穂村家は超騒がしかった。

〈穂村葵の自宅・玄関前・朝〉


――あれから、瞑と楽しくファミレスで食事をした。


記憶がある時の燈馬は結構、そっけなかっただの、最近は本当に心あらずな様子だっただの……。


聞けば聴くほど、愚痴の様なモノが飛び出る飛び出る――。


俺は分からなくなった。成り行きで悪役に慣れ果てた燈馬だが、結局……。


“悪役は悪役のまんま”だと。


結果――本当の彼女である瞑が傷付くコトになる。


そして……そんな燈馬と同様に――。


すり替わった俺自身も――。


“陰では似た様なコト”をしているのだ……。


本当に燈馬も、すり替わった俺自身も……。


“最悪で”、“最低な悪役”だった。


事情はなんであれ――。


俺も燈馬も結果、誰かを傷付けているのだから。


そんなこんなで、俺は朝から穂村葵の家まで来ていた。


瞑には適当に、プラプラして来ると言い残し……。


俺はこうして、玄関前で悩んでいた。


本当はお昼頃から、会いに行くと伝えていた。


しかし――予想外にコトが進んでしまった。


そんな風に俺は暫く悩んでいたが、意を決し、インターホンに指を伸ばす。


……そぉ〜〜。


【燈馬】

「ワンチャン――寝てるかもな……一応、日曜かなんかの休日だろうし……」


俺はボタンに手を掛けて、一瞬戸惑った。


休日の朝っぱらから、呼び出すのも迷惑だろうし、そもそも準備なんて、してないだろうなと……。


しかし……来てしまったものは仕方がない。


俺はそのまま――。


……ポチッ――。


ピンぽ〜〜ん……。


……仕方無しにインターホンを押した。


【燈馬】

「ふぅ……許せ、早く来ちまったんだ」


暫く俺はインターホン前で待機していると……。


スピーカー越しではなく、直接ドアから――。


……カチャッ――キュイッ……。


【母親?】

「ハーイ? あらあらぁ〜〜? アナタは葵か巴のお友達?」


【燈馬】

「――あ……まぁ、そんな感じです」


俺を出迎えたのは、母親らしき人物だった。


巴によく似て、銀髪を肩くらいまで伸ばした、とっても美人で、とっても――胸がバルンバルンな……。


セクシーな人だった――。


【母親?】

「それで……? こんな朝早くから、用事でもあるのかな?」


【燈馬】

「あ〜ちょっと、早く来ちゃいまして、えぇ……」


【母親?】

「あらそうなの? ウチに上がっとく……?」


【燈馬】

「あ〜、う〜ん……いや、いいか――」


【母親?】

「ん? どうかしたの……?」


【燈馬】

「いや、なんでもないです。上がらせて頂きます」


【母親?】

「それじゃ、上がって? あと、ゴメンナサイね、こんな格好で――」


【燈馬】

「いえ……それじゃ、失礼します」


――姉妹の母親らしき人物は、白いセーターの様なモノに、下はジーパンみたいなものを穿き、その上から、チェック柄なエプロンを掛けていた。


なんだか俺は、朝から申し訳ない気持ちで一杯だった。


〈リビング〉


――俺はリビングにあるソファーに案内され、そこで座っていた。


【母親?】

「……それで、“どっちの娘”に会いに来たの?」


俺はその問い掛けに察した。


眼の前の女性は、やはり姉妹の母親なのだと。


【燈馬】

「……そうですね、“葵さん”――です」


俺は初対面の母親に、失礼が無い様、さん付けで葵を呼んだ。


一応、中身……三十路なオッサンなのだ。


そこら辺の礼節はわきまえていた。


【姉妹の母親】

「そう……”あの子”が、“守くん以外”の男の子をねぇ……?」


――ずいぃ〜〜!!


