


【雅】

「うん……簡単に教えてよ……」


【燈馬】

「ふぅ……“燈馬はもう”――“ココには居ない”。“お前の目の前にいる燈馬は偽者”だ……」


【雅】

「……えっ? に――“偽者”?! ど……どう言う事なの――? ますます分からないよ……本当に変なコト言って、どうしたいの? 燈馬くんは……?」


【燈馬】

「……だから言ってんだろ? “察しろよ”……」


【燈馬】

「“燈馬はなぁ”……“死んだ”んだよ!!」


【瞑】

「ちょっと……燈馬? あんまり怒りながら言わないでよ?」


【燈馬】

「わ……ワリぃ――ちょっと、感情的になっちまったわ……雅、悪いけど――“本当にソレが重大な事実であり”、“本当のコトなんだ”……」


……ペシッ――ブンブン……。


【雅】

「まって――待って待って待って……? “燈馬くんは死んだ”……の? ソレなら……“今のアナタは誰”?」


雅は片手をおでこ辺りに置いて、バサバサと長い黒髪を揺れ動かす。


雅は明らかに動揺している様子を見せ、そのまま俺に問い掛ける。


“アナタは誰と”――。


【燈馬】

「そうだな……俺は――“四季司郎”ってんだ……。“ただの無職で三十路なオッサン”だ 」


俺はありのままの事実を伝えた。


燈馬を愛していた雅には、本当に酷なコトを――。


【雅】

「……ならなんで“偽者なアナタ”が――“私に会いに来たのよ”?」


【燈馬】

「“俺も知らねえよ”……本当の燈馬は死んで、“現実世界に居た俺も”――“死んだ”」


【燈馬】

「気が付いたら……“俺は燈馬の体にすり替わっていた”――ふふっ……? 笑えねえ話だよなぁ……?」


【燈馬】

「でも――“コレが事実”だ。“燈馬はとっくにくたばって”、お前の目の前に居る燈馬は、“偽者な燈馬なんだよ”……信じたくないだろうが、本当のコトだ」


【瞑】

「今の燈馬は……“その事実をアナタに伝えたくて”、ココにやって来たのよ――」


……ワシャワシャワシャワシャっッ!!


