#5 告白

 目が覚めると、そこはワタシの部屋だった。

 薄暗い室内にはデスクの上の見慣れたノートPCに接続されたゲームコントローラー。ゲーミングチェアとベッドに放り投げられたスマホ。


「変な夢だったな」

 夢の内容は、あまりにも鮮明に残っていた。【始まりと終わりの交わる球体】という空間にいた。怪しい黒服の男は【夜にいなくなる鳥】という名だった。思い出すだけで寒気がする。

 ベランダに出て死のうとしたのはいつのことだったのか。そもそも自殺をしようとしたことすら、夢だったのではないか。記憶が曖昧模糊としている。

「お風呂でも入ろ」


 1階リビングを横切るとキッチンには母親が、テレビに向かったソファに弟がいた。ワタシは2人を無視して風呂場に向かった。 

 

――どのような時代においても、重罪とされるのが自殺。


――自殺をしようとした人間は、大きな罰がまっている。それこそがこのゲーム。いいですか。アナタはこれから何度も何度も人生をやり直し、真実のエンディングにたどり着くまで決して終わることができません。


 湯舟で考えに耽っていると、自然と夜鳥の話していた言葉が蘇ってくる。自殺は重罪で、その罰が【鳥葬の輪廻】というゲーム。夢にしては色々と設定があってややこしかった。


 もし本当に人生をやり直すことができるとしたら、一体どこから始めればいいのか。自分のこれまでの行いを振り返ると、確かにもっと「こうしとけばよかった」といったことが無数に浮かんでくる。

 

 中学に入学して引きこもるまでの後悔はいくらでもあるが、一番記憶に強く残っているのは、

 ――木小田逸志(きおだ いつし)の件だろう。


 もし本当にやり直すことができるなら、あの時のことを全部なかったことにしたい。なぜならワタシが引きこもりになる原因といっても過言ではないできごとだったから。


 小学6年生の春、ワタシはクラスのとある男子に恋心を抱いていた。

 桜の花が葉に変わり始めた頃、同じ女子グループに所属していた子たちに呼ばれ、ワタシが木小田君に告白する舞台がお膳立てされていいた。

 

 校舎裏に散る桜をひとつひとつ鮮明に思い出せるほどに、緊張していたが頭だけは冴えていた。

 震える手を背中にまわして、緊張を悟られないように、恥ずかしさを押し込めながら、ようやく声を振り絞って告白した。

「あ、あの、あの。す、好きです」

 

 言ってしまった。途端になんで告白なんてしてしまったんだろう、と後悔の念が押し寄せる。顔が熱くて、真っ赤になっていたに違いない。


 木小田君の表情は驚きと同時に、戸惑いのような感情を抱いているように見えた。

 どんな答えが返ってきたとしても、耳を塞いでいたかった。

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