魅力的で蠱惑的な彼女達に弄ばれる一日。

〈燈馬の実家・キッチン〉


――俺は一人キッチンに来て、辺りをぐるりと見渡す。


理由は簡単だった。恋はとてもお腹が空いたのか、腹の虫を鳴らし、恥ずかしそうにしていた。


そんなこんなで俺は、キッチンに足を運び入れた。


――朝から衝撃的な展開を迎えた俺は、疲れが押し寄せて、少し目眩を覚えながらも、冷蔵庫を漁る。


……すっ――カタッ……。


俺は冷蔵庫から挽き肉を取り出し、少しだけ微笑んでいた。


【燈馬】

「ふむ――あるじゃんよ、挽き肉ちゃん……ふぅ……なら、“漢のハンバーグ”でも作ろうかね」


……タッタッタッタッタッ……ピタッ――。


【恋】

「うふふっ……“ナニ作るの”? あぁ……本当にお腹空いちゃったよ、燈馬くん……」


【燈馬】

「……ったく――“キッチンは聖域だぞ”? バタバタする前に、来んじゃねえよ?」


……ピタッ――グッ……むにゅんむにゅん……ぎゅっぎゅっ――グリグリぃ〜〜っ……。


【恋】

「えぇ〜〜イイじゃない……ふふっ、燈馬くんがナニ作るのか――気になってさ……?」


【燈馬】

「おいおい……後ろから抱き着いてくんなって? ハァ……近くに瞑もいんだからさ……?」


恋はバルンバルンな、バカでかい胸を押し着けて、ぐねぐねと蠢き、俺に抱き着いた。


ブレザー越しからでも分かる……むにゅむにゅして、とてもとても柔らかいオッパイの感覚――。


俺は思わず、下腹部がオカシクなりそうだった。


それに……恋特有な甘い匂いに香りがして、頭が本当にクラクラさせられる。


【恋】

「ふぅ……ゴツゴツした体も――ふふっ、イイね? ご飯食べたら……いっぱい――“しよう”……ね?」


……タッタッタッタッ――。


【瞑】

「ふぅ……やめてよ姫乃さん……燈馬困ってるじゃないの? そんなに大きなオッパイ押し着けて……」


【燈馬】

「瞑……とりあえず、コイツ――リビングに戻してくれよ? 料理するんだから、邪魔くせえんだよマジでさ……?」


【瞑】

「だって……さ? 姫乃さん? ふふっ……早く離れてね? “邪魔なんだってア・ナ・タのコト”……」


……俺には感じられていた。


瞑がピリピリして……イライラしているコトを……。


今にも瞑は、爆発しそうな気がして――。


【燈馬】

「お……おん? ちょっと――マジで離れてくれる? さっさと飯作りたいしさ……?」


……グッ――フワッ……。


恋はやっと……俺の体から離れてくれた。


【恋】

「分かった……でも、“早く作ってね”? じゃないと……うふっ――“月夜さんにイタズラしちゃう”かもね……?」


【燈馬】

「うぐっ……ハァ――分かりましたよ、もう……とりあえず、恋――“余計な事”すんな。黙ってリビングで朝のニュースでも観てろよ……」


【恋】

「ハイハイ……はぁ〜〜燈馬くんが料理してるトコロ――見たかったのになぁ……? あぁ……残念……」


【瞑】

「いやいや……楽しいもんじゃないでしょ? 料理なんて、キッチンでバタバタ忙しく、動き回るだけだし……」


【燈馬】

「そうだぜ……ったく――キッチンは女も男も関係ない……そう、“聖域”なんだよ――」


【恋】

「ナニ……その、聖域って?」


【瞑】

「ふぅ……燈馬が考えてるコト、“代弁してあげる”」


【燈馬】

「お……おう? やってみな……?」


ナニやら、瞑が俺の考えを代弁してくれるらしい……。


本当に代弁なんか……出来るのかよと、思いつつ。


【瞑】

「つまり、キッチンはなぁ……色んな食材を千切っては投げ、千切っては投げの繰り返しなんだ。わかる……? そう――“ココは戦いの場なの”!!」


【恋】

「お……おぉ〜〜? で……そうなのかな? 燈馬くん?」


【燈馬】

「……ぐぎっ――やるじゃん……瞑、お前……あぁ、そのまんまよ!! そう、キッチンは戦いの場なのよ!! だから、邪魔すんなよって話!!」


