二度目の喧嘩が始まる。

〈郊外・廃工場・夜九時〉


――俺は葵を引き連れて、廃工場まで足を運んだ。


俺以外の黒の五人衆は全員、廃工場の入口前で集合していた。


そして……先に口を開いた者は瞑だった。


【瞑】

「燈馬……アナタ――なんで、“穂村さんを連れて来たの”……?」


【燈馬】

「いや……あの、その、えと……あ〜〜うん?」


【瞑】

「いやいやいやいや……まさか――“穂村さんと”?」


【燈馬】

「……う――」


――ばッッ……!!


【葵】

「イイよ……燈馬。ごめんなさい、ちょっと諸事情があって――“アナタの燈馬を借りたの”」


葵は俺の言葉を止め、両手を伸ばし俺を庇う様に前へ出る。


理由はどうであれ、俺は葵とも関係を持ってしまった。


本当は……自分が出るべきなのにと、少しだけ悔しかった。


【葉子】

「ふぅ……アンタ――今日、“瞑から聞いたよ”?」


【葉子】

「“月宮雅”とちゃんと、“決別してきた”んだろ……」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。ちゃんと――“別れてきた”」


そもそも彼女がいるのに、別の女と別れるとはどう言うコトなのか――。


俺にも疑問だった……。


【葉子】

「瞑……“こんな浮気野郎とはもう別れなよ”……」


――グサグサッッ!! 


【燈馬】

「ぐぅッッ――そ……それは――」


【瞑】

「葉子……イイよ――なんだか、“事情がある”んでしょ? ねぇ――穂村さん……」


【葵】

「……それは、後でジックリ話すし、アナタに直接謝罪するわ」


【茂】

「ふぅ……なんだか知らねえけど、とりあえずチャッチャと売られた喧嘩買って、終わらせようぜ?」


【松之助】

「うむ……恐らく奴らは中で待ってるぞ!!」


【葉子】

「あぁ゙……もうッッ――外は寒いし、燈馬はバカだし……マジでマジでマジで――ムカつく……」


【燈馬】

「みんな……マジでゴメン――いや、本当に……」


俺はマジで泣きそうになっていた……。


悪いのは自分なのに、こうも上手くいかないと、それはもう……心が荒んで仕方がない――。


【瞑】

「行きましょう……早めに喧嘩終わらせて、シッカリと説明して貰うわね」


【葵】

「えぇ……それじゃ後でシッカリと謝罪するわ」


――ポンッ……。


松之助は唐突に、俺の背中を優しく叩いてきた。


【松之助】

「まぁ……頑張れ――燈馬。なに……“いつものコトだろお前には”? ハッハッハッハッハッ――!!」


――カッチーーンッッ!!


【燈馬】

「おぅ……そう――だなぁっッ?! あぁ……いつものコトか――ありがとうよ、松之助……」


【松之助】

「“その怒り”……“俺にぶつけないで”、奴等にぶつけて来いよ――?」


【燈馬】

「あったりめぇだ……あったま来たな――熱くなってきたぜオイ――」


【葉子】

「……なに、アンタが逆ギレしてんっ――のよ!!」


……シュンッ――ブワッッ――!!


バシッッ――!! グググッ……!!


【葉子】

「んなっ――?! “防がれた”……?!」


【燈馬】

「“甘ぇぞ”――葉子……“お前の蹴りは既に見切ってる”……」


――グングンっッ!! グイグイッッ!!


【葉子】

「チッ……放せよ――燈馬ぁ……クソッッ――」


――ブンッッ!! バッッ――!!


【茂】

「ひゅ〜〜やるぅ〜〜ッ!!」


【松之助】

「“その動き”――“燈馬”ッッ?!」


【葵】

「ふぅ〜〜ん? やっぱ――アンタ……強いんだ?」


【燈馬】

「いや、普通に蹴り、手で受け止めただけだよ?」


【瞑】

「いやいやいや……普通、葉子の蹴りそんな簡単に止められないって……」


【燈馬】

「あ……そうなの?」


俺は前回、葉子に公園でシバかれてから、成長していた。


いや……本来の燈馬のスペック――?


