第6話 おまけ
三人のメイドが自供をしてからは話が早かった。警察側も早期解決に越したことはないのだろう。
奴隷の彼女たちが犯人である方が都合がよいというのは本当らしい。三人分の預かり先を探す手間や、彼が言っていたように信頼できる預かり先ではなかった場合のことを考えると自分達の監視下に置いておく方が楽なのだろう。
私たちは連れていかれる彼女たちを見送る。
「オリバーさん。ご協力感謝する。数々の非礼をお詫び致します」
「頭を上げてください。急に現れて協力するだなんて、怪しい者だということに変わりはありませんから」
彼は警部の一変して柔らかくなった態度にどぎまぎとしている。
「では、私はこれで。クラッスラ様もありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。十分楽しませてもらったよ」
馬車に乗り込む三人の姿はどこか頼もしく見えた。未来を諦めてはいない。そんな気がする。彼女たちは自分でその道を選択したのだ。強い人たちだ。
ただ、どうしても気になることがある。本当に彼女たちが主人を殺したのだろうか。主人に歯向かうほどの強い怒りも意思の強さも、私には想像ができなかった。それに少なくとも一緒に紅茶を淹れに行った少女が人を殺めた後の姿には見えなかった。
「シャルル?」
彼がぼーっとしていた私に声を掛ける。
「彼女たちがこれからどうなるか知りたい?」
私は首を縦に振る。
「さっきも話したけど、物が罪に問われることはない。記録を残すために必要な事件の詳細を聞いた後は、密かに開放されるはずだ」
「え?」
「素性が知れない他人が使ってた物は誰にも使われない。持ち主をなくした物は捨てられる。それと何ら変わりはないからね。そのあとはわからない。道中でまた攫われて売りに出されるかもしれない。親切な人に拾われて大事にされるかもしれない。だけど僕は願うよ。彼女たちがだれかの物ではない人としてこれからを歩み出せることをね」
どこか強い力を感じる言葉だ。真っすぐな視線は彼女たちに向けられているようにも思えるし、彼女達を透過した、もっとずっと先を見つめているようにも思えた。
私は彼にあの三人が本当に主人を殺したのかどうかは聞けなかった。聞いても教えてはもらえない気がするからというのは嘘だ。奴隷の立場で主人に対して疑問を持つことなどあってはならないからだ。
「随分熱いじゃないか。君には今回の件で一円も入らないことを忘れているな」
「あ、そうだった」
「まぁ、私が警部に頼んで多少の協力費を交渉しておいてやろう。もう君は一人じゃないんだ。この子の面倒を見ないといけない。少しは金に目を向けるべきだ」
「助かる。肝に銘じるよ」
「シャルル。彼はこんなやつだ。自分のご飯を手に入れるのにも苦労するだろう。私のところに来るかい?」
「おい! 渡さないからな」
彼は白髪が私の前に差し出した手を払いのけると、私の手を握る。
私はまだ何かを選ぶということがわからない。
この選択はわかりきっていて、当たり前すぎる。あの三人が下した答えには似つかないし、比べようがないほどに小さく脆いものだ。
私は彼の後ろへ隠れた。
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ここまで読んで頂きありがとうございます。
これにて『File1 三本傷の真相』は終わりとなります。
近いうちにFile2でまたお会いできたらなと思います!
シンシア
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