第15話
しばらく訓練を続けるとともに定期的にダンジョンに入ると、新・樹・凜が全員冒険者レベル4になった。
色々変化はあった。
3人の名前が売れた。
俺に取材を申し込まれる事が増えたがすべて断っている。
ダブル候補生の2期生や他の冒険者組合に行っている1期生がここで指導を受けたいと言ってきたが奈良君が『10人以上は先生が面倒を見切れない』『新・樹・凜が訓練法を動画で公開している』と言って全部追い返した。
上からももっとダブル候補生を受け入れるように言われていたが『3年で芽が出るまで待ってほしい』『これ以上受け入れるなら先生が辞めると約束をしています。優秀な先生をやめさせてダブルプロジェクトを潰す気ですか?』と言ってばっさり切り捨てていた。
あまりに来客が多い為基礎訓練の場所も上の階に変わった。
ダブル候補生のみんなには冒険者レベル4になったら焼肉を奢ると言っていた。
新・樹・凜を焼肉に連れて行った。
ジュウウウウウウウウ!
「あ! 私のお肉!」
「へっへっへ、早い者勝ちだ」
新が凜の肉を取った。
「ダメだよ、焼いている肉は箸で押さえておかないと新は取るよ」
「箸で押さえているのもいただきだ!」
「あ!」
ひょいぱく!
「新……そこまでする?」
「ちょっとー! 私のお肉ー!」
「新は舞い上がっているな。この調子なら冒険者レベル5も近いだろう。週に1回のダンジョンだけでレベル4に行けるのは凄い事だぞ。レベル4は中級、熟練扱いだ」
「当然、達也先生と同じレベル5になるぜ! いただ、あ!」
俺は冒険者を辞める時レベル4だったんだけどな。
樹と凜が素早く肉をつまんで口に入れる。
「どんどん食べてくれ」
俺は肉を焼いていく。
3人は世界で初めてまともにダブルジョブの戦いを確立したとして注目されている。
「達也先生、僕たちは新しいパー、ふぐふぐ!」
「待て待て、一緒に言おうぜ」
「新しいパーティーか、良いと思うぞ」
3人は注目されている。
正式にパーティーを組んでパーティー名を決める事で皆の名はさらに広がるだろう。
「それでね、パーティー名なんだけど先生のパーティー『ウエイブライド』から取って『ウエイブウォーク』にしようと思うんだけど、いいかな?」
「うん、良いと思うぞ。黒矢や白帆にあやかったいいパーティー名だ」
「違うよ」
「達也先生は分かってねえな!」
「達也先生はそう言うって僕は予想できたよ」
「え? 何?」
「達也先生にあやかってこのパーティー名にしようとしたの!」
「……あのなあ、3人が強くなったのは俺のおかげじゃない。俺は基礎訓練が大事だと言った。でも大事だと言ったからってみんながみんな真面目に基礎訓練を続ける事は出来ない。皆の頑張りがあったから皆が強くなった。それだけだ」
地味で苦しい基礎訓練をみんなやりたがらない。
基礎訓練を大事だと言うのは10秒で言える。
言うのは簡単だ。
口出しをするなら冒険者じゃなくても出来る。
だが口で言うのとそれを実際やるのでは超えられない壁がある。
「新、樹、凜、3人は頑張って強くなったんだ」
「先生はそう言うと思ったよ、とりあえず、ウエーブウォークは決まりだね」
「……私達、達也先生に感謝しているのは本当よ」
「達也先生はこういう所があるからな。たまに仙人のような事を言うぜ」
「スピリチュアル系だよね」
「器が大きすぎるのよ」
「10人全員分の装備もプレゼントしてくれた。俺達が頑張るだけじゃこんなに早くレベル4にはなれなかったぜ」
「そっか、ありがとう。これ言ってなかったんだけど、装備はな、黒矢や白帆、ごうがくれたのを次の世代に渡している感じだな。肉、焼けたぞ」
「え? なんだ、そう言う事は言ってくれよ」
「昔の事、聞きたいなー」
「僕もだよ」
「はっはっは、後でな。焼けてるぞ。早く取らないと新が全部食べる」
懐かしい反面言いたくない事もあった。
2人が死んだことを思い出してしまうのだ。
俺は笑顔で話しを逸らした。
「ひでえ、腹いっぱいになったら食わねえって」
「腹が一杯になるまで肉を取るんだろ?」
「当然」
樹と凜が笑う。
3人がわちゃわちゃしながら肉を食べる。
この空気感が懐かしい。
俺は焼肉を食べずに肉を焼き続けた。
◇
また俺は年を取った。
沙雪が中学3年生になった。
家で焼肉を囲む。
「沙雪、野菜もしっかり食べろよ。おばあちゃん、魚そろそろいいんじゃないか?」
沙雪は更に大人になった。
「……」
「どうした?」
「沙雪ちゃん、言いましょう」
「え? 何かあるなら言って欲しい」
「うん、あのね、行きたい高校があるの」
沙雪がパンフレットを持って来た。
俺は箸を落としてパンフレットを見る。
寮生活。
少し、さみしくなるな。
だが、それよりも学校の事が引っかかった。
行くのは冒険者を育てる高校だ。
死んでしまった黒矢と白帆の事が頭をよぎる。
もし沙雪が冒険者になったら、いい結果を残すだろう。
でも、俺がずっと沙雪を守れるわけじゃない。
もし、沙雪が死んでしまったら?
俺は白帆の言葉を思い出した。
最後の時には立ち会えず、動画でメッセージを聞いた。
『お願い! 達也! 沙雪を守って! お願い!』
俺は言葉が出ず、最後まで見た。
そしてまた最初からパンフレットを見返す。
「どう、かな?」
不安そうな目で沙雪が俺を見た。
おばあちゃんが沙雪の背中をさする。
前も同じことを考えた。
もし、沙雪が冒険者になりたいと言ったらどうするか。
沙雪が思った道を進めない未来、それは幸せではないだろう。
人生の選択を自分で選べる、それが幸せだと思う。
そう、答えは決まっていた。
だがパンフレットを持つ手が震える。
自分の手を見てその震えを止めた。
「……良いと思うぞ」
「おじさん、ありがとう」
「沙雪ちゃん、良かったわね」
「お父さんやお母さんみたいに立派な冒険者になりたいのか?」
「え? 違うよ」
「お、おう、そうか」
「ウエイ……おじさんって最近の流行り、分かる?」
「いや、全然」
「凜さんっていうきれいな先輩がいるの。私が入学するのと同時に