完全に……瞑は俺の話すコトを、一言一句違えず、正確にコピーしたみたいに話していた。


本当に賢い女だった……瞑と言うヤツは。


【瞑】

「ふふっ……なんとなく、アナタの頭の中が読めたのよ? ククッ――だって、“私が彼女なんだし”」


済まし顔で……瞑はウルトラマウントを取っていた。


ニヤァ……と、ニヒルな笑みを浮かべながら……。


ダボダボなワイシャツ姿で嗤う瞑もまた――。


俺をグッ――とさせる。


【恋】

「……ふぅ〜〜ん? やっぱり……燈馬くんは、“月夜さんのコト”――とっても……“大好きなんだね”?」


【瞑】

「当たり前でしょ……彼女が彼氏を魅了させなくて、どうするのよ――ねぇ……“燈馬”?」


【燈馬】

「お……おう? あはは……うん――ちょっと、見惚れていたよ。はぁ……こんな時に言いたかねえけどよ……」


俺はソッ――と、瞑から視線を逸らした。


ダボダボなワイシャツ一丁で、とても長い黒髪をクルクルと指先で遊びながら、少しだけ髪を靡かせる瞑は、恐ろしく――魅力的に見えた。


やっぱり、イイ女なのだ……月夜瞑は。


美しい褐色肌で少し攻撃的で……積極的な彼女。


そんな彼女に俺は――心底惚れていた。


【恋】

「……ふぅ――そう。なら、もう行きましょうか? 月夜さん……?」


【瞑】

「えぇ……行きましょう? ふふっ……燈馬、“私が姫乃さんに襲われる前に”――朝食持ってきてね?」


【燈馬】

「グゲッ……わ――分かったよ。さっ――散った散った!! “こっからは漢の料理の時間よ”!!」


こうして……俺達は一旦、離れ離れになった。


そう――キッチンは戦いの場なのだ。


バタバタと料理に勤しんでいる、全国のお母さん連中に、絡みまくったらどうなるか……。


きっと――うっさいだの、邪魔だの、それとも……。


失せなっッ!! くらいは言われるかも知れない。


それもコレも……全部、“俺の妄想”に過ぎない――。


そして――俺は遂に、真の漢のハンバーグ作りに精を出す。


穂村家では完成させられなかった、俺のハンバーグを……。


この場に……巴が居ないコトは少しだけ残念だった。


しかし――アイツが居てもヤヴァイので、大変助かっているのは事実。


瞑、恋、巴……コイツらが三人居たら、トンデモナイコトになっていただろう……。


瞑、葵、巴、葉子……アイツらでもヤバかったが、それ以上にヤヴァイのだ……。


きっと、この三人は巡り合わせてはイケナイ存在。


そんなわけで……俺は朝食作りを開始した。


〈リビング・漢のハンバーグ完成後〉


……ちゅぱっ――んっふっ……ちゅるっ、ぢゅぢゅ……ぢゅ〜〜!! れろれろっ……あむっ、ぢゅぷっ……んっ――ぢゅるるっ、んっ――ンっ――ぢゅっ……。


ナニやら……“イケナイ音”が――リビングに響き渡っていた。


……カチッ――カタカタッ……。


【燈馬】

「あ……あの――“ナニヤッて”……?」


……ぷちゅっ――タラぁ……。


【恋】

「あぁ……ふぅ――暇だったから、月夜さんと……クススッ――“キスしてたの”……燈馬くんも……スル?」


【燈馬】

「……しねえよ――それより、瞑……お前、呆気なくヤラれてんじゃねえよ?!」


【瞑】

「うぅ……駄目だったわ――この子……“強引過ぎ”」


【燈馬】

「……ったくよ――ソファーで、イチャついてねえで、朝飯だよ!! 今日はハンバーグだ!!」


俺はソファーで、ぐてぇ〜〜んとしていた二人は、すぐに体勢を整え初めて、テーブルにゾロゾロと集まって行く。


……コトッ――スッ……。


【燈馬】

「味は知らねえ……焼いた食パンと、適当に刻んだキャベツに、適当に作ったドレッシングかけて、適当にお湯注いだコーンスープ……そして――」


【燈馬】

「適当に味付けした……“真の漢のハンバーグ”!!」


【瞑】

「いやいやいや……ほぼ全部適当じゃないの……?」


