集う五人衆と始まる物語。
〈街中・早朝〉
――月宮雅の自宅から抜け出した俺は、瞑に出迎えられ、街中へ連れられていた。
【瞑】
「ここよ……燈馬」
【燈馬】
「……喫茶店――?」
【瞑】
「そう、私達はこの喫茶店によく来るのよ」
【燈馬】
「そう……なんだ」
街中にある繁華街――そんな雑踏にまみれた場所にヒッソリとある、寂れた喫茶店。
【燈馬】
「おいおい、随分渋い店をチョイスしてんな」
普通なら、スティーバックシムとか、そこら辺の有名店に入ることだろう。
だけど、ここは本当に普通の喫茶店だった。
【瞑】
「まぁ……“私達”は基本、騒がしいからね……」
【燈馬】
「んっ……? どういう意味だ?」
【瞑】
「まぁ……ついて来て」
【燈馬】
「あぁ……分かった」
瞑の言っている意味が理解出来ないまま、俺達は喫茶店の中へ入って行った。
……チリィ〜ン――カランカラン……。
扉を開けると、鈴やベルが鳴り、俺達を出迎えてくれた。
【燈馬】
「なんだか……“懐かしい”な――」
【瞑】
「懐かしいって……まぁ、記憶が無いから仕方がないよね」
【燈馬】
「あ……あぁ、そうだな」
本当は現実世界の事を思い出していた。
そう言えば、現実世界の俺はしばらく、喫茶店なんて場所に足を運んでいなかったなと。
小気味よい鈴とベルの音に、どこか懐かしさを感じたのだ。
懐かしさをこの身に受けていると……。
【???】
「おっ――? 来たな!! “今日の主役”よ!!」
【燈馬】
「は……?」
【???】
「ちょっと――!! アンタ、声が大きいッ!!」
【???】
「いや……お前も声がデカいぞ!!」
【瞑】
「あちゃ〜〜」
【燈馬】
「これは……一体?」
その大きな声は、近くのテーブル席から聴こえてきた。
【瞑】
「あ〜、うん……“この三人”は“私が呼んだ”のよ」
【燈馬】
「あぁ……そういうヤツ?」
恐らく、ココにいる五人は仲間かナニかなのだろう。
なんとなく、俺はそう察した。
【???】
「話は聞いたぜ? なんか記憶がぶっ飛んで、なんも分からないんだろ?」
【燈馬】
「……そうだ。無論、お前のことも分からない……」
【???】
「ハァ……それじゃアタシのことも分からない?」
【燈馬】
「あぁ、全く分からない……」
今の俺の目には全員、他人にしか見えない。
【???】
「ホントに酷な話だなぁ……悲しいぞ燈馬」
【燈馬】
「すまない……みんな……記憶が無いんだ」
――本当に悲しい話だが、これが事実だった。
わざわざ俺の為に来てくれたのだろう。
でも――その期待には応えることは出来ない……。
側は森燈馬で、中身はただの無職なオッサン。
四季司郎なのだから――。
【???】
「まぁ……アンタ達も座んなよ、立ちっぱなしじゃ、他の客の邪魔になる」
【瞑】
「そうね、座りましょう、燈馬」
【燈馬】
「おう……」
――スタッ……ズズッ――。
そのまま俺達は席についた。
だけど――なんだか、気まずい気がしてソワソワしてしまう。
【???】
「とりあえず、何飲む? 燈馬」
【燈馬】
「お……おう? それじゃ、ホットコーヒーを」
そんな俺の気を察したのか、メガネを掛けた黒髪アシメな女の子が、声を掛けてくれた。
【???】
「へぇ……アンタが“コーヒー”なんて選ぶんだ?」
【燈馬】
(もしかして――今の発言はマズかったか?)
なんとなく俺は、墓穴を掘った気がした。
声を掛けてくれた女の子は、少しだけ厭な笑みを浮かべたからだ。
【???】
「ハハッ――瞑、“アンタの言うとおり”……」
【???】
「コイツは……“重症だ”」
【燈馬】
「…………」
その言葉に俺は返すことが出来なかった。
そうだ。こんな状況も、なにもかもが重症だった。
【瞑】
「ちょっと――葉子……言いすぎ!!」
――ダンッッ!!
