悪役と本当の主人公。

〈学園内・Aクラス・昼休み〉


――俺と瞑は駆け足で屋上から、宮原守と穂村葵がいるクラスへ向かった。


体のアッチコチが凄く痛んだ。


しかし――今はソレどころではない……。


お昼休みが終わる前に、アイツらを見つけなくてはならなかった。


そして……お目当ての人物達はいた。


呑気に弁当をつまんでいる二人の姿――。


【燈馬】

「……はぁ、ハァ、はぁ――“チョット邪魔すんぜ”」


俺はAクラスの扉を思いっ切り開け、息を切らしながら教室の扉の前にいた。


教室にいた連中はやかましい会話を止め、一気に静寂に包まれた。


――そんな中、“一人だけ”俺に口を開く者がいた。


【守】

「森……燈馬――なんだよ、“なんの用だ”……?」


続けて、もう一人も口を開いた。


【葵】

「――恋はいないよ。トイレにさっき行ったから」


――教室内は厭な空気が漂っていた。


なんだか……来てほしくないヤツが現れて、ズーンと重たい空気を纏った様な、そんな重苦しい気配に変わる。


教室の奴らは沈黙を貫き、関わりたくなさそうに、静かに弁当を摘む者、目ん玉をガッと開き、驚いて固まったヤツ――。


本当に様々な様子を見せていた。


【燈馬】

「……ふぅ、そりゃ助かる。“お目当ては姫乃恋じゃない”からな? 正直、“いなくて助かるぜ”……」


――なんだか俺はホッとしていた。


……姫乃恋はこの場にはいないのだから。


ナニよりも嬉しい事だった。


【守】

「なら……“なんの用”で、“押しかけてきた”――?」


宮原守は俺を怪訝そうな表情で見据えた。


この未完のWEB小説――。


“本当の主人公な宮原守”は、金髪でとても顔の整ったイケメンな野郎だった。


そんな正真正銘、主人公様な守に俺は……。


【燈馬】

「――単刀直入に言う。“今日の放課後空けとけ”」


【守】

「ど――どう言う意味だよ……空けとけって――」


【燈馬】

「おい……“オマエ”もだよ、“穂村葵”」


【葵】

「あ……私も?! 意味分かんない……」


二人は本当に理解に苦しんでいる様子だった。


葵は肩まで掛かる青髪を、カシャカシャと掻いて俯いていた。


耳にはたくさんのピアスをし、キラキラを通り越して、ギラギラと輝かせる。


気の強いキャラだと思いきや、なんだか普通に見えて、俺は少しだけガッカリしていた。


もっと、こう……高圧的な態度で接してくると思ったのだ。


【燈馬】

「“とにかく時間がねぇ”……イイか? お前ら二人は放課後になったら、学園の門の前で待っとけ」


【守】

「一体……なんの用だってんだよ? なんでお前みたいな、“危ない奴”に付き合わなきゃならない?」


――それは半分正解で“半分は不正解”だ。


森燈馬はナニかに巻き込まれ、そしていつの間にか悪役に成り代わった。


俺は段々と理解してきていた。


そして――今はとにかく、姫乃恋と遭遇する前に、コイツらを説得しなくてはならない……。


【燈馬】

「“お前らに伝えなきゃならねぇ”……“コトがある”」


【瞑】

「そうよ、アナタ達に伝えたいコトがあるの」


そう――俺と瞑は、守と葵に伝えなきゃならないコトがある。


【葵】

「――ふぅ……つまり、“大事な事”なのね――?」


葵は少しの沈黙を破り、俺達に問い掛ける。


【燈馬】

「そうだ……“お前達の力が必要”なんだよコッチは」


そう……俺達は、“コイツらを利用 ”しなくてはならない――。


“姫乃恋の暴走”を止める為に……。


今の俺達には、姫乃恋は危険過ぎる。


俺達の関係を、“全て破壊する力”があるのだ……。


【葵】

「“イイんじゃない”……?」


【守】

「イイんじゃないって……葵お前……」


【葵】

「なんだか分からないけど、“この二人は真剣そうに見える”し? なにか事情があるんじゃない?」


【守】

「……納得いかないけど、分かったよ。放課後に会おう」


【燈馬】

「分かりゃイイんだよ……“それと”――」


【葵】

「な……なに? “続きがあるの”――?」


俺は静かに伝える事にした。


【燈馬】

「“姫乃恋に伝えとけ”……俺は、“お前の誘いに乗らない”と――」


【葵】

「――分かったよ、伝えとく恋に」


【燈馬】

「そんだけだ、邪魔したな野郎共。行くぞ――瞑」


【瞑】

「あっ……うん。そんじゃ、“後でねお二人さん”」


【守・葵】

「…………」


二人は長い沈黙を見せた。


そのまま俺達は、逃げる様にその場を後にした。


〈屋上〉


――そんなこんなで、また俺達は屋上へ来ていた。


【燈馬】

「はぁ……よかった……アイツら普通に教室にいて」


【瞑】

「本当に助かったわね」


【燈馬】

「それに……姫乃恋がたまたまいなくて、それも本当によかったぜ――」


【瞑】

「確かに……あの場にいたら、気まずかったでしょうし――」


【燈馬】

(……そう考えると、本当によかった。みんながいる前で、姫乃恋にお断りを入れる事になるんだ)


