道中、変な女の子に絡まれた。
〈燈馬の実家〉
――俺達は、暫く部屋の中で夜になるのをゆっくりと待っていた。その時、瞑から色んな話を聞くことができた。
まず、謎だった部屋はどこなのかについてだが、実は瞑が住んでいるマンションの一室らしい。
そして、お互い未成年ではなく、20歳を迎えていたことを知った。
後でそのことを思い出したのだが、確かにWEB小説の最初の方にズラズラと、この世界のことが記述されていた。
どうやらこの世界の中では、小中高が物凄く長くなり、現実世界の日本とはまるで違うルールで動いているらしい。
自国の国産力を高め、自国民全体の能力や働ける環境を整備する為、高度な教育制度を設けたらしい。
要するに、国民全体が一気に活躍出来る世界。
よっぽどのことが無い限り、この世界では仕事にありつけないことはなく、ほぼ全員参加の労働社会に変貌を遂げているとのことだ。
つまり、現実世界で増えている無職が狩り尽くされ、無職にならない世界……。
それが今いるWEB小説の中の設定だった。
あとは、都道府県の名称もガラリと代わり、正式名称はまだついていないらしい。
なにもかもが適当で、なにもかもが雑な世界だった。
〈燈馬の実家・キッチン・テーブル〉
俺達は誰も居ない自宅の中で、キッチンの中にあるテーブルでボーっとしていた。
【瞑】
「どう……? なにか分かった?」
【燈馬】
「……いや――なにも。ただ……“変な感覚”だなと思ってさ……」
今の俺は森燈馬であって、四季司郎ではない。なにも分からないまま、未完のWEB小説の中にいる。
未完成でガッタガタでガラクタのような世界。
なにもかもが未知数――そんな世界の中で、誰かの生活、誰かの人生をこうして歩んでいる。
違和感がないほうがオカシイのだ。
【瞑】
「記憶は消えて……それに――“最後は死ぬ”とかいってたわよね……?」
【燈馬】
「あぁ……そうだ。そこだけは“なぜか”分かる」
俺が知る情報はそれだけ。だってこの物語は――。
“主人公サイドの話”なのだから……。
悪役が一人、くたばろうが関係無く進んで行く。
それが普通の物語だ。
【瞑】
「ふぅ……ならここに居るのも無駄ね? 最後に月宮さんの家まで連れて行ってあげる」
【燈馬】
「すまん、頼む」
瞑は呆れたような表情をみせ、同時に少し悲しそうな表情もみせた。
やはり、瞑と雅とやらの間にはなにかがある。
俺はそう確信していた。
〈コンビニ前〉
そんなこんなで自宅から外に出た俺達は、コンビニ前に居た。
【瞑】
「アナタ、いつもこのファミテで買い物して、月宮さんの家に行くわよね?」
【燈馬】
「あ……そ、そうなのか。まぁ……手ぶらでは行かないよな普通」
目の前にあるコンビニ――それはファミリーテイストというらしい。
現実世界にも似たようなコンビニはあるが、そんなことはどうでもいい。
燈馬はなにをいつもここで買うのだろうか……。
【瞑】
「私、外で待っているから行ってきて」
瞑は手をひらひら振りながら行けと合図を送る。
【燈馬】
「分かった……すぐに買ってくるよ」
そのままいわれた通り、俺はコンビニの店内へと吸い込まれていく。
〈ファミリーテイスト・店内〉
……キンコンカンコ〜ン――ピロリロリィ〜〜。
よく分からない店内入店BGMにお出迎えされた俺は、店内の棚をズラッと眺めていく。
すると……。
超でっかくピックアップされた――。
【燈馬】
「こ……これは――コン……ドーさんや……」
入口付近の棚のド真ん中にドデカく、ピックアップされた通称、ゴムの数々――。
【燈馬】
「おいおい……なんだよコレ――現実世界のコンビニでは、こんな大量のゴム見たことねえよ……」
数十種類もあるだろうか? それはもう、圧巻の光景だった。カラフルな箱が並び、気味の悪い柄の箱まであり、スンゴイ光景だった。
……トントン。
バッッ――!!
