月宮雅との関係が明かされる。

〈月宮雅の自宅・雅の部屋・夜〉


――俺はすぐに月宮雅の家まで足を運んだ。


穂村巴に分かれを告げ、そのままシャワーを借りて、俺は逃げる様に葵の家を後にした。


――そして今は、雅の部屋の中にいる。


【雅】

「……スンスン――燈馬くん……“誰かとシタ”のかな?」


雅は前回と似た様なコトを、俺に聞いてきた。


【燈馬】

「まぁ……隠しても仕方がない。あぁ……“シタよ”」


雅は俺の言葉を椅子に座りながら、黙って聞いていた。


前回と変わらず、白いワンピース姿で――。


【雅】

「そっか……なら“私が上書きしなきゃね”……?」


……それも、前回と似た様なセリフだった。


その後……“メチャクチャ”――するのだから。


俺が最後に雅と交わした約束は……。


また、“会いに来て”。


そんな事を言われ、俺と雅は指切りをしたのだ。


しかし――その約束は守られる事は無かった。


雅と合う前に……俺は姫乃恋に殺されたのだから。


【雅】

「ん……? 燈馬くん――どうかしたの? なんだか黙ってるみたいだけど……」


【燈馬】

「悪い……ちょっとだけ、考え事をしてたんだ」


【雅】

「そうなんだ……ふふっ――それで……“今日は雅とシテくれる”?」


【燈馬】

「……その前に、ちょっと雅に話したい事がある」


【雅】

「うん……いいよ? なんでも聞いて……?」


そう――俺は雅に聞きたい事が山程あった。


この後、雅と俺はどうせ――色々するのだ。


そうなる前に、雅と直接話がしたかった。


【燈馬】

「まず一つ、今の俺には記憶が全く無い。だから、雅――お前の事も分からないんだ」


……前回も同じ様な事を伝えた気がする。


しかし、俺はこのまま情報を探って行く。


雅と色々なコトが起きる前に――。


【雅】

「記憶が無い……? どうしてそんなコトが?」


【燈馬】

「分からない……朝起きた時には、ナニモカモ……消え失せていたんだ」


俺は淡々と事実だけを伝えて行く。


【雅】

「そうなんだ……なんだか悲しいよ。うん……いや、一番悲しいのは燈馬くんだよね……?」


【燈馬】

「……まぁな――記憶が無くなって困ってる」


【燈馬】

「だから……雅に色々と聞きたいんだよ」


【雅】

「――分かった。なんでも聞いてね……?」


【燈馬】

「まず……雅――“お前の視力はどうして落ちた”?」


【雅】

「えっ……? 記憶が無いんじゃないの……? どうして、“視力が弱い事を知ってる”の?」


【燈馬】

(あ……やべっ?! 前回の知識で思わず、そのまま聞いてしまった……)


