ヒロイン大集結と絶望は繰り返す。
〈マンション・瞑の部屋〉
――遂にココから始まる。
“漆黒に染められる様な”――“瞑のセカイが”……。
そう――“姫乃恋と同じく”。
“月夜瞑もまた”――“ぶっ飛んでいる”。
“前回と全く違う点”……それは――。
“穂村姉妹が参戦したコト”だ。
ココから先は全くの未知数。
ナニが起きるのか……本当に想像がつかない。
俺はガタガタブルブル震えながら、瞑のお仕置きを受ける覚悟を決めていた。
【瞑】
「燈馬には、入れさせなかったけど……」
【瞑】
「――コッチよ? みんな、さぁ……行きましょ?」
【燈馬】
「はい……」
【葵】
「ふぅ……一体、ナニが起きるコトやら……」
【巴】
「ふんふ〜〜ん……なんだろなぁ〜〜お仕置きって―――クヒヒッ……楽しくて仕方がないよぉ……」
俺達はそのまま――。
瞑の……“秘密の遊び部屋”まで――誘導された。
そう……あのイカれたヤヴァい部屋へ。
〈瞑の秘密の遊び部屋〉
――前回同様……異様な瘴気が漂う部屋。
そんな部屋の中に穂村姉妹も混ざって……。
【葵】
「うぐっ――なっ……“ナニこの”――“部屋”?」
【巴】
「――けほっ、ゴホッ――んはぁ……スッゴイ――ナニコレ……あっひゃははっッ?! “これは凄い”……」
【燈馬】
「ゲホッ――ゴホッ――“なんだよコレ”……」
【瞑】
「うっふふっ――ようこそ……“秘密の遊び部屋”へ」
【瞑】
「あぁ……“アナタ達”――“朝まで帰さないから”」
【巴】
「うん……ゴホッ――巴は帰らないよぉ……だって、凄いもん、この部屋――アヒャハハ?! 頭オカシクなりそう……はぁ……凄い凄い……クヒヒッ――?」
【葵】
「……うげっ、ごほっ、んっぷっ――ゲホッ、燈馬……“ガチじゃん”――“アンタの”……“彼女”……」
【燈馬】
「ゲホッ――うっ……ぷっ――あぁ……ガチだよ――」
瞑の秘密の遊び部屋の瘴気にやられ――。
俺達は全員……クラクラしていた。
【瞑】
「うっふふっ――それじゃ……“お仕置きよ”?」
【瞑】
「全員……“朝まで耐えてね”……?」
こうして――ループ後……。
二回目の――超激乱闘が始まった……。
〈瞑の部屋・洗濯機前・昼前〉
――前回同様、葉子が瞑の部屋へ様子を伺いに来た。
例に洩れず……葉子も――巻き込まれて、秘密の部屋で五人は秘密なコトをしていた……。
葉子は昨日、喧嘩後の帰り際に、俺をぶっ殺すとか
言っていたが……。
葉子は“瞑に無事”――“ぶち殺された”……。
【葉子】
「くぅ〜〜っ……ったたっ――ハァ……もうなんだか、アンタをブッ飛ばす気にもならないわ……」
【燈馬】
「そ、そりゃ良かった――それより……“お前の方こそ大丈夫かよ”……?」
【葉子】
「だ……大丈夫なワケあるかよ――瞑のヤロウ……クソ――“バケモンかよ”……“アイツ”……ったた――」
【瞑】
「葉子にはまだ早かったかもね? うふふっ……」
【葉子】
「うっせぇ……お前がぶっ壊れてんだよ――マジで」
【葵】
「はぁ……マジで死ぬって――まだ、体力戻ってないし――」
【葵】
「……それより、なんで燈馬……“アンタもピンピンしてんのよ”?」
【燈馬】
「……えっ? あ〜〜いや、まぁ……“経験の差”?」
俺はソレしか言う事がなかった。
前回を越えて来た今の俺は、ナゼか……。
腰もナニもかも、頑丈になっていた。
【巴】
「くきゅうぅ……あひゃははっ――腰が……抜けるよぉ~〜? なんだか……頭もクラクラしてもう駄目だぁ……」
――フラッ……バフッッ――!!
