未知のルートに突入し、謎の美少女に出逢う。

〈空発学園・屋上・朝〉


――俺はどうしてもタバコが我慢できず、世界最速ペースで階段を駆け上がり、屋上へ来ていた。


屋上には俺一人だけ……。


瞑は教室に居た葉子に預け、俺はそのまま――。


……カチッ――ボボッ……ジジッ――チリリッ――。


【燈馬】

「……っすぅ〜〜ッ――ふぅ〜〜〜わぉッッ!!」


五臓六腑に染み渡る、安タバコの味を噛み締めていた。


【燈馬】

「ッ――あぁ〜〜?! コレだよコレぇ……っすぅ〜〜ふぅ〜〜っ……あぁあぁ゙……ゔみゃいぃ゙ひぃ……おぎょほほほぉッッ――ふぇ……ほほほぉ……」


光の速さで駆け巡るニコチンは、一気に俺の全身に駆け巡り……目の前がバチバチするくらいの、イケナイ快楽を提供していた。


一気に体が重くなり、妙な重力を全身に喰らった様な気だるさに、頭がぼーっとしてきて、軽くイッてしまいそうな程の、極度の快感に襲われて……。


長時間吸えなかった体は、酷く酷く酷く――。


悦んでいた。


【燈馬】

「はぁ……クッソ――うめぇや……あぁ……コレだからやめられねぇぜ――ったく……タバコちゃんよぉ」


寒さもあるが、ニコチンを接種したお陰で、俺は一気に目が覚めていた。


体はグンッ――と、重くなるのに、ナゼか頭はシャキッとして、よく回り出す。


それがタバコなのだ……。


健康と寿命を代償に、偽りの快楽と幸福を与える駄目な代物。


俺はいつまでも、そんなタバコに依存していた。


瞑が燈馬に依存する様に、恋が燈馬に執着する様に、俺もまた――ナニカに依存して生きている。


――キッ……。


【燈馬】

「あんっ……? なんだ――? なんか……“誰かに見られてる様な”……?」


そんな俺の幸せな一時をぶち壊す、“ナニカの視線”……。


タバコの絶大なパワーで、俺はそのナニカの視線を察知していた。


【???】

「………………」


――俺は屋上入口の上にある、四角い塔屋に一人立ち尽くす、謎の美少女を発見する。


ソイツはずっと……俺を上から見下ろし、ジッ――と、俺を見ていた。


【燈馬】

「――“誰オマエ”……? 見せもんじゃねえぞ? ジロジロどころか……ジッ――と、見てくんなよ?」


【???】

「………………」


強い風が吹き荒れる屋上の中――。


俺と謎の美少女は対峙する。


【燈馬】

「………………」


【燈馬】

「いや……喋れや!! なんなんお前……?」


【???】

「………………」


謎の美少女は一言も口を開かない……。


ただ――ジッと俺を見ていた。


【燈馬】

「……っすぅ――ふぅ……とりあえず、降りて来い」


あまりにもジッと見られると、落ち着かない……。


俺はタバコをふかしながら、謎の美少女の様子を窺う。


【???】

「………………」


……バッ――タンッッ――!!


【燈馬】

「なんだお前……“随分身軽”じゃねぇかよ……?」


謎の美少女は華麗に空を飛び、静かに屋上の地面へと着地させた。


なんとなく……“危険なヤツ”な気がして、俺は身構える。


ソイツは瞑よりも背が低く、飾りっ気の無いタダの黒髪ポニーテール姿で、ナゼか……制服がボロっちかった。


【???】

「………………」


【燈馬】

「――ったく……一言も喋りゃしねぇ……不気味なヤツだなオマエは……?」


【???】

「………………」


――コクッ……。


【燈馬】

「……コクッ――じゃねぇよ……なんなん? 全く喋らねぇし……怖いって――ほほほぉ……」


謎の美少女は首を縦に振るだけだった――。


俺は首をかしげながら、ふと思う。


もしかすると……もしかするのかと――。


……ガサッ――ガッッ!! ポイッ――。


パシッ――!!


