シークレットヒロインはやっぱり強烈。

〈葵の自宅・巴の部屋〉


――結局俺は流されるまま、巴の部屋に連れ込まれてしまった。


巴の部屋は案外、簡素な部屋だった。


……男性アイドルやら、イケメンやらのグッズで溢れ返っている予感がしたが、それは単なる予感に過ぎず、本当にキレイに整った普通の部屋だった。


恋の部屋の様に、乙女の部屋と言うわけでもなく、どちらかと言えば……。


断捨離をしまくった男の部屋の様な感覚に近く、悪く言えば、なんの特徴もない部屋。


水色の敷布団や掛け布団が雑に放置された、グチャグチャなベッドは少しだけ目に余るが、それ以外は本当にキレイに整頓されたイイ部屋だった。


【燈馬】

「しかし……“キッタネェ”――ベッドだなお前……」


部屋はキレイに整頓され、凄くシンプルで素晴らしいが……。


ベッドがグッチャグチャで、メッチャクチャ……。


その一つだけで全てを破壊するのには、十分過ぎるモノがあった。


【巴】

「仕方がないでしょ!! さっき起きたばっかりだったんだから!!」


【燈馬】

「まぁ……見りゃ分かるわうん。だってよく分からん、毛糸で出来た水色とピンクが混ざった、モフモフしたパジャマ着てるもんな?」


【巴】

「いや……語彙力どこ行った? スンゴイ雑な言い方してるし……」


【燈馬】

「いや……マジで知らんのよ。流行り物とか一切、知らねえしな……?」


そう……中身三十路で、色恋沙汰が一切無かった俺は、ファッションに興味がなく、本当に知らなかったのだ――。


【巴】

「ふぅ〜ん? “結構イイ値段する”んだけどね……コレ」


――むにゅん……ぽよんぽよんっ!!


【燈馬】

「うぐっ――し、知らねえよ……誰も、お前の着るパジャマに興味ねえし……」


巴はスゥ……と目を細めながら、自分の大きな胸を両手で、ぽよんぽよんさせていた。


俺は思わず、巴から目を逸らす。


細めた瞼の奥に潜む、怪しく輝く緑色の瞳を避ける様に……。


【巴】

「ふぅ〜ん? 最近、寒いのもあって、結構こう言うの流行ってるんだよ〜〜?」


――むにっ……ぽよんぽよんっ!!


むにゅっ――むにゅむにゅうぅ〜〜っ!!


【燈馬】

「お――お前さ、そんなコトしてないで……マッサージしてくれるとか言ってなかった?」


巴は自分の大きな胸で、ナニやら遊んでいる様子だった。


目を逸らした俺の耳に、服が擦れる音や……。


遊ぶ音が鮮明に響き渡る。


変な気分させられる気がして、かなり体が緊張していた。


【巴】

「あぁ……そうそう――お疲れの様だからね……クヒヒッ――ほら、“ベッドに横になって”……?」


【燈馬】

「いや……床でイイって――グチャグチャなベッドはなんか嫌だし……」


【巴】

「えぇ……? 床はフローリングでちょっと冷たいよ? イイから――それっッ――!!」


――ブワッッ……ガシッッ!! ブンッッ――!!


【燈馬】

「ちょっ――おま――?! あ〜〜れぇ〜〜っ!!」


ドゴッッ――バフッッ――ギッギッ――ギッ……。


俺は手を掴まれて……グチャグチャなベッドにブッ飛ばされた。


そのまま俺は、崩されながら仰向けになり――。


……ドンッッ!!


【巴】

「はぁ〜〜い……捕まえた……ふぅ……ソレじゃ――」


【巴】

「コレから……“とってもキモチイイ”――」


【巴】

「“マッサージ”……しちゃいまぁ〜〜す……んっ――」


【燈馬】

「お前……顔近いって――あと……耳許で囁くな……」


【巴】

「えぇ……? もっと――聴きたいって……? ほら……ふぅ〜〜。んっ――ふふっ……どうかなぁ?」


――ゾワゾワ……ゾクゾクっッ!!


【燈馬】

「ひえっッ――や……やめて――ぐっふぅ〜〜っ……」


俺は完全に巴に遊ばれていた……。


ベッドで崩れた仰向けの体勢のまま、壁ドンならぬ……“ベッドン”を喰らい、耳許でゾクゾクする様な吐息を吐かれて――。


ただただ……悶絶していた。


【巴】

「ほら……“もっと見て”? 目を逸らさないで……もっと――“巴の顔を見るの”……」


……グイッ――ガッッ!!


