偽りの日常の中、青春を送る。

〈街外れ・寂れたバッティングセンター内〉


――俺達は喫茶店から抜け出し、少しだけ街外れにある、今にも潰れそうな、バッティングセンターに来ていた。


結局……このメンツがなんなのか、最後まで分かることはなかった。


分かったことは、この五人衆はとにかく騒がしい。


それに尽きるコトだけ。


――シュッッ!! ビュンッ――!!


【燈馬】

「ふんっッ――!!」


ブンッッ!! スカッ……。


【燈馬】

「あらら……? おかしいな……玉に当たらない……」


俺は久々のバッティングセンターに苦戦していた。


【瞑】

「下手ね……燈馬――ふんっッ!!」


――カキーーーーンッッ!!


【店内アナウンス】

「ホ〜〜〜〜〜〜ムラァ〜〜〜〜〜〜ンッッ!!」


パッパパパパァ〜〜〜ポォポォポォポポポォ!!


【燈馬】

「……やるじゃん――? へ……へぇ〜〜?」


寂れたバッティングセンター内に鳴り響く、謎のラッパ音と、謎のBGM……。


瞑は派手にかっ飛ばしていた。


俺よりも遥かに小さい体で、そんなパワーを見せられたら少しだけ妬ける。


綺麗な褐色肌にとても長い黒髪を靡かせ、瞑はコートを着込みながら、派手にかっ飛ばす。


身長なんて恐らく145cmくらいでかなり低い。


それなのに、どうして……。


【瞑】

「余所見してないで、燈馬も打ちなさいよ!!」


――シュッ……ヒュンッ――!!


【燈馬】

「お……おうっッ?! ふんぬっッ――!!」


カシュッンッ――!!


【燈馬】

「かすった……だけか……」


ここのバッティングセンターは、ストレートコースとか書いて、平気で変化球を投げてくる。


設備が古いのか、なかなか弾道が安定しない……。


ブンッ――!! スカッ……!!


【瞑】

「チッ……落としてきたか――」


【燈馬】

「いやいや、違うだろ……なんでストレートコースで、変化球がこんなにも飛んでくる?」


瞑は落ちる弾に大きく空振りをしていた。


俺達が入った打席はストレートコースだった筈なのに、今じゃ変化球のオンパレードだ。


【瞑】

「いいから、アナタも打ちなさい!!」


【燈馬】

「お……おう!! 来いよ……機械野郎!!」


なんだか俺はそんな機械にも、瞑にも負けたくないと思うようになり、次の玉を待っていた。


ヴィいぃ〜〜ん――ガガッ――ガッ……。


ピィーーーーーー!!


【燈馬】

「……?!」


【瞑】

「あ……“エラー”だよ燈馬」


【燈馬】

「なんでだよぉおぉ〜〜ッッ?!」


俺の目の先には、赤ランプが点灯していた。


【店員】

「あ……すいませ〜ん、ウチ……古いもので……」


【燈馬】

「あ……はい……」


近くにいた店員さんが声を掛けてきた。


そのまま俺は、バッターボックスから抜けることになった。


【葉子】

「クヒッ――っははっ!? ヘッタクソねアンタ」


【燈馬】

「ゔぐっ――いや……記憶が無いからかな……?」


【葉子】

「ん〜ん……どうだろう――いや、本当に鈍臭いなって思ってさ」


【燈馬】

「まぁ……そうだな。ホントにどうしちまったんだろう、俺は……」


きっと……本来あるはずの、燈馬の実力を出せていない。


今の俺は、ただの力の無い腑抜け野郎だった。


【葉子】

「まっ――イイんじゃない? アンタらしくないけど、“ソッチの方が合ってる”のかも」


俺達はベンチに座りながら、瞑のバッティングを眺めて、そんな話をしていた。


森燈馬……この男には本当に、ナニカがありそうだった。


それと同時に俺は、この森燈馬について、少しだけ思うところが合った。


【燈馬】

(本当に……“コイツは悪役”なのか……?)