【燈馬】

「いや……おか――ちょ、顔近いですって!!」


【姉妹の母親】

「う〜ん……本当に珍しいわ――“こんなチンピラみたいな男の子と”……」


――ガクッ……。


【燈馬】

「いや……“お母さん”――それは、言い過ぎですよ」


俺はチンピラ呼ばわりされて、肩をガックシ落とし、さっき言い掛けたコトを呟いた。


とりあえずオッサンは……。


お母さんなり、かあさんとか言って、日常会話を挟む生き物なのだ。


なにか、用事で誰かの家に行って、超もてなされたりした時、お母さん……もう良いですって――。


もう、十分ですんで――なんて、会話は良くあるのだ。


なんだか、昔を思い出して懐かしい気がした。


【姉妹の母親】

「ふぅ……そうねぇ――“黒染め”あげよっか?」


【燈馬】

「へっ……?」


――予想外の言葉が、俺の耳に飛び込んで来ていた。


この後の展開は予想していた。あら、ごめんなさいね? おほほほ……とか言って、茶を濁すのだろうと。


しかし……。


【姉妹の母親】

「うん……“旦那の黒染め”あるからさ、それあげるから、使いなよ?」


【燈馬】

「は……はぁ……どうもです」


俺は遂に、プリン頭から開放される時が来ていた。


確かに、燈馬は見事なプリン頭だった。


その昔……俺も、そんな時代があったなと――。


しみじみ感じ、このままでイイや、なんて思っていた節が実はあった。


しかし――それもココで終わるとなれば、なんだか妙に淋しく思える。


だが、引き締まる様な気がして悪くはない。


悪役サイドである、黒の五人衆。


……坊主頭の松之助を除くだが。


でもこれで、やっと“ソレらしくなる”のだ――。


悪い気はしなかった。


全員――黒髪で、全員黒いコートに身を包んだ……。


“黒の五人衆はコレで完成”する。


バカバカしい話だが、世の中こんなモノでいいのだ。


バカバカしいモノが、実は一番必須なアイテムなのだ……。


大人になれば、そんなバカバカしいコトは考えなくなる。


だから――。


“大人は輝きを失うモノ”が沢山出てくる……。


社会の歯車の一部になり、そして人生を終える。


輝いていたあの頃は――“二度とやって来ない”。


だから――大人になればなるほど、バカバカしい感情は、“一番求めるモノ”になる。


ソレを感じられると言う事は、俺はまだまだ若いのだろう……。


それを感じられて、少しだけホッとした。


……ブンブン!! ブンブン!!


【姉妹の母親】

「……お〜い? 君君、どうしたの……? “そんな遠い目をして”……?」


俺が別次元に行っていると、二人の母親は俺を現世に戻してきた。


【燈馬】

「いや……“気遣いが嬉しくて”、つい……」


【姉妹の母親】

「あら……? てっきり、黒染めが嫌で、途方に暮れていたと思ったのに」


【燈馬】

「いや、イイっすよ。結構、髪傷んでるんで丁度良かったです」


そう……燈馬の髪は結構傷んでいた。きっと、家で適当に髪の色を抜いていたのだろう。


黒染めも髪を傷ませるが、どうせ痛むのだからどっちでも同じ事。


まだ、黒染めの方が優しい程度のモノだ。


【姉妹の母親】

「それじゃあ、黒染め持ってくるから少し待ってて……?」


【燈馬】

「ハイ、ありがとうございます」


こうして、俺は髪を黒く染める。


少しは、マトモになれたらな……。


――なんて、コトも考えながら。


……ダッダッダッダッダッ!!