巴は俺の体へ倒れてきた。
【燈馬】
「おいおい……お前ら――コレから学園あんだぞ? 大丈夫かよ……ったく――」
【瞑】
「ふぅん……? 燈馬はピンピンしてるんだ? なんか、“想像と違って残念”……」
【燈馬】
「悪いな、想像通りにならなくて」
この世の中は経験が物を言う世界だ。
知っているのと、知らないコトは雲泥の差を生む。
一度、超ハードな日常を喰らえば、人はソレに慣れるのだ。
【葵】
「でも……凄く良かった――こんなの初めてだ」
【巴】
「うん……みんなでふわふわ――楽しかった……」
……ぎゅっぎゅっ――ぎゅ〜〜〜〜っッ!!
【燈馬】
「お……おい、離れろよ!! 巴……痛いって!!」
【巴】
「えぇ〜〜? 酷いよ燈馬……こんなに巴がボロボロになってるのにぃ〜〜!!」
【燈馬】
「いや、知らねぇし?! つか……お姉ちゃん? お前は止めろよ!! ウザいんだけどコイツ!!」
【葵】
「はぁ……巴――ヤメな……? ハァ――しんど……」
【燈馬】
「駄目だコイツ……死にかけてる……」
【葉子】
「チッ……体が重くて仕方がない――瞑……アンタ、本当にぶっ壊れ過ぎ――いや、ガチもガチで……」
【瞑】
「うっふふっ……でも、“楽しんだ”でしょ? みんな……? “知らないセカイ”を体験出来て……」
【燈馬】
「瞑……お前のセカイは――色々と影響すんだよ……見てみろ、俺達以外――全員ほぼ死にそうだぜ?」
【瞑】
「コレも“イイ経験”よ……? 後で思い出して、“一人で楽しむコト”でしょう……ふふっ――?」
【燈馬】
「まぁ……だろうな――こんなセカイ見れねえし、普通は……」
――俺達は洗濯機前で、バカ話を楽しんでいた。
【巴】
「ふぃ……温かい――このまま……寝れそう――」
【燈馬】
「いや……抱き着いたまま寝ないでよ? 鬱陶しいからぁ?!」
【瞑】
「うふふっ……本当に、巴ちゃんは燈馬を気に入ったのね?」
【巴】
「うん……“気に入った”――“こんなヤツいないし”」
【燈馬】
「早く……俺を解放してぇ〜〜〜〜っッ!!」
朝から本当に姦しく……ただ――騒がしかった。
〈空発学園・教室内〉
――今回は屋上スタートではなく、教室直行スタートになった。
俺達が教室へ着く頃にはもう、お昼休みになっていて、クラスの連中は一時の休息を取っていた。
仲良く、弁当をつまみながら談笑をしたり、菓子パンを噛りながら本を読む者――。
色んなヤツが居た。
しかし、未だに慣れないのは……。
“この世界にスマホは無いコト”だった。
現代っ子な俺にはありえない光景に思えた。
今時、ドコ行っても……スマホスマホスマホ――。
そんな世界なのだ。
――それは俺自身も、俺の母親も同じだった。
ドコにいようが、何だろうが……。
スマホが着いてくる。
まるで、タバコみたいなモノだ。
ちょっと、スマホをドコかに置けばもう……。
あれ? スマホが無い無い騒いで、大捜索が始まって、てんやわんや――。
本当に終わってる世界だった。
