第20話

 マウンテンカノンが四つん這いになり胴体部分の大砲から巨大なビームを撃ちだした。

 マウンテンカノンの巨体がビームの反動で後ろに下がる。


 迫るビームを走って避けるが照射され続けるビームが俺を狙う。


 俺はビームに飲み込まれた。


『うあああああああああああああああ! 死んだあああああああああああああああああああああああああああ!』

『なんか、気持ち悪くなってきた。俺もう見てらんない。ギブアップだ』

『どんなに技量が高くてもあれは無理だ』


『終わりだあああああ!』

『魔力が少ないならあれは防げない』

『魔力が少ない達也には無理だったんだ』


「そりゃ勘違いだな」


『豪己! 達也は助かるのか! 教えてくれ!』

「画面を見てくれ」


 俺は全方位バリアでビームを防いだ。

 攻撃を再開する。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

『達也が生きてたああああああああああああ!』

『なんだ! 全部展開するバリアも使えるんじゃないか』

『なんでだ、魔力が少ないんじゃないか!?』

『むしろあの魔力は異常だ』


「それが勘違いだ。2系統以上の魔力適正が使える人間は魔力の瞬発力が落ちる。だがそれは魔力容量とは関係ない」


『意味が分かりません』

「要するにだ。消防車の放水に例えると特化型の魔力を持っている人間は放水の圧が強い。これが瞬発力の話だ。で水のタンクの大きさはそれとは別問題だ。タンクは魔力容量だな」


『意味は分かったけど達也の魔力容量は多いの? 少ないの?』

『そこが知りたい』

『魔力を節約するくらいだから少ないんじゃないの?』

『でも雑魚ゴーレムがいなくなるまで魔法を使えるのは異常だ』


「達也の魔力容量は多い。元ウエイブライドの黒矢・白帆・達也の中で達也の魔力容量は群を抜いていた」


『え? ウエイブライドのパーティーメンバー?』

『そう言えば2人が有名だけど3人目がいたよな?』

『名前覚えてる?』

『大体2人で最後のほうに3人パーティーになっていたような気がする』


『えええええええええええええええええええ! 達也はウエイブライドのメンバーか! そっちの方がびっくりだわ!』

『最強の魔力容量でウエイブライドの元メンバー、ウエイブウォークのパーティー名は達也のパーティー名だからウエイブを取ってるのか!』

『ゴーレムの大軍を半壊させておる』


『でも、達也は魔法の出力が弱いんじゃないか?』

『そ、そうだ! おかしい! あの攻撃を防げたのはおかしい!』

「レベル差だ」


『意味が分からない』

『詳しくお願いします』


「白魔法の才能が無いと言っても達也はレベルマックス状態だ」


『あれか、レベルマックスの白魔法使いは杖で殴っただけでも強いみたいな感じか』

「そうだ。達也は強い、誰よりもだ」



 俺はすべての雑魚をツインハンドで倒した。

 そしてマウンテンカノンの腕に乗って顔を目指して走った。

 足元にバリアの足場を作って飛んだ。


『飛んでる!』

『いや、空を走ってる!』

『まさか空まで駆けるのか!』

『だめだ、全部が凄すぎて消化できない!』




 そして剣でマウンテンカノンの顔を斬る。


 ザシュウウウウウウウウウウン!


 マウンテンカノンがゆっくりと後ろに倒れる。


 ドスン!


