第16話

 冒険者組合に行くと奈良君が笑顔で出迎えた。


「達也さん、恐らく断るとは思いますがまた取材のお願いがありました。ウエイブウォークを育てた先生として話を伺いたいと」

「受けない。凄いのは3人で俺じゃない。基礎訓練の方法は3人が動画でアップしている」


「1回くらい受けて見ませんか?」

「断る。俺は冒険者じゃないただの一般人だ」

「仕方がありません」


 奈良君が引き下がった。


「おい、達也、3人がまたバズってるぜ」


 ごうが嬉しそうにパソコンを見せる。


 ダンジョンでモンスターを倒す3人が映し出された。


「あれ? 装備が変わったのか?」

「なんだ? 知らねえのか。3人はメーカーの宣伝で最新型の装備を付けてるんだ」

「へえ。3人とも見た目がいいし高校生で冒険者レベル5に行きそうだからな」


「へへへへ、まさか俺が手伝った冒険者じゃなく達也が教えた冒険者が強くなるとはな!」


 そう言いながらもごうは嬉しそうに笑った。

 

「ごうは十分3人を手伝っている、ごうが育てたようなものだ」

「ちょっとは手伝ったな。今3人のおかげで基礎訓練を見直す動きが広がってるぜ」

「おお、凄いな。インフルエンサーってやつか」


「おう、次はインタビューだぜ」


 次の動画が再生された。


『それでは冒険者レベル4パーティー、ウエイブウォークの3人にダブルジョブについて話を伺っていきます。3人にズバリお聞きします。ダブルジョブの戦いをどうやって実現できたのですか? 新さんからどうぞ』


『達也先生のおかげです!』

『達也先生、番組としては何度も取材を申し込みましたがすべて断られています』


 何故かスマホの番号がバレていて何度も電話がかかってきて無視をしている。

 フェイクの住所があるせいか家までは来ていない。

 尾行をされたけどすべて逃げ切った。


 冒険者組合経由の取材も断ったし基礎訓練はロビーでやっていない。


『達也先生は同じ事しか言わないでしょう』


 新が俺のマネをして言った。


『凄いのは俺じゃなく3人だ。基礎訓練が大事だと言うのは10秒、だが基礎訓練を積み上げるには10年以上かかる。それに俺は冒険者じゃないんだ』


 ごうが笑った。


「くっくっくっく、新の演技がうますぎるぜ!」

「こういうので取材が来るのか」


『話を戻します、達也先生のどこが凄いのかもっと深堀りして伺いたいです』

『俺達10人は達也先生から基礎訓練を学び、その大事さも教わりました。そして装備を俺達全員にプレゼントしてダンジョンに行く時も冒険者の護衛をつけてくれてました』


『ありがとうございます。続いては凜さんお願いします』

『私は達也先生の黒魔法と白魔法の同時使用を見て自分の至らなさを思い知りました。達也先生の撃つ魔力球は生成が早く、杖無しで狙いも正確でした。私が目指す未来を達也先生が見せてくれたおかげで今の私があります』


『ありがとうございます。続いて樹さん、お願いします』

『僕は達也先生の教えで杖無しの戦闘スタイルを練習していますがまだ先生の足元にも及びません。達也先生が使う身体強化と白魔法バリアの同時使用、そしてピンポイントバリアのリフレクト、すべてが達也先生のようにいきません。基礎訓練を重ねれば重ねるほど達也先生が遠くに感じます。ですが理想の目指す未来がそこにあって僕は達也先生を目指してまだまだではありますが基礎訓練を続けています』


『ありがとうございます。レベル5も近いと言われているのにまだまだですか。とてもストイックですね。達也先生はネットでは都市伝説と言われています。樹さんそこについてはどうお考えでしょう?』

『達也先生はいます。達也先生が表に出たがらないのと、それと冒険者組合のメンバーと冒険者の皆さんは達也先生が嫌がる情報を出さないので情報はでてこないでしょう』


「うわあ、達也先生ってこんなに何回も言ってるんだな」

「おう、俺の勘だが、達也、お前は表に出るぜ! 3人だけじゃなく他のダブル候補生も達也先生の事をネットで発言しているぜ。時間の問題なんだよ」


 取材は深堀りをすると言いつつワンフレーズの分かりやすい言葉しか求めていない。

 ニュースを見る側としても数秒で分かる言葉を求めているんだろう。

 3人もそれを分かっているようでざっくりとした話をするにとどめていた。

 そのおかげもあり俺の情報はあまり漏れない。


「出来れば沙雪の高校入学までは表に出たくない。受験の邪魔になる」

「沙雪が高校に入れば復帰するのか!」

「時間を見て決める」


「へっへっへ! そうか。たしか沙雪は中学3年だったな?」

「そうだ。寮生活の高校に行きたいそうだ」

「時間が出来るじゃねえか! 訓練は順調か?」

「今は伸び悩んでいる。この先があるのか見極めたい」


「レベルマックスじゃねえのか?」

「いや、年のせいかもしれない。俺はもう30代のおっさんだよ。そろそろ基礎訓練だ」

「おう、またな!」


 基礎訓練を終えて家に帰ると沙雪が雑誌を見せてきた。


「見て、これが凜さん」

「……そう、か」


 凜だ。

 ウエイブウォークの凜だ。

 雑誌まで買って俺に見せるのを見てよっぽど凜のファンなのが分かった。


「私もこんなふうになりたいなあ」

「そっか、沙雪もダブルジョブだから戦闘スタイルの参考になるのかもな」

「凜さんを知ってるの?」

「……よく考えたらネットとかで見た気がする」


 嘘は言っていない。

 沙雪には高校の受験に集中して欲しい。

 毎日のように俺のマネをして基礎訓練をしていて勉強もしっかりやっているから受かるとは思う。

 でも油断してはいけない。


 もし万が一沙雪が受験に失敗したら沙雪は泣いてしまうかもしれない。


 今は大事な時だ。

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