悪役、ケジメをつける。

〈街外れ・寂れた公園・朝〉


――ファミレスで朝食を取り、俺達五人衆は街外れにある寂れた公園へ来ていた。


公園にある時計を見ると、午前9時を指していた。


とても寒い公園内には俺達しかおらず、本当に静かな朝だった。


ブワワッ――っと、ヒュウゥウッウッ〜〜っと、本当に寒い風が吹き荒れて、身も心も、すぐに冷えっ冷えになった。


俺は約束通り、葉子にぶん殴られにココに来たのだ。


主人公サイドのヒロイン、穂村葵とココで出逢い、一瞬で立ち去らせたこの公園に……。


――ザシュッ……。カチャッ――すっ……。


葉子は赤ぶちメガネを外し、鋭い目線を俺に向けてきた。 


【葉子】

「さあて……とりあえず、本当にアンタをぶん殴らせて貰う――」


【燈馬】

「あぁ……イイぜ? 殴れよ――葉子」


葉子と俺は寂れた公園内で対峙する。


葉子は俺の前に立ち、手をポキポキさせながら……。


【葉子】

「あぁ……“アンタの言った通り”、何発も……何十発も撃ち込んでやるよ――」


俺は本当に厭な汗をかいていた。とんでもない寒空の下、脂汗のようなモノがドッ――っと、吹き出す様な感覚が全身に駆け巡る。


茂と松之助はただ、腕を組んで俺達をただ見守っていた。


ココでチャチャを入れてくれると助かるが、ただ見守ってくれるそんな二人にも助かっていた。


……正直、これから葉子にボコボコにされると思うと、少しだけ億劫に感じる。


だけど――ココを乗り越えるしかないのだ。


この先――必ずこの四人の力が必要になるのだ。


バッドエンド一直線なこの状況でも、最後まで足掻き続ける為に、四人の力が必要なのだ。


問題は……“瞑”だった。


【瞑】

「ねぇ……“本当にヤルの”――? もう問題は解決したのよ? ねぇ……葉子――」


【葉子】

「いや……瞑とアンタ問題じゃない。月宮雅と関係持ったコトは、一歩譲って目を瞑る……」


【葉子】

「でも――“コイツは姫乃恋と関係を持った”」


【瞑】

「そ……それは、“事故みたいなモノ”でしょ?」


【葉子】

「いや……コイツはそれでも、“拒むべきだった”」


【燈馬】

「その通りだ――“拒めなかった俺が全て悪い”」


【葉子】

「だってよ……? 瞑、分かったら邪魔すんなよ」


そう……コレは俺の落ち度だ。間違いなく拒めなかった俺が全て悪い。


本当に嫌なら、這いつくばってでも、恋をぶっ飛ばしてでも、逃げるべきだったのだ……。


それをせずに受け入れた俺が全て悪いのだ。


【燈馬】

「瞑――そこで黙ってみてろ。これから“ケジメをつける”」


そんな俺のセリフと同時に、強い風が吹き荒れる。


これから始まるのだ――ガチ殴りの展開が。


そして、外野が騒ぎ始める。


【茂】

「よしっ!! 燈馬……“死なねえよう”に踏ん張れや!!」


【松之助】

「うむ……“死ぬなよ”、燈馬ッッ――!!」


【瞑】

「そう……なら、“早くヤッて”――葉子……」


その言葉を聞いた葉子は――。


【葉子】

「あぁ……覚悟しとけ――“ボッコボコにしてやる”」


【燈馬】

「あぁ……好きにしろよ葉子っッ――!!」


そして……。


【葉子】

「まずは――腹からぁッッ!! フンッ――!!」


――シュッッ!! ブンッッ――!!


ドッ――ごぉおぉッッ!! めりめりぃ〜ッッ!!


【燈馬】

「ゴッ――ァ゙――ッ――?! ァ……アガッ――??」


本当に手加減無しの、重たい拳が俺の腹に突き刺さり、メリメリと嫌な音を馴らす。


あまりの強烈な鉄拳制裁に、マトモに息が出来ずに思わずうずくまりそうになる。


だが……葉子は――。


――ドンッッ!! ズササッ――。


【葉子】

「おっと……“ココで倒れて貰っちゃ困る困る”」


【燈馬】

「ぐぅ――ハッ――ァぐっ――ぅッ――?!」


葉子は蹲りそうになった俺を手で押し、無理矢理立たせ――。


【葉子】

「次は……横腹に――一発蹴りを入れてやる!!」


――ブゥウゥゥンッッ!! ブワッッ――!!


