タバコの煙に始まり、暫しの休息を。
〈燈馬の実家〉
――あれから俺は公園のベンチで一人、タバコを吸っていた。
その途中、主人公サイドのヒロイン、穂村葵と遭遇するが、半ば強引に追っ払った。
その後、ヤニクラ全開のまま、フラフラと家まで戻って来ていた。
家のリビングに置いてあるソファーに座り、グッタリしていると、燈馬の親父らしき人と出会し――。
【燈馬の親父】
「……燈馬か。今帰ってきたのか?」
【燈馬】
「あぁ……今帰ってきて、ソファーで休んでた」
俺は話を合わせるように、それらしき会話をする。
燈馬の親父らしき男は、とても燈馬に似て、背も高く、悪くない顔つきをしていた。
【燈馬の親父】
「ススッ……燈馬、お前、“タバコ”吸ってたのか?」
燈馬の親父は匂いを嗅ぐような仕草をし、俺にそう問い掛ける。
【燈馬】
「まぁ……そんなところだ」
恐らく、燈馬はタバコなんて吸わない。
ソファーに座り、グッタリしてる俺を見て、燈馬の親父は、とても驚いた表情をしていた。
【燈馬の親父】
「ほぉ……? まぁいい、家の中では吸うなよ?」
【燈馬の親父】
「昔……俺がタバコを家の中で、バカバカ吸ってた時期があってな、母さんに禁止にされたんだ」
【燈馬】
「分かった」
昔は、どこでもタバコは吸えた。でも、今は吸える場所が減って面倒なことになっている。
現実世界の俺にも、そんな時期があったことを思い出した。
【燈馬】
(台所で咥えタバコして料理作ってたら、母親に煙いと言われて、禁煙になったっけな……)
そんな懐かしい過去を思い出していた。
【燈馬の父親】
「――燈馬、出来ることなら、タバコなんて吸うなよ?」
【燈馬の親父】
「俺はタバコをやめる時、物凄く苦労したんだ」
【燈馬】
「分かってる……そんなこと」
俺自身も、出来ることならタバコなんてやめて、普通に生活したかった。
でも……そんなに簡単にタバコをやめるのは、簡単じゃない。
タバコというものは、強烈で危険なほどの依存性がある。
一度でもそれを味わってしまえば、もう終わり。
意思が超強く、ナニかを守る覚悟がある人間のみ、タバコを断ち切ることが出来るのだ。
今の俺はタバコをやめられそうになかった。
【燈馬の親父】
「はぁ……父さんもタバコ吸いたくなったよ、久々に……」
【燈馬】
「いやいや、やめときなって!! 絶対に吸わないでよ?!」
自分の家でタバコの香りがして、昔のことを思い出したのだろう。 燈馬の親父は凄く遠い目をしていた。
【燈馬の親父】
「そうだな、ここに居ると危ないから退散する」
【燈馬】
「お……おう? そうしてくれ」
そのまま燈馬の親父は、背中を丸めながら、2階へトボトボと歩いて行った。
俺の目からは、燈馬の親父はタバコに対して、未練があるように見えた。
なんだか、覚悟を決めて無理矢理やめた感が否めない……。
【燈馬】
「ったく……タバコなんて吸うもんじゃない」
【燈馬】
「ほんっ――と……」
俺はボーっとしながら、リビングの白い天井を黙って眺めていた。
〈キッチン〉
――しばらくソファーに座り、体調が回復した俺は、少し早めの夕飯を作っていた。
燈馬の家での夕食はどんな状態かは知らない。
時間になったら、勝手に夕飯が出てくるのか、それとも各自で用意するのか。
どちらにせよ、俺はお腹が空き、勝手に一人で夕飯を作ることにしたのだ。
――ジジジィ……シャカシャカッッ!!
カコンッ――ジャカジャカッッ!!