一家に一台ドコロの騒ぎではない……。
今の時代は、一人複数持ちが当たり前の世界だった。
それがどうだろう……クラスのヤツらは――。
“普通に会話で楽しんでいる”のだ……。
そんな当たり前の……光景に衝撃を受けていた。
当たり前のコトが、当たり前じゃなくなった……。
そんな現実世界と……。
当たり前のコトが当たり前にある光景な――。
異世界……。
凄いギャップが俺を襲っていた。
【茂】
「おいおい……なんだよ? 燈馬――ボケーっとして?」
【燈馬】
「……おっ――ワリぃ、ちょっと考え事してた」
ボーっと自分の席で座っていた俺に、茂は話し掛けてきた。
【茂】
「……それより、“姫乃がお前を探してたぜ”――」
茂は俺にボソッと――耳打ちした。
【燈馬】
「――で……“なんか言ってたか”?」
【茂】
「あぁ……“どうしても”――“お前に会いたいから”、見掛けたら教えてくれってさ……?」
【燈馬】
「……とりあえず、無視しとけよ。なんなら、“燈馬は死んだ”とでも……言っとけ」
【茂】
「あぁ……そのつもりだ。それより――アイツ……“メチャクチャ怖かったぜ”……?」
【燈馬】
「はっ……? ナニソレ――ナニがあった?」
【茂】
「ナンダカ知らねえけど……“厭な気配を感じた”。燈馬……オマエ――マジで、“アイツに関わんなよ”?」
【茂】
「わかんだろ……オマエにも――“言葉には表せない”、“ナニかを感じるモノ”があるってコト……」
【燈馬】
「あぁ……“第六感”ミタイなもんだろ……?」
【茂】
「そう、ソレ――後は、“勘とか色々”な……?」
――トントン……。
【瞑】
「――“彼女”……“近くに居るわよ”」
【茂】
「おけ……とりあえず、俺がアイツ止めとくから、お前らは逃げとけ」
【燈馬】
「悪い……そんじゃ、あんがとうな? 色々、心配してくれて――」
【茂】
「あぁ……そんじゃ――お前ら、サッサといけよ」
【瞑】
「行きましょ……さっき廊下でウロチョロしてたから、隙を見て出るわよ」
【燈馬】
「あぁ……」
【茂】
「俺が一旦、廊下見とくから、合図したら行け」
【瞑】
「えぇ……頼んだわよ茂」
【茂】
「任せとけ……さぁ、始めんぞ――」
そして、緊急ミッションが唐突に始まった。
姫乃恋から逃げ切れッッ!!
危険度不明なスペシャルミッションが――。
素早く、茂は廊下へ偵察に出て行く。
――そのまま茂は、チラチラ廊下を見ながら、姫乃恋の様子を窺う。
暫く、様子を見た後――。
【茂】
「……今だ!! 早く行け!! 違う教室にアイツ入ったから――」
【瞑】
「行くわよ!! 燈馬――ッッ!!」
【燈馬】
「お……おう!!」
茂の合図を皮切りに、俺達は脱兎の如く超スピードで廊下に出て、走り出す。
とにかく俺達は、姫乃恋に会いたくなかった。
目にも留まらぬ速さで廊下を、電光石火の如く駆け抜けて、とにかく光の速さで駆け抜けた。
そして、行き着いた場所は……。
〈屋上〉
――ヒュうぅうぅ〜〜〜〜ゴォ………ッッ!!
