厭な話へドカドカ向かう。

〈空発学園・正門前・放課後〉


――午後の授業をアレから真面目に俺は受けた。


最初は授業内容にチンプンカンプンだった俺だが、授業内容はナゼか理解できていた。


燈馬の記憶の一部が残っているのか、なんなのかは分からない……。


とにかく、超ご都合展開で笑えるほどだった。


――そうして約束通り、四人は正門前に集まる。


【燈馬】

「よし、ちゃんと待っててくれたな?」


【燈馬】

「偉いぞお前ら、俺達に付き合ってくれて」


【葵】

「一体なんなのよ……ホントに――」


葵はとてもバツが悪そうに、自分の体を抱き締め、少し俯いて見せた。


きっと、余計な事に巻き込まれるのが嫌なのだろう。


俺の目にはそう見えてならなかった。


一方の守は――。


【守】

「……おい――森燈馬……あの後、“本当に大変だった”んだぞ?」


【燈馬】

「んっ……? なんかあったのか……?」


俺と瞑は目を合わせ、はて……? と、ポカーンとしていた。


一体、ナニがあったのか分からないのだ。


【葵】

「はぁ……あの後、“恋が戻ってきて”――」


【守】

「俺達は……恋に伝えたんだ。森は恋の誘いを断るって言ってたぞと――」


【燈馬】

「ほぅ……? で、どうなったんだよ……?」


なんだか厄介な展開にならないかと、俺は内心ビクビクしながら話を聞いていた。


【守】

「そしたら……“嫌だ”とか言い出してだな――」


【葵】

「“今日は無理”でも、“今後も誘う”ってさ……アンタの事」


【瞑】

「……はぁ――“厄介なコト”になったわね、燈馬」


本当に瞑の言った通り、厄介なコトになった。


俺は本当に頭を抱えそうになった。


でも、次に進まなければならない――。


【燈馬】

「ココで立ち話もなんだ……喫茶店でも行こうぜ」


【瞑】

「そうね……姫乃さんとココで会ったら最悪だし」


【守】

「あ……あぁ、行こうかそれじゃ――」


――俺達はそのまま正門前を後にした。


〈繁華街・寂れた喫茶店〉


――店内に入り、適当な席に俺達は座った。


俺達四人は暫く無言を貫いた。


なんだか……とても空気が重苦しくて、息が詰まりそうだった。


そんな空気をぶち壊してくれたのは――。


【マスター】

「ハイ、お待たせ!! あ、“燈馬はコーラね”?」


……スッ――コトッ――。


【燈馬】

「なんでやねんっッ――?! ホットコーヒー頼んだんだけど? 話聞いてねえよこのマスター!!」


俺の眼の前に置かれたのは、キンキンに冷えたコーラだった。


しかし、コレがキッカケで、重苦しい空気が軽くなって行く。


【マスター】

「いやいやぁ……燈馬はコーヒーとか一切飲まなかったし? ハハハハハッ――!!」


【燈馬】

「このマスター怖すぎだろ……いや、まぢで……」


人の注文を勝手に変更し、超笑っているのだ……。


俺は恐怖でしかなかった。


【マスター】

「――いや、“お前らの空気の方が怖いぞ”……?」


【燈馬】

「あぁ……そうかもな。でも、よかったよマスター」


【燈馬】

「お陰で、本当助かった。美味しくコーラいただくよ」


【マスター】

「ふぅ……そうしてくれ。じゃあ、“仲良くな ”?」


【守】

「は……はい」


守は妙に大人しく答えた。


【マスター】

「――しかし、“珍しい組み合わせ”だ……」


【マスター】

「くれぐれも、“喧嘩しないように”な……?」


【瞑】

「大丈夫よ、これから建設的な話し合いをするのだから……」


そう、俺達は建設的な話し合いをする。


――現状を変えるために。


【マスター】

「もうすぐ店閉めるけど、話し合いが終わるまでお前達だけ残してやる」


【燈馬】

「それはありがたい……。ありがとうマスター」


【マスター】

「あぁ、良いさ。なんか食べたくなったら、どっかのタイミングで呼んでくれ」


【燈馬】

「あぁ……そうさせてもらう」


こうしてマスターは、気を利かせて、その場から離れていった――。


そして、ここから建設的な話し合いが始まった。


【燈馬】

「――ゴホンッ……まず、来てくれてありがとう」


【守】

「いや、いいってそんなの……なんだか知らないけど、俺達に話があるんだろ?」


【瞑】

「そう……アナタ達に大事な話をしなきゃ駄目なのよ」


【葵】

「それって……“恋のコト”?」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。ソイツが今、“大問題を起こしている”んだよ」