【雅】

「嘘よ……“嘘だよね”? だって――分かるんだもん……私は“燈馬くんの気配や匂い”――“なんだって分かる”の……ねぇ、“なんでそんな嘘をつくの”?」


雅は一瞬だけ、混乱した様に長い黒髪を掻き乱し、そのまま俺に問い掛ける。


【燈馬】

「嘘じゃねえよ……俺も燈馬と同じく死んで、“このセカイで二回目のループ中”なんだよ……」


【雅】

「ループ……中? ナニその“映画みたいな話”……」


【燈馬】

「そうだよな? “信じられねえよな”……?」


【燈馬】

「でもよ……ちゃんと話を聞けよ? “燈馬やお前にも関係する話”を、今からするんだからよ……」


【瞑】

「落ち着いて聞いて? “本当のコトを話すから”」


【雅】

「うん……分かった――理解出来ないけど、とりあえず聞くね?」


【燈馬】

「……あぁ、そうしてくれ。そんじゃ――何から話そうか……」


――俺はそのまま淡々と事情を説明した。


最初、雅は半信半疑だったが、徐々に事実だと悟ったのか……ポロポロ泣き出して、ズーンと……沈んでいた。


……ガバッ――ギュッ……。


【瞑】

「辛いだろうけど……“本当のコト”みたいなの」


【雅】

「……ぐすっ――ゔぅ……ゔぁ〜〜っッ!! 本当に……“そんなコトがあった”んだ……ゔぅ……ぐすっ」


……ポンポン――スリスリ……。


瞑は泣き崩れた雅を抱き寄せ、優しく髪を擦りながら慰め続ける。


俺はただ、そんな二人の様子を見守っていた。


雅が落ち着くまで、ずっとずっと……。


《雅の部屋・数十分後》


――かなり長い間、瞑は雅を慰め続け、やっと雅は落ち着きを取り戻す。


雅はそのまま、そっと……椅子から立ち上がると、ゆっくりとした動作で、俺の下へとやって来た。


……ススッ――ソッ……ピタッ……。


無言のまま、雅は俺の顔を両手で触れて――。


【雅】

「本当に……“信じられないな”――“ココに居るアナタは燈馬くんじゃない”……なんて――ふふっ?」


……スリスリぃ〜〜さわさわっ……。


【雅】

「ふぅ……まさか――“姫乃さんに仕組まれて”、燈馬くんが死んじゃったなんてね……?」


【雅】

「うっふふ――それに……“私をイジメて潰したのも”……“姫乃さん”なんでしょ?」


【燈馬】

「……そうだよ。“アイツが全ての元凶で”……“黒幕なんだよ”」


【雅】

「あぁ……ちゃんと――“アナタのお顔が見れたら良かった”……」


……スリスリぃ――ピタッ……。


【雅】

「まさか死んじゃうなんてね? いつかね……“私の視力が回復したら”、ちゃん……と、“アナタのお顔を見てみたかったのよ”?」


雅はとても……愛おしそうな顔で俺を見詰める。


透き通る様な白くて綺麗なお顔に……涙のあとを残し、薄ら笑いを浮かべて――。


【雅】

「はぁ……でも――今のアナタは燈馬くんだけど、燈馬くんじゃない――なのに……“私は燈馬くんを見ているの”……」


【燈馬】

「……ややこしいなおい? ずっと……お前は“本当の燈馬の面影や幻影”――“そんなモノを見てんだろ”」


【雅】

「そうよ……? だって――“ココに燈馬くんが居るんだもの”……うふふっ?」


【雅】

「“匂いや感触も”――“燈馬くんなのよ”? うっふふっ――嫌でも……燈馬くんの面影を感じちゃうよ」


……ガバッ――シュルシュルっ……むにっ――。


【雅】

「ひゃんっッ――?! ど……どうしたの? 後ろから抱き着いてきて……? んっ――ふぅ……んっ――」


【瞑】

「うっふふっ……? ほんっと――可愛いわぁ……雅ちゃんは――“こんなに寒い季節に”……“真夏に着るような白いワンピース”だなんて……うっふふっ――?」


……スリスリぃ〜〜むにゅんっ!!


【雅】

「んっ……ふぅ――んっ……だ――だって、“燈馬くんが喜ぶかなって”……んんっ――ふぅ……んんっ――」


【瞑】

「うっふふっ……? 当たり前じゃない――こんなに可愛くて……こんなに美しくて――“体も立派なんだもの”……こんなの、燈馬じゃなくても悦ぶわぁ?」


……むにゅんむにゅんっ――むにゅうぅ〜〜!!