と――思った矢先……。


【巴】

「お母さ〜〜ん!! お腹すいたよ!! ハンバーグ作ってよ!!」


【燈馬】

「ウゲッ――おいおい……マジかよ――」


【姉妹の母親】

「えっ……? ナニその反応? “巴とナニか”……あったの?」


【巴】

「あ……燈馬だ?! なんで、“朝からウチに居るの”……?」


【燈馬】

「……“お前じゃねえ”よ、“葵に用があんの俺は”」


【姉妹の母親】

「あらあらぁ〜〜? なになに……? “アナタ達も知り合い”だったの?」


【燈馬】

「ちょ……お母さん――いいですって、そう言うの」


【巴】

「う……うん――まぁ……その――? なんての……?」


【燈馬】

「いやいやいやいや……いらない、いらない、そう言うのマジでやめて――トホホ……ひぃ……」


朝っぱらから、俺達は既にバタバタしていた……。


初っ端、姉妹の母親に絡まれて……。


今度はシルクで出来た白っぽいパジャマ姿で、階段を駆け下り、巴が現れて――。


……タッタッタッタッタッ――。


【葵】

「んもぅ――チッ……朝からなに? マジでウッサイ……っ――て、と……燈馬ぁ――?!」


【燈馬】

「よう……悪りぃな――早く来過ぎちゃったぜ……」


次は、紫のネグリジェ……? 姿で、下着も紫でバッチリ決めた――葵が降りてきた。


大量のピアスをギランギランに輝かせて……。


【姉妹の母親】

「あらら……“コレが本当の三つ巴”――なんちゃって?」


【燈馬】

「お母さん……それ今、いらないいらない……!!」


俺はナニ言ってんのこの人と、思いっ切りツッコんだ。


朝から、本当にバタバタしていた……。


美人な母親と――同時に騒ぐ美人姉妹達と。


【葵】

「はぁ……マジで最悪――“こんな姿”見られるなんて……」


【姉妹の母親】

「あら……葵、どこで買ったの? 私も買おうかしら……うふふっ――」


【燈馬】

「…………」


【葵】

「はぁ……?! なんでお母さんが――?」


【姉妹の母親】

「えぇ……? イイじゃない――お母さんも、まだピチピチなのよ? “こう見えて”……ね?」


【燈馬】

「………………いや、なんで俺に振るんすか?!」


俺は沈黙を貫こうとした。しかし――ズイッ……と、姉妹の母親が俺に顔を近付けて、異様な圧を掛けて来て、それに俺はまんまと屈した。


【巴】

「うん、ママは若くて美人だよ本当に!!」


【姉妹の母親】

「そうよね、巴……オホホホ――」


【燈馬・葵】

「あ〜〜っ……」


俺は葵と同じく頭を抱えていた。


本当に、三姉妹の様に見えるくらい、姉妹の母親は若く見えて、綺麗だった。


透き通る様な白い肌に、巴と同じく、少しムチムチして……胸がデカい。


いや、ナニコレ――ギャルゲかな?


そんな、年齢に合わない容姿をしていたのだ。


【燈馬】

「ふぅ……で、葵――“お前の寝間着”はなんだよ?」


そう……ネグリジェなんて普段見るものではない。


それに、清楚系ギャル? みたいな……葵のイメージとは掛け離れた姿に、俺は強く衝撃を受けていた。


【葵】

「……なんか――パソコンいじってたら、広告に服屋のサイトが出てきてさ……ポチって、押して見ていったら――コレが出て来て、買っちゃった……」


【燈馬】

「あ……そうなのね――へ……へぇ〜〜?」


【葵】

「……分かってるよ――“私に似合わないって”……でも、凄く安かったんだ――だから、少し興味が湧いて買っちゃったんだ」


――その言葉は間違いだった。


俺の目には、とてもとても……葵の姿は似合って見えた。


セミロングな青髪に、バルンバルンな胸を魅せつけて……少しスラッとして、白い肌が良く映えていた。


そこにアンバランスなギラギラな大量のピアス。


そこも、なんだか映えて見えて良かった。


【姉妹の母親】

「オヤオヤぁ〜〜? なに……? アナタ達、“そう言う関係なの”……?」


【燈馬】

「さっきも似た様なコト……聞きましたって――」


さっきは、知り合い……“今度はそう言う関係”――。


実際は逆だ……巴と俺は一旦、そんな関係になった。


そして――知り合いの方は葵の方だった。


【巴】

「ううん……? “ソウイウ関係なのは”……クヒヒッ――“私達の方なの”……」


【燈馬】

「バッッ――ナニイッテンのお前?! 止めてくれよ、朝から本当に……」


俺は光よりも速く否定していた。


巴はスゥ……っと、目を細め、自分の口許に人差し指を起き、スリスリしていた。


なんだか……襲われそうで怖かった。


【姉妹の母親】

「うぇえぇ〜〜っッ?! なになに……ちょっとヤダ――“昼ドラみたいな展開”来ちゃった……?」


【燈馬】

「いやいや……そんなドロッドロな関係嫌ですって!! いや……リアルガチで……ハイ――」


【葵】

「…………」


【燈馬】

「…………いや、“お前もなんか言えよ”――“葵”……?」


【姉妹の母親】

「あらららぁ……? さっきは、“葵さん”だったのに、呼び捨てに……?!」


【燈馬】

「もぅ……イヤ――トホホ……ふぇ……えっ――」


――ガバッッ!! スリスリスリィ〜〜!!