【守】

「森燈馬……“キミにチョッカイ出す件”だね……?」


【燈馬】

「あぁ――そうだ。あと、森燈馬はやめろよ?」


【燈馬】

「燈馬でいい。その代わり、お前の事も守と呼ばせてくれ」


【守】

「あ、うん。それはいいよ。で、話の続きは?」


【燈馬】

「……単刀直入に言う、“ナゼお前らは恋を止めなかった”?」


俺は二人に言い放った。


なんでコイツらは、俺に恋を近づかせる事を、止めさせなかったのかと……。


【葵】

「……私も守も伝えたさ――何度も何度も、森燈馬に近づかないでと」


【守】

「あぁ……これは本当だ。燈馬……お前は危険だからと、恋にちゃんと俺達は伝えていた」


【瞑】

「ふふっ……その結果――“この有り様よ”……?」


瞑は、絆創膏やらガーゼまみれの俺の顔へ、指を指す。


【葵】

「いや……黙ってたけどさ……」


【葵】

「もしかして、“その怪我”、“恋が関係”してる?」


葵のその問い掛けに俺は頷いた。


【燈馬】

「――直接ではないが、間接的に関係してる」


【守】

「“ナニがあった”んだ……?」


守は神妙そうな面持ちで、俺に話を聞いてきた。


だから俺は……。


【燈馬】

「――まず、その前に“約束”してくれ」


【燈馬】

「“今から話すコトを怒らない”と……」


【葵】

「……ふぅ――まぁ……状況によるけど分かった」


【守】

「分かった。話してみてくれ」


そして俺は二人にナニがあったのかを伝えた。


まず、俺と恋は下駄箱前で遭遇した事。


そして腰痛が大爆発して、介抱されて家まで行った事。


その後……恋に誘惑されて――色々あった事。


葉子に鉄拳制裁を受けた事。


包み隠さず全部、二人に伝えた。


【燈馬】

「話は以上だ……。ただ、一つだけ謝らせてくれ」


【燈馬】

「あの時……這いつくばってでも、恋から逃げればよかったんだ――」


【燈馬】

「それが出来なくて、本当にすまない……」


俺は二人に頭を深く下げた。


コチラにも落ち度が無いと言えば嘘になる。


理由はなんであれ、恋と関係を持ってしまったのだから……。


【葵】

「ふぅ……なんと言うか……“災難”ね本当に――」


【守】

「そうか……燈馬……“お前と恋は”――ふぅ……」


なんだか守は凄くガッカリした様子だった。


きっと、恋に惹かれているのだろうから……。


【燈馬】

「守……お前、“恋の事は好きか”――?」


そして俺は、デリカシーの一切ない事を聞いていた。


【瞑】

「ちょっと、燈馬……? なんで、今そんな事を聞くのよ? 穂村さんがいる前で……」


【燈馬】

「いや、“大事なコト”だから聞いてんだよ」


俺にとってはとても、大切なコトだった。


そんな俺の問い掛けに守は――。


【守】

「あぁ……好きさ。でも、“お前に取られちまった”」


俺はとても嫌なコトを聞いてしまった。


守にとっては本当に辛い事だろうから……。


【燈馬】

「守、話を聞いてくれ。大切なコトを今からお前に伝えるから」


【守】

「あぁ……なんでも伝えてくれ。なんだか、吹っ切れた気がするよ」


素直に状況を理解したのか、守はふっと――表情が明るくなっていた。