俺は本当にホッとしていた。


本人にあの場でお断りをするのは、少しだけ気が引ける話だ。


……自分が恋だったら、凄く気まずいと感じた事だろう。


この部分だけは、本当に運が良かった。


【瞑】

「さっ……お昼休みが終わる前に、菓子パンでも食べましょう?」


……スッ――ポンッ――。


【燈馬】

「お――おう? あんがとさん、瞑」


【瞑】

「天気は少し悪いけど、それでも……“静かでイイわね”」


【燈馬】

「あぁ……“ムカつくほど寒い”けどな――」


屋上の上に広がる空は少し鉛色をして、お昼だと言うのに、まだ気温が上がってはいなかった。


時折、吹く強い風がとても冷たくて、嫌になる。


でも……こうして瞑と二人で、静かな空間を過ごせるなら、悪くはなかった。


……コッ――。


【瞑】

「はい、“ブラックの缶コーヒー”」


【燈馬】

「わりぃ……すんぎょい助かるわ――うん、ガチで」


【瞑】

「ふふっ……なに、“すんぎょい”って……?」


【燈馬】

「――それはな、凄いを越えて、物凄いを超えて、それはもう凄いの極みだ」


【瞑】

「ふふふっ――意味分かんないよ燈馬……?」


【燈馬】

「“意味なんて分からなくてイイ”の、とにかくありがとうってこと!!」


そう……意味なんてどうでもいい。


俺はコレを待ち望んでいたのだ……。


“ナニかが足りない”と感じていた。


この“虚無感を埋める唯一のアイテム”……。


それは、“缶コーヒーのブラック”だった。


俺はそのまま、菓子パンを光の速さで食べて――。


……カチッ――ボッ――ジジッ――チリチリ……。


【燈馬】

「瞑、ユックリと菓子パン食べてろ。俺はコレから“タバコとコーヒータイム”だ……」


俺は瞑の傍から離れ、コーヒー片手に屋上の手すりに近づき、タバコをふかす。


【瞑】

「う〜ん……なんでだろう――なんで“燈馬から哀愁が漂ってる”の……?」


そんな瞑に俺は――。


【燈馬】

「まぁ……女にも色々あるように――」


【燈馬】

「男もまた――“色々と抱えるモノがある”……」


【瞑】

「は……はぁ……」


瞑は俺の話を理解していない様子だった。


ただただ菓子パンを小さな口で、少しずつ食べていた。


そんな瞑の姿も可愛らしく見え、とってもよかった。


ちょこんと足を崩し、屋上の床に座って、ハムハムと菓子パンをひたすら食べているのだ。


とっても健全に見えて俺はとてもホッコリしていた。


――カシュッ……。


【燈馬】

「……んっくっ、ンっくっ――ふわぁ〜〜おぅ!!」


【瞑】

「なっ――なに? どうしたの……?!」


俺は缶コーヒーのプルタブをあけ、天を見上げる様にコーヒーを胃に流した。


脳天を貫くコーヒーの薫りと、苦みが一撃で全身に駆け巡り、それはもう……。


ふわぁ〜〜おぅ!! だった――。


【燈馬】

「ッカァ……ヤバい――キンキンに冷えたコーヒーが美味すぎて涙でるぜ……本当」


【瞑】

「なにそのお酒飲んだ時の様な、テンションは?」


【燈馬】

「酒? 飲まねえよあんなもん……飲めば飲むほどテンションが下がって、ぶっ潰れちまうよ……」


俺は想像を絶するほど酒に弱かったのだ。


酒の席でぶっ潰されかけ、それ以来――。


酒を本当に避けて来たのだ。


【瞑】

「ふむ……本当に変ね今のアナタは。記憶がある時は、コーヒーなんて泥水とか言ってたのに……」


【燈馬】

「“人は変化をし続けるモノ”だ……」


【燈馬】

「すぅ……ふぅ……そうだな――昔、苦手な食べ物があったとする――」


【燈馬】

「でもよ……“大人になりゃ”――案外食べられる様になった……そんな感じだろうきっと――」


うまく俺の言葉が瞑に伝わるか、正直分からない。


しかし――人は環境や状況に応じて、変化をしていくモノなのだ。


それを受け入れるか――受け入れないか。


ただ、それだけの話だ。


【瞑】

「なに“哲学的なコト”言ってんのよ……ふふっ、本当に変なの……?」


瞑は菓子パン片手に微笑んでいた。


俺には瞑の感情が全然分からない――。


でも、分からなくてもイイ。


――ただ、瞑が微笑んでいるならば。


きっと……この子は不憫な思いをしてきたのだ。


記憶がある時の燈馬は、この子に対する気持ちは薄れて、月宮雅に惹かれていたのだから……。


俺に出来る事はただ一つ。


ただ、瞑が微笑んでいる姿を守るコトだけ。


俺にとっては“初めての相手”なのだ。


この出逢いを不幸なモノにはしてはイケナイ。


この先はバッドエンドなのか、それともハッピーエンドへ向かうのか……。


全くの未知数な状況だ。


それでも足掻き続けるだけ――。


本当に俺は、瞑を守る事が出来るか分からない。


それでも、やるしかないのだ。


例え、かりそめの存在だとしても――。


今、俺は“こうして生きている”。


【燈馬】

「すぅ……ふぅ――さて……そろそろ行こうぜ?」


屋上はさらに風が強くなり、厭な気配を漂わせる。


【燈馬】

「なんか……寒くなってきて、無理だわ屋上にいるの……」


【瞑】

「そうね、なんだかとても寒くなってきた……」


【燈馬】

「ふぅ……そんじゃ、午後の授業を真面目に受けるか」


【瞑】

「えぇ……行きましょう」


――こうして、俺達は午後の授業へ向かう。


その後は、遂に主人公達と話し合いになる。


屋上に漂う厭な気配を切る様に、俺達は屋上から駆け足で抜け出した。


物語は進んでいく。


ドコに行き着くか分からぬ状態で。


着実に、一歩一歩ジワジワと……。

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