【燈馬】

「ぐぅ……はぁ、ハァ、ぐぅ――“やるじゃん”……お前マジで……」


巴は俺の顔をガッッ――と、強く掴み、強制的に目と目を合わせられた。


とてもキレイな緑色の瞳がキラキラ煌めき、そしてナニよりも……。


“とてつもなく”――“美しいお顔”をしていた……。


姫乃恋と同様、透き通る様なとても白い肌。


そして……まつ毛も長く、パッチリ大きな瞳。


キレイな銀髪ツインテール……。


シークレットキャラはとんでもなかった。


未完のWEB小説の続きかドコかで、出てくる予定だったヒロインなのか、本当にキレイで美しい。


……俺は少しだけ見惚れてしまった。


【巴】

「クヒヒッ……“イイねぇ”……“その顔”――ふふっ……やっと――素直になったじゃない……」


【燈馬】

「ハァ……お前――こうやって、“色んな男を取っ替え引っ替え”してきたのか……?」


【巴】

「まぁ……ね? だって――巴ちゃん……“可愛いし”?」


【燈馬】

「あ”〜〜ウザいし怖いっッ!! ムカつくわ……」


【燈馬】

「ほんっ――と……ムカつくわ、“お前の事”……」


黙っていれば可愛いのだが、巴はそれをしない。


そんな巴に俺は、少しだけイライラしていた。


【巴】

「ハイハイ……慣れっこさ――コッチは毎日の様にお姉ちゃんに、ウザいし消えろだの、やれ……キモいから失せろとか言われてるし?」


【燈馬】

「いや……お前のその根性よ……。なんでそんなに、絡むんだよ……」


【巴】

「えぇ〜〜? 分からないの? だって――お姉ちゃん可愛いし……そんなトコロも好きなのに……」


【燈馬】

「いや、知らねえし? そもそも、お前の姉ちゃんとは、今日が恐らく初対面だぜ?」


【巴】

「そうなんだね? お姉ちゃんにしては、本当に珍しいや……本当に変なの」


【燈馬】

「それはそうと……なんで、お前の姉ちゃんは、あんなにバカみたいにピアス着けてんだ……?」


俺はふいにそんな事が気になり、突発的に話を変えていた。


【巴】

「あぁ……アレは、“男避け”らしいよ? ふふっ、お姉ちゃん……“凄くモテる”からね」


【燈馬】

「は……はぁ……ファッションじゃないのね――」


俺はてっきりファッションで、盛っているのかと勘違いをしていた。


しかし、そうではないらしい……。


【巴】

「ほら……お姉ちゃん、ちょいイケメンじゃん? だから、男も女も……昔からよく寄って来たんだ」


【燈馬】

「そりゃ……大変だな、お前の姉ちゃんは……うん」


俺は考えただけでゾッとした。


両方から寄って来られたら、きっと……裸足で逃げ出す事だろう――。


【巴】

「うん……だから――派手にして、あまり近寄らせない、オーラを放つ様になったんだ……」


【燈馬】

「た……確かに――なんか凄いもんな、お前の姉ちゃんの圧。あんな耳に、ギラギラ大量のピアスあけてたら、ビビるもん普通」


正直なトコロ、俺は葵には近付きたくはなかった。


しかし――こうなってしまえば話は変わる……。


アッチから勝手に接触してきたのだから。


とんだ迷惑だった。


【巴】

「ハァ……私達、“本当にモテて”、モテて――“嫌になるよ”……ほんっとに、本当……」


【燈馬】

「まぁ……コッチはコッチで、ほんっ――と……“お前がウザすぎて死にそう”だわ……」


俺は目を瞑りながら本音を吐露していた。


本当に俺にとっての天敵が現れた気がして、仰向けのまま、酷く目眩がしていた。


【巴】

「さっ……楽しいお話はオシマイ!! マッサージしてあげるから、うつ伏せになって?」


【燈馬】

「分かったよ……その前に、どけよお前――いつまで覆い被さる体勢とってんだ……」


――ススッ……タンッ――。


【巴】

「あ〜あ、やっぱり燈馬は噂通り、とっても怖い人だね……巴――少しだけ傷ついた……グスンっ……」


【燈馬】

「いやいやいやいや……グスンじゃねえよお前……」


【燈馬】

「ったく――そう言うトコロだぞ? 少し、黙ってしおらしくしとけや……いや、マジで“怖いのはお前だよ”――巴……」


【巴】

「クススッ――まぁ……イイじゃない? ほら、どいたんだから、早くうつ伏せになってよ!!」


【燈馬】

「わかったよ……ハァ……疲れる――ナニこの子……」


