第19話

 達也の見えない所で配信のコメントが打ち込まれていた。

 新のドローンが達也を追いかける。


『いきなり配信が始まったぞ!』

『あれが達也さんか、足速くね?』

『飛ぶように走っている! 赤信号をジャンプして飛び越えたぞ!』

『俺達のコメントを達也さんは見れないんだろうな。つまり配信に書き込みし放題だ』


『冒険者免許無しでダンジョンに入って戦ったりすると犯罪なんだよね?』

『無免許で自分からモンスターに向かって行って攻撃するのもやばいで』

『じゃあすぐに冒険者免許を発行して貰えばよくね?』

『日本ではすぐに冒険者免許を発行できない。出来るのは他の先進国だけだ』

『IT化の遅れか』


『問題はそこじゃない。日本はその気になればIT化出来る技術はある。でも口やかましいお前らが小姑プレーをするからかなり厳格な基準できびしく冒険者資格を発行するようになっている。日本は口やかましくて中々物事を決められない国だ。前からそうだろ』


『日本以外の先進国=冒険者になって死んだら自己責任 日本=冒険者が死んだらみんなが国を叩く』

『冒険者に老人はいないから老人の事は気にせずIT化出来ると思っていたけどそれでも無理なのはショックだ』

『日本もある程度はIT化されてる、ルールが厳しすぎる問題がネックになっているだけだ』


 俺はダンジョン前に立った。

 数千のゴーレムが俺を見た。


「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」


 無数のギアゴーレムがギアをチャージする。


 無数のショットゴーレムが胸のコアから魔法陣を発生させて黒い魔力球を生成する。


 俺は撃ちだされる魔力球の弾幕に飛び込むように走った。


『何で迂回しない?』

『死ぬ気か?』

『終わった。もう終わりだ』


『はああああ! 全部避けてる!』

『魔眼で見切ってるんだ! 目が赤く光っている!』

『動きがおかしい! 魔法弾に飛び込むように避けてる! なんで危ない道を進むんだ!』


『最短距離でゴーレムに接近するためだろ』

『全部避けてるううううううううううう!』

『おかしいおかしいおかしい!』


 俺は魔法弾の間を縫うように走りつつ『ツインハンド』を使った。


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 ゴーレムのコアにツインハンドを当てて1撃で倒していく。

 黒魔法のツインハンドを撃ちながら戦士の魔眼で攻撃の軌道を予測して回避する。

 正確にはその他の五感や魔力感知もフルに使っている。


 勘は衰えていない。

 思った以上に体が動く。

 魔眼で攻撃を避けられる。

 ピンポイントバリアで攻撃を防げる。

 ツインハンドが全弾モンスターの芯を攻撃する。

 俺がやってきた基礎訓練は間違っていなかった。


『避けられない攻撃を避けてる! 攻撃までしておる!』

『おい、あれって黒矢のツインハンドじゃね?』

『マジだ! 冒険者レベル7、ウエイブライドの市川黒矢のツインハンドだ!』


『高等技術やぞ!』

『よく見て見ろ! ゴーレムの魔法弾を弾いてるぞ!』

『ほんとだ! 達也に向かった魔法弾が斜めに弾かれてるううう!』

『何で弾いているのか分からん! おかしいおかしいおかしいって!』


 俺は避けきれない攻撃をピンポイントバリアで魔法弾を受ける前に斜めに弾く。

 受け止めるでもなく弾くことで消費魔力を押さえている。


 あと少しでダンジョンに入れる!


 ごうが武器も持たず、血を流しながらダンジョンから出てきた。

 両脇に2人を抱えて走る。

 まずい!

 今ごうがターゲットにされるのはまずい。


 武器を持っていればごうがあんなにボロボロになる事は無かった。

 2人を抱えて武器を持てない中、2人を庇うように攻撃を受けたのか!


 俺は急いでごうから距離を取って右に曲がった。

 ごうがダンジョンから遠ざかっていく。


「達也あああ! マウンテンカノンが来る!」


 ごうが叫んだ瞬間にダンジョンの入り口から空に突き上げるビームが発生した。

 マウンテンカノン!

 でかすぎて入り口を通れずに入り口をビームで破壊したか!