【雅】

「んにゅうぅ〜〜んっ……ふっ――あっ……んっ――」


【雅】

「うっふふっ? ねぇ……燈馬ぁ? “アナタが本当の燈馬じゃないコト”――“教えてあげましょ”?」


【雅】

「ふぇ……“私とスルの”?」


【燈馬】

「……“コレが最後になる”けど――な?」


【雅】

「うん……分かった――“本当の燈馬くんじゃないけど”……“コレでお別れなんだね”……?」


【瞑】

「そう……“ココで終わり”なの。最後に……“本物の燈馬の面影を感じながら”、“思い出として残すの”」


【燈馬】

「別に……お前が嫌だってんなら、このまま俺達は帰るぜ? 別にどっちでもいいさ……ただ、“曖昧な関係はココで終わるだけ”――」


【雅】

「うん……でも、“最後に一つだけ教えて”? “彼女さんに聞きたいの”……」


【瞑】

「イイわよ? あと、彼女さんはやめてね? 瞑でいいから」


【雅】

「うん……瞑ちゃん。ねぇ……瞑ちゃんは“偽者な燈馬くんでもいいの”? ソレでも――“彼女でいられるのかなって”……? ふふっ……少し気になったの」


【瞑】

「えぇ……“問題ないわ”? 問題がないは語弊があるけど、だって――“燈馬はもう居ないんだもの”。だから、考えるだけ無駄なのよ……そうでしょ?」


【雅】

「いや……“瞑ちゃんが凄いだけだよ”――普通はそんな簡単に納得なんて出来ないし、燈馬くんが偽者だなんて理解出来ないよ……?」


【瞑】

「なに……“すぐに分かるわ”? あぁ……“燈馬はもう居ないんだって”――だからね、最後にアナタに教えてあげるわ? ふふっ……“実体験”で――ね?」


【燈馬】

「あぁ……俺は燈馬であり、燈馬じゃない――だから、雅……お前との曖昧な関係はここで終わらす」


【燈馬】

「“最後に一つだけ”……“お前に教えてやる”」


【雅】

「うん……ナニかな? “悲しい事”でもあるの?」


【燈馬】

「まぁ……そうだな――“かなり悲しい事だ”……」


【雅】

「そっか――それじゃ教えて?」


【燈馬】

「……“本当の燈馬は”――“お前に”……“惹かれていた”」


――本当に厭な話だ。本当の燈馬は雅に惹かれ、偽者な俺は……ちゃんと彼女である瞑を愛していた。


でも……嘘偽りなく、伝えなければならない――。


どれだけ、心が傷もうが……もう後戻りは出来ない。曖昧な関係はココで終わりなのだから……。


【雅】

「そう……だったんだ――うぐっ……本当の燈馬くんは――私のコトを……ぐすっ……なんだか――聞きたくなかった……よ? 本当に悲しいな……ひぐっ……」


【瞑】

「でも……“ソレが事実よ”――本当の燈馬は彼女である私から見ても……“アナタに惹かれていた”」


【燈馬】

「そして俺は……“瞑を愛している”――だから、“お前とはココで終わりだ”……」


【雅】

「うん……ぐすっ――悲しいけど……本当の燈馬くんはもう――居ないんだもんね?」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。だから雅、今日だけはお前の好きな様にやらせるし、気が済むまで付き合ってやる。それで――この曖昧な関係は終わりにしよう」