【燈馬】

「俺には瞑がいる。だから、恋とコレからどうこうなるつもりはないんだ」


【燈馬】

「そこで、守。“お前は恋を守ってやれ”よ……」


【守】

「はっ……? “俺が恋を守る”――?」


守はとても驚いた表情をしていた。


なんとなく、今更感を感じているのだろう……。


【燈馬】

「お前……恋のコト好きなんだろ? だったらこの先、“ナニかあった時”、“お前が恋を守るんだ”」


姫乃恋はとてもモテるだろう。きっと……この先、変なヤツに絡まれて、大変なコトに巻き込まれない保証はドコにもない。


それこそ、そんなことになれば俺達も悲しい。


関係が出来た今、恋にナニかがあった時、知りません、分かりませんとはならないのだ……。


【瞑】

「そうよ……そして、“姫乃さんと結ばれなさいよ”」


瞑は俺の言いたかった部分を、先に伝えてくれた。


そう……まだ主人公である宮原守と、姫乃恋とのルートは残っている。


ココで俺達が二人を繋ぎ止めないと、こっちまで毒が回り、内部から壊されてしまうのだ。


【守】

「出来るのかな……恋を止められなかった俺が――」


そんな弱気な守に俺は……。


【燈馬】

「出来るか出来ねえかじゃねぇ……“やんだよ”」


【燈馬】

「んなこと、どうだっていい――やるんだ」


【守】

「燈馬……お前は強いねホンっと――コッチが惚れそうだよ」


【燈馬】

「よしてくれ――野郎に興味はねぇんだ……ほんと、マジ勘弁――」


【葵】

「……応援するわ。私も守のコト――」


葵はなんだかとても悲しそうに見えた。


きっと、葵は守に恋心を抱いているのだろう。


俯きながら、ただただテーブルを見詰める葵を見て、俺はそう感じ取っていた。


【守】

「……分かった。なんとかして、止めてみせる」


【燈馬】

「マジで頼むぞ……? コッチは実害出てんだ……」


【燈馬】

「それと、恋に伝えとけ。今後俺がお前と絡む事はない。そして、迷惑だから絡んでくるなと」


本当は直接、俺から伝えるべきだろうが……。


それはとても危険なコトだ。


流れのまま、色々とヤッてしまう可能性しかない。


可能性があるじゃなく、“それしかない”のだ……。


【葵】

「私からも伝えとくよ。森燈馬から忠告受けた事と、そもそも近づくなって強くね?」


【燈馬】

「……あぁ、よろしく頼む」


――スッ……。


俺は葵に右手を差し出す。


【葵】

「あ……“握手”――?」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。“コレからよろしくの挨拶だ”」


意味は無い。


ただ、これからコイツらにお世話になるのだ。


握手くらいはしておきたかった。


【葵】

「分かったよ――ハイ……」


……ギュっッ――!!


そして葵と握手を交わし、守にも俺は右手を差し出した。


【燈馬】

「マジで頼むぞ守……コッチに迷惑掛けてくんなよ? “見てみろこのボッコボコな顔を”……」


【守】

「あっ――はは……“本当に申し訳ない”――」


【燈馬】

「ふぅ……ほら握手だ――」


【守】

「あぁ……よろしく――」


……ギュッッ――!!


