前回と全く違う展開が始まった。
〈街中・寂れた喫茶店〉
――俺達は前回と同じ、喫茶店へ足を運んでいた。
しかし……“前回と全く異なる点”――。
それは、“五人衆が集結していない事”だった。
俺達は、前回と違う席へ座っていた。
【瞑】
「ふぅ……外はとっても寒かったわね」
【燈馬】
「あぁ……寒かった」
俺達は短い会話を続けていた。
なんだか……二人の間には、妙な空気が流れている気がして、俺はとても気まずかった。
しかし――このまま、無駄な時を過ごすワケにはいかない……。
俺は瞑に、昨日話さなかった事実を伝える事にした。
【燈馬】
「まず……瞑に伝えなきゃならないコトがある――」
【瞑】
「なに……? “伝えたいコトって”……?」
瞑は神妙そうな表情を、俺に向けた。
――ここからは簡潔に伝えなくてはならない……。
そう――ちんたらしていると……“姫乃恋と出くわす危険性がある”のだ……。
【燈馬】
「昨日、伝えられなかったが……俺は“記憶を全て無くしてしまった”んだ」
俺はそのまま事実だけを並べていく。
【瞑】
「記憶を……“全て無くした”――?」
【瞑】
「……いや――“本当なの”? そんなバカみたいな話、信じられないわよ……」
【燈馬】
「あぁ……本当に記憶が飛んでる。瞑……“お前との思い出も”――“何もかも”……“全て消えている”」
――ズキッッ!!
俺は少し胸が苦しくなった。
本当に心苦しい話だが、今の瞑には前回の記憶は無いのだろう……。
ループしただの、この後……死ぬなど言っても、きっと――信じてはくれない。
普通はそんな話――信じられるワケないのだ……。
だから、俺は記憶が無いコトだけを伝えた。
【瞑】
「変な話ね本当――昨日の朝は、普通にスヤスヤ一緒に寝ていたのに……」
【燈馬】
「あぁ……俺はソレに動揺して、何も出来なかったんだ」
【瞑】
「そう……でも、“少し勿体なかったな”……」
【燈馬】
「…………」
ソレに関して俺は何も言えなかった。
きっと……瞑は、俺に記憶が無いコトを利用し、“最初から関係を作る”と決めたのだろう――。
瞑は最初から気づいていたのだ……。
月宮雅と燈馬が――深い仲になりつつあるコトを。
であるならば……瞑の起こしたコトは正しい。
ナゼならば――“月夜瞑が本当の彼女”なのだから。
“雅から奪い返す絶好のチャンス”だった。
コレが俺の雑な考察だった。
【瞑】
「でも……“なんで記憶全部無いのに”、“月宮さんのトコロに行けたの”……?」
――ドキっッ!!
俺は図星を突かれて、動揺していた――。
朝から俺は瞑と離れ、一人で瞑の部屋を後にしたのだ……。
うまく言い訳が作れない――。
しかし、こう言う場合の対処法は知っていた。
【燈馬】
「“分からない”……でも――なんだか、“月宮雅の家に行く用事がある気がして”……行ってみたんだ――」
そう――大前提として、“分からない”を挟む。
そして……曖昧なニュアンスを挟んだら完成だ。
果たして……即席で作った言い訳を、瞑は信じてくれるのだろうか……?
俺は祈るコトしか出来なかった。
【瞑】
「う〜ん……でも、そっか――アナタ……ちゃんと“私のコトを瞑”って呼ぶものね?」
【燈馬】
「あ……あぁ、ソレもなんだか分からないけど、覚えていた」
俺はどうやら耐え切った様だった……。
嘘を嘘で塗り固めた嘘でしか無いモノで。
【瞑】
「それで……“月宮さんと”――“シタの”……?」
――グサッッ!!