【雅】

「今日だけは……“アナタの彼女でいさせてくれるの”? ふふっ……“偽者な燈馬くんだけど”――」


【燈馬】

「悪い瞑――今日だけは許してくれるか?」


【瞑】

「うん……イイよ? たくさん愛してあげて……」


【燈馬】

「すまん……瞑。それじゃ――“始めよっか”……?」


【雅】

「うん……“ちゃんと朝まで付き合ってもらうね”?」


【燈馬】

「……分かってる。“本当に好きにしていい”――」


【燈馬】

「“本当の”……“燈馬では出来なかったコト”――“今日だけは全部ヤッていい”……最後なんだ、全部吐き出して、発散して終わらせてくれ――」


【雅】

「ふぅ……分かった。“本当にガンガン使うから覚悟して”――うふふっ? 最後なんだもん……知らないからね? “疲れても休ませないから本当に”……」


【燈馬】

「あぁ……ごめん、瞑――今日だけは雅に寄り添わせて貰う」


【瞑】

「えぇ……それじゃ、“始めましょう”?」


【雅】

「ふぅ……“最後”なんだもん――ね?」


【燈馬】

「泣いても笑っても……“ココで終わりだ”」


【雅】

「うん……」


――瞑はゆっくりと、雅の白いワンピースを脱がせていく。


……サワサワッ――シュルシュルッ――パサッ……。


俺はたたただ、二人の様子を眺めて――。


【瞑】

「ジュルっ……んっふふっ――“綺麗な体”……」


瞑は舌舐めずりをしながら、雅の美しい体を眺めていた。


雅は白い下着姿になり、とても柔らかそうな綺麗な体に、少し不健康に見えるくらい白い肌をして、ただ――ボーっとしながら畳に座って……。


俺はただ……雅の綺麗で美しい体を眺めて、見惚れるだけ――。


【雅】

「燈馬くん……きて――“しましょ”? “雅と”……」


……ザッ――ズリズリッ……。


【燈馬】

「あぁ……“しよう”」


――そのまま俺達は……瞑がいる前で――。


“本当の恋人の様に”……“愛し合う”。


〈雅の自宅・お風呂場・明方〉


――結局……俺達は雅が崩れても色々した。


初めは俺と雅だけで……途中から瞑も混ざって――。


ほんっ――とうに……メッチャクチャになるまで、体を重ね、雅を愛したのだ……。


……チャポッ――チャパッ……。


【雅】

「ふぅ……“とっても良かった”――」


――ギュッ……むにゅうぅ……ん――。


【燈馬】

「あぁ……コチラこそ――“本当に良かった”……」


俺達は湯船に入りながら、抱き合っていた。


少し狭い浴槽の中――俺達三人は身を寄せ合って。


……ギュッ――むにゅっ……グリグリっ……。


【瞑】

「えぇ……ほんっと――“アナタは最高だった”……」


【雅】

「瞑ちゃん……ううん――“瞑ちゃんも最高だった”」


瞑は雅の背中に絡み着いて……身を寄せて――。


お風呂に差し込む、明け方の青白い明かりの中……俺達は穏やかな時間を過ごす。


【雅】

「でも……“コレで終わりなんだね”――“私達”……」


……チャポッ――ギュッ――!!