空気を切り裂く音共に――。


ドッ――ガァッッ!! メキメキっッ!!


【燈馬】

「ッ――カッ――――?! ッ〜〜〜〜ッ!!」


……ズサッ――。 グンッッ――!!


超特大ダメージな蹴りを受けた。


嫌な音が脇腹に鳴り響き、悶絶級の痛みが横腹から全身に駆け巡る。


あまりの激痛に衝撃に、頭までバチバチと響く電流の様なモノが走り、厭な汗がブワッと吹き出しながら、意識を吹っ飛びかけていた。


しかし――俺は前屈みになりながらも耐える。


コレは燈馬の体に残る、“燈馬の意思”なのか、それとも俺の意思なのか……。


それは分からないが、俺はすんでで踏み止まる。


【葉子】

「へぇ……やっぱ“タフだわアンタ”――」


葉子のそんなセリフと共に風がビュウゥ……と吹いた。


そしてそのまま――。


【葉子】

「そんじゃ……“最後は”――“思いっ切り顔面ぶん殴って”、終わりにしてやる――」


【燈馬】

「……ぐぅッッ――グッ――ッ!!」


俺は歯を食いしばり、本当に覚悟を決め、葉子の一撃を受け入れる。


【葉子】

「とりあえず――一旦、“地面でおネンネ”しなぁッッ!! 燈馬ァアァアァ゙アァ゙ア”ッッ――!!」


――ブワッッ!! ヒュンッ――ッッ!!


ドッ――ばっぎぃいぃッッ――メリメリメリッッ!!


……プシュッ――!! ピシャッっ――!!


【燈馬】

「ゴッ――っッ…………」


グラッ……ガクッ――ふらぁ……ゴッ――バタッ……。


ポタッ……ポタポタッ……。


俺は膝から崩れ落ち――グラグラ揺れる視界の中、自分の鼻から吹き出したであろう、鼻血を眺めていた。


全身が痛くて堪らない……。


口の中には嫌な血の味がジワッと広がり、不快な味がしていた。


【燈馬】

「ゴホッ――ゲホッ――ゔぇッ――ゲボッ――」


ビシャっっ――!! ボタボタッ……ピチャ――。


口から血がこぼれ落ち、鼻からも流血し、本当に酷い有り様だった。


未完のWEB小説の最後――燈馬はナニモノかにヤラれる。


しかし、今は……“葉子”に殺されかけていた。


【葉子】

「おい……燈馬。お前――瞑を悲しませるんじゃねえぞ――“分かったな”……?」


【燈馬】

「あ……あぁ――はぁ、ハァ……“分かってる”――」


体の至るトコロが全部痛い、脳ミソも割れる様に痛い……。


体がガクガク震えて、起き上がれない――。


全身が鉛の様に重く、思考もマトモに出来ない。


【葉子】

「そんじゃ――また後でな? 茂、松之助? 先に学園に行こう……」


【茂】

「お疲れさん……燈馬。んじゃ、後でな……?」


【松之助】

「ふむ……よく全部受けた。流石燈馬だな!!」


【燈馬】

「あぁ……後でな――みん……な――」


グラッ……ドサッ――!!


【瞑】

「ちょっ――燈馬?! だっ――大丈夫……?」


【燈馬】

「あぁ……“ちょっとだけ眠い”んだ――」


俺はそのまま地面とキスをしていた。


本当は眠いじゃない……意識が本当に飛びそうで、目の前が真っ暗だった。


【葉子】

「瞑――後は頼んだよ? 私達先に行くから」


【瞑】

「葉子……アナタやり過ぎよ――本気で殴って蹴るなんて……」


【葉子】

「ハァ……“悪いのは浮気野郎”でしょ?」


【葉子】

「ねぇ……“燈馬”」


【燈馬】

「ゴホッ――ゲボッ――あぁ……“俺が全て悪い”……」


俺は血反吐を吐きながら葉子に返した。


【瞑】

「とりあえず……ベンチで休んで? 燈馬……」


瞑の心配そうな声が近くで聞こえる。


本当に悪役らしい最後にも感じられ、俺は心の中で酷く嗤(わら)った。


巻き込まれ体質でトラブル体質で、誤解されやすい悲劇の悪役に……。


そのまま俺は、瞑に介抱されて――。


ベンチで眠る。

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