シーン……。
俺はテーブルを叩き、辺りを静まり返した。
【燈馬】
「……いいんだ、それが事実だから」
【葉子】
「……はぁ〜っ、ちょっと、からかっただけだよ」
【???】
「そりゃお前が悪いだろ葉子」
【???】
「全部記憶が飛んでいれば、自分の好みも、なにもかも、消えていてもおかしくないだろう」
【葉子】
「だから……悪かったって――ゴメンて……もう!!」
ススッ……ボソッ――。
【瞑】
「……いつも、“こんな感じ”なのよ……私達は……」
瞑は俺の耳許で教えてくれた。
【燈馬】
「ハハッ――騒がしい連中だこと……ははっ……は」
俺にも……そんな昔があった気がして、少しだけジーンと来ていた。
男子高に上る前までは、ホントに遊んで遊んで遊んで、死ぬほど遊んでいた記憶があったのだ。
男子高に上がれば、それほど深い付き合いとかは無かった気がした。
ちゃんと勉強するヤツ、普通に遊びまくるヤツ、他高の女子と恋愛するヤツ――。
ほんっ……と、色々いた。
そんな中、俺はどちらでも無い選択肢を選んだ。
――なにもかもが、中途半端な日々を選んだんだ。
【瞑】
「燈馬……遠い目してどうしたの?」
【燈馬】
「いや――いいなって思ってさ……こんな集いも」
俺は心の底からそう思った。
オッサンになって今更ながら――。
そんな青春をこうして描いているのだから。
【???】
「そうだぞ、燈馬。“今を楽しめよ”!!」
黒髪の短髪頭の男がそんなことを言う。
【???】
「そうだ、記憶が無くても“俺達は仲間だ”」
スキンヘッドなガタイのいい、強そうな男もそんなことを言う。
【葉子】
「そうよ、アンタには……」
【葉子】
「“私達がついているんだ”」
【燈馬】
「ありがとう……みんな――」
まさか、コーヒーの話題から、ここまで壮大になるとは思ってもみなかった。
でも、俺は凄くジーンと……していた。
これは燈馬への言葉だ。
四季司郎、俺への言葉ではない。
でも、それでも俺は心を強く打たれていた。
タッタッタッ……コッ――。
そんな時だった。
この店のマスターっぽい人が俺の目の前に、コーラを黙って置いてきた。
【燈馬】
「……はい?」
【マスター?】
「燈馬……お前はいつもコレだろ……?」
そんなマスターっぽい人に俺は――。
【燈馬】
「いや、“ホットコーヒー”を!!」
ガンッ――っッ!!
【四人】
「……なんでやねんっッ!?」
コーラを断固拒否した俺は、四人からツッコまれていた。
本当に面白いメンツだった。
【マスター?】
「んなっ――?!」
マスターっぽい人は動揺を隠しきれていない。
【葉子】
「マジで言ってる? いやいや……アンタ、コーラ大好きだったでしょうよ?」
【燈馬】
「だから……記憶が無いんだって!!」
【葉子】
「いやいやいや、そもそもさ……アンタさ……」
【燈馬】
「んなっ――なんだよ……?」
【葉子】
「コーヒーなんて、泥水とか言ってたでしょが!!」
【燈馬】
「いやいやいや……知らんて!! 本当に記憶が抜けてんだから、こちとら……」
コーヒーを巡り、激しい口論が始まっていた。
このままヒートアップして行くかと思えば――。
……コッ――スッ……。
【恋】
「――やぁ、またあったね燈馬くん」
【燈馬】
「ッ――?! お前……昨日の――?」
【恋】
「うふふっ――“私の飲みかけのコーヒー”でよかったらどうぞ?」
【瞑】
「ちょ――やめてよ、そんなの寄越さないで!!」
物凄くカオスな状況に俺は巻き込まれていた。
どこから現れたのか――姫乃恋が俺に急接近してきた。
ただ……それだけじゃない。
恋の背後には――。
【???】
「なにやってんだ恋!! もう行くぞ……」
【恋】
「うん……“守くん”」
【恋】
「それじゃあ……ね――燈馬くん?」
――スタスタスタッ……。
シーン……。
【燈馬】
「宮原……守――か……」
【葉子】
「なに……? “アンタの知り合い”なの?」
【燈馬】
「いや……どうだろう――分からん」
【葉子】
「なんじゃそら……はぁ……まあいいっか」
【燈馬】
「………………」
守……それで気がついた。
一番、“出逢っちゃいけない”存在。
宮原守とは……。
この未完のWEB小説の“主人公”だった。
【瞑】
「昨日の姫乃恋がどうしてここに……?」
【燈馬】
「さあな……ただ、“厭なヤツ”に目をつけられた気がするぜ?」
【燈馬】
「なぁ……瞑」
【瞑】
「えぇ……私もそんな気がする……」
遂にこの物語は動き始めた気がした。
森燈馬がくたばる理由、それが徐々に暴かれていく気がして、俺は――。
不安と期待の狭間にいた。
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