【燈馬】
「お……おおん――? うん……“した”――ょ?」
【瞑】
「ふぅ〜ん……? ちゃんと彼女の前で言えて、えらいし、“度胸あるわね”――アナタ」
【燈馬】
「おう……“事実”――“超”……“シタ”――」
俺は包み隠さず瞑に伝える。
こう言うモノは、がっ――つり、シッカリと伝えないと、モヤモヤが残るモノだ……。
【瞑】
「――“超”…………し――“シタ”……??」
瞑は超動揺して、超絶句していた……。
そんなタイミングで――。
……コトッ――。
【マスター】
「おいおい……お前ら――朝から、ウチで痴話喧嘩しないでくれよ……?」
【燈馬】
「ま……マスター」
俺の前にはコーラが置かれていた。
【マスター】
「なんだか知らねえけど、ま……うまくやってくれよ? お前ら、“お似合いのカップル”なんだ……」
【燈馬】
「大丈夫ですよ……ちゃんと解決しますから」
【マスター】
「あぁ……そうしてくれ。二人共、仲良くな……?」
――タッタッタッタッタッ……。
マスターはそう言い残すと、カウンターへ戻って行った。
なんだか、マスターに救われた気がしてホッとした。
本当はホットコーヒーが飲みたかった。
でも、今はコーラでも悪くはない。
嫌な空気が少しだけ、飛んでいったのだから……。
【瞑】
「――あまり、深くは聞きたくないけど……燈馬は月宮さんに――“襲われたの”……?」
【燈馬】
「あぁ……そうだ。それに……雅から話を直接聞いたよ。なんも……分からないんだから俺は」
【瞑】
「ふぅ……そうだと思った――燈馬がそんなコトをするワケないし……」
俺は前回、月宮雅から聞いた。
燈馬は……月宮雅の下に逢いに行く度、ソレっぽい雰囲気になり……。
“月宮雅が”――“燈馬を”……“襲った”のだと――。
【燈馬】
「だから……“俺は月宮雅に別れを申し出た”」
【瞑】
「へっ……? ど……どう言う……コト――?」
瞑は綺麗な赤い瞳をガッ――っと大きく開き、本当に驚いた様子で俺へ詰め寄る。
グイッ――と、テーブルから身を飛び出す様に。
【燈馬】
「ちょいちょいちょい……近いって――」
【瞑】
「あ……うん……ごめん――」
……カタッ――。
瞑はすぐに体を引っ込めた。
【燈馬】
「ちゃんと……“伝えたさ”――“俺達の関係はココで終わりにしよう”って……」
【瞑】
「は……はぁ……そ、そうなのね――?」
【燈馬】
「――あぁ、ちゃんと言った。記憶は無いけど、瞑……“お前が彼女なんだと言うコトは分かった”」
【燈馬】
「だから……“俺には彼女がいる”、“だからココで終わりだと”」
【瞑】
「……そ、そうなんだ――ほっ……」
瞑は自分の胸を撫で下ろして、心底ホッとしていた様子を見せた。
でも……俺はまだ伝えなくてはいけない。
【燈馬】
「そ……その流れで――その、あの……えと――」
【燈馬】
「……月宮雅と――めっ――“チャクチャ”……“超シタ”」
【瞑】
「ちょ……なんでそうなるのよ……“別れ話の大事な場面で”――」
本当に返す言葉がない……。
――しかし、俺は何も隠さず事実だけを伝える。
【燈馬】
「“最後なんだ”……“雅の好きな様にさせたかった”」
コレが事実だった。俺の事はどうでも良かった。
燈馬と雅はソコで終わるのだから……。
“最後に”――“儚くても”……。
――“思い出を残せたら”と――。
勿論、雅だけではない――俺自身も……。
月宮雅との関係の最後を飾りたかった。
【瞑】
「――本当に燈馬、“アナタは優しすぎるわ”……?」
【瞑】
「きっと……“ろくな死に方しないわよ”……燈馬」
本当にその通りだった。
だから……俺は、変えようと足掻いている。
眼の前に居る……“瞑と一緒に居たいから”――。