【朱音】
「おいおい……なんだよオマエラ――そんなに血相変えて、飛び出してきやがって……」
【燈馬】
「……ぜぇ、ぜぇ、はぁ、ハァ、んっ――はぁ……まぁ、色々と――ありましてねぇ……」
【瞑】
「……はぁ、はぁ、ハァ……疲れた――」
【朱音】
「ふぅ……もしかして――“姫乃”……か?」
【燈馬】
「ウゲッ――なっ……“ナゼそれを”――?」
【朱音】
「なんでって……さっき、保健室までアイツが来たんだよ。燈馬くんは居ないですかって――」
【燈馬】
「何なんだよアイツ……俺の後を付け回すマネしやがって――」
【瞑】
「本当にそう……マジで迷惑だわ――落ち着かないし」
【朱音】
「全く……オマエはトラブルしか持ち込まねぇな――しかも、相手は学園一の女と来た……ハハッ……ヤベえなオマエ、やっぱり……」
【燈馬】
「冗談じゃないっすよ……なんなんすかアイツ――」
【朱音】
「知らねぇよンな事――ただ、まぁ……確信はねぇが、“アイツの悪い噂”は耳に挟んでるぜ……?」
【燈馬】
「ちょ――マジっすか? 教えてくださいよ!!」
【朱音】
「ハァ……? 確信がねぇって言ってんだろ!!」
【燈馬】
「チッ……参ったな本当に――なんの目的で、俺にチョッカイ出してくんだよ……」
【朱音】
「知らねえよ……ただ――相当、姫乃はお前にご執心な様子だな?」
【瞑】
「えぇ……ずっと探してるみたいなの――あの子」
【朱音】
「すぅ……ふぅ――とにかく、燈馬……お前――」
【朱音】
「……“姫乃には近付くな”。なんだか知らねえけど、ありゃヤバいかもな」
朱音先生はタバコをふかしながら、俺に忠告してきた。
みんな口を開けば、姫乃はヤバいだの危険だのなんだのと……。
【燈馬】
「ハァ……“関わって来んな”って話なんだけど――」
【朱音】
「……お前――“過去に姫乃になんかした”……?」
【燈馬】
「いや――心当たりが一切、無いんですけど?」
俺はそんな朱音先生の話に、本当にポカーンとしていた。
分からない……。
作中にはまだ、“伏せられた隠し事”があるのかも知れない。
ソレが判明する前に――作者は失踪して飛んだ。
もし……“この一連の騒動”――。
“その全てが”……。
“姫乃恋を中心に動いている”ならば――。
物凄く、“この物語のコンセプト”に近付く。
もしかすると……“この作品のメインは”――。
“姫乃恋による”――“燈馬への復讐”……?
【朱音】
「おい……なんだよ、考え込んだ顔をしやがって」
【燈馬】
「いや……もしかしたら――“俺が原因”なのかもって思いましてね……」
そう――“火のない所に煙は立たない”……。
つまりは、そう言うコトなのだ。
【瞑】
「でも……アナタと姫乃さんが絡んだトコロ、見たこと無いけど――?」
【朱音】
「フッ――瞑、甘めぇよ……お前。“女って生き物はなぁ”……“執念深いんだよ”」
【朱音】
「“昔のコトはずっと忘れねぇ”……そう――いつまでも、いつまでも――ずっ……と――“燻り続ける”」
【瞑】
「ま……まぁ――そうなのかも……」
【朱音】
「だろ……? つまり、“コイツは今じゃなく”……」
【朱音】
「“過去に"――“ナニか”……“姫乃とあったんだ”」
【燈馬】
「……おいおい――“知らねえって”……ナニソレ?」
【燈馬】
「瞑……前に姫乃について、俺が言及していたコトは無かったか?」
【瞑】
「いや……“無いと思うけど”――?」
【燈馬】
(俺も知らないし、過去の燈馬も姫乃に関するコトは、一切言及が無かった? 作者の野郎……大きく風呂敷を広げやがったな?)
俺は頭を抱えていた。正当なルートが分からない。
そもそも、燈馬である俺は最終的に死ぬ運命。
ソレを捻じ曲げるコトが出来るのか――。
ソレすら分からない……。
簡単な話かと思えば、中々――。
面倒な世界観にしてくれたモノだった。
【朱音】
「色んな男共を振りまくる、そんなアイツがお前にご執心なのは……」
【朱音】
「“お前が”……“姫乃になんかヤッた”んだろ――?」
【燈馬】
「なんでや……俺が一体――ナニをしたってんだ……」
【朱音】
「知らねぇよ……自分で思い出せ」
【朱音】
「“確実に言えるのは”……すぅ〜〜ふぅ〜〜っ」
【燈馬】
「なっ――なんスカ……そんな大きくタバコ吸い始めて……」
【朱音】
「“お前が知らねぇトコロで”……“オマエラに関係があったってコト”よ――」
【燈馬】
「ふぅ……ソレが分かれば苦労しないですって……」
【瞑】
「……本当に、“燈馬は昔からトラブルメーカー”なのね?」
【燈馬】
「あぁ……らしいな。終わってら――コイツは……」
“最初から最後までトラブルメーカー”?