そんな妙な違和感を覚えたのだ。


――カチャッ……キィッ――バタンッ――。



【瞑】

「ふぅ……スッキリした。って……なに、ボケっとベンチに腰掛けているのよ?」


【燈馬】

「あ……いや、機械も壊れたし、無理すると腰がヤラれそうでさ……?」


瞑が打席から帰ってきた。


それに俺は適当に話を合わせる。


【瞑】

「もう直るでしょ、ほら……店員さん呼んでるよ」


俺は前方にある機械を見る。すると、機械の隙間から店員さんが手を振って、合図をしていた。


【燈馬】

「おい、葉子とやら……数玉残ってるから、俺に見せてくれよ、お前のバッティングを」


【葉子】

「フフッ――今のアンタには負けないわよ?」


【瞑】

「どうだか……」


【燈馬】

「ナニその意味深な呟き……?」


【瞑】

「まぁ……見てなよ燈馬。あれが八崎葉子って女よ」


【燈馬】

「お……おう、そんじゃ――お手並み拝見といこう」


スタスタと歩を進め、俺のいた打席に吸い込まれるように向かった葉子。


水色のコートを雑にベンチにぶん投げ、制服姿で打席に立っていた。


【葉子】

「見てなさいよ〜〜!! ホームラン打つわ!!」


扉の向こうから葉子のうるさい声が届いて来た。


スラッとして、容姿端麗な女の子だ。


黒髪でアシンメトリーがよく似合う綺麗な顔。


それに……胸が――バカでかいのだ。


【瞑】

「な〜に、見惚れてんのよ? バッティングを見なさいよ……」


【燈馬】

「お……おう? そ……そうだな」


一瞬、俺は葉子を見て、本当に見惚れていた。


ガッタガタな未完のWEB小説。


しかし、キャラクターは良く出来ていた。


――ブンッッ!! スカッ……。


【葉子】

「あれ……? おかしいな……計算上は――」


【燈馬】

「……」


【葉子】

「今度――ッこそッ――!!」


――ブンッッ!! スカッ……。


【燈馬】

「…………」


【葉子】

「あぁ……なんでよ?! アァっッ!!」


――ブンッッ!! スカッ……。


【瞑】

「ねっ……? 葉子はそもそも、アナタより下手なの」


【燈馬】

「ははっ……天は二物を与えずだな」


これでパカパカ打たれたら、俺の心はへし折られていたことだろう。


そんなことにならなくて、心底ホッとした。


【瞑】

「ドヤ顔決めてあれだから、可愛いでしょ?」


【燈馬】

「あぁ……ありゃ可愛いや――うん」


葉子は結局、全部空振りに終わった。


ベンチに座る俺達の元へ、プンスカした様子でやって来る葉子の姿――。


【葉子】

「チッ――変化球多すぎ!! 打てるわけないでしょあんなの? よく打ったね瞑」


【瞑】

「うん、見極めたらいけた」


【葉子】

「それに……勝負は引き分けね燈馬」


【燈馬】

「い〜や、お前の負けだよ葉子」


【瞑】

「まぁ……そうね、カスリもしてなかったし」


【葉子】

「うぐぐっ――キイィ〜〜!! 悔しいっ!!」


これが本当のザマァだった。


唐突に現れたザマァ展開に俺はニッコリだった。


【瞑】

「で……? “アイツら”は“ナニ”やってんの?」


【葉子】

「はぁ……男の子ねぇ……ほんっと――」


そんな会話を聞いた俺は、茂と松之助のいる方へ目線を向けた。


【茂】

「あと少しで、あと少しだぞ!! 松之助!!」


【松之助】

「うむ……ツモれ!! 茂!! イケ!!」


【茂】

「こいこいこい……ツモれ俺!!」


二人はレトロなゲーム機の前にいた。


茂がゲームをし、その横で大男な松之助が黄色い応援ではなく、キッタナイ応援をしていた。


ツモ!!


【茂】

「ぐぎゃあぁあッッ――アガガッ……嘘だぁ……」


【松之助】

「やっぱり強いな最後のキャラは」


……スタスタ。カタッ――。


【燈馬】

「脱衣麻雀じゃねえか!!」


俺は自然と二人の元に向かっていた。


なんとなく、そんな気はしていた。


やっぱりそうだった……。


【茂】

「あぁ、そうだ……コイツを倒して俺はお宝ビデオをゲットすんのよ!!」


【松之助】

「ふむ――だがコイツは強いんだ」


【燈馬】

「ふぅ……そこを退け!! 野郎共ッッ――!!」


【葉子】

「いやいやいや、アンタが行くんかい!!」


【瞑】

「ったく――ナニやってんの、燈馬?」


俺はとっても懐かしく思えて、胸が高鳴った。


その昔、こうやってバッティングセンターにやって来ては、脱衣麻雀ゲームを暇潰し程度に遊んだ。


クリアすると台の下からビデオが落ちてきて、それを売っぱらっていた記憶がある。


【松之助】

「燈馬……お前――倒せるのか……? コイツを……」


【茂】

「へへっ――なら任せるぜ……燈馬によ?」


カタッ……スッ――。


茂は席を俺に譲った。


【燈馬】

「あぁ、任せとけ。必ず取ってやるさ!!」


〈数分後――〉


ツモ〜〜!!


【燈馬】

「おっうふ……!?」


【四人】

「いや、負けるかいっッ!?」


俺は光の速さで負けていた。


最後のキャラは……。


アンタが私に勝つのは100光年早いのよ!! ふんっ!!


とかいって、クッソ……煽って来やがった。


【燈馬】

「クソッ――腹立つなコイツ……チートかよ?」


あまりにもツモるのが早くて、俺はムカついていた。


【茂】

「――なっ? コイツは普通の脱衣麻雀じゃない」


【松之助】

「よく見てみろ、燈馬。コイツは勝てば景品が10本落ちてくる、特別な台だ」


【燈馬】

「先に言えよ……どおりで強すぎると思ったぜ」


脱衣麻雀の台は前と後ろで2台置いてある。


俺達が座っていた台は特別仕様で、後ろにある台が普通の仕様らしかった。


【茂】

「でも、そろそろ勝てそうなんだよなぁ……」


カタッ――スッ……ポンポン!!


【燈馬】

「ヤメとけ。コイツは全てを飲み込むブラックホールだよ」


俺は椅子から立ち上がり、二人の肩辺りを叩いた。


【瞑】

「まぁ……同意ね、私も」


こんなもんは確率機で、実力機じゃない……。


一気に吐き出す使用上、数万入れて初めて景品ゲットな流れだろう。


こんなものは、お試しで数プレイやるだけでいいのだ。


【葉子】

「ねぇ、ファミレス行かない……?」


【燈馬】

「……そうだな。メチャクチャお腹空いてるし」


俺は葉子のそんな提案に、とても助かっていた。


そう言えば、まともな食事を取っていなかったなと。


【瞑】

「なら、もう行きましょ?」


【燈馬】

「あぁ……もう行こうぜみんな」


そうして、俺達は次なる場所へ向かっていく。


このバカらしい日常。


そんな青春のような偽りの日常を俺は――。


噛み締めるように楽しんでいた。

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