圧巻の光景に目を奪われていると、何者かに肩を叩かれた気がして、俺は思わず距離を取った。
【燈馬】
「えっッ――なっ……なに?!」
ただでさえ目に余る光景を見たあとだ、俺は完全にビビっていた。
【???】
「ねぇ……君――森……燈馬くんだよね……?」
振り向いた先に居たのは――。
【燈馬】
「へっ……? だ――誰……?」
【???】
「あぁ……やっぱり、燈馬くんだ」
三つ編みで赤い髪を靡かせた……“知らない子”だった。
【燈馬】
「ちょっと待って――だれ君……」
知り合いだったら凄く失礼なことをした。でも、知らないのだから仕方がない。
それに……コレまたスンゴイ可愛くて、綺麗な女の子だった。
この地域の学園の制服だろうか? 濃いベージュ色のような上着を着て、胸が……バルンバルン。
いわゆる、乳袋というモノだろう。
それはそれは見事なモノだった。
ただ――“一点”を除いて。
【???】
【ウフフッ――そうだよね、“初めて遭った”んだもんね?】
知らない子は自分の口許に手を当て、クスりと笑った。初めて会ったと聞いた俺はホッとする。
【燈馬】
「あの……その、俺になにか用でも――?」
それでも俺は警戒を緩めなかった。自分の歩んで来た人生で、こんなに綺麗で可愛い女の子と、お喋りをしたことがない!!
現実世界の俺は男子高だったのだ。女の色の無い日々を過ごして来た……。
【???】
「いや、“たまたま出逢えた”から、声を掛けちゃった……」
【燈馬】
(また変なのに絡まられたな……いや、瞑は絡まれたというより、最初からだから問題はないが)
接点が無いのに声を掛けられるとは、この森燈馬という人間は余っ程、名が知られているのだろう。
良い噂ではなく……悪名として。
【燈馬】
「……ハァ――あのさ、君……“俺の噂”は聴いてんだろ? 迂闊に近づいて来んなよ」
【???】
「うん……“知ってる”よ?」
【燈馬】
「ならどうして――」
本当に意味が分からなかった。どうして悪名轟く俺に近づいて来たのか。
【???】
「う〜ん……どうしてだろう? アッハハ……!!」
【燈馬】
「あはは……はコッチだっての――」
目の前の知らない子は天然な娘なのだろうか?
コンドーさんが広がる棚の前で、彼女は笑う。
【???】
「いや……だって――ウフフッ!! なんだか柄に合わなそうなこと、するんだなぁ〜と思ってね?」
……シュピッ――!!
そんな彼女は俺達の前の棚へ指を指していた。
【燈馬】
「……悪いかよ、なんか色々あるなって見てたんだよ!! べ……別に買おうとか思ってねえし!!」
俺は恥ずかしくて、挙動不審になっていた。
普段、使わうわけでもなければ、使う相手もいなかったのだ。
三十路になり、初めてこんなにたくさんのコンドーさんを見たのだ……。
チョッピリ恥ずかしかった。
【???】
「うっ――ウッフフフフッ……ククッ――そう、それそれ……ククッ――」
俺は頭を抱え、そんな彼女は両手でお腹を抑え、大笑いしていた。
【燈馬】
「そりゃ、アンタがどんな噂を聴いているか知らないが、俺だって一人の人間だぜ……?」
驚いたり、怒ったり、悲しんだり、人はするものだ。なんだかそれを笑われ、バカにされた気がして、俺は少しムッ――とした。
【???】
「ウフッ――そう……だね――あぁ……久し振りに笑ったよ……ヒヒッ――」
彼女は笑いすぎたのか、涙を浮かべながら指で涙を拭いていた。
【???】
「ふぅ……私の名前は姫乃恋だよ」
【燈馬】
「姫乃……レン……ね――う〜ん……んっ――?!」
ピクッ――!!