未完のWEB小説のラスト、悪役である燈馬はナニかに巻き込まれて死ぬ。
それを捻じ曲げてでも……俺は、生きたかった。
すり替わった俺が初めて関係を持った――。
そんな女の子と……生きたいと思ったから。
【燈馬】
「……だから、“俺は自分を変えてやる”んだ」
【燈馬】
「“記憶が無い今だから出来るコト”だから……」
【瞑】
「そうね……最近の燈馬は少し、“オカシイもの”」
【瞑】
「ふぅ……記憶は失ったみたいだけど、少しはマトモになってくれそうで……本当に良かったわ」
瞑はそう言うと、マスターが持って来た、温かいコーヒーを手に取り、口へ運んでいた。
小さな両手でコップを抱えながら、ちびちびコーヒーを飲む光景は……とても可愛らしく見えた。
やっぱり――俺にとってのメインヒロインは、瞑なのだと……“再確認する瞬間”だった。
【燈馬】
「……コーラ飲むか、俺も――」
――ぐびっぐびっぐびっ……。
【燈馬】
「……うっぷっ――ふぅ……“たまにはイイなコーラも”……」
俺はジョッキで来たコーラを一気にがぶ飲みした。
お陰で、ゲップが出そうになって大変だった。
【瞑】
「たまにはって――アナタ……いつもコーラ飲んでるのよ? あぁ……記憶が無いんだったわね――」
【燈馬】
「げぷっ――ごめん……そうだよ、俺には記憶が無い……」
【瞑】
「だ……大丈夫? なんか苦しそうだけど――」
【燈馬】
「あぁ……炭酸がキツくてな……ははっ――?」
普段、コーヒーばっかり飲んでるヤツには、久々にがぶ飲みしたコーラは刺激が強すぎた。
俺は口元を手で抑えながら、瞑に答えていた。
油断すると……ゲップが出そうになって困るのだ。
【瞑】
「本当に変なの……なんで、“そんな急いで”コーラを煽る様に飲んだのよ……」
俺は待ってましたと言わんばかりに、ソレについて瞑に理由を説明する。
【燈馬】
「――瞑……“黙って聞け”……」
【瞑】
「う……うん?」
俺はボソボソと、瞑に呟きながら説明をする。
【燈馬】
「……“監視されてる気がするんだよ”――」
【瞑】
「えっ……だ――“誰に”……?」
【燈馬】
「分からねぇ……しかし――なんだか……“厭な気配がするのさ”……」
コレは俺のハッタリだった。
もう暫くココに居ると……きっと――。
“姫乃恋が俺達に絡んでくる”のだ……。
【瞑】
「ナニソレ……意味わからないわ? 大丈夫……?」
【燈馬】
「黙って聞け……“本当にそんな気がするんだよ”」
【瞑】
「ふぅ……分かったわ。ココを出ましょう?」
【燈馬】
「察しが良くて助かる……マジでアリガトな?」
【瞑】
「ナニがなんだか分からないけど……燈馬の真剣そうな顔を見ると、嘘には思えないもの……」
【瞑】
「でも……“コーヒー勿体無いな”――」
瞑はまだ温かいコーヒーを名残惜しい様子だった。
【燈馬】
「なんだ……熱くて飲めないのか?」
【瞑】
「うん……ちょっと熱くてね?」
【燈馬】
「……そっか、なら俺が飲んでやるよ」
――カタッ……。
【瞑】
「あっ――ちょ……燈馬?!」
【燈馬】
「――んっくっ、んっくっ、んっくっ……」
【燈馬】
「――ぴょえぇ〜〜っッ――おほほ……ウマ――」
コーヒーは俺の五臓六腑に染み渡り、光の速さで脳天に突き抜け、全身に駆け巡っていた。
【瞑】
「燈馬……なんかキモいよ? 普通に……うん――」
【燈馬】
「はぁ……やっぱり――コーヒーよな……」
【瞑】
「本当にオカシクなったのね……燈馬――あれだけコーヒー大っ嫌いだったのに……」
【燈馬】
「んな事……今はどうでもいい――“行くぞ瞑”」
【瞑】
「あ……うん」
【燈馬】
「俺は先に外に出てる、お金渡しとくから会計済ませておいてくれ」