――本当に燈馬と言う男は……終わっていた。
【燈馬】
「はぁ……タバコでも吸って――気分落ち着かせよう――」
――スッ……カチッ――ボボッ……ジジッ……。
【燈馬】
「……すぅ〜〜〜〜っ――ふぅ〜〜〜〜っ」
俺は朱音先生より、大きく深くタバコを吸っていた。
【朱音】
「あれ? お前、タバコなんて吸ってたっけ?」
【燈馬】
「すぅ……ふぅ……まぁ――“こんな時”ですからね」
俺はタバコのあまりの旨さに、脳がクラクラしてイき掛けていた。
【朱音】
「おいおい……随分、ウマそうに吸うじゃねえかよ……? まるで、“ずっと吸ってた”みたいだ――」
【燈馬】
「すぅ……ふぅ……いや、“俺は二十歳っすよ”……」
中身が三十路なオッサンなのは、言うまでもない。
しかし――今の俺の姿は二十歳の若者なのだ……。
【朱音】
「しかも……安タバコじゃねえか――若い時から、んな重くてキツイタバコ、吸ってんなよお前……」
【燈馬】
「イイんすよ……俺はコレで。こんなモン……“煙が吸えて吐けりゃあぁ”……“上等”っすから――マジで」
【朱音】
「ったく、若いのに、“ジジィみたいだなお前は"」
前回も……似た様な会話を朱音先生とした――。
なんだか、それも……懐かしく思えて来る。
【瞑】
「ハァ……前の燈馬も変だったけど、今の燈馬もオカシイわ――普通に……」
【燈馬】
「“お前に言われたくねよ”……瞑――」
ほぼ大半のヒロイン達を、ほぼ一人で瞑はブチ壊した。
“お互いイカれている”のだから……。
【瞑】
「ふふっ……そうね? それは言えてる」
【朱音】
「ったく――お前達のイチャイチャシーンなんて、いらねえんだよ……タバコが不味くてしゃあねぇ」
【燈馬】
「いやいやいやいや……ど――ドコが……すか?」
【朱音】
「いや……“全部”? まぁ――イイや、お前は姫乃に狙われてんだろ? なら、“全力で逃げとけ”……」
――ポンッ……!! カチャカチャ――スッ……。
【燈馬】
「あ……えっ? な――なんすか急に……」
朱音先生は、俺の背中を軽く叩いた後、俺の制服のブレザーのポッケに、あの怪しい小瓶を突っ込んできた。
【朱音】
「アタシが作った、媚薬さ……コレやるから、後は仲良くやんな? “お二人さん”」
――スッ……タッタッタッタッタッ――。
……ガチャッ――キィイィ――バタンッ――。
【燈馬】
「あ……ちょ――行っちゃった……」
【瞑】
「ふぅ……“貸して”――それ。“アナタが持ってると”、“誰かに奪われて”、“悪用されそう”だし……」
――カチカチンッ……スッ――。
パシッ――。
【燈馬】
「そうだな、“その方がイイわ”――マジで……」
そう……こんなモノ、姫乃恋なんかに渡ってしまえば――色々と危険なのだ。
俺はすぐに瞑に媚薬を渡した。
【瞑】
「うん……その方がいい。コレはアナタの為でもあるし……“私の為でもある”」
【燈馬】
「いや……あの、その――“俺で実験”しないでね?」
【瞑】
「ふふっ……それは、“どうかな”?」
【燈馬】
「はぁ……まぁ――イイや、とりあえず教室戻ろうぜ? 多分、ソロソロ時間になるだろうし」
【瞑】
「そうね……戻りましょう? 屋上は寒いし……」
こうして俺達は屋上を後にした――。
〈空発学園・教室・放課後〉
――ギュるるるるぅうぅ〜〜ゴゴォ――ぎゅん!!