【燈馬】
(ちょっと待てよ、姫乃恋って……“主人公の”……)
俺は一瞬で“気づいてはいけない”事実に辿り着いた。
【恋】
「へぇ……君って“普通の男の子”みたいなこと……するんだ――」
スゥ――と、可愛らしい表情から、急に目を細め、人を蔑むような表情をする姫乃恋。
ゾゾゾ――と、ゾワゾワしたなにかを背中に感じ、思わず冷や汗が流れる俺。
【燈馬】
「だから――なんだってんだ……お前に関係ないだろ、そんなこと」
【恋】
「いや……噂で聴いていた君とは、なんだか違う姿が見えちゃってさ?」
【燈馬】
「そうかい……で? 話はこれで終わりでいいか?」
なんだか面倒な事に巻き込まれそうだった。
だから俺は早速本題へ入ることにした。
【恋】
「ねぇ……これから時間はあるかな?」
【燈馬】
「時間……? 悪いがこれから用事がある。それに、外で人を待たせているから無理だ」
【恋】
「あぁ……月夜さんね。ふ〜ん、残念……」
姫乃恋は肩を竦め、言葉の通り、残念そうだった。
【恋】
「こんなところで立ち話もなんだし、どこかでお茶でもと、誘おうと思ったんだけどな……」
【燈馬】
「やめとけ、俺にはメリットはあるかもしれないが、お前にとってメリットは無いだろう」
正直、現実世界の俺だったら超嬉しいことだろう。
なんていったって、目の前の姫乃恋は超がつく美少女だ。
こんな相手にお茶のお誘いなんて来たら、普通は断れない。
【恋】
「……まぁ、“今回は”いいよ。次――どこかで遭ったら、その時は付き合ってね?」
【燈馬】
「そんな時が……あればな?」
【恋】
「うん、分かった。それじゃ――またね?」
――カッ……スタスタスタ……。
【燈馬】
「……やっと行ったか――ハァ……疲れた……」
厭(いや)な汗がドッと出た。流石に主人公サイドにいるヒロインに、絡むわけにはいかない……。
なにが起きるか分からない世界で、大きく動くことは危険だ。
【燈馬】
「さて……どうしようかね。適当にプリンとかお茶とか買っていくか……」
そのまま俺は、お茶やプリン、その他のモノを買って出る事にした。
〈コンビニ前〉
【瞑】
「……なに話してたの燈馬」
【燈馬】
「ゔっッ――いや……あの……その……えと……すぅ〜〜、ハァ……」
【瞑】
「はぁ……は、私の方よ。なんか可愛い女の子と話してたでしょ」
【燈馬】
「あぁ――聞いてくれよ……なんだか知らないが、知らない子に絡まれたんだ」
【瞑】
「あの子って、Aクラスの……確か、姫乃恋さんよね?」
【燈馬】
「あぁ、確かそんな名前だったぞ」
【瞑】
「珍しいこともあるのね……私達、絡んだことなかったわよね?」
【燈馬】
「いや……そもそも記憶が抜け落ちてるから分からんが、ないんじゃない……?」
作中にも絡んでいる様子はなかった気がする。しかし、見落としている可能性もあった。
ただ、俺が知っている未完のWEB小説の中で、そんな記述があった気がしなかった。
【瞑】
「それに――あの子……私とすれ違ったあと、クスクス笑いながら出て行ったわ」
【燈馬】
「まだいいよ……俺なんて、蔑まされたような気がしたぜ?」
【瞑】
「ふぅ……あの子は避けましょう? なんだかムカついたし……」
【燈馬】
「同感だ。凄く綺麗で可愛いけど、なんかイラッとしたし……」
【瞑】
「アナタ、あんな女の子が好みなの?」
【燈馬】
「えっ……? いや、客観的に見た印象言ったまでで、別に好きとか嫌いとかじゃないよ」
【瞑】
「ふ〜ん……なら良いけど」
【燈馬】
「はぁ……」
瞑が燈馬に恋心を抱いていることは分かる。それはもう……“あんなコト”があれば誰だって。
この先も、ご機嫌を損なわないように、動かないといけないと思えば、なんだか疲れる。
だが、仲間は必要だ。この先、なにが起きるか全く分からないのだから……。
【瞑】
「さて……月宮さんの元へ行きましょうか」
【燈馬】
「そうだったな、そんじゃよろしく」
【瞑】
「えぇ……行きましょ」
こうして俺達は月宮雅の家まで向かうのであった。
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