俺は本当にグッタリしていた。


そして……この後――色々とあるのだろう……きっと。


〈巴の部屋・マッサージ後・夜〉


――結局、本当に……“色々と起きてしまった”。


俺と……シークレットキャラである、新ヒロインは……。


それはそれは、スンゴイ……色んなコトをした。


頭がオカシクなりそうなほど……巴に俺は――。


【巴】

「ふぅ……燈馬? “良かったでしょ”……ふふっ――」


【燈馬】

「ぐぎっ――いや……あぁ……“俺の負けだよ”」


ベッドの上で、俺達は少し会話をする。


そして……俺は情けなく巴に負けたのだ――。


【巴】

「そんじゃ――“彼女さんと仲良くね”……?」


【燈馬】

「あぁ……もう――“俺に絡んで来んなよ”?」


【巴】

「うん……分かってるよ――燈馬……んっ――」


……チュッ――。


巴は俺の頬にキスをする。


【燈馬】

「はぁ……もう――行かねえと……。日が落ちた、ちょっとお前んちの風呂借りんぞ?」


【巴】

「えっ……? イイけど、“本当に用事がある”んだね……?」


【燈馬】

「あぁ……“ちょっとな”――」


【巴】 

「ふぅ〜〜ん……? あ……分かった――“彼女さんのトコロ”に行くのね?」


【燈馬】

「まっ――そんなトコロだ。それに、こんな状態で外に出たくねえし……」


【巴】

「まぁ……そうだよね? クヒヒッ……あぁ……凄かったな――ビックリしちゃったよ……燈馬に……」


【燈馬】

「あっそ……イイ経験出来て良かったな?」


【巴】

「うん……アリガト――燈馬……んっ――」


……チュッ――。


【燈馬】

「……そんじゃあな――“二度と俺に絡むな”」


【巴】

「うん……“またね”? “燈馬”――」


【燈馬】

「または二度とない!! 以上!!」


――バッッ!! ダッダッダッダッダッ!!


【巴】

「あっ……」


俺は、それはもう――脱兎の如く、全速力で巴の部屋から逃げ出した。


姫乃恋とはまた違う……。


――“そんな危険な気配がした”のだ。


そして……シャワーへ向かう途中――。


葵とバッタリ出くわした……。


〈葵の自宅・リビング〉


【葵】

「うげっ――アンタ……スンゴイ――ボロボロよ?」


【燈馬】

「あぁ……“お前のヤベェ”……“妹にヤラれた”」


【葵】

「はぁ……やっぱりアイツ……ヤリやがったな――」


【燈馬】

「悪いけど、ちょっとだけシャワー借りんぞ?」


ココで俺は葵と話を交わす時間はなかった。


【葵】

「あ……うん。あ――そうそう、アンタ冷蔵庫にコンビニで買ったモノ入れてたでしょ……?」


【燈馬】

「あ……忘れてた、悪い――洗面所辺りに置いといてくれ!! ちょっと時間がなくてな……」


【葵】

「わ……分かった。“話は明日にでも”、しましょ?」


【燈馬】

「う〜ん……まぁ……そしたら――昼過ぎ辺りに、お前んち寄るわ」


明日の展開は知っている。


朝から瞑にお出迎えされ、そのまま喫茶店へ。


その後は、バッティングセンターに向かい……。


ファミレスで五人衆と飯を食い――。


その後、寂れた公園でタバコをふかし、夜に喧嘩。


超ハードスケジュールだった……。


【葵】

「でも、アイツ家にずっと居るわよ?」


【燈馬】

「んなもん……どっか外で話しゃイイだろ」


【葵】

「それもそうね……どうせ、アイツ寒くて外出ないだろうし――」


【燈馬】

「あぁ……そんじゃ、コンビニの袋、洗面所辺りに置いといてくれ」


【葵】

「うん、じゃあね……? 燈馬」


【燈馬】

「あぁ……また明日話そう」


――こうして俺はシャワーを浴びた後……。


月宮雅の自宅へと向かう。


まだまだハードな展開を喰らいそうで、軽く目眩がしていた。


しかし――姫乃恋との一件以来――。


物凄い色々な耐性が付き、なんとかなりそうだった。


それくらい――姫乃恋はイカれていたのだ……。


嫌でも耐性は付いていた。


そして――今度こそ俺は……。


姫乃恋を回避しながら、ハッピーエンドへ向かう。


そんな、絶対に負けられない戦いが始まった――。

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