俺達は強い握手をした。


姫乃恋は俺から守へバトンタッチする。


お互い――“守らなくてはいけないモノ”がある。


そんな握手を交わした。


そう――“本当に色んなモノを守る覚悟”を交わして……。


そうして話し合いは終わった。


【燈馬】

「さて……そんなワケ――だ……?」


――ススッ……カタッ――。


【恋】

「あれれ……? “みんなココでなにしてるの”?」


【燈馬】

「“恋”……か――」


話し合いは終わった。


しかし――“予想外のモノが現れた”……。


【葵】

「恋……森燈馬に近づかないで。燈馬はアンタと関わりたくないってさ?」


葵はビクビクしながらも、しっかりと伝えてくれた。


俺は葵の事を見直していた。


なんだか、男より男らしい……そんな気がして。


【守】

「実は、恋……“キミのコト”で話し合いをしていたんだ。」


守も嘘をつかずにちゃんと恋に伝えていて、俺の評価は上がった。


【恋】

「ふぅ……燈馬くん――“恋のコト”……“嫌いなの”?」


【燈馬】

「……好き嫌い以前に――俺、“彼女いるってお前に言った”じゃん? 話……聞いてたお前……?」


【恋】

「ふぅ〜ん……? “あんなに朝までシタのに”……」


【燈馬】

「バッ――?! やめろ、みんなの前で?!」


俺はめちゃくちゃ焦っていた。


恋の口から、ナニが飛び出してくるか、怖くて怖くて仕方がなかった。


【恋】

「燈馬くん……“凄く悦んでた”じゃない……」


【燈馬】

「マジでやめてくれ――“それ以上は駄目だ”」


俺はたまらず瞑に――。


【燈馬】

「瞑……財布渡すから会計行ってきてくれ」


【瞑】

「あ……う、うん!! 分かった」


すぐに瞑は会計に席を立った。


【恋】

「“あの子が”――“彼女さん”……?」


【燈馬】

「あぁ……“アレが彼女”だよ」


【恋】

「ふぅ〜ん……? いつも燈馬くんの側にいるもんね? ふふっ――本当、小柄で可愛い彼女だ……」


恋は嫌な笑みを浮かべ、厭な嗤いをしていた。


ニヤぁ……と、物凄く悪い笑みに厭な嗤いを。


色々と混ざって、本当に恐ろしい姿だった。


俺は心底、恋に震えていた。


【燈馬】

「恋……“絶対に瞑には手を出すな”よ――?」


【燈馬】

「もし……手を出せば――“俺はお前をブッ飛ばす”」


それでも、俺は恋に言い放った。


恋はナニを考えているか分からない――。


でも……なんだか厭な気がしたのだ。


コイツは本当に危ないと本能が伝えていた。


【恋】

「出さないよ〜〜? “あの子には手を出さない”」


【恋】

「“私が手を出すのは”――“一目惚れした”……君、“燈馬くん”だから……」


それも厭な話だった。


結局、コイツは止められない気がして、俺は己の無力感に頭を抱えた。


【瞑】

「――会計終わったよ……? そろそろ出よかっ?」


本当に良いタイミングで瞑は戻ってきた。


【燈馬】

「そんなワケだ……“瞑には絶対に手を出すな”」


【燈馬】

「話はそんだけだ。瞑――行こう」


俺達は先に喫茶店を出る事にした。


撤退間際、マスターがアチャ~と、頭に手を当てる姿が見えた。


そんなマスターにご馳走様でしたと、無言で手を合わせて、喫茶店から俺達は抜け出した。


〈繁華街・喫茶店入口・夜〉


――外に出ると、グッと歩く人々が多くなった。


そんな雑踏の中、俺達はただ呆然と立ち尽くした。


【燈馬】

「瞑……“姫乃恋は”――“止められないかも”……」


【瞑】

「えぇ……“アレはもう”――“色々とヤバいかも”……」


夜の繁華街はキラキラ煌めいて幻想的だった。


でも……そんなコトより――。


グッと濃くなるバッドエンドの匂いに……。


俺は本当に頭を抱えていた。


【瞑】

「燈馬……私、“大丈夫だから”ね? 例えアナタが他の女の子と繋がっても――」


【瞑】

「“必ず”――“私の元に帰って来るって信じてる”から……」


【燈馬】

「あぁ……必ず瞑――“お前の元へ戻る”」


俺達はお互い理解していた。


瞑は俺が色々とコレから、巻き込まれていく事を。


……そして、同時に俺が瞑の元に戻る確信を。


俺はナニがあっても、瞑の元に戻る事を。


お互い受け入れたくないコトだ。


しかし――受け入れるか方法は無かった。


【燈馬】

「すまん……瞑――“止められなくて”……」


俺はただ謝った。


それしか今は出来ないのだ……。


【瞑】

「ううん……“アレは無理”――私達じゃ……止められない。いや――“アレが止まらない”のねきっと……」


【燈馬】

「あぁ……“少しだけ”――“寂しくさせる”」


【瞑】

「ううん……さぁ――“行って”……」


俺達の前には……姫乃恋が立っていた。


喫茶店前で、無力感に苛まれていた俺達の前に――。


【恋】

「渡したでしょ……? 手紙」


【恋】

「放課後に図書室に来てって……」


【燈馬】

「断ったハズだが……?」


【恋】

「いや……燈馬くんの口から聞いてないよ?」


【燈馬】

「……で、“どうしたいんだよ一体”――」


【恋】

「また――“家に来て”……まだ燈馬くんとお話足りないの……」


【燈馬】

「ふぅ……分かったよ。足りないなら、足りるまでお話してやる」


【恋】

「うふっ――嬉しい……それじゃ――行きましょ?」


【恋】

「燈馬くん……?」


……ぎゅっ――。


【燈馬】

「すまん……瞑――“また明日な”――?」


【瞑】

「えぇ……また――“明日ね”燈馬……」


そして――。


俺は姫乃恋に手を引かれ……。


瞑の下から離れて行く――。


繋がりたいのに……繋がれない俺達は――。


本当に運命のイタズラに翻弄されていた……。

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