【巴】

「お〜〜よしよし……大丈夫だよ……? 泣かないでね? 燈馬……ほら――んっ……ふっ――抱き締めてあげるから……ねっ――?」


【葵】

「んなっッ――?! 巴……テメェ!! お母さんの前でなにヤッてんの!! 離れろよ!!」


――ぎゅいっッ!! グングンっッ!!


【巴】

「――キャッ……?! いたい、痛い――やめてよお姉ちゃん!! 燈馬が可哀想なんだよ?」


【燈馬】

「あの……“お母さん”――“コイツら止めて”……うん」


俺は朝から泣きそうだった……バタバタを軽く通り越して――。


グッチャグチャになっていて……。


巴はソファーに座る俺に、抱き着いて離れない。


葵は、グイグイと巴を掴んで離そうとする……。


そして――姉妹の母親は驚いた様子を、手で口許を抑え隠す。


【姉妹の母親】

「おほほ……困ったわねぇ――とりあえず、貴女達……止めなさい。“プリンくん”嫌がってるわよ?」


【燈馬】

「誰がプリンくんだ――いや、プリンくんが嫌がってるから、止めてくれ……」


一瞬……俺は、誰がプリンくんだよと、ツッコミを入れようとしたが止めた。


とりあえず、この混乱を止めなければ行けない。


朝からドタバタは疲れるのだ……。


【葵・巴】

「は〜〜い……」


そして、やっとそれは終わった。


【燈馬】

「ふぅ……とりあえず、黒染めお願いしますね?」


【姉妹の母親】

「えぇ……分かったわ。あと――貴女達、起きたらさっさと、着替えて来なさい?」


【葵・巴】

「はぁ……い」


この姉妹は、ココらへんだけは息ぴったりだった。


トタトタと、タタタッ……と、駆け足で二人はそのまま二階へと向かって行った――。


そして……俺と姉妹の母親は二人っきりになる。


【姉妹の母親】

「ふぅ……行ったわね――」


【燈馬】

「えぇ……助かりました――」


【姉妹の母親】

「……聞きたいコトは沢山あるけど、まぁ――イイわ? そう言えば、アナタ……名前は?」


【燈馬】

「森燈馬です、はい」


【姉妹の母親】

「ふむ……それで、“燈馬くんは朝ご飯食べたの”?」


【燈馬】

「えぇ……まぁ――食べましたよ」


【姉妹の母親】

「ふふ〜〜ん……もしかして――“女の子と”……?」


【燈馬】

「……い――はぁい……」


【姉妹の母親】

「なぁに……その、いや――違いますとか言いかけて、素直に認めるかの様な口振り……?」


【燈馬】

「まぁ……その――“事実なんで”」


俺は気まずくて堪らなかった。


まさか、葵に会いに来たとか言ってるのに、彼女とご飯して来てから来ました。


なんて……口が裂けても言えないのだから。


【姉妹の母親】

「だと思ったわ? なんか、“女性モノな柑橘系のイイ匂い”がアナタからしてくるもの……」


【燈馬】

「は……はぁ……そうっすか――」


きっと……瞑のシャンプーかなんかの匂いだろう。


瞑のサラサラな長い黒髪からは、爽やかで甘いイイ香りがするのだ。


こう……男を酷く擽る――魅惑な匂いが。


【姉妹の母親】

「……まぁ、イイわ!! 黒染め持ってきてあげるし、これからご飯作るから、食べていきなさい」


【燈馬】

「あ……アリガトゴザイマス」


【姉妹の母親】

「なにそのカタコト……? お腹いっぱいでキツイって……?」


【姉妹の母親】

「あ……昨日、“冷蔵庫に食べかけのハンバーグあったの”……もしかして、“アナタが作った”?」


――ギクッッ……!!