【燈馬】
「おぎゃおおぉ……おォ゙――おほぉ〜〜っッ!?」
【瞑】
「ちょ――だ、大丈夫? コレから、ゲームセンターに遊びに行くのに……」
【茂】
「たーっハッハッハっッ?! おいおい……バカみてえに、お腹痛そうじゃねえか? ウケる!!」
【葉子】
「ぐっ――それも、コレも……“瞑のせいでしょ”……」
葉子は内股になりながら、瞑を睨みつける。
【瞑】
「は……い? “ナンのコトかワカラナイ”……」
【葉子】
「コイツ……後でブッ飛ばす――あっだだ……クソッッ――ハァ……最悪だ――マジで」
俺も葉子も、瞑の秘密の遊び部屋で――。
色々とあったコトは言うまでもない……。
【燈馬】
「あ”っッ――ふぅ〜〜ひっひっふぅ〜〜っッ!!」
……ぎゅロゴごゴロロぉおぉ〜〜んっッ!!
――ギュッッ!! ギュギュギュうぅ〜〜!!
【松之助】
「おいおい――大丈夫か? 燈馬……?」
……ポタッ――ポタッ……ポタッ……。
俺は体にビッショリするくらい、大量の汗を吹き出しながら、必死に腹痛と戦っていた。
【燈馬】
「ぐぬぅぬぬぅ〜〜っッ!! ふむぬっッ!! 大丈夫な――わっ……はぁ、ハァ、ごぶっ――?!」
……ぎゅロゴぎゅるルルゥうぅ〜〜っッ!!
ギュギュギュッ――ぎゅぅうぅうぅ〜〜ッッ!!
ポタポタッ……ピチャっ――ピチャっ……。
【燈馬】
「――はぁ、ハァ、ハァ……ぜぇ、ゼェ、ふぅ――とりあえず――お前らは……先、行っとけ――こっからはぁ――戦場だぁ……はっひひっ――オホホぉ〜〜」
俺は、本当に腹痛に悩まされていた――。
第なん波か分からない……。
ヴィッグウェーブに飲まれそうになりながら――。
【瞑】
「“一緒にトイレ行ってあげようか”……?」
【燈馬】
「バッ――ばろう……んなガキじゃあるめぇし……ンなもん――一人で行けらぁ……おふぅんっ……!?」
……ぎゅるルルゥうぅ〜〜ぎゅごごごごぉおぉ!!
俺には一刻の猶予も無かった……。
“過去最大級の大きな大きな”――。
“超絶特大な腹痛の波”が俺を襲う……。
目の前がバチバチして、全身から脂汗が吹き出て、体がフラフラしていく。
【瞑】
「ま……まぁ――姫乃さん……学園から出てったから、大丈夫だと思うけど……」
【燈馬】
「おう……お前ら――監視アリガト……な?」
俺達は姫乃恋が学園から出て行くまで、全員で協力しながら、監視していた。
お陰で辺りはかなり薄暗い……。
下駄箱でアイツと遭遇しなかっただけ、本当にラッキーだった。
【瞑】
「……念の為、上の階の“教員専用のトイレ”に行って? もしかすると……“戻ってくるかもだし”――」
【燈馬】
「バッ――怖い事言うなよぉ……ホラーじゃん」
【茂】
「どうする……? 俺達、正門前で待っとこうか?」
【燈馬】
「い……イイ――外はクソ寒いんだ……さっさと行けよ!! おまんたちッッ!! 行けっッ――こっからはぁ……“戦争じゃあっッ”――!!」
俺の絶叫が教室に響き渡る。
自分の耳までビリビリしてくるほど、腹から声が出ていた。
こんな話をしている場合ではないのだ……。
早く――光よりも速く!!
トイレに行かなければ……俺は――!!
【瞑】
「わっ……分かったわ!! それじゃ、先行ってるから、気を付けてゲームセンターに来て!!」
【茂】
「グッド〜〜ラァーーク!! あばよっッ!!」
【松之助】
「……うむ――健闘を祈る!! じゃあ……後でな、燈馬ッッ――!!」
【葉子】
「はぁ……そんじゃあね――また後で燈馬……」
【燈馬】
「へっ――オメェも……死に掛けじゃねぇか……ゼェゼェ――ハァ……葉子――そんじゃ……“戦場へ行ってクラァ”……ッッ!!」
――バビューーーーンッッ!!
