第17話

【沙雪視点】


 おじさんの隣に座って魔法の基礎訓練をする。

 戦闘の経験は無いけど高校の入学では基礎の魔力コントロールだけを見るらしい。

 戦闘をしていなくても基礎をやっておけば受かるはず。


 私は白と黒、それぞれ10個ずつの魔法球を浮かべる。


 でもおじさんは身体強化をしながら黒と白の魔法球を100個ずつ浮かべている。


「おじさんみたいに、うまく出来ないよ」

「同時に10個ずつ出せるなら合格するはずだ」



「でもおじさんは100個ずつ出してる」

「雑誌に載ってた凛より基礎訓練は優秀だと思うぞ」

「凜さんね」

「そうか、凜さんより出来ると思うぞ」


「どうしてわかるの?」

「……ネットで基礎訓練の見た。どうすれば高校に受かるか全部調べてある」

「不安だなあ」


「沙雪、いつも通りでいいんだ。いつも通りに、自分を大きく見せようと思わず訓練の様子をただ見せればいい。難しく考えなくていいんだ」

「むー! 大丈夫かな?」

「大丈夫だ。沙雪なら出来る。沙雪は凄いお父さんとお母さんの子なんだ。沙雪なら出来る」


 それでも私は不安な日々を過ごした。



【高校受験当日】


 いつものように座って魔力球を浮かべる。


 座禅を組んで白と黒の魔力球を10個ずつ浮かせて私の周りを回転させる。


 ざわざわざわざわ!


「はい、結構です」


 淡々と終わりを告げる先生の声でダラダラと汗を掻いた。

 もう終わり?

 駄目だったからもう見せなくていいと言われた?


 周りのざわつく声。

 うまく出来なかった?

 この程度じゃ無理なの?


 先生が私の両肩に手を乗せた。


「素晴らしいです! あなたは高校始まって以来の天才です!」

「え? え?」


「合格は間違いないでしょう!」


 周りから声が聞こえる。


「凄いわ。全部で20個の魔力球を浮かべて操っているわ!」

「苦しい訓練を続けないと絶対に無理よ」

「わたしなんて全部で5個しか出せないのに」


「天才っているんだな」

「美人で天才か。付き合いたいぜ」

「まさかここにもダブルがいるとはな!」

「黒魔法と白魔法の同時使用か! すげえええええええ!」


「沙雪さん、自信を持ちましょう」


 私は天才じゃない。

 だっておじさんは身体強化をしながら黒と白の魔法球を100個ずつ出していた。


 タブレットの学力試験もあっけなく終わり家に帰った。


 その日の内に合否の通知がスマホに届いた。


 家に帰り3人で食事を摂る。


「高校の試験」

「うん」

「どうだったの?」


「受かったよ」

「良かったじゃないか! おめでとう!」

「沙雪ちゃん、おめでとう!」


「……うん」


 おじさんを見ると普通に食事を摂っていた。


 今考えるとおかしい、ダブルが実用化される前からおじさんは3種の魔力を使う基礎訓練をしていた。


 それにおじさんは働いていないのにお金に困る様子が無い。


 おじさんは私が小さい頃は冒険者をしていた。


 でも今考えると冒険者レベル6の豪己さんが遊びに来るのもおかしい気がする。

 おじさんは『ごうはいい奴だ』『ごうはたくさんの冒険者を助ける凄い人だ』と言っていた。

 でも豪己さんはおじさんが凄いと言っていた。


 2人の言っている事が全然違う。


 おじさんを見ると目が合った。


「沙雪はもう高校生になるのか」


 目を潤ませて涙を溜める。

 おじさんはやっぱりおじさんだ。


「……おじさん、卒業式と入学式で泣かないでね」

「人はなあ、泣くなって言われると泣きたくなるんだよ。もうすでに泣きそうだ」


「じゃあ泣かないでって言わないよ」

「でも、泣くだろうな」

「もーーー!」


 あと少しで寮生活が始まるんだ。


 一緒に食事を摂って笑うこの時間も、あと少しだけ。

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