【恋】

「おぉ……で、でも――“見た目は凄く普通だよ”?」


【燈馬】

「ったりメェだろ……漢の料理はな――適当に作っても、ソレなりのモノになる特性があんのよ……」


そう――長年の戦いで培った、確かな実績。


よくある……ギャルゲかなんかにある、キャラの見た目は最高なのに、料理になると――。


ふぇえぇ〜〜ん!! 料理失敗ちゃったよぉ〜〜おぉん!!


な〜〜んて、“丸焦げ料理”とは違うのだ……。


漢の料理とは――失敗と成功を交互に繰り返し、最後には、味付けも何もかも……“感覚で行う”――。


“真の料理”なのだ……。


見た目は普通、味はワイルド。


その名は……“漢の料理”!!


そして……たまにミスると味が濃くてビビるのも、ワイルド――。


【燈馬】

「……うむ――あのぉ……とりあえず、ご飯食べる前に、顔洗ってきてね? アナタ達……綺麗なお顔が唾液で……ベッチョベチョ……よ?」


【瞑】

「えっ……あ――そうだった……姫乃さん、洗面所にでも行きましょう?」


【恋】

「あ……うん――あっはは、全然気にしてなかったよ……」


【燈馬】

「おいおい……お前ら頼むぜ――いや、マジで」


俺なんかより……二人の方がワイルドだった……。


〈リビング・食事中〉


――なんだか妙な気分だった。まさか、宿敵である恋と俺達は、こうして家の中で、食卓を囲んでいるのだから……。


……カチャッ――あむっ……。


【恋】

「――むむっ……?! もぐもぐっ――んっ……ふぅ……いや、“普通に美味しくて”ビックリしちゃった……」


【燈馬】

「……だろ? 俺が作れる領域は、普通までだ。それ以上は、お店で体験してくれよな!!」


【瞑】

「うん……普通に美味しい。ちょっと、味はワイルドだけど……ふふっ? でも……少しスパイス効いてて、美味しいよこのハンバーグ」


【燈馬】

「あぁ……漢の料理は味が濃いのが基本だ。味が濃い料理に白飯をだな、こう――ガッ……と、掻き込んで、胃の中にぶち込むのよ……コレが良いんだ――」


【恋】

「いやいや……“ご飯無いけど”……?」


【燈馬】

「いや……ねえけど、そんな感じなのよ、漢の料理ってのは」


俺は二人にジェスチャーで、漢の料理の嗜み方を教えていた。


漢の料理に繊細さは一切いらない……。


ただ喰い、ただ――胃の中に掻き込む。


さっさと喰ったら、全てに感謝して手を合わせる。


それが漢の料理なのだ……。


【瞑】

「ふぅ……でも、イイわ? “朝まで楽しんだから”、エネルギーが枯渇していたし……」


【恋】

「ふぅ〜〜ん……? “朝まで楽しんだんだ”」


【瞑】

「ふふっ……そうよ? それはもう……じっくりと楽しんだわ――ねぇ……“燈馬”?」


【燈馬】

「……お――おんっ……? あぁ……そりゃもう、“ぶっ壊れるまで楽しんだ”――ょ?」


【恋】

「へぇ……うふふっ――なら……“今日は私も混ざって”……もっと――ふふっ、“熱くなれるのね”?」


【瞑】

「全く……なんで、姫乃さんが燈馬の家に居るんだか――でも、仕方がない……燈馬? ご飯を食べ終わったら……“戦いましょうか”……?」


【燈馬】

「お……おうよ? ハァ……なんでこんなコトに……」


【恋】

「大丈夫……きっと――“もっと楽しいから”……ね?」


【瞑】

「姫乃さん……“私達に壊されないでよ”? ココに来た事……“後悔させてアゲル”――ふふっ、ふふっ……」


【恋】

「うん……むしろ――“壊して欲しいなぁ”……ふふっ」


【燈馬】

「“知らねぇぞ”……マジで、どうなっても……」


ココからは……お互いがお互いを喰い荒らす――。


“本物な戦いが始まる”……。


昨日よりも、もっと――“イカれた戦いへ”……。


俺達は“駄目な道”へ踏み入れながら――進む。


〈燈馬の自室・終戦・早朝〉


……ピクッ――ピクピクッ――ビクッっ!!


