着実に終わりへと向かう日常。

〈繁華街・ファミレス・正午〉


――俺達はファミレスに来ていた。


お昼時は子連れの家族がわんさかいて、とても騒がしかった。


【燈馬】

「ふぅ……なんか――落ち着くな」


【瞑】

「そう……? かなり騒音に感じるけど……」


【燈馬】

「まぁ……ね――」


【燈馬】

(――昔の俺も、こうして誰かと、ファミレスによく来ていたっけ……)


とても普通の日々――。


でも、今となればとても……輝いていた日々だった。


毎日が本当に楽しくて、みんなでバカやって、いつもでも騒いで……。


そんな普通の日常がとても懐かしくて、愛おしくてならない。


【葉子】

「なに……? アンタ――“泣いてるの”?」


――ツツッ……。


【燈馬】

「え……あ――嘘?!」


【松之助】

「ほら、燈馬、これで涙拭けよ……」


松之助はそっと、俺に紙ナプキンを渡してきた。


【燈馬】

「お……おう? ぜんっ――ぜん嬉しくないけど、ありがとう」


【松之助】

「んなっ――?! な、なんでだ燈馬?」


【葉子】

「ははっ――!! アンタみたいな坊主から貰っても嬉しくないでしょうよ? ククッ――ひひっ……」


【茂】

「まぁ……俺も、松之助から貰っても、嬉しくはねぇな……うん」


【松之助】

「ガーーーーンっッ!!」


松之助はショックだったのか、一人でワナワナと震えていた。


【瞑】

「ふぅ……なら、私から渡してあげる」


――スッ……。


【瞑】

「はい、コレ」


【燈馬】

「あ……ありがとう瞑……」


俺は二人から紙ナプキンを受け取った。


二人の気遣いに心から感謝だった。


【葉子】

「……ねぇ、瞑――“一つだけ”いい?」


俺が紙ナプキンで涙を拭いていると、葉子は瞑に話し掛けていた。


【瞑】

「……なに? なにか私にあるの?」


俺は葉子の気配が変わったことを、すぐに察した。


妙に神妙そうな表情を浮かべていれば、なんとなく分かるものだ。


それに……さっきまでと違い、なんだか空気がガラリと変わった気もした。


【葉子】

「アンタ……さ……?」


【瞑】

「んなっ――なによ、葉子……」


【燈馬】

「ごくっ……り――」


あまりの空気の変わり様に、俺まで緊張していた。


【葉子】

「ニッシシ……!!」


【葉子】

「燈馬と“イイコト”あったんじゃないの〜〜?」


【燈馬・瞑】

「い”ッ――?!」


【葉子】

「ふっふふぅ〜〜!!」


【葉子】

「この葉子さんには“騙せません”よ!!」


【松之助】

「なにっッ――?! まさか“そんな進展”が……?」


【茂】

「あぁ――? いや、お前ら前から“そんな関係”だったろ?」


【燈馬】

(ちょっと待ってくれ……話が読めない!!)


恐らく、恋の行方な話をしているのだろう。


ただ、最初からそうだったのか、それとも俺がすり変わった時に、一気に発展したのか――。


そこが疑問で頭がグッチャグチャになっていた。


【葉子】

「いや、だってさ……前よりもアンタ達、“よく喋るようになってる”じゃない――?」


俺の耳に次々と新情報が流れ込んで来る。


【瞑】

「えっ……そ、そう見えたの?」


【葉子】

「あぁ、アタシの目には、“そう見える”ね」


【茂】

「まぁ……確かに、今日はよく喋ってんな、燈馬と――」


【燈馬】

「ちょっと待て……そうなの……か?」


――普段、こんなに燈馬と話さない?