【燈馬】
「ふんふ〜ん……イイね――イイ感じよ……」
俺の今日の夕飯は適当に炒めた野菜炒めだった。
現実世界の俺は、各自で食事をするスタイルの家庭で、食いたきゃ勝手に作れがウチのルールだった。
小さい頃から両親は共働きで、夜にならないと家に帰っては来なかった。
だから、洗濯も料理も掃除も、一通り自分で出来た。
だけど、どうしたものか……。
社会に馴染めず、いつの間にか無職に成り果てた俺は、こうして未完のWEB小説の中にいる。
【燈馬】
「はぁ……どうしてこうなった……」
着実に完成に近づく野菜炒め。
俺はそんな野菜炒めを眺めながら、脱落してしまった自分に嘆いていた。
……タタタッ――ピタッ――。
【燈馬の母親】
「あらぁ〜〜? “珍しいこと”もあるのね?」
【燈馬】
「……あっ――いや……その?」
俺の背後には燈馬の母親らしき人がいた。
【燈馬の母親】
「アナタが、一人で料理してるなんてね?」
【燈馬】
「まぁ……俺もガキじゃないし、それくらいする」
長話をするつもりはなかった。俺はさっさと飯をかっ喰らい、さっさと寝て、夜に備えたかったのだ。
【燈馬の母親】
「……なに〜? “瞑ちゃん”にでも教えて貰った?」
【燈馬】
「あ〜いや、テレビかなんかで作り方見たんだよ」
余計なことを言うと、話が長くなると考えた俺は、適当にそれらしく伝えた。
【燈馬の母親】
「ふぅ〜ん? ねぇ、お母さんにも食べさせてくれる?」
【燈馬】
「ゲッ……?!」
【燈馬の母親】
「なによぉ〜そんなに嫌なの?」
【燈馬】
「いや……味とか適当だし、口に合わないよ?」
燈馬の母親は物凄くおっとりして、なんだかフワフワしていた。オレンジ色の髪を後ろに結い、とても可愛らしい人に見えた。
問題はそこじゃない……。
このまま絡まれ続けたら、長時間拘束されそうで怖いのだ。
【燈馬の母親】
「えぇ〜? イイじゃな〜い、食べさせて!!」
【燈馬】
「……分かった。ただ、食べたらすぐ寝るから俺」
長時間の拘束を回避するため、俺は予防線を張っていた。
【燈馬の母親】
「えぇ〜? “また夜に遊びに行く”の?」
【燈馬】
「あぁ……チョット用があってさ?」
【燈馬の母親】
「たまには家にいなさいよ、燈馬……」
【燈馬】
「今度、家でゆっくりするよ」
【燈馬の母親】
「ふぅ……いつからこうなったんだか――」
とても残念そうな燈馬の母親。
そんな燈馬の母親に俺は……。
【燈馬】
「“大人になれば出来ないこと”もある」
【燈馬】
「……だから、今はソッとしておいてくれ」
俺なりに、それらしい返答をした。
【燈馬の母親】
「まぁ……そうね? 若い頃はそんなものよね……」
【燈馬の母親】
「うっふふ――私も久々にお父さんと……ふふっ」
【燈馬】
「…………」
俺は黙っていた。
このあと、燈馬の母親と父親がナニをするのか。
――そんなことは考えたくもなかった。
〈燈馬の部屋〉
――燈馬の部屋はとても綺麗で、ほとんど物が無かった。
本棚には数冊の教材などがあり、その本棚の真ん中には薬箱が置いてあった。
田舎の爺さん婆さんの家にありそうなアレが。
俺はその薬箱に手を掛け、中から包帯やら軟膏などを取り出していた。
【燈馬】
「一応、怪我とかするかも知れないし……な?」
万が一のことに備え、俺はそれらを制服のポケットに入れた。
制服のジャケットのポケットにも、ズボンにも入れて準備を整え、そのまま俺はベッドに飛び込んだ。
――バフッッ……!! シュリシュリっ……。
【燈馬】
「あぁ……寒みぃ……うぅ……ハァ――」
今の季節はいつで、今は何月かも分からない。
ただただ……寒かった。
目を瞑った俺は、燈馬の母親とのコトを思い出していた。
【燈馬】
「ハハッ――結局……長時間拘束されたな……」
何故か一緒に野菜炒めを食べ、日常の会話を交わし、瞑とはどうだとか、もう少し早く家に帰って来いなど――。
俺は燈馬の母親と色んな話をした。
なんだか、“本当の母親”より、母親と感じたのだ。
現実世界の母親は、放任主義だった。
基本的に干渉してくることは無かった。
でも……この異世界な世界の中の母親は、俺が知る限り、普通の母親のように思えて――。
凄く安堵した。
きっと、普通の家庭の母親は、こんな感じなのだろうなと……。
そんな自分で考えた、理想上の母親と長時間会話し、凄く疲れたが、同時に話して良かったとも思えた。
【燈馬】
「ハァ……アッ――母ちゃん元気にしてるかな……」
俺はあくびをしながら、現実世界の母親のことを思った。
バカな死に方をした息子。そんな息子を見て、悲しんでいるか、それとも……笑っているのか――。
今の俺にそれを確かめる術は無い。
【燈馬】
「それでも……“今を”――“生きなきゃ”……な――」
急な睡魔に襲われた俺は、ゆっくりと微睡(まどろ)みの世界へと落ちていく。
過去は過去だ。
今は……今を生きればそれでいい――。
【燈馬】
「“さよなら”……母ちゃん――」
現実世界の母親へ、俺は別れを告げた。
――そのまま、俺は眠りについた。
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