それは分からないが……ナゼか、葉子の蹴りを受け止めれていた。


やはり……燈馬は只者ではない――。


だからこそ、俺には分からなかった。


ナゼ、“燈馬は最後”――“死んだのか”……を――。


【茂】

「おいおい……お前ら、外で遊んでねぇで、中で楽しもうぜ? きっと――あっちぃコトが待ってる」


【松之助】

「そうだ……お前は売られた喧嘩を、買わなきゃならない!!」


【松之助】

「“お前が言っていたコト”だ。“売られた喧嘩は全力で買う”と……」


【燈馬】

「……そうだな。“まずはソレを片付ける”――」


【瞑】

「それじゃ、本当に行きましょう――喧嘩に……」


【燈馬】

「あぁ……そうしよう」


――こうして、ループ後……二回目の喧嘩が始まった。


今度は……葵を引き連れて。


〈廃工場・入口・戦闘終了後〉


――戦闘は……本当に“光の速さ”で終わった。


俺はドコか――“違う展開になるのではないか”……。


そんな、淡い期待をしていた。


しかし、現実は前回とほぼ変わらない……。


圧倒的な暴力で制圧し、奴等を壊滅させていた。


前回と違うコトは……全員、フルスピードでバッタバタぶっ倒し――。


“葵も”……“超強かったのだ”……。


いや――全員……前回よりも――鬼の様に強かった。


それだけが、前回の戦闘とは違う点だった。


コレで、どうしたら“燈馬が死ぬ運命を辿る”のか……。


本当に俺には分からなかった――。


圧倒的な破壊による、全滅。


容赦なく――本当にボッコボコに、デッコボコにする恐怖の戦闘……。


見ているコッチすら寒気がするほど、酷いモノだった。


こんなチートみたいな五人衆が、どうやって戦闘で負けるのか……。


全く予想もつかなかった。


【茂】

「トホホ……“アイツらクソザコ”じゃん――なんもしてねえし、マジで……」


【松之助】

「あぁ……“あの神崎とか言うヤツ”……超弱かった」


【燈馬】

「ハハッ――確かに……茂に秒殺にされてたな」


本当に前回と、なんら変わらない展開を辿っていた。


【葉子】

「ハァ……ダルっ――寒いし、茂……松之助? さっさと帰ろうぜ?」


【茂】

「あいよ……っと、燈馬――お前は“コレから修羅場でも待ってる”かもな? クヒヒッ――まぁ、頑張んな?」


【松之助】

「……さ――燈馬達も、帰りな? 俺達は葉子と帰るから。それと――燈馬、“死ぬなよ”……“絶対に”――」


【燈馬】

「あぁ……“絶対に死なねえよ”……うん、多分……」


【葉子】

「あぁ……あと、燈馬――“明日”、“アンタは私がぶっ殺す”から待ってな……?」


【燈馬】

「はひっ……ワカリマシタ……ハイ――」


――ガクッ……ズーーン……。


俺はまた……葉子に鉄拳制裁を喰らうのだ。


そう思うと――本当に肩がガックリ落ちた。


前回……葉子から受けた打撃は――。


本当に憎しみがこもった、クッソ強く……体を貫く様な酷いものだった。


きっと――燈馬じゃなかったら死んでいる。


いや……本当に一瞬殺され掛けたのだから、笑えない話だった。


【茂】

「そんじゃ、俺達行くわ!! じゃあ、明日……学園で会おうぜ?」


【松之助】

「……燈馬――“生きて学園に来いよ”!!」


【燈馬】

「あぁ……じゃあな――お前達……お疲れさん」


こうして、三人はスタスタと帰路についた。


そして――残された俺達三人は……超気まずく……。


トボトボと帰路についた。


――そんな帰路の途中……。


【瞑】

「とりあえず……“私の部屋に来て”――“二人共”」


【葵】

「うん……その前に一回、家に寄ってからでイイかな? お母さんに伝えたいのよ」


【瞑】

「えぇ……イイわよ? 燈馬もそれでイイでしょ?」


【燈馬】

「お……あぁ〜〜うん――うん? うん……イイょ」


【瞑】

「……なに? そのすんごく嫌です的な応答は?」


【葵】

「ふぅ……隠しても仕方がないよね? コイツはウチの妹に“チョッカイ掛けられてる”のよ……」


【瞑】

「……は――はい?! ちょ――ど、どう言う事……な――の?」


【葵】

「いや……どうもこうも――多分……コイツは、“ウチの妹に襲われた”感じ――なんじゃない……?」


【瞑】

「いやいやいや……えっ?」


【燈馬】

「……えっ?」


【瞑】

「イヤイヤイヤイヤ……えっ? じゃないわよ、燈馬……つまり――穂村さんの……“妹さんとも”――?」


……ワシャワシャワシャワシャッッ――!!