 マウンテンカノンが霧に変わって大きな魔石と大砲をドロップさせた。


『は! 一瞬で終わった!』

『え? え? 何で斬れたの? 意味が分からん。ゴーレムって硬いからな』

『普通は1撃でラスボスを倒すとかありえん』


『硬くてでかいゴーレムを一瞬で倒しやがった!』

『なんで今まで冒険者じゃなかったんだ!?』

『情報量が多すぎるぜ』


「全部倒す、言った通りだ。達也なら出来る」


『全部ってマウンテンカノンも含めての全部だったのか!』

『ドラゴンを1撃で倒すワンキルの豪己にそこまで言わせるとは! でも達也の事は知らない』

『おかしい、こんなに強い達也が有名じゃないのはおかしい!』


「達也は黒矢と白帆の子供、更にはダブル候補生10人を育てていた」


『あ、ダブルどころか3つの魔法を使いこなしている!』

『まさか、トリプルジョブ!』

『トリプルジョブ! だから3人を教える事が出来たのか!』

『それにゴーレムを斬る時剣が身体強化と違う光り方をしていた。色々おかしい』


「最期に言わせてくれ、話が噛み合っていない部分があった。達也は魔力を節約するために高い技量を身に付けた、そう勘違いしているようだが違う」


『へ? それ以外に魔力を節約する理由ってあるのか?』

『まだ達也の事が消化しきれない。高等技術を次から次へと使いすぎている』


「達也は魔力の節約、それを考えていないわけじゃない、だが元々達也は技量が高かった。逆だ。魔力を節約するために技量を磨いたわけじゃない。元々技量が高いから高等技術を身に着ける事が出来て結果それが魔力節約につながっている」


『魔力出力が特化している方が才能がある、でもそれは才能の1面、そういう事か』

『魔力出力以外は最大魔力容量保持者、3系統の魔力の高等技術使用とその同時使用、魔力出力以外の才能は化け物だ』

『待て、3系統の魔力を同時に自在に操れるなら魔力出力の才能は意味をなさなくなる』


『1つの出力が小さいなら3本同時に撃てばいい的な?』

『そう、それだ!』

『達也さんの事が分かってきたら鳥肌が立って来た! だからダブルを教えられたのか! だからウエイブウォークが達也先生推しなのか!』

『人に知られずダブルを完成させていた? 名誉も地位も気にせずウエイブウォークを育ててきたのか!』


「……新、一旦配信を終わらせてくれ』


『ちょっと待ってくれ! 最後の光る剣は何だ!』

『達也の事をもっと教えてくれ』

『もう少し待ってくれ』

『何で空を走る事が出来たんだ!?』


「後始末がある。配信は後で見られるようにしておく」

「配信終了だ」


 俺はドロップ品を拾ってみんなの所に戻った。


 新が俺の背中をパンパンと叩き樹と凜も集まる。


「ごう、お前大丈夫か? 血だらけじゃないか」

「大丈夫だ。だが頭がぼーっとして配信で色々話しすぎちまったな」

「それはいい。今は座っとけって」

「達也先生はどうなるんでしょう?」


「俺は、警察で取り調べだろうな」

「そんな! みんなを助けたのに!」

「まあ、死刑にはならない。人を殺したわけじゃないし、多分大丈夫だ」


 不安がるみんなを落ち着かせる為、俺は笑顔で言った。


 ピーポーピーポー!