――スッ……。
俺は財布から素早く札を取り出し、瞑に渡した。
【瞑】
「ちょ……? なんで一人でスタスタ行くのよ?」
驚いた様子を見せる瞑に俺は――。
【燈馬】
「“厄介な奴に絡まれる前に”……“撤退すんだよ”」
そう言い残し、俺は喫茶店から一人で抜け出した。
〈喫茶店前・外〉
――俺はなんとか、外に出る事に成功していた。
……姫乃恋に絡まれる前に。
外に出ると、それはそれは寒い風が吹き荒れていた。
体をブルブル震わせながら、俺は瞑を待っていた。
しかし――瞑は中々、“喫茶店から出て来ない”……。
【燈馬】
「あぎゃぎゃ……寒い寒い――終わってるわ……マジで寒いんですけど……うぅ……まだかよ――瞑ちゃんよぉ……」
俺は寒さに耐えられなくなり、ソッ――と、喫茶店の入口を覗き込んでいた。
すると……。
【燈馬】
「チッ……マジかよ――瞑のヤツ……“恋に捕まりやがった”――」
ナニやら喫茶店の中で……。
瞑と恋は会話を交わしていた。
俺はガタガタ震えながら、会話が終わるのを待っていた。
【燈馬】
「――んっ……? “宮原守”……か――?」
ナニか、会話を交わす瞑達に主人公様が加わっていた。
どうやら、会話は終わる様だった。
そのまま……。
――ガチャッ……パタンッ――。
【瞑】
「“お待たせ”……燈馬――」
喫茶店からゲッソリした様子で、瞑が外に出て来ていた。
【燈馬】
「いや、いいよ……なんか絡まれてたみたいだし」
――ガッッ!! グイッ――!!
【燈馬】
「おわっッ――な、“なんだよ急に”……?!」
瞑は突然――俺の手を握り、グングンと引っ張る様に、喫茶店から俺を離す様な素振りを見せた。
【瞑】
「……いいから――“ココを早く離れましょう”……」
瞑は少しゾッとした表情を見せ、ボソッと呟いた。
俺はなんだかとても厭な予感がして、無言のまま頷き、瞑に手を引かれながら……。
街中へ溶けて行く――。
〈ファミレス・店内〉
――俺達はそのまま、ファミレスへ足を運んでいた。
なんだか……本当に厭な気配がして、寒さ以外の震えが、俺を酷く襲っていた……。
そのまま俺達は自然と、奥の目立ちにくい席へ、吸い込まれる様に座っていた。
なんだか、お互い……。
目立つ位置には居たくなかったのだろう。
瞑は少し沈黙しながら、ゆっくりと……。
口を開いた。
【瞑】
「さっき……喫茶店で――“姫乃さんと会ったわ”」
瞑は自分の体を抱き締めながら、必死に震えを抑える様子を見せた。
俯きながら……声を震わせながら。
【燈馬】
「あぁ……外で俺も見てた。それで――“ナニがあったんだ”……?」
俺は恐る恐る瞑に問い掛ける。
なんだか、本当に厭な気がするのだ……。
底冷えする様な――とても嫌な……厭な――。
そんな妙な気に俺の心は、とてもザワザワしていた。
【瞑】
「アナタが言った……“監視されてるってコト”……」
【燈馬】
「んっくっ――お、おう……」
俺は固唾をのんで瞑の言葉を待っていた。
【瞑】
「あれは……“本当にその通りだったわ”――」
【燈馬】
「その……姫乃とか言うヤツと――ナニがあったんだ……?」
俺は本当に続きを聞くのが怖かった。
逃げても逃げても……姫乃恋に追われる気がして。
【瞑】
「――“アナタはドコって”……さっきまで、“居たよねって”……」
【燈馬】
「お……おう……」
どこでアイツらが居たのかは分からない……。
しかし、俺達のコトを姫乃恋は監視していた。
それは間違い無い事実だった。
きっと……前回も――“偶然を装い”……俺に接触を図ってきたのだろう。
どうやって、俺の行動を知ったのかは分からない。
しかし……姫乃恋は――俺を間違いなく狙っていた。
……ぎゅっッ!!