ズダダダダダダダダダダッッ――!!
しゅうぅうぅ〜〜んッッ!!
俺は四人を置き去りにして、光の速さで三階へ向かっていた。
一瞬でも……止まれば、即発射の危険性があった。
そして……。
――ガチャッッ!! バンッッ!!
ガチャッ――バンッッ――!!
〈教員専用トイレ・個室〉
――ズゴゴゴゴォ〜〜ジャアァアァ――。
俺は奇跡の大勝利を迎えていた……。
【燈馬】
「――ひゃおおぉ……う――ふぅいぃ……危なかったぜぇ――今回ばかりは終わったと思った……」
“幸運”だったのは、“ソレだけじゃない”――。
三階の教員専用トイレには誰も居なかった。
野郎のゴツいオッサン教諭と出食わしたら、超気まずい話だ。
今にも全弾発射余裕な、余裕がない俺と……。
余裕ぶっこいた教諭でも出くわせば――もう……。
ソレこそ――ヒャおぉおぉう!!
そんな展開になっていたかも知れない……。
――ギュルゴギゅルルゥごルロロぅ〜〜ッッ!!
【燈馬】
「おうっふっ――ぐきっ――来やがったな……“新興勢力共が”――ぐほぉ〜〜おぉ〜〜んっッ!?」
そう……腹痛とは、最大の敵を倒しても――。
暫く、残党やら新興勢力が狙って来るのだ。
コレはまるで戦争……腹痛と言う悪魔達との――。
“聖戦”だ……。
そのまま、聖なる戦いを繰り広げて――。
……ズゴゴゴゴォ〜〜ジャアァアァ……。
【燈馬】
「ふぅ……“大激闘だった”――本当に……」
俺は襲い来る腹痛の悪魔達を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの連続――。
そして――全ての力を出し切り、完全勝利をブチギメていた。
程よい気だるさに包まれながら、俺は本当にホッとしていた。
――ガチャッ……キイィイィ……パタッ――。
……ビグッッ――!!
“そんな至福の時間を邪魔するナニか”――。
そんなナニモノかに俺は、背筋を凍らした……。
【燈馬】
(オイオイ……まさか――“姫乃恋”じゃねえよな? まさか、そんな都合の良い、展開あるわけ……?)
俺は内心、本当にビビっていた……。
何十分、戦っていたのかも分からない――。
数分ではない時間を、この個室で過ごした。
まさか――“瞑の言う通り”……姫乃恋が戻って来る。
一瞬――そんな厭な予感が脳裏に過ったのだから。
――コンコン――コンコン……。
ビッグぅぅぅッッ――!!
【燈馬】
「あ〜〜スイマセン、お腹痛くて……遅くまで格闘しておりまして……ハイ――」
流石に、恋じゃないと思い、俺は見回りに来た教諭らしきモノに声を掛けた。
【???】
「…………」
――コンコン……コンコン……。
【燈馬】
「スイマセン……勝手に、教員専用のトイレ使っちゃって――。どうしても、お腹痛くて……近くにあったトイレ、使っちゃちゃったんですぅ……」
――カチャカチャッ……ススッ――ジィッ――カチャッ……。
【燈馬】
「今出ますんで……本当に――スイマセン……」
俺はズボンを急いで穿いて、すぐに個室の鍵を外して、扉を開けるコトに――。
……カチャッ――ガチャッ――キィイィ……。
【燈馬】
「す……スイマセン――漏れそうで……し――て……?」
【恋】
「あぁ……ヤッパリ――“学園に残っていた”……」
【燈馬】
「――お……お前――ココ……“男子トイレ”だぞ……?」
【恋】
「うん……知ってる――でも、ココは誰も居ないよ?」
――ズズッ……ギュッッ――!!
