第4話 一人と独り

 馬車でも通るのだろうか。道がしっかりと踏み固められている。

 当然モンスターにも遭遇する。が、やはり弱い。

 適当に攻撃し仕留める。

 

 俺は改めて考える。どんな短剣使いになりたいのか。導の化身が言ったようなことではなく、自分の戦い方を。

 雑魚狩りを続けながら、何度もイメージする。短剣の振り方。とどめの刺し方。どんな技、スキル、魔法を繰り出すのか。どんな特殊能力を持っているのかなど。

 隅々まで理想の自分を思い描く。

 奇襲攻撃、瞬間的な火力、連続攻撃、高い回避能力。そして両手の短剣。

「こんな感じなのか」

 もうこれ以上は出ないような気がした。

 字面だけを見れば完全に暗殺者のような気がする。

「暗殺者かぁ」

 少し訓練でもしよう。

 俺はもう少し先に進んでみることにした。

 

 実りの丘。

 マップにはそう書かれていた。

 景色は道の脇に固まって草がまとまって生えている。

 また、丘という割に高く、道を外れ少し行くと、崖になっている。

 訓練にはもってこいの場所だ。

 なぜなら背の高い草からの奇襲が訓練できるからだ。

「俺が思う暗殺者の基本は先ず奇襲」

 言いながら草の中に身を隠す。

 草の間から外の様子を伺う。

 外には中型の精霊のようなモンスターが沸いている。

 丸っこくて、緑色に光っているのでマスコットみたいだ。

 モンスターとは言えあまり攻撃はしたくないが、仕方ないか。


 いこう!

 音を立てず、サッと飛び出す。

 そのまま背後から。


 パスッ!


 精霊は攻撃を受け、倒れる。

「一撃? そんなまさか」

 短剣は刃こぼれした状態のまま。

 それなのにこのLVのモンスターを一撃?

 慌ててスキルを確認する。

「あった。襲撃」

 効果は相手に認識されていない状態で攻撃すると、ダメージUP。

 よし、これでレベリングは楽になるな。


 俺はしばらくそこでレベリングを続けた。

 とはいっても実はこのゲーム、レベルというステータスが見えない。

 戦闘後に、ステータスが微量上がり、スキルが増えたりする感じだ。

 まぁ体感のゲームシステムはほとんど変わらないのであまり問題はないのだが、上限とかはあるのだろうか。

 

 敵を倒すときに、なるべく速度を上げてとどめを刺す。すると心なしか、少し精霊が戦闘不能になり、姿が消えるまでの時間が短い気がするのだ。

 レベリングに効率は重要だからな。

 その後も一撃で、できるだけ速く、敵を葬り去った。


 40体程倒し、再び草むらに身を潜めていると、頭上に大きな影が現れたのに気付いた。

 なんだ?

 上を見上げると、先ほどの精霊の王様のようだった。

 王冠かぶって、マントを背中に羽織っている。


 俺の頭上を精霊王は何度も飛び回る。

 しかし、ここで出ていけば、おそらく攻撃が通らず負ける。

 背後を向けるまで待つしか。

 上を見上げて機会をただ待つ。


 突如として精霊王が頭上で動きを止めた。

 なんだ? まさかばれたか?

 身構えて様子を伺う。

 すると精霊王の体は点滅を始める。

 攻撃の準備だろうか。

 

 次第に点滅が早くなる。

 まずいか。


 どんどんと点滅が早くなっていく。

 かと思ったら、精霊王は手を高く上げた。

 

 仕方ない。

 見切り!


 あたりが光に包まれた。

 恐らく今のは広範囲攻撃。

 見切りがなければ確実にやられていただろう。


 精霊王が動き出す。俺に背後を向けた。

 今だ。


 先ほどまでと同じ要領で背後から一撃を繰り出す。

 ヒット音が出るが、まだ倒れない。


 まずい。

 もっと早く、攻撃を。

 精霊王が体の向きを変え始める。

 

 まだだ! 

 ひたすら精霊王の背中を切りつける。

 

 確実にダメージにはなっているが決め手がない。

 何かないか。

 攻撃を続けながら、アイテムやら何やらをあさる。

 スキル欄に見覚えのない。文字が浮かんでいる。


 『連閃』


 確認している暇はない。

 迷わず打つ。


 すると、先ほど精霊王が放った閃光のように、徐々に攻撃の速度が上がっていく。

 ヒット音が重なり、長い一つの音となる。


 その後一度大きく振りかぶり、大きな斬撃を食らわせた。

 それにより、精霊王はよろける。

 そのまま地面へと落下する。


 ドスン!


 と大きな音とともに、土ぼこりが舞う。

 直後に、精霊王も光の粒となり、空中を舞った。


 勝った、か。

 途端に緊張がほどける。

「はぁ一気に疲れたな」

 しかし、スキル連閃。これは嬉しい。


 とりあえず、そろそろ村に戻ろう。

 もと来た道を戻る。

 

 それにしても久しぶりに一人で大きな戦闘をした。

 一瞬だったけど。

 でも、楽しかった。スキルも覚えられたし。


 やっぱ、一人で戦っていると冒険している感じがある。

 確かに灯は優しいし、可愛い。

 けどきっとそれだけだと、どんどん甘えちゃうような気がする。

 できるのかどうかわからないけど、灯にはある程度、自分の考えを持ってほしい。

 俺が好きなのはいい。

 でも、俺をすべて肯定するようなことは、あまりしないでほしいかもしれない。

 架空の恋人に何言ってんだ俺。

「まぁいいか。戻ったら灯にそう言おう」

「連閃、灯が見たらどう思うだろうな。やっぱかっこいいとか言ってくるのかな」

 ワクワクと少しの緊張を胸に秘めながら、俺は村に戻った。


「灯、今戻った」

 宿屋の扉を開きながら、灯を呼ぶ。

 が、部屋の中に灯の姿はない。

「どこか出かけてるのか?」

 何かメモなど残していないか部屋の中を確認する。


 しばらく探してみるが、特に何も見つからない。

 どうしよう。

 このまま先に行くというわけにもいかないし……。

 困って腕組みをしていると、階段を駆け上がる音が聞こえてくる。

 灯が返ってきたのだろうか。

 廊下へ出て、様子を確認する。

「ライトさんですか?」

「はい。どうかしましたか? そんなに急いで」

 女将さんは息を切らしてハァハァ言っている。

「大変ですよ。灯さんがこんなメモを残していったんです。後でライトさんに渡してくれって」

 俺はメモを受け取る。

黒鉄山くろがねやまへ行ってきます、なんですか黒鉄山って?」

「黒鉄山はとても頑丈な鉱石の採れる山のことです」

「それがどうして大変なんですか?」

「そりゃあ大変ですよ。高硬度の黒晶という鉱石があるんですが、それに日夜問わず、頭をぶつけて石頭を鍛えているモンスターがいるんです。そのモンスターの頭突きなんかに当たれば、大抵の人間は一撃でやられるんですから。見たところ冒険者さんのようだけど、短剣どころじゃ、歯が立たないってもんだからね、せめて魔法の一つでも使えないと……」

「そうでしたか。ありがとうございます!!」

 急がねば。灯が一撃でやられて、やられてどうなるんだ? やっぱり急がねば!!

 俺は急いで黒鉄山への出発準備をするのだった。

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