【燈馬】

「あぁ……“終わりだ”。コレからは……“瞑と生きて行く”」


【雅】

「……うふふっ? あぁ……駄目だな――“まだ私は燈馬くんを感じていたいよ”……」


【雅】

「だって……まだちゃんと――“アナタの顔を見れてないんだもの”……“ボヤケた視界の中でしか”――燈馬くんを見たことがないの……」


【燈馬】

「……“俺は本当の燈馬じゃない”――思い知ったはずだ……本当の燈馬は――“あんなコトはしない”って」


【雅】

「うん……でも――“今でもアナタのコトを気になるの”……あんなに愛してくれたのに――“足りないの”」


【瞑】

「ふぅ……燈馬? “見るだけならイイんじゃない”? 絡むのは駄目だけど……いつか会いに来るくらいなら……?」


【燈馬】

「瞑……“また同じコトになるかも知れないぞ”?」


【瞑】

「“その時はその時よ”――なるようにしかならない……」


【雅】

「燈馬くん……“駄目かな”? “アナタの姿をちゃんと見てみたいの”……」


【燈馬】

「知らねえぞ本当に……“俺達は容赦しねえんだ”」


【雅】

「うん……いいよ? “雅をたくさん使って”……?」


【燈馬】

「んな“モノみたいに”……ハァ――」


【雅】

「ごめんなさい……でも――“まだ忘れられない”……」


【瞑】

「アナタが――燈馬くんじゃないって分かってるのに……うふふっ? 駄目なの……まだ決心がつかないの……もっともっと――“こうしていたいの”……」


【燈馬】

「うぐっ――はぁ……“どうすんだよ瞑”……マジで」


【瞑】

「私に聞かれても分からないわ? でも……私が燈馬でも――コレはキツイわよ……“胸がキュンキュンしちゃうわ”……本当に雅ちゃんは可愛いし……うん」


【雅】

「だから……“もう少しだけ”――このままでいて……」


……ギュッ――むにゅっ……。


【燈馬】

「うぐっ――ふぅ……分かったよ――でも、お前の母親が帰って来る前には、掃除して俺達は行くからな?」


【雅】

「うん……分かってる――」


――そのまま暫く……外が少し明るくなるまで、俺達は湯船に浸かり、穏やかな朝を満喫していた。


〈マンション・瞑の自宅・瞑の部屋・朝〉


――アレから部屋を大急ぎで片し、母親が帰って来る前に俺達は、雅の家から撤退していた。


今は瞑のベッドの中で二人の時間を過ごして――。


……スリスリっ――シュリシュリッ……。


【瞑】

「はぁ……“本当にキュンキュンしちゃった”――」


【燈馬】

「……言ったろ? “本当の燈馬もアレにやられた”」


【瞑】

「うん……“本当に燈馬を愛してたのね”……あの子」


【燈馬】

「あぁ……だろうな。全く――“お前が最初で良かったぜ”……」


【瞑】

「うっふふっ……? “どう言う意味”?」


【燈馬】

「ふぅ……“甘過ぎて辛くなる”」


【瞑】

「かもね……“あの子はベッタリだもの”――」


【燈馬】

「お前とはちょっとタイプが違うんだ……瞑と似てるけど、何ていうか――“純粋な重たさ”……なのかなんなのか――とにかく、“質が違うんだ”」


【瞑】

「分かるかも……“言葉では言い表せない”、“なにか特別なモノ”を感じたもの……」


【燈馬】

「分かるだろ? 本当に言葉で表現するのは、難しいんだ。甘くてベッタリで……ねっとりした――純粋な愛を感じたんだよ……恐ろしくなる程にな――?」


【瞑】

「うふっ……? ナニソレ――“私達が不純だって言うのかしら”?」


【燈馬】

「悪く言えばそうだが、“俺達らしいだろ”……?」


【瞑】

「そうね……ふふっ――不純でイイわ……? だって私達……“マトモじゃないもの”。うふふっ……?」


【瞑】

「あぁ……そうよ――“イカれてるくらいがイイの”」


【燈馬】

「……だろ? 瞑……お前はソレでいい――いや、“ソレがイイんだ”。“ソレがお前にしかない魅力だ”」


【瞑】

「うん……」


……ギュッ――。


【瞑】

「ソレが……“私達の愛だもんね”――?」


【燈馬】

「そうだ……“ソレでいいし”、“コレがイイ”――」


【瞑】

「ふぁ……あふっ――ちょっと寝よっか……疲れたでしょ? んんっ……ふぅ――あったかい……えへへっ」


【燈馬】

「あぁ……ふぅ――“まだ俺にはやるコトがある”」


【瞑】

「――んんっ……ふぅ……なに? “やるコト”って?」


【燈馬】

「“幸せな未来へ向かう為の”……“鍵を開ける”――」


【瞑】

「ふふっ……意味分かんない――ふぅ……んっ――」


【燈馬】

「“簡単な話だ”……“俺はコレから”――」


【燈馬】

「……“夢月凛を落とす”――」


【瞑】

「ふふっ……“本当にアナタは悪役ね”――」


【燈馬】

「あぁ……“そうだ”。アイツを落として――“悲しい結末を変えてやる”……」


【瞑】

「ふぅ……そりゃいいわね――“アナタらしい”……」


【燈馬】

「悪いな瞑――午後から俺はアイツを探しに行く」


【瞑】

「“私は連れて行ってくれないの”?」


【燈馬】

「瞑……お前は、ココで少し休んでろ。どうせこっから、“お前とは死ぬほどする”んだ――間違いなくな? “ソレまで体力を温存しとけ”……」


【瞑】

「うん……ソレに、“夜は喧嘩だしね”?」


【燈馬】

「はぁ……忘れてた――ダルいなもう……そうだよな? 夜――廃工場で喧嘩があるんだった……」


【瞑】

「……ふふっ? “本当に大忙しね”――アナタは……」


【燈馬】

「本当だよ……冗談じゃねぇっての――何回同じ展開始めんだよ……“毎回ボコって終わりじゃねぇか”」


【瞑】

「頑張って……? “コレで最後になるんでしょ”?」


【燈馬】

「あぁ……“コレで決着を着けてやる”」


【燈馬】

「待ってろ――“姫乃恋”……“必ず俺はお前を”――」


【瞑】

「“ぶっ潰すって”――? ふふっ……“読めるわよ”?」


【燈馬】

「お……おん――そうよ、簡単には終わらせねえさ」


【燈馬】

「“悪役として”、“最後まで使命を全うしてやる”」


【瞑】

「うん……イイと思う。でも――“約束して”……?」


――ガバッッ……!! バサッ……。


【瞑】

「ほら……“指切りよ”? “絶対に死なないで”……?」


……すっ――。


【燈馬】

「あぁ……“死なねえよ”――もう……“絶対に”」


……キュッ――ぐっ――。


布団はぶっ飛ばされ――俺と瞑は指切りをした。


そう……コレが“最終章”なのだ。


次は無い……“コレで全てが終わる”。


今までが運が良過ぎたのだ……。


ループ出来る保証は本当にドコにもない。


それに……どこか――。


“このループで最後な予感”がしていた。


そんな都合良く、何度もループなんて出来ない。


きっと……物語の終盤まで来ている。


“本当のWEB小説の終わり”じゃない――。


そんな“結末”へ……。


コレから俺達は向かうのだ――。


【瞑】

「さてっ……と――おねんねしましょう?」


【燈馬】

「あぁ……寝よう――疲れたし……ふぁ――あぁ……」


このまま――俺達は抱き合いながら眠る。


可愛くて美しい瞑……。


“この子と”……“明るい未来を夢見ながら”――。


細やかな幸せを感じながら……眠りに落ちて行く。

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