――俺は墓穴を掘っていた。


視力が弱い事を聞いていない段階だった。


それなのに、俺は口からポロッと――出てしまっていた。


【燈馬】

「いや……なんか、“俺にはそう見えたんだよ”」


俺は適当に誤魔化す。


このまま無理矢理、進んで行くしかないのだ……。


【雅】

「……なるほどね? 分かったよ燈馬くん」


【燈馬】

「そ……それでだな、詰まるところ――」


【燈馬】

「“俺達は”――“どんな関係なんだ”……?」


俺は恐る恐る……雅に問い掛けた。


前回で雅との会話で分かった事。


それは、燈馬が雅のお話相手になってくれた。


そんな……曖昧なモノだった。


そして、俺の問い掛けに雅は、少し震えた様子を見せる。


両手をキュッ……と握り、そのまま俯きながら……。


【雅】

「そうね……燈馬くんに教えなきゃね――?」


【燈馬】

「すまん……本当に思い出せないんだ」


【雅】

「“あまり思い出したくない事だけど”……」


雅は少しだけ言い淀んでいた。


俺はナニか……深い事情がありそうな気配を察し、固唾を飲んで雅を見守った。


【雅】

「“学園で”……“イジメられてたんだ”――」


【燈馬】

「……そっか――それは大変だったな……」


俺はソレを聞いて、本当に酷い話に思えた。


月宮雅は……物凄く綺麗で可愛く、そして――。


色んな魅力がタップリな女の子なのだから……。


何故……そんな雅がイジメられるのかと。


俺には全く理解が出来なかった。


【雅】

「はぁ……思い出すと、“色々あったなぁ”……」


――雅はそのまま俺に、その全貌を教えてくれた。


机には落書き、下駄箱にはゴミや画鋲……。


体操着はイタズラされ、切り裂かれた事も……。


挙げ句の果には……トイレの個室で上から水を掛けられたり――。


よくあるシュチュエーション……と言うのは語弊があるが、本当にありがちなイジメの数々だった。


“ソレが暫く続き”……。


ストレスかナニかで、視力が極端に落ちた。


――今では視界が本当にボヤけて見えて、メガネを掛けても改善はしないとの事。


肝心の燈馬との関係については、そんなイジメがあった事に気づき、燈馬はイジメを繰り返した奴等をボコボコにした……。


まともに学園に通えなくなり、家に引き籠もる雅を心配し、通う度に――二人はイイ関係になった……。


――これが事の顛末だった。


【雅】

「ふふっ……“嫌な話でしょ”――?」


【燈馬】

「あぁ……“厭な話だ”……」


結局のトコロ……燈馬は、雅を庇う形で喧嘩を始めて、ソレが大きくなり過ぎて――。


今の今まで……喧嘩三昧の日々になっていた。


気がつけば、周りから悪者扱いされて、今に至るのだ。


それが作中の悪役である燈馬の――。


“悲しい真実”だった。


【雅】

「でも……“同時に”、“感謝もしてる”んだよ?」


【燈馬】

「へっ……?」


さっきまでの雅はドコへやら……。


雅は悲しそうな表情から、一気に愛おしそうな表情へ変わっていた。


【雅】

「だって……燈馬くんと――こうして……“出逢えた”」


【燈馬】

「お……おう? そ――そうだね……?」


雅は椅子に座りながら、畳の上であぐらをかく俺に優しい表情を向けた。


瞑同様……とても長い黒髪を少しだけ靡かせて……。


白いワンピースがとても良く映える――。


そんな雅に俺は……見惚れていた。


本当に……この未完のWEB小説に出てくるヒロイン達は、破壊力がとても高かった。


【雅】

「燈馬くんと、接点なんかなかったけど……」


【雅】

「“嫌な事をキッカケに”……ふふっ――“燈馬くんがココに居るんだから”……」


……ドキッ――ッ!!


俺はその言葉に強く打たれ、胸が強く高鳴るのを感じた。


でも……。


【燈馬】

「悪い――でも……それも――“今日までだ”……」


【雅】

「えっ……なんで――なんでそんな事を言うの……?」


【燈馬】

「本当にゴメン……俺――“彼女いるんだよ”……」


【雅】

「うぐっ……わ――分かってるよ……燈馬くんモテそうだし……?」


【燈馬】

「あぁ……“モテて”、“モテて”――大変だ……」


俺は穂村巴の様な事を口走った。


しかし――ココで月宮雅との関係を、終わらせなくてはならない……。


ハッピーエンドへ向かう為、俺は進まなくてはならないのだ。


悲しい事だが、決断をしなくてはならない……。


全ては――“瞑の為に”。


【雅】

「そんな……“ココで終わりなの”? “私達”……」


――グサッッ!!


【燈馬】

「ぐっッ――あぁ……“今日でこの関係は終わりだ”」


雅のその言葉は、俺の心にも胸にも強く突き刺さった。


刺されてもいないのに、どこか――。


本当に胸を刺され、心に穴が空く様な気がした。


【雅】

「そんな……うぅ……やっと――燈馬くんと仲良くなれたのに……“繋がれたと”――“思えたのに”……」


――ズキンズキンッッ!! グサグサッッ!!