瞑はまた自分の体を強く抱き締める。
そのまま……。
【瞑】
「燈馬……“アナタとお話がしたいって”……」
【燈馬】
「……そっか――それで、ちゃんと断ってくれたのか?」
俺はそこが一番気になっていた。
【瞑】
「えぇ……アナタがまた厄介事に巻き込まれると思って、姫乃さんにちゃんと言ったわ……?」
【瞑】
「まず、燈馬はもう喫茶店を離れた事」
【瞑】
「そして、“燈馬と関わらないで”と……“迷惑だからって”……私――言ってやったの」
【燈馬】
「なんか……本当にゴメン――瞑……うん」
情けない話だった……。
俺は姫乃恋から全力で逃げようとしている。
それなのに……瞑はちゃんと立ちはだかった――。
それが情けなくて仕方がなかった。
【瞑】
「ううん……イイのよ? “今のアナタは記憶が無いんだから”……」
【燈馬】
「あぁ……すまない――」
本当に都合がイイ言葉だった。
記憶が無い……それで瞑を騙して――。
みんなも――騙し続けているのだから……。
本当に“俺は悪役に相応しい”のだろう。
だって……“未だに俺が燈馬じゃないと”――。
“みんなに伝えていない”のだから……。
嘘を嘘で固めて、のらりくらりやっている。
本当に俺は……“悪役”だった。
【瞑】
「――落ち込んでいるトコロ、ごめんなさいだけど……“続きがあるのよ”……」
【燈馬】
「すまん……なんだか、“迷惑掛けてばかり”だと思ってな――?」
本当に俺は迷惑ばかりを掛けていた。
それが悔しくて悔しくて……仕方がない――。
【瞑】
「……イイよ。それで、話の続きだけど、あの子――ごめんなさい……“それでも燈馬くんに会いたいって”……」
【燈馬】
「おいおい……“ホラーじゃん”――ナニソレ怖い……」
本当にホラーなのだ。姫乃恋は最終的に……。
“俺を殺すのだから”――。
それも……最も――屈辱的で……最も最悪で……。
最も――“最低なヤリ方で”……。
【瞑】
「えぇ……本当にあの子は怖いと思ったわ。とっても綺麗で、とっても可愛い顔して……」
【瞑】
「とっても――“悪い顔”をしていたわ……」
【燈馬】
「うぐっ――そりゃ厭だな……本当に――」
俺には分かる……姫乃恋は燈馬にナニかを想っている。
――前回のラスト。
恋は言った。
“私の初恋の人”……と。
きっと――姫乃恋は燈馬に、特別な感情を抱いているコトは知っていた。
それが愛なのか、憎しみなのかは分からない……。
とにかく、姫乃恋は燈馬に執着しているのだ。
【瞑】
「……私も強く言った。“私は燈馬の彼女”なんだって――だから、本当に迷惑だから、やめてと……」
【燈馬】
「でも……話をマトモに聞きはしなかったと……?」
【瞑】
「そうよ……あの子――それでも、アナタに逢いに行くって。アナタはどうでもいい――私がお話したいんだからと……」
【燈馬】
「……それで、“ツレみたいなヤツ”が止めに入ってきたのか……」
【瞑】
「そう……宮原くんが止めに入ったのよ」
主人公が姫乃恋を止めた。
ここまでは良かった……。
しかし――俺と守は約束を交わしたのに……。
それは守られるコトはなかった――。
宮原守は約束を守れず、姫乃恋を止められず……。
結局俺は死んだ。
そう考えると、無性に腹が立ってくる。
“主人公”……“お前が止めてくれよ”と――。
【瞑】
「その隙に私は喫茶店を飛び出したのよ……」
【燈馬】
「なるほどな……“もう嫌だな本当に”――」
【瞑】
「ふふっ……そうね、ナゼか記憶は消えるし、流れで月宮さんと超ヤッて――“次は姫乃さん”……?」
【瞑】
「はぁ……“面白い”――“こんな悪い人いない”もの」
【燈馬】
「あぁ……“俺は悪役がお似合い”なのかもな……」
【瞑】
「うふふっ……本当にそうね――似合ってるわ……燈馬――“アナタは悪役がお似合い”よ……?」