【燈馬】

「ウギッ――い……いや、まぁ……ハイ――」


俺は一瞬で悟られていた。


【姉妹の母親】

「ふぅ……挽き肉買うの忘れててね、バラ肉で作ったにしては、良くできてたわ?」


【燈馬】

「はぁ……そすか」


【姉妹の母親】

「よ〜し、燃えてきたわ!! 私も、完璧なハンバーグ作って、食べさせてあげるわ!!」


【燈馬】

「…………」


詰まるところ……この母親は、食べかけの俺が作った適当なハンバーグを食べ、そして……。


ナゼか……心を燃やしていた。


俺の料理は、いわゆる漢の料理だ。


分量も味付けも適当。


故に、本当に良いモノが出来ている保証は、ドコにもない。


そう言う雑なモノなのだ。


しかし……この母親は両手で頑張るポーズをして、上向きながら、緑色の瞳をメラメラと燃やしていた。


【姉妹の母親】

「それじゃ、行ってくるわね? 燈馬くん!!」


【燈馬】

「はひっ……」


こうして、一旦……一連のバタバタは終わり――。


俺は姉妹の母親から受け取った、黒染めを早速利用していた。


〈洗面所・鏡前〉


【燈馬】

「ふむ……“イイんじゃないのぉ”〜〜?」


洗面所にある、備え付けの鏡の前で、俺は自分の顔を見ていた。


徐々にプリン頭が黒に染まり、ビシッと決まって行く様を黙って眺める。


――カチャッ……パタンッ――。


鏡の前で自分の顔を眺めていると、巴が洗面所に突撃してきた。


【巴】

「ふふ〜〜ん、ナニやってんの? って……ウチで髪を染めてるんかい?!」


【燈馬】

「お……おう? それより……お前、“寒くねえのそんな格好して”……?」


【巴】

「えぇ〜〜? 寒いけど、家の中だから大丈夫だよ」


【燈馬】

「あっそ……なんか、薄着だなって思ってよ」


巴は白いキャミソールで、青いショートパンツ姿だった。


靴下はよく分からない、白と黒とピンク色の線が入った、長いモノを履いて……。


ピッチピチでキャピキャピしていて、若いってイイな……と、俺は染み染み感じていた。


【巴】

「バカだなぁ……燈馬は。巴は燈馬にカワイイ姿を魅せたかったの!!」


【燈馬】

「“バカはオメェだよ”……お前、“十分可愛いから問題ねえよ”」


巴は素が良すぎる為、なにを着ようとも可愛く見えるだろう。


本当に可愛いは正義なのだ……。


そして若さは俺にとって、本当に羨ましかった。


物凄く……キラキラ輝いて見えて、眩しく見えて。


【巴】

「う……うん――アリガト……クヒヒッ――嬉しい」


【燈馬】

「あと、“クヒヒッ”……は怖いからやめて……」


【巴】

「えぇ〜〜?! なんで? そんなに変かな……」


【燈馬】

「いや……まぁ――イイよ、別に。問題ない」


本当はあった……そう――前回、恋がそんな風に、不気味に嗤って俺を――。


それがまた怖いのだ……“色んな意味で”。


その結果、俺は死ぬ事になったのだから……。


【巴】

「クヒヒッ……ねぇ、燈馬――“私が洗い流してあげよっか”……?」


【燈馬】

「うぐっ――そ、ソレだよそれ……“ソレが怖い”」


……ピトッ――ぐにゅんっ……ぷにゅんっ……。


すりすりすりぃ〜〜っ……ギュッギュッ――。


【燈馬】

「おい……マジでやめろよ――?」


【巴】

「うっふふ……どうしよっかな――巴……バカだから分かんないよ……クヒヒッ――温かい……ふぅ……」


巴は俺の後ろから抱き着き――胸をグイグイ押し当ててきた。


俺はコレが一番怖かった……。


そのまま動けずにいると――。


……カチャ――バンッッ!!


【葵】

「……巴ぇ――またアンタは!! ほら、燈馬から離れ――ろっッ!!」


………グイッ!! ぐんぐんッッ!!


【巴】

「えぇ〜〜!! なんで邪魔するのお姉ちゃん!! さっきから本当にもう!!」


【葵】

「いや――アンタが邪魔してんの……よっッ!!」


――ぐいいっッ!! バッ――!!