【恋】
「ふぅ……やっと――“捕まえた”……燈馬くん――“逃げてたでしょ”……? “私から”……ふふっ――?」
【燈馬】
「は……離れろよ――お前……分かってんの? ココ……教員専用のトイレだってコト……」
【恋】
「……うん――分かってる。それに――“逃げようとしたら”……“分かってるよね”?」
【燈馬】
「“大声で”……“叫ぶってか”――?」
【恋】
「うん……そうなれば学園には居られないし、それに……“彼女さんとも”――“一緒に居られないね”?」
【燈馬】
「――ふぅ……“要件は”?」
【恋】
「う〜〜ん……そうだね――」
【恋】
「“ココで”……“お話がしたいな”――イイでしょ?」
――ギュッ……むにゅんむにゅんっ――スリスリぃ……。
【燈馬】
「どうせ……“逃さねえくせに”――」
【恋】
「うん……“逃さない”――」
こうして……俺と恋は――。
〈繁華街・ゲーセン・夜〉
――“また俺は失敗してしまった”。
姫乃恋を避け続けるツモリが……光の速さで――。
捕まって、“ヤラれた”んだから……。
【瞑】
「……燈馬――大丈夫……って――“アナタ”……?」
【燈馬】
「ワリぃ――寄ってすぐに悪いけど……家に帰るわ――マジでゴメン……」
【葉子】
「チッ……待っとくべきだった――アンタの運の悪さと、トラブル体質分かってたのに……クソッ!!」
【茂】
「おいおい――制服がグチャグチャだぞ燈馬……」
【松之助】
「それに……随分――やつれたな……燈馬」
【燈馬】
「ふぅ……すまねぇ――普通に家に帰るわ……後で説明するし、後で埋め合わせするから――ゴメン……」
【瞑】
「……私も帰るわ? 燈馬――このまま、一人で帰らせないから……」
【葉子】
「あぁ……その方がイイかもな――マジで、コイツ……ボロッボロだ――」
【茂】
「う〜〜ん……そんじゃ、俺等はファミレスでも行かね? 腹減ったしよ……さっきから、グーグー言ってうるせぇんだ……」
【松之助】
「そうだな――葉子、俺達は飯に行くか……?」
【葉子】
「あ――あぁ……うん。燈馬――とりあえず、明日、事情を聞かせろよ……“姫乃恋と”、“なんかあった”んだろ……?」
【燈馬】
「……あぁ――ふぅ……あった。そんじゃ、明日話すよ……今日はもう――色々と……疲れちゃったよ」
【瞑】
「ふぅ……ソレじゃ、みんな――また明日ね?」
【葉子】
「はいよ……」
【松之助】
「気を付けて帰れよ? 暗いし寒いしな――」
【茂】
「んじゃ、な……? ユックリ休んでよ、明日……ちゃんと学園来いよ?」
【燈馬】
「あぁ……スマンみんな――そんじゃ、さいなら」
……こうして俺達は、光の速さでゲーセンから解散する事に。
合流して、本当に一瞬で解散するなんて――。
現実世界にはあり得ないコトだった。
帰り際……葉子が凄く悔しそうな顔をして、俯きながらブツブツ言っていた姿が、俺の脳裏に焼き付いて離れない……。
本当に正門で、待ってもらうべきだった――。
そうすれば、“最悪な事態は避けられた”のにと……。
【瞑】
「とりあえず……事情は家に着いてから聞くから」
【燈馬】
「あぁ……その前に――風呂に入るぜ……ハハッ――疲れたし、スッキリしたいし……」
【瞑】
「そうね……“その方がイイね”――」
【燈馬】
「あぁ……そうするよ――」
【瞑】
「どうする……? ウチに来る? それとも、普通に自分の家に帰る?」
【燈馬】
「……普通に、“自分の家に帰る”さ――」
【瞑】
「そう……なら、“私も一緒に居るわ”? “アナタの部屋に”……」
【燈馬】
「ふぅ……分かった――好きにしてくれ」
【瞑】
「うん……」
――そして、俺達は燈馬の実家へと向かった。
寒空の下……俺達は一言も会話をせずに――。
黙々と……歩いて。
妙な空気を流し続けて――。
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