【燈馬】
「全然――嬉しくねえよ……ツラすぎんだろ……」
色んな女の子達と色々出来るコトは、とても新鮮で素晴らしいが……。
それ以外はもう――終わりなのだ。
この問題を解決しない限り……俺はバッドエンドに辿り着く。
――ハッピーエンドには辿り着けないのだ。
【瞑】
「コレからどうする……? それと、言ってなかったけれど、今夜……“九時に喧嘩の予定”があるからね……?」
【燈馬】
「コレからどうするもこうするも……夜から喧嘩か――」
【瞑】
「そう……“郊外にある廃工場”で喧嘩をするの」
【燈馬】
「ふぅ……なんか――“その廃工場の記憶はある”」
【瞑】
「ナニソレ……“どうでもイイ記憶だけ”、蘇るのね……」
【燈馬】
「あぁ……なんでかね――廃工場の記憶はナゼか思い出せたんだよ……」
俺は都合の良いコトを呟いていた。
午後からは葵の家へ向かって、葵と合流しなくてはならない――。
前回は燈馬の実家で過ごし、部屋で爆睡かまして、瞑が俺を迎えに来たのだ。
しかし――前回と同様の展開にはならない……。
きっと――“一悶着が起きる”のだ。
こっから先は未知の展開が描かれる。
未完のWEB小説には無い……展開なのだから――。
【瞑】
「分かったわ……なら、ちゃんと廃工場まで来てね? 現地で集合しましょう?」
【燈馬】
「あぁ……それでいい。それより――注文しようぜ? 腹減ったし……」
【瞑】
「そうね……“燈馬は何を頼むの”……?」
――ペラッ……。
瞑はメニューを取り出し、モーニングセットを見せていた。
【燈馬】
「そうだな……“ハンバーグ”にしようかな?」
【瞑】
「へぇ……? 朝から、ガッツリ食べる気なのね?」
【燈馬】
「ふぅ……そうだよ――今の俺は、“カロリー高めを求めてる”の」
なんだか、俺はドッ――と、疲れが押し寄せていた。
それに……穂村巴がよく、ハンバーグ食べると聞いて、なんとなくハンバーグが食べたくなった。
昨日……自分で作ったハンバーグは未完成のモノだ。挽き肉が無くて、適当に作ったモノ。
だから、ちゃんとしたハンバーグを、食べてみたくなった。
……そんな理由だった。
【瞑】
「それもそうよね……月宮さんと――たくさん、たくさん……“気分が良くなるコト”したんだもんね?」
【燈馬】
「うぐっ――あまり、ソレを突かないでよ……ダメだって、本当に……」
【瞑】
「だって、“事実でしょ”? きっと……私の時より――ずっと、ずっと……ふふっ――?」
【燈馬】
「いや……まじでゴメンて――もう、雅のトコロには行かないし、雅とそんなコトはもうしない……」
【瞑】
「そう……? なんだか……少し、“未練が残ってる様に見える”んだけど――?」
【燈馬】
「……んっくっ――いや……それでも――もう、ちゃんと別れたんだ……雅とは――」
【瞑】
「ふぅ〜〜ん? まぁイイわ? 私が今度、“上書きしてアゲル”から……」
【燈馬】
「ごくっ――そ、そう……楽しみにしてます……」
俺はただただ――生唾を飲み込むだけだった。
月宮雅に上書きされて、上書きされたモノを――。
また、瞑が上書きするのだ……。
なんだか、本当に甘美な言葉に聞こえて、俺は堪らなかった。
【瞑】
「ふふっ……なんだか、“楽しくなってきた”……」
【燈馬】
「なら良かったよ……でも、“気をつけないとな”」
【瞑】
「えぇ……“姫乃さんには注意しないと”――」
【燈馬】
「あぁ……“本当に”――な……」
――この後、俺達は楽しく食事をした。
きっと――まだまだハードな展開は続く。
それに耐える為、俺はガッツリと食事を楽しんだ。
そして――いつまでも、こんな関係が続けばいい。
そう――願い続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます