第18話

 今日は日曜日だ。

 それとなく沙雪がずっと家にいる事は確認した。

 沙雪の入学を祝いたい。

 だがぬか喜びは避けたい。

 土下座をする覚悟で事に臨もう。

 

「おはようございます。朝から冒険者組合に来るなんて珍しいですね」

「奈良君、おはよう」

「どうしました? 緊張しているようですが」


「いや、すぐ済む事だ」

「すぐ済む?」

「何でもない」


 奈良君のメガネがきらんと光り俺についてきた。


 基礎訓練をしている部屋に入るとみんなが俺を見た。

 10人、それと凜も揃っているようだ。


「「おはようございます!」」

「おはよう」


 新が話しかけてくる。


「達也先生、朝からどうしたんだ?」

「実はウエイブウォークの3人に頼みたいことがあって」


「なになに?」

「協力出来る事があれば何でもやるよ」

「ウエイブウォークのみんな、特に凜さん」

「凜さん?」


「ああ、今日は凜さんだ」

「なんか、距離を取られてる気がして嫌だな」

「丁寧に頼みたいから、それに凜と言えば沙雪が何度も『凜さん』と言ってくる」

「育てている子の事だったよね?」

「うん」


 俺は床に座った。

 そして土下座をする。


「沙雪がウエイブウォークの、特に凜さんのファンです。どうか3人で沙雪に会ってくれないだろうか!? 頼む!」


「「それだけ!!」」


「皆が卒業シーズンで忙しいのは分かる! でも高校受験の終わった沙雪を喜ばせたいんだ! 合格を祝いたいんだ!」

「僕達は高校卒業と同時に冒険者の仕事を増やすだけだから忙しくないよ」

「私も大丈夫だよ?」

「そんな事なら普通に言ってくれよ!」


「ありがとう! みんなありがとう!」


 俺は立ちあがり3人と握手をした。


 ウオオオオオオオオオオオオオオン! 


 ウオオオオオオオオオオオオオオン!


 警報が鳴った。


「……はあ!?」


『ゴーレムダンジョンからモンスターが溢れました。冒険者の方は至急ゴーレムダンジョンに向かってください。繰り返します。ゴーレムダンジョンからモンスターが溢れました。冒険者の方は至急ゴーレムダンジョンに向かってください』


「なん、だと!」


 みんながロビーにある大きなモニターに集まる。

 ゴーレムダンジョン前に取り付けられたカメラから映し出された映像に皆が驚愕する。


「嘘だろ、ギアゴーレムとショットゴーレムが1000以上は出てくる、まだどんどん増えてやがる!」

「ショットゴーレムはまずいぜ! 群れたショットゴーレムは一斉に魔法弾を撃って来る!」


 見た目ゴリラのギアゴーレム。

 そして細い人型のショットゴーレムが無数にダンジョンから溢れてくる。


「お、おい! 見て見ろ! 豪己がダンジョンに入って行く!」


 ごうはショットゴーレムの魔法弾やギアゴーレムの攻撃を受けながら強引にダンジョンに入って行った。


 奈良君が前に出た。


「確認しました。ゴーレムダンジョンに冒険者が2人取り残されています!」


「だからか! 豪己は無理をして2人を助けに行ったんだ!」

「豪己さんが死んじまうぞ!」


「達也さん、冒険者の資格を持たないのを承知でお願いします! 豪己さんを助けてください!」


 いつも温和な樹が奈良君の前に立った。

 そして奈良君を睨む。


「それでは達也さんが犯罪者になってしまいます。奈良さん、配信させてもらいます! 配信をした状態でもう一回同じ言葉を言えますか!?」

「分かりました。配信を始めてください」

「新、配信だよ」


 ぎろり!


「お、おう」


 ドローンのカメラが奈良君を捉える。


「配信始まったぜ!」

「達也さん、冒険者の資格を持たないのを承知でお願いします! 豪己さんを助けてください! 何かあった場合の責任はすべて私です!」


 奈良君は冒険者組合をやめてもいいと思っているんだな。

 部長が気配を消して俺達を見守る。

 俺は隠れた部長に声をかけた。


「部長! それでいいですか? 奈良君より偉い部長さん、それでいいですか!?」

「す、すべて奈良君に任せよう、奈良君の責任でね」


 部長が配信から顔を隠して逃げていく。

 魔法で異空間にしまっていた剣とベルトを取り出す。


「分かった。今すぐに行こう」


 ベルトを巻いて腰の剣を抜き、そして戻す。

 異常無し。

 靴ひもを強く縛った。


「今から走る。本気で行く」


 基礎訓練だけの日々が長く続いた。


 戦いの勘は衰えていないだろうか?


 うまくいこうがいくまいがやる事は変わらない。


 ゴーレムを倒して倒して倒しまくる。


 全ゴーレムの目が俺に向くまで暴れる。


 それだけだ。


 俺の目が赤く輝く。


 俺は飛ぶように走ってゴーレムダンジョンに向かった。




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