【燈馬】

「うぐっ……グッ――すまない……“本当に終わらせよう”――“この関係を”……」


俺はもう――ズタボロだった。


胸は強く痛み、心は穴が空きまくりで……。


こんなにも別れを告げるのは辛いのかと――。


【雅】

「……なら――“最後に”……“私と”――“して”……」


【燈馬】

「分かった……“これが最後だ”――本当に、雅の好きな様に俺を使ってくれ」


【雅】

「ぐすっ……うん――燈馬くんを……“グッチャグチャにして終わらせる”」


【燈馬】

「あぁ……“全部受け止めるよ”」


【雅】

「はぁ……これが最後だなんて……ひっぐっ――本当に……悲しい――」


……ガバッッ――。


シュリシュリッ……さわさわっ……。


【燈馬】

「あぁ……ゴメン――雅」


俺は椅子に座りながら、泣きじゃぐる雅を抱き締めた。


強く抱き締めて、長い髪を優しく擦って……。


【雅】

「ゔぐっ――ひっぐっ――燈馬くん……嫌だよ……“こんな最後なんて”……」


【燈馬】

「あぁ……なにもかも――“タイミングが悪過ぎた”」


【燈馬】

「もし……“雅が初めての相手だったら”――きっと、こんな最後にはなってない……」


【雅】

「ひっぐっ、うぇっ、うぅ……きっと――ひっぐっ、“出逢うのが”――」


【雅】

「“遅かったんだね”……“私達”――」


【燈馬】

「あぁ……“なにもかも”……“遅過ぎた”……」


本当に俺達は出逢うのが遅かったのだろう……。


本当の燈馬は、月宮雅へ思いをドンドン募らせた。


そして……すり替わった俺は――瞑を思い続けた。


シナリオはもう……変わってしまったのだ。


月宮雅は、本当に最高なヒロインだ。


しかし……遅過ぎた。


別れるのは正直、惜しい……。


それでも――こんな関係が続けば悲しむ者もいる。


俺が好き勝手し過ぎると、瞑が悲しむ事になる。


だから……悲しくても、惜しくても――。


月宮雅との関係はココで終わりなのだ。


【雅】

「ぐすっ……“最後になるんだから”――」


【雅】

「“今日だけは”……“アナタの彼女でいさせて”……」


【燈馬】

「あぁ……分かった。“コッチもそのつもりでいく”」


雅の気持ちを察し、俺は真摯に向き合う。


本当にこれで最後なのだ。


悲しいヒロインと……勘違いをされ続ける悪役――。


“その二人の関係は”――“今日で終わる”。


〈雅の部屋・明け方〉


――俺と雅は色々と愛し合った。


……それも、“ココまでの話”だ。


【雅】

「ねぇ……“燈馬くん”――」


【燈馬】

「なんだ……雅――」


俺達は畳の上で、大の字になって寝ていた。


雅は顔を横に向け、微笑ながら俺に声を掛ける。


【雅】

「もし……“視力が戻ったら”――私……“アナタに”……」


【雅】

「“逢いに行くわ”……」


雅は唐突にそんな事を呟く。


俺はそんな雅に……。


【燈馬】

「なんだよ……そんなに俺の顔が見たいのか?」


【雅】

「うん……今度はちゃんと――“アナタの顔を見たい”の……ねぇ――“駄目かな”……?」


【燈馬】

「まぁ……それくらいならイイと思うぞ……?」


【雅】

「ふふっ……ありがとう――燈馬くん……」


俺達は外が青白くなる頃――。


そんな会話を交わした。


本当に……これが最後になると思うと悲しかった。


燈馬も――俺も……雅に惹かれるモノはあった。


とてもとても……“良いヒロイン”だった。


〈月宮雅の自宅・外・早朝〉


――俺は雅に別れを告げ、家を抜け出した。


すると……。


【瞑】

「おはよう……燈馬。“朝までお楽しみだった”?」


――瞑が俺をお出迎えしていた。


【燈馬】

「……まぁ――それなりに」


【瞑】

「そう……話は後で聞くわね? 今は寒いし、どこかお店に入りましょう?」


【燈馬】

「あぁ……そうしよう」


こうして、俺はループ後……。


二日目を迎えていた。


【瞑】

「うぅ……寒いわね――今日は……」


【燈馬】

「あぁ……」


眼の前に立ち、とても寒そうにしている瞑。


俺はそんな瞑と、ハッピーエンドを迎える為……。


――“未完のWEB小説を完成させる”。


拾われた命なのだ――。


決して無駄には出来ない……。


どんな結末になるかは分からない――。


でも――俺は歩みを止めずに前へ進んで行く。


一歩ずつ、前へ……前へ……と――。

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