【瞑】

「……ふぅ、“勝ったわね”……燈馬……」


【燈馬】

「あぁ……終わった――“終戦”だぁ……はぁ――さっさと、部屋片して……風呂には入りてぇ……な……ハハッ――はぁ……」


……ピクッ――ピクピクッ……。


【瞑】

「ふふっ……本当に“恋ちゃん”……“壊れちゃった”」


【燈馬】

「ザマァ……ねぇぜ――ハハッ……“本当にひでぇ姿”になってまぁ……ククッ――“イイ気味だぁ”……」


【瞑】

「えぇ……そうね――クススッ……うふふっ――ほんっと……“ボロッボロで”――あぁ……“可愛い”……」


俺達はグシャグシャなベッドの上で……。


ただただ――嗤い合っていた……。


本当に本当に……ボロッボロになった姫乃恋。


美しい白い体がボロボロにされ……崩されて……。


堕ちた姿を黙って眺めながら――。


〈燈馬の実家・玄関前〉


――トントン……コンコン……。


【恋】

「……ったた――あっはは……“負けちゃったなぁ”……凄いね二人共……本当にイかれてるよぉ……あははっ……んっ――はぁ、“今日は学園行けないや”……」 


恋は腰をトントンして、辛そうにしていた。


それもそうだろう……俺達が恋をぶっ壊したのだ。


徹底的に――俺達は反撃した。


“ヤラれる前に”……“ヤルのが鉄則”なのだから。


そうじゃなきゃ……俺達が喰われて終わる。


“俺達は全員”……“そんなバケモノ”だった。


【燈馬】

「はぁ……行きたくねえけど――学園に顔出すか」


【瞑】

「そんなわけで……恋ちゃんは自分の家で、ユックリと、体を休めてね……?」


【恋】

「うん……そうする――あははっ……体に力が入らないよぉ……ふふっ? 燈馬くん……“恋のコト”――家まで……連れて行ってくれないかな?」


【瞑】

「……ダメ。アナタ――自分の家に着いたら、きっと元気になって、“燈馬を襲いそうだし”……」


【恋】

「ふぅ……“瞑ちゃん”――“それ正解かも”……ふふっ」


なんだか、二人は名前で呼び合う仲になっていた。


完璧に敵同士なのに……。


それと――俺が言う前に、瞑が止めに入ってくれたのは、非常に助かった。


きっと……恋のコトだ――百パーセント――。


俺を拘束して、逆に俺を壊しに来るだろう。


そんなコトにならなくて、本当に良かった。


……タッタッタッタッ――ピタッ……。


【燈馬の母親】

「あらあらぁ〜〜? 燈馬……あらやだ――あれ?」


【燈馬】

「……あの、デートから帰ってきたの?」


【燈馬の母親】

「うん……そうだけど――うぅ〜〜ん、アナタ……“ドコかで見たことある様な”――」


【燈馬の親父】

「うぇっほっ――ゲホッ、げほっ……ハァ……ゴメン――お話途中で……ゴホッ――あぁ……疲れた……」


【燈馬】

「お……おい? だ、大丈夫か……? とりあえず、家の中に入りなよ? 外は寒いし……さ?」


【燈馬の母親】

「そ、そうね……? とりあえず、燈馬? 今日は家に帰って来なくてイイからね? ふふっ、今からお家デートなの」


【燈馬】

「は……はい……どうぞ、ごゆっくり〜〜」


【燈馬の親父】

「――ゲホッ……ゴホッ――あぁ……母さん……少し、優しくしてね? 死んじゃうから本当に……うん……」


【燈馬の母親】

「分かってるわ……ふふっ、さぁ――家に入って少し休んでから、ハッスルするわよぉ〜〜!!」


ガチャッ……バタンッ――。


そして……両親は自分の家の中へ、吸い込まれて行った……。


前回はリビングで会い、今度は玄関前で会った。


微妙に展開がズレて、違うルートを辿っているコトがハッキリと分かって、俺はホッとしていた。


【瞑】