【???】

「………………」


【燈馬】

「……腹減って声出ねぇんだろ? 食えよ……さっきコンビニで適当に買った、お握りだ」


【燈馬】

「毒なんて入ってねえから、さっさと食いな?」


【???】

「…………コクッ……」


【燈馬】

「おいおい……口でコクッ……じゃないよ、全く……」


俺はブレザーのポケットからお握りを取り出し、謎の美少女にぶん投げた。


謎の美少女はビックリもせずに、平然と飛んで来たお握りを片手で受け止めて、口でコクッ……っと、頷く。


ソレを見て俺は、やっぱり――コイツは只者じゃないと感じていた。


どこか……謎の強者感があるのだ。


そのまま、謎の美少女は屋上の地面に座ると、すぐにお握りのフィルムを剥がし、モグモグと食べ出す。


――カチッ……ボッ――ジジッ――チリリッ……。


【燈馬】

「……っすぅ――ふぅ……なんなんだお前……」


俺は二本目のタバコを手に取り、チェーンスモークをしながら、ソッ――と、謎の美少女の様子を窺っていた。


【???】

「……もぐもぐっ――んっ、モグモグっ……もぐっ」


【燈馬】

「チッ……ナニも聞いちゃいねぇか……ハハッ――」


黙々と謎の美少女は、俺が渡したお握りを食べ進める。


そのまま食べ終わるのを待っていると……。


【???】

「……ふぅ――“アナタ”」

 

――びぐぅッッ!!


【燈馬】

「……んなっ、な……なんだよ? 急に話し掛けて来んなよ……? ビビるじゃねえかよ!?」


急にソイツは俺に声を掛ける。


俺は本当にビックリして、背筋をピーンと伸ばして驚いた。


【???】

「……“姫乃恋には気を付けて”――ソレじゃ」


……グッ――パッパッ――タッタッタッタッ――。


ガチャッ……きぃいぃ……パタンッッ――。


謎の美少女は一言俺に言い残し、ホコリがついたスカートを手で払った後、すぐに屋上を後にした。


……ヒュうぅうぅ〜〜〜〜ブワッッ――!!


【燈馬】

「うぅ……寒みぃ――何だったんだアイツ……?」


冷たい風が屋上に吹き荒れ、俺の体を襲う。


この寒さは風によるモノなのか、それとも……。


謎の美少女によるモノなのか――。


俺には分からなかった……。


【燈馬】

「ふむっ……でも、なんか“アイツ”――」


【燈馬】

「……“ナニか”――“知ってんな”……?」


――俺は直感でそう感じられていた。


姫乃恋との、バッドエンドを回避したコトによる、副産物……。


このガラクタな未完のWEB小説の……“新情報”。


“謎の美少女の出現”は俺にとっては、喜ばしい事だった。


“間違いなく”――“アイツは姫乃恋と絡みがある”。


タバコの絶大なる圧倒的なパワーにより、研ぎ澄まされた、俺の第六感はそう告げていた。


【燈馬】

「しっかし……ボロっちぃ制服姿だったな、アイツ……」


【燈馬】

「それに……なんか臭かったし――いったい、何者なんだ? アイツは……」


マトモに飯も食えていないのか、かなり痩せていて、風呂もろくに入れてないのか、ちょっと酸っぱい臭いがした。


本当に謎の美少女だった。


でも……きっと――この物語の中で……。


“重要なポジション”にいる。


“この物語を綺麗に終わらせる鍵”……。


――それがあの謎の薄汚れた美少女なのだと。


俺はそう考えていた。


〈教室〉


――屋上でタバコを満喫し、この物語の考察を終わらせた俺は、すぐに教室へと戻った。


そのままいつもの四人に、先程の件を伝えて……。


【葉子】

「黒髪ポニーテールの……“薄汚れた美少女”?」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。お前らなんか知らねえか?」


【瞑】

「う〜ん……“ウチらの学年じゃない”んじゃない?」


【茂】

「そうだな……“そんなヤツ知らねぇな”?」


【松之助】

「おう……俺も知らないぞ!! 燈馬ッッ――!!」


【燈馬】

「うるせぇな……耳がキンキンすらぁ……」


四人は口を揃えて知らないと言う……。


となると――下の学年が怪しくなる。


俺は急激に物語が進む予感がして、妙に緊張していた。


【燈馬】

「だとするなら……巴とかに聞くのが早いな」


――ダンッッ!!