【巴】

「あぅ……痛いよ――お姉ちゃん……」


【葵】

「ゴメンて……巴――」


【巴】

「ううん……いいよ、お姉ちゃんだから」


【燈馬】

「――なんなんコレぇ……疲れちゃうよぉ!!」


中身オッサンには、この展開は疲労を超えて……。


“激労”だった――。


【燈馬】

「……で? 葵――お前は、なんか“飾りっ気ねえ”な本当に」


【葵】

「ウッサイわね……コレから出掛けるんだし、外は寒いのよ!!」


葵は巴と対象的に、凄く地味だった。


黒一色な分厚いパーカーに、ジーパン、上は良く分からんキャップを頭にかぶっていた。


それも……ダボダボで、どっかのラッパーかよ的なファッションだった。


【巴】

「お姉ちゃん……それ、“パパの服”じゃん?」


【燈馬】

「親父の服かよ……通りでぶかぶかだと思ったわ」


【葵】

「イイでしょ別に――もう着ないって言うんだから、貰ったのよ!!」


【燈馬・巴】

「は……はぁ……」


俺と巴は同時に、ため息を吐いた。


お互い……ギランギランに輝き、とてつもない輝きを放つ――大量のピアスを眺めて。


【葵】

「ほら、アンタはさっさと洗い流して来なさいよ、お風呂場で」


【巴】

「私も入ろっかな……割と本気で……」


【葵】

「いや、アンタは絶対駄目。なんなら……“私が一緒に入ってあげよっか”?」


【燈馬】

「いや……意味分からねぇし、赤ん坊かよ俺は……」


本当にバタバタしていた……。


朝っぱらから俺達は。


〈リビング・食卓〉


――髪を染め、リビングへ戻ると……。


【姉妹の母】

「はぁ〜い、沢山食べてね!!」


【燈馬】

「…………」


【巴】

「わぁ〜〜沢山のハンバーグだぁ!!」


【葵】

「はぁ……マジウザい――」


テーブルには、大量のハンバーグと……。


色とりどりなサラダが……大量に置かれていた。


【燈馬】

「おほほ……さっきハンバーグ食べたのに……」


俺は頭を抱えていた。早朝にファミレスで、ガッツリ食べたばかりだった。


【姉妹の母親】

「ナニ言ってるの!! 若いんだから、ガッツリ食べて強くならなきゃ!!」


【燈馬】

「は……はぁ〜〜い……」


こうして、俺は……本日二度目のハンバーグを堪能した。


〈玄関前〉


――食べ終わると、すぐに俺達は外に出る事にした。


理由は――巴がギャーギャーウルサイのだ……。


お姉ちゃん達、ドコ行くの? 私も行こうかな?


お外寒くて嫌だけど、家の中も暇だし……。


などと――延々と、ハンバーグを口に頬張りながら、それはそれはもう――。


マシンガンの様に感じられた。


【燈馬】

「うっぷっ――うぐぐっ……マヂで――キツイ……」


【葵】

「燈馬……ゴメン――騒がしくて、あと……お母さんが暴走しちゃって……」


……ぽちゃんぽちゃん――たぷたぷっ……。


【燈馬】

「おぅふっ……とりあえず……外――行こうぜ……」


俺のお腹は本当にたぷたぷ音がして、まるで食べ放題に行って、超絶食べた時の様な、気分の悪さを感じていた。


食べ過ぎは本当に良くない――。


三十路になってから、ガッツリ食べる機会はめっきり減った。


ナゼならば……あまりガッツリ食べなくても、問題なくなったから。


それと……腹八分目が、一番美味しく感じられるコトを知ったからだ。


姉妹の母親に唆され、ほぼ……。


強制的に食わされたのだ――。


本当、学生時代の記憶がフラッシュバックした。


そう言えば……昔は死ぬほど食ってたな……と。


【葵】

「燈馬は死にそうだし……とりあえず、外行ってくる。お母さん? 巴をよろしく頼んだわよ」


【巴】

「えぇ〜〜? 巴も一緒に行きたいよぉ!!」


【燈馬】

「お前……うっぷっ――寒いの苦手なんだろ……?」


【巴】

「ううん、お姉ちゃん達と一緒なら大丈夫だよ」


【姉妹の母親】

「ほら……巴――ワガママ言わないの!!」


【巴】

「うぅ……またね――燈馬……」


【燈馬】

「……ふぅ――“機会があればな”?」


俺は金輪際、穂村家には立ち寄る気は無かった。


コレで、きっと……終わり。


月宮雅と同様――“穂村巴ともココで終わり”。


俺は次のステップへ足を運んで行く。


【葵】

「……そんじゃ、行こうか? 燈馬――」


……ギュッ――。


【燈馬】

「ちょ……おい? なにやって――」


――グイッッ!!


【葵】

「ほら――もう行くよ!!」


【燈馬】

「お……おう?」


こうして俺はナゼか……。


葵に手を引かれ――。


家を後にした。


次の展開は正直、俺にも神にも……分からない。


俺は……流れるまま――。


この未完のWEB小説の中に……溶けて行く。

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