「さてっ……と――とりあえず学園行きましょ?」


【瞑】

「あっ……今日は絡んで来ないでよ、恋ちゃん」


【恋】

「分かってる……大丈夫だよ? もう、本当にヘトヘトだし……ふふぅ……“大満足なんだもん”……」


【燈馬】

「そんじゃあ……行くか」


【恋】

「本当は家まで……送って欲しいけど――無理そうだしね? はぁ……辛いなぁ……ハハッ、ふぅ……」


【瞑】

「“人は楽しんだ分だけ”、“辛さを経験するのよ”」


【燈馬】

「おいおい……俺が言うつもりのセリフ取るなよ」


【恋】

「ふふっ……“本当に仲いいね”……二人共――」


【瞑】

「まぁね……? アナタも――イイ男見つけて、早く燈馬から離れてよ? 本当に困るからコッチは」


【恋】

「うん……“無理かな”、“ソレだけは”――うん……多分じゃなくて――“本当に無理”だよ?」


【燈馬】

「ぐげっ――お前、あんなにボロボロにされても、まだそんな余裕あんのかよ……怖いって!!」


【恋】

「うん……怖いの――“恋はとっても怖い子だから”」


【瞑】

「……はぁ――もう、付き合ってらんない……もう行きましょ? 本当に怖いもんこの子……マジで」


【燈馬】

「お……おう、そんじゃ、寄り道しないで帰れよ!!」


【燈馬】

「あと……今日は自分の家から出てくるな!!」


【恋】

「うぅ……厳しいね燈馬くんは? 良くなったら、逢いに行こうと思ったのに……」


【瞑】

「ダメ……今日は本当にヤメて!! 私達も疲れてるんだから……」


【恋】

「はぁ〜〜い……ソレじゃあね? 二人共……」


そのまま、恋はトボトボ一人で歩き出した。


腰をポンポン叩きながら……。


そんなボロボロになった恋を見送った後、俺達は学園へと向う。


【燈馬】

「ふぅ……“アイツ怖すぎ”……おほほ……ホホォ……」


【瞑】

「ホントよ……あの子マジで怖い……底が全く見えないし、あんなボロボロにされても、まだアナタを諦めてないみたいだし……ハァ――ほんと最悪……」


【燈馬】

「とりあえず、お前んち泊めてくれる……?」


【瞑】

「えぇ……そのつもりよ。それに、アナタが無理矢理家に帰っても、あの子……“迎えに来るかもね”?」


【燈馬】

「わりぃ……ちょっと頼むわマジで」


【瞑】

「えぇ……さっ、行きましょ?」


【燈馬】

「そうだな……寒いしよ――はぁ……」


――そんなわけで、本当に俺達は学園へと向う。


ムカつくほど寒い朝だった。


でも……やっと――この一日が迎えられると思えば、心は本当にハッピーだった。


そう……前回、“この日をキッカケ”に、俺と恋は急激に繋がり、そして無事……“バッドエンドを迎えた”。


喫茶店で絡まれて――そのまま、家に連れて行かれ、俺はベッドに拘束されて……。


最悪で最低な形で殺されたのだ。


やっと、この日がマトモに迎えられる。


そう考えたら……もう、幸せな気分になった。


【瞑】

「ふふっ……“なんか嬉しそうな顔してる”わよ?」


【燈馬】

「あぁ……“こうして普通にお前と歩けるだけ”……」


【燈馬】

「ほんっと……“幸せなんだ”」


【瞑】

「ふふっ……そうね――“当たり前の日々が一番”……」


【瞑】

「ほんっと……“幸せよ”」


俺達は笑いあって、学園へと向かっていた。


厭な笑みは一つもなく……“純粋な微笑”で。


このまま――ハッピーエンドまで行けばいい。


そんな希望だけ心に抱き――。


俺達は、ソッ……と、手を繋いで進み出す。


この未完のWEB小説の中を。

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