『何じゃあありゃああああ! あの光線は!』

『マウンテンカノン! ギアゴーレムの胸に大砲が付いているモンスターだ』

『それだけか? なら大丈夫なんじゃないか?』

『問題は大きさだ』


 マウンテンカノンが強引にダンジョンの入り口に這い出てきた。

 周りにいるゴーレムを踏み潰しながら地上に立った。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


『体長30メートル級、このダンジョンのラスボスだ』

『でかいだけじゃなくてギアゴーレムとショットゴーレムの上位互換だ』

『キングコングの腹に大砲付きか!』

『メカキングコングだ』

『あの街終わったわ。もう無理だ』


 ビルのように大きなマウンテンカノンが俺を睨む。

 そしてギアチャージを始めた。

 こいつはギアを貯めてそれが終われば大砲をチャージする。そして強力なビームを大砲から照射する。

 この繰り返しだ。

 1分に1回の間隔で撃って来る。


 マウンテンカノンを守るようにギアゴーレムが突撃を開始した。

 ツインハンドでギアゴーレムを倒していく。


「俺達も行こうぜ!」

「そうね! ゴーレムなら倒せるわ!」


 ごうが叫んだ。


「近づくな! 達也の邪魔になる! 誰も近づくな! ドローンもここで待機だ!!」


 ごうの近くにドローンとみんながいる。

 距離を取ったままでいてくれるのはありがたい。

 味方が近くにいるとピンポイントバリアで弾いた攻撃が味方に当たる可能性がある。


『豪己、大丈夫か!!?』

『新、豪己さんが大丈夫か聞いてくれ』


「豪己さん、大丈夫か?」

「ああ、凛と樹の回復魔法で助けた2人は無事だ」

「そうじゃない、豪己さんは大丈夫か?」

「俺も治療を受けた。大丈夫だ」


「豪己さん、近づくなっていうけどあれは大丈夫か?」

「見て見ろ、達也は全く傷を受けちゃいない。今マウンテンカノンとゴーレムたちをまとめて、しかも余裕で倒せるのは達也しかいない」


 俺は迫りくるギアゴーレムをすべてツインハンドで倒した。

 その瞬間に魔法弾を溜めていたショットゴーレムの魔法弾が撃ち込まれる。

 魔法弾を出来るだけ回避し、ピンポイントバリアで防いでいく。


『どうやって魔法弾を弾いているんだ?』

『新、コメントを見てくれ』

『駄目だ、新は達也の戦いに釘付けになっている。凜に聞こうぜ』

『豪己の兄貴、解説をお願いします』


「どうして達也さんに向かう魔法弾が弾かれているの?」


『凜ちゃん、知っているのに聞いてくれるのやさしい』

『知っているけど聞いている感じ、分かるで』


「ピンポイントバリアだ」


『市川白帆のピンポイントバリアか!』

『どっちも誰もが再現できていない技だ』

『一番近いのが新が片手で使っているツインハンドの片手版だろう』

『ツインハンドとピンポイントバリア! ウエイブライドの技じゃないか!』


「正確には黒矢のツインハンド、市川白帆のピンポイントバリアの改良版だ。元の技とはもはや別物だ」


『違いが分からない! でもすげえ!』

『黒魔法のツインハンド、白魔法のピンポイントバリア、魔眼の同時使用、そう言う意味か!』


「それもあるがツインハンドはモンスターを丁度1撃で倒せる威力に調整している。ピンポイントバリアは防いでいるわけじゃなく受け流している。その違いだ」


『丁度倒せる威力って難しくね? かなりの高等技術だ!』

『バリアで受け流すのも高等技術だ!』

『おかしいおかしい! 3つの魔力の同時使用、しかもそれを精密コントロールしている! 人間が出来る限界を超えている!』


『おおおおおおおおおおおおおおおおおお! 見て見ろ! 雑魚ゴーレムが少なくなってきている!』

『達也が1人で数千のモンスターを全滅させようとしている』

『待てよ、達也は魔力消費を気にして戦っている。それに達也は3系統の魔力を使用している。達也の魔力は少ないんじゃないか?』


「それはなあ」


 キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 マウンテンカノンが四つん這いになって地面で踏ん張る。


『ビームが発動する! まずいぞ!』

『あれは避けられないだろ!』

『死んだ、あれは無理だ』


 ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 マウンテンカノンのビームが発動した。

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