【瞑】

「……駄目」


【燈馬】

「――ですよねぇ……ははっ――ハ……」


瞑は俺を守ろうとしてくれたのだろう……。


俺がいる机を手で強く叩いて、牽制して――。


俺が巴と関係を持たない様にと。


【瞑】

「全く……危機感無さ過ぎ。“姫乃さんの件”もあるし、“穂村さん達も危ないし”……」


【瞑】

「今度はなに……? “薄汚れた美少女の正体”が知りたいですって?」


【葉子】

「そうそう……“アンタは襲う側じゃなくて”、“襲われる側なんだから”、一人で動くなよバカタレ」


【燈馬】

「すっ……すんません――はい……」


正論だった……瞑も葉子も――何一つ間違った事は言っていない。


そうなのだ――“俺は襲われる側”なのだ……。


【茂】

「しっかしまぁ……災難だよな燈馬は……いつも」


【松之助】

「ハッハッ――そんなもんだろいつも!!」


【燈馬】

「うっせぇよ……ったく――俺だって平穏な日々を送りてぇっての……」


【葉子】

「とりあえず、“アンタは暫く慎重に行動しな”?」


【葉子】

「ちょっと……目を離した隙にコロッとヤラれるくらい、“アンタ雑魚いんだから”……」


【燈馬】

「はひっ……ワカリマシタ……肝に銘じてオキマス」


【瞑】

「そうよ……? あまりウロチョロしないで……? コッチが困るんだから……」


【茂】

「だってよ……まぁ――瞑の言う通りだ。あんま、“彼女に迷惑掛けんな”――」


――ポンッ……。


【燈馬】

「あぁ……分かってる」


茂は俺を気遣いながらも、瞑の意思を尊重しながら、軽く俺の肩を軽く叩いた。


本当に気分が落ちて行くのを感じる。


そう……俺は色んなヒロインと関わりを持ち過ぎたのだ。


最悪で……最低なほど――。


本来の主人公が攻略する筈だったヒロイン達。


その全てと関係を持ってしまった。


本当に俺は悪役に相応しい野郎だった。


【瞑】

「じゃあ……どうしようかな? 葉子、私達だけ巴ちゃんに会いに行って、情報探って来る……?」


【葉子】

「そうだね、その方がイイよ。コイツ、すぐ目を離すと、“誰かに襲われるし”……」


【瞑】

「そうね……本当に“トラブルメーカー”だしね?」


【燈馬】

「う……うん……ゴメン――よろしく頼むわ二人共」


【葉子】

「その薄汚れた美少女だっけ? それはコッチで情報探るから、アンタは本当に大人しくしといて」


【燈馬】

「あぁ……分かった」


――ガラガラッ……ビシャンッ――。


【教諭】

「お〜い、お前らサッサと席つけよ? ホームルーム始めんぞ〜〜」


……ザワザワ――ザワザワ……。


【燈馬】

「ふぅ……とりあえず、おまんたち――お席に着きなさいよ? ホームルーム始めるってよ」


【茂】

「へぇ〜〜い……」


【松之助】

「燈馬、昼になったら学食行こう!!」


【教諭】

「お〜い……声でかいぞソコ? さっさと、席に着きなさい」


【松之助】

「むむぅ……そんじゃあな――燈馬」


【燈馬】

「おう……後でな?」


【葉子】

「私達も席に着こっか……瞑?」


【瞑】

「うん」


こうして――普通の? 日常っぽいナニかが始まった。


なんとなく……ホッとした気持ちと、コレから物語が大きく動く様な気がして、不安な気持ちもあった。


そのまま、俺は真面目に授業を聴き――。


〈教室・昼休み〉


――やっと、午前の授業は終了した。


クラスの連中は一気に騒がしくなり、光の速さで外へ飛び出す奴、机をくっつけて弁当を摘む奴――。


飯も食わずに本を読んでる奴……。


色んな奴等のスタイルが顕になる。


【燈馬】

「さてっと……どうすっかな――ふぅ……」


そんな中、俺は机に伏してダラケていた。