俺は思いっ切り、自分の髪の毛を掻いていた。


【燈馬】

「……ハイ――ソウデス……はぃ……」


【瞑】

「ふぅ……記憶が全部飛んだとか、言い始めたと思ったら――」


【瞑】

「まさか……穂村さん達と関係持つとは……」


【葵】

「いや……“ウチらのせいだよ全部”――はぁ……本当にごめんなさい――」


【瞑】

「ううん……“燈馬が悪いよ”。フラフラと流されて、そんなコトするんだから……」


【燈馬】

「はい……“その通りでございます”――」


本当に俺は、返す言葉が無かった……。


【葵】

「それで……アンタはどうする?ウチに一応、顔出しとく……?」


【燈馬】

「いや……やめとく。お前の妹に絡まれそうで怖いもん――いや、ガチで!!」


【瞑】

「ふぅ……なら、私だけ着いていくわ? 妹さんの顔とか見てみたいし……」


【燈馬】

「そ……そう? なら……俺、コンビニでヒマ潰してるから、終わったら拾いに来てくれる?」


【瞑】

「えぇ……終わったら拾いに行くわ」


【葵】

「よし、じゃあ……後でね? 燈馬」


【燈馬】

「あぁ……後でな――?」


――こうして、俺達は一旦解散した。


俺はそのまま、寒空の下……。


タバコをふかしながら、トコトコと歩いていた。


そのまま、一人寂しくコンビニを目指して……。


〈コンビニ・外の灰皿置き場・数十分後〉


――ポロッ……。


俺は暫く、コンビニ前の灰皿置き場で、プカプカタバコをふかしていた。


【燈馬】

「んなっ――おいおい……なんで――“オマエが”?」


俺はおとなしく、一人でタバコをふかしながら、二人を待っていると……。


“予想外の人物”が追加されていて、思わず……。


タバコの灰を落として、酷く驚いていた――。


【巴】

「ふぃ〜〜“来ちゃった”――こんばんは!!」


【巴】

「クヒヒッ……“奇遇だねぇ”……“ココで逢うなんて”」


【葵】

「わりぃ……コイツ――“勝手に着いて来やがった”」


【燈馬】

「ちょっと……ナニヤッテンノ――? ウソデショ?」


【瞑】

「うふふっ……“イイじゃない”――“ハーレムみたいで”」


【巴】

「へぇ……? “燈馬はタバコ吸うんだね”?」


【燈馬】

「うん……“こんなコトが起きるからね”……?」


――本当に最悪な展開に向かっていた。


だから……人はタバコに依存をするのだ――。


嫌なコトを全部煙に乗せて飛ばして……。


【瞑】

「ふぅ……“本当に燈馬は記憶が無いみたい”だ……」


【燈馬】

「そうだよ……全く無いから困ってんのよ」


【瞑】

「……とりあえず、“ウチに行きましょう”?」


【燈馬】

「ちょっと待って、すぅ〜〜〜〜ふぅ…………すぅ〜〜〜〜ふぅ…………っしっ――!!」


……ぐりぐりぐりぃ〜〜!! すぽっッ!!


【巴】

「アハハッ――“オジサンみたいな動きだ”!!」


【燈馬】

「っせぇよ――小娘が……コッチはなぁ――色々と抱えてんだよボケが……ったく――頼むぜ本当……」


そう――俺は色々と抱えているのだ……。


まだ……誰にも、“燈馬にすり替わったコトを”、“伝えていない”のだから……。


【瞑】

「うわぁ……凄い剣幕よ――燈馬……アナタ――」


【燈馬】

「悪かったよ……さぁ――行こうぜ?」


【巴】

「ふふ〜んっ――外はとっても寒いけど、なんだか楽しいよ!!」


【葵】

「アンタねぇ……遊びに行くんじゃないんだから、はしゃぐなよ? ったく……イライラする――」


【瞑】

「まぁまぁ……寒いし、行きましょう?」


【燈馬】

「おう……行こうか――」


こうして……未完のWEB小説の中の異世界は――。


超展開を迎えていた……。


作者不在のまま――ナゼか……俺が物語を動かしていた。


きっと――この後、ろくでもない展開になるコトは言うまでも無い……。


この三人が集まれば――トンデモナイコトが起きる。


それは……“確定している”のだ。


姫乃恋と遭遇する前に――。


超絶ハードな展開が起きそうで、俺はビックビクだった……。


だけど……進むしかないのだ。


ハッピーエンドを夢見ながら――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る