それが今の俺には、理解出来なかった。


【葉子】

「記憶の無い今のアンタには、分からないコトだろうけどさ……」


【葉子】

「瞑とアンタは、アタシ達と一緒にいる時も、あんまり喋らないんだよ」


【燈馬】

「な……なるほどね――」


なんとなく俺は気がついてしまった。


森燈馬が月宮雅と逢瀬し、いわゆる男女の関係をしていることも、瞑は――。


恐らく……“分かっていて”、見逃していた。


あれだけコソコソしてたら、そりゃ誰にでも分かることだろう。


つまり――燈馬と瞑は進展していそうで、そこまで深く進展はしていない……。


これが答えになる。


【葉子】

「ふぅ……それで、燈馬」


【燈馬】

「はい……? なんでしょうか――?」


結局、そのまま俺にまで話が回って来てしまった。


俺はビビりながらも葉子の言葉を待った。


【葉子】

「もうさ……“月宮のトコロには行くな”――」


【燈馬】

「……分かってる。元々――そのツモリだった」


【葉子】

「ふぅ……だってさ、ヨカッタじゃん瞑?」


【瞑】

「――えっ……? あ――うん……」


瞑は一人、静かにしていた。


俺の目に映る瞑は、どこか心あらずな様子に見えた。


【葉子】

「ハァ……アンタは記憶無いだろうけどね……」


【葉子】

「アンタ達は、“元々付き合って”んのよ……?」


【燈馬】

「…………」


これで一つ、俺の中のモヤモヤは解決した。


燈馬と瞑の関係について――。


【葉子】

「分かるけどさ……あの子の元に行くのは……」


【葉子】

「でも、もう駄目だ。アンタには“瞑がいる”」


【燈馬】

「あぁ……分かってる。記憶が無いけど、そこに関してはシッカリするさ」


不本意ながら、瞑は俺の初めての相手だった。


森燈馬の体でだが、それでも……。


俺にとっては本当に初めての経験だった。


きっと、本来の燈馬とは既に経験済みだろう。


でも……そんなこと、どうでもよかった。


【葉子】

「――大丈夫だよ、瞑。もう大丈夫だからね?」


【瞑】

「う……うん」


【燈馬】

「俺からも謝るよ……ごめんな、瞑――」


俺の口からは、ナニがとは口が避けても言えない。


森燈馬と月宮雅の怪しい関係については。


【瞑】

「いいよ……アナタに記憶は無いって知ってる」


【瞑】

「それなのに、謝ってくれてありがとう、燈馬」


【燈馬】

「いや、こちらこそだ」


なんともギクシャクした会話だった。


俺には隠すべきことがあり、森燈馬には隠し事があった。


俺には、自分が燈馬にすり変わっている秘密を。


燈馬には、月宮雅との深い関係に関する秘密を。


だから、俺は謝った。


せめて言葉だけでも……と。


【葉子】

「……さてっと――湿っぽい話はやめよっか?」


【葉子】

「ほら……見てごらん? この二人、魂抜けてるから……」


【茂】

「ほげぇ〜〜」


【松之助】

「んごごご……」


【燈馬】

「あらら……二人とも遠い目してらぁ……」


本当に二人は魂が抜けたみたいに、ボケ〜〜っとしていた。


そんなこんなで、俺は気持ちを切り替えることに。


【燈馬】

「……で、この後、なにかやる事あるのか?」


俺はこの先の行動が知りたかった。


すると――。


【茂】

「あるぜ……? “夜だけど”なぁ……?」


【燈馬】

「夜か……なるほど」


俺はなんだか厭な予感がした。


【茂】

「ハハッ――“売られた喧嘩は買う”ってコッタ」


【燈馬】

「やっぱり、“そういう展開”なのね……?」


今の俺には分からない。


どっちが先に売った喧嘩なのか。


でも、遂に始まるのだろう……。


森燈馬は悪役と言わしめる展開へ――。


【松之助】

「安心しろ、燈馬。お前の後ろは守ってやる!!」


【茂】

「あぁ、俺も守ってやる。記憶がねぇんだろ?」


【燈馬】

「み……みんなぁ……?」


今の俺にはそれが超絶嬉しかった。


些細な小競り合いくらいは過去、経験したことがあっただろう。


ただ、本格的な戦闘なんて俺には知らない。


普通は怖くてチビリそうな話だが、なぜかその感覚は薄く思えた。


【葉子】

「フフッ――面白くなって来たじゃないの?」


【瞑】

「ちょっと――葉子?」


【葉子】

「だってさぁ……“あの燈馬”があの二人に守られるだってさ?」


【瞑】

「まっ――まぁ……確かに……でも、記憶無いんだよ?」


【葉子】

「ふふっ……うふふふッ――“だから面白い”のよ」


きっと、勝手が分からず、俺がヤラれる姿を連想しているのだろう。


【燈馬】

「なんだよ、俺がボッコボコにされるかもと、期待してんのか?」


【葉子】

「ふふっ――分かってるじゃん。そんな姿のアンタも見てみたいな〜〜な〜んて、フフッ――」


【瞑】

「ほんっ――と、葉子は悪趣味だね……」


葉子はニヒルな笑みを浮かべていた。


黒髪でアシンメトリー、そしてメガネを掛け、ニヒルな笑みを浮かべる葉子は、一番の悪役に見えた。


そう……俺なんかよりずっと――。


【葉子】

「いや、だってさ、気になるじゃない、単純に」


【茂】

「まぁ……それは俺も気になるかもな」


【松之助】

「確かに……想像もつかないからな」


【瞑】

「チョット……みんな、イジメないでよ?」


瞑だけは俺のことを気にしてくれた。


【燈馬】

「まぁ……精々、頑張るさ――」


どうせ……逃げられないのだろう。


それに、不思議と本当に恐怖は無い。


この感覚については、燈馬による意思なのだろうか?


俺はそう感じ取った。


【茂】

「まぁ……安心しろよ燈馬。お前はそんなに弱くねぇハズだぜ?」


【松之助】

「記憶が無くても、燈馬は強いだろう、きっと」


二人からの人望は相当強そうだった。


今の俺にどこまで戦えるか……。


それは全くといって、分からない――。


それでも、知らなければならないのだ。


森燈馬はどうやって殺られ、死ぬのかを――。


【瞑】

「燈馬……やられないでよ?」


【燈馬】

「あぁ……分かってる――ヤラれねえよ」


こうして、次の展開がファミレス内で決まった。


本当にこの物語がココをキッカケに……。


動き出す。














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