【松之助】

「――燈馬!! 飯行くぞ飯!!」


【茂】

「そうだぜ? お前……顔色悪いし、ガッツリ飯食って、元気にならねぇとな?」


【燈馬】

「あぁ……寝不足でな? クッソ眠ぃや……ふぁ――あぁ……んっむにゃむにゃ……はっ――ふぅ……」


――ガラガラッ……ピシャッ――。


……タッタッタッタッタッ――。


【葵】

「ねぇ……? “恋”――“今日も学園来てない”んだけど……“なんかしたの”?」


【燈馬】

「んっ……? 何だお前かよ――おいおい、勝手に教室入ってくんなって……はぁ――」


【瞑】

「……それは後でアナタに説明する」


【葵】

「やっぱり……“ナンカあったんだ”――」


【燈馬】

「……はぁ――ちょっと、耳貸せよ? ほら……」


――くいくいっ……。


俺は手で来いよとジェスチャーして、葵を引き寄せる。


【葵】

「なっ……なによ……?」


誤魔化しても仕方がない……ありのままを俺は伝える事にした。


【燈馬】

「実は……恋に襲われてな――“ヤラれちまった”……」


俺は本当に小さな声で囁いて教えてやった。


ドシンプルに丁寧に……。


【葵】

「……はぁ――恋のバカ……ナニやってんのあの子は……もう」


【燈馬】

「そんなわけだ……宮原には、本当に悪いと思っている……すまん――」


【葵】

「まぁ……あの子が勝手にアンタを襲ったんでしょ? じゃあ……無理よ――アンタ、“弱いし”……」


【燈馬】

「そうだよ……悪かったな……弱くて――」


俺には断る勇気も、誘惑に耐える勇気もなかった。


本当にダメダメな悪役なのだ。


【葵】

「ねぇ……今から、“学食行かない”? ちょっと“相談したいコトがあってさ”……?」


【燈馬】

「う〜ん……腹減ったし――まぁ……イイか――」


【瞑】

「ハァ……まぁ――“お姉ちゃんの方なら”、大丈夫そうだし、行ってきてもイイよ?」


【燈馬】

「聴こえてんのかよ……」


【瞑】

「えぇ……私、耳が結構良くてね? それじゃ、穂村さんに、アナタの口からナニがあったか……伝えて頂戴ね?」


【燈馬】

「分かってるよ――そんじゃ、ソッチは巴から情報聞いてきてくれよ?」


【瞑】

「うん、任せて? 葉子? 行こっか、それじゃ」


【葉子】

「ハイハイ……行きますよ。あ……あと、燈馬――変なコトすんなよ? そんだけだ……じゃあな?」


【燈馬】

「ういっす……」


【松之助】

「ふむ……仕方がない――茂、俺達だけで学食行くぞ!!」


【茂】

「そうだな、野郎共は撤退すんぜ――またな!!」


【燈馬】

「わりぃな……また今度、一緒に学食に行こう」


野郎共は少しだけ……淋しそうにしていた。


まさかの来客によって、昼の予定が壊されたのだ。


俺はソレが気まずくてならなかった。


【燈馬】

「……ったく、“宮原”はどうしたよ? お前ら、いっつも、つるんでるんだろ――?」


【葵】

「あ〜〜あっはは――適当に、どっか行ってくるって伝えて、来ちゃった……」


【燈馬】

「いやいやいや……まぁ――イイや、さっさと学食行こうぜ?」


【葵】

「うん……いこ――?」


なんだか分からないが、俺は葵に誘われて学食へ向かう事に。


そして……やっぱり葵は美しかった――。


耳にギラギラするほど大量のピアスを着けて、キリッとする葵の姿は、とても魅力的で堪らない……。


本当にこの未完のWEB小説は、キャラだけは最高で最強だった。


中身空っぽのガラクタの様な世界の中――。


俺は魅力的なヒロインに誘われて……。


歩幅を合わせて進んで行く。

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