#7 お風呂上りにED17のクリアを半裸で迎えて
もしやり直せるなら、告白なんてことはしなかっただろう。
それどころか、あんなくだらない連中とお友達ごっこもしていなかったに違いない。くそったれどもめ。
それをきっかけにか、ワタシは学校というものに興味がもてなくなっていった。学生の内に勉学に勤しむことと、交友関係を築くことは一生の財産なんて耳にするけれども、必ずしもプラスになるものばかりではないと思う。負債のように重くのしかかるのは、マイナスの感情や行動によって抉られた深い溝で、そこを流れるのは苦い思い出ばかりだ。簡単には拭えないだろう。
中学に入学してからもその余韻のまま、不登校の日々は続いた。時間が経てば経つほど、だんだんと人との関わり方に恐怖を覚え始める。
湯舟の水面には、情けない顔をした引きこもりが揺らいでいた。
お風呂から出て体にバスタオルを巻き、髪の毛をドライヤーで乾かし始めると、不意に目の前が暗転した。
――長湯したせいで、のぼせたかな?
朦朧とする意識の中で浮かんだのは、これまでの人生での汚点。数々のやり直したい出来事が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていた。
揺らぐ水面に満月が映っていた。波打つ満月には笹のように切れ長な目と苺のような鼻、三日月のような口が開いていた。
満月の中に三日月がある。そんなどうでもよいことを考えていると、三日月が暴れだす。
「お帰りなさぁああああーーーーーーーーーーい!!!クリアおめでとうございます、スミサキアカネさん!!!やりましたね、再びクリアした今どんなお気持ちですか!!」
いつかの夢でみた黒服の男が、手を叩いて喜んでいた。
相変わらず癪に障る表情と喋り方で、この場所がどこであるか理解するのに時間はかからなかった。
――【始まりと終わりの交わる球体】と、黒服の男である夜鳥は言っていた。
夢の世界から現実に戻り、また同じ夢の世界にやってきた。そして、また現実でのクリアを称賛され、この気味の悪い球体の中で、よくわからない話が始まるのだ。
「どうでしたかぁ!?今度のクリアは浴室からしか行けないエンディングで、ED17【お風呂上がりは湯冷めにご用心】でした!!バスタオルでよく体を拭かないと風邪をひきますからね!」
言われて気付いたが、ほぼ裸同然の恰好のまま、この空間に転移していた。あるのは体をくるんでいるバスタオル一枚のみ。
一気に頭に血が上ってきた。この怒り、どこに向けたらいいのだろうか。
夜鳥は呑気に笑いながら、体をバネのようにうねうね動かしていて、変質者みが暴走している。こんな変態とわけのわからない空間で、半裸で一時でも過ごさなければいけないのか。
そう思うが先か、ワタシの右手はしっかりとした拳をつくり、夜鳥の顔面を抉るように殴っていた。
「ぎゃぁああああ!!!いたぁああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!アカネさん、何するんですか!!」
「いや、色々とむかついたから」
【始まりと終わりの交わる球体】には、夜鳥のぎゃあぎゃあ騒ぐ声が響いては吸収されていった。
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