「警察が来たか。行ってくる」

「私を忘れていませんか?」

「奈良君」


「達也さんが捕まるなら私も捕まる。でしょう?」

「一緒にカツ丼食ってくるか」

「アレ、フィクションみたいですよ」

「まじで!」


 警察が微妙な顔をしながら敬礼をした。

 本当は、恨まれ役なんてやりたくないんだろうな。

 でもルール違反をした俺達から事情を聞かないわけにはいかない。


「すぐに警察に行きます」


 警察の一人が俺の言葉で涙ぐんだ。


「ありがとうございます! 協力をお願いします!」

「じゃ、行ってくるわ」


 冒険者の資格を持っていない俺が正当防衛ではなく自分からモンスターに向かって行った。

 これはルール違反だ。 

 これがOKになれば死にに行く人が本当にいるのだ。

 そして『モンスターの近くに人影が見えた』とか言って言い逃れをしようとする人も出てくる。

 そうなれば巡り巡って限りある警察のリソースは膨れ上がりパンクする。

 俺はルールを犯した。


 思ったより戦いの勘は鈍っていなかった。

 基礎訓練を積み重ねた俺のやり方は間違っていなかった。

 年を取ってもそれでも俺の力は増している。


 ただ1つ、不安なのは沙雪の入学式が始まるまでに警察から出てきたい。

 いや、俺は沙雪に誇れる道を歩いた。

 堂々と言える『おじさんはルールを破ったけど、人を助けた』胸を張って言える。


 俺は冒険者の仲間に迷惑をかける事を承知で冒険者をやめた。

 テレビを見るとダンジョンに駆け付けたい気持ちが沸き上がりテレビを見る頻度が減った。


 未来あるダブル候補生の多くを指導せず切り捨てた。

 本当はもっと出来たかもしれない。

 後からそう思う事が何度もあった。


 ルールを破った今、あの時よりも心が軽い。


 沙雪、


 俺は、


 人を助けたんだ。




 俺は警察で取り調べを受けた。

 取り調べは厳しくなかった。

 1日目だけ取り調べを受けて留置場で1日を過ごした。


 略式命令と書かれた文書を受け取り書いてある通りに10万円のお金を支払った。

 10万円で済むのは安い。

 どうやら正式な裁判ではなくショートカットされたような手続きで済むらしい。

 車のスピード違反で捕まる時に似ていると思った。



 沙雪の高校入学には間に合いそうだ。

 本当に良かった。

 

「こっちです」


 女性の警官が裏口に案内する。


「どうも」

「いえ、お疲れさまでした」

「警察も大変だよな」


 警察は罰金を払う際も俺に気を使って金銭的に負担が重く無いか聞いてきた。

 ルールと民意、冒険者が足りない状況の板挟みに見えた。


「はい、あの……」

「ん?」

「配信、感動しました」

「そっか、じゃ、またな」

「次は無い方がいいですよ」


「あははは、そうだな。ありがとう」

「ここから静かに外に出てください、表には記者さんがたくさんいます」

「うん」


 俺は気配を消して裏から警察署を出た。

 外に出て少し歩くと沙雪が待っていた。

 警察の人が連絡してくれたのか。

 本当に気を使ってくれたんだな。


 沙雪が俺に抱き着いた。


「良かった。本当に良かった」

「沙雪、心配をかけたな」

「本当だよ。もおおおおお!」


 俺は『おじさんはルールを破ったけど、人を助けた』と言おうとしてその言葉を飲み込んだ。

 そういう事じゃない。

 俺は沙雪に心配をかけていた。

 沙雪の言葉を聞こう。


「こんなことはもう無いから」

「一生に1回でも駄目だよ」

「そうだな、表にはマスコミがいる、隠れて帰ろう」

「……うん」


 俺達はかくれんぼをするように家に帰った。


 

 家に着くとおばあちゃんと、ウエイブウォークの3人がいた。


「え? どゆこと!?」

「凜さん!!」


「久しぶりね、沙雪ちゃん」

「達也さん、お帰りなさい。私に何か出来る事が無いかと思って豪己さんに連絡して、それで手伝って貰ったの」


「今まで高校入試の邪魔になるかと思って言ってなかったけど、一緒に訓練をしていた仲なんだ」

「うん、知ってるよ。友達からいっぱい連絡が来たもん」


「達也先生、沙雪ちゃんも座りましょう」

「凛、挨拶を頼む」

「私!」


「沙雪がファンなんだ、頼む」

「こほん、私達の卒業と」

「それも入るのかよ!」


「新、黙って。そして沙雪ちゃんの入試合格と、最後に警察から帰ってこれた達也さんを祝ってかんぱーい!」

「「乾杯!」」


 みんなでおばあちゃんの作ったご馳走を囲んだ。




 奈良君は無事解放された。

 そして冒険者組合の部長はバッシングを受けて自主退職に追い込まれた。

 裏で色々と圧力があったとか色々な話が流れたけど真意は分からない。


 奈良君は警察から解放された後部長(冒険者組合支所で一番偉い役職)に大抜擢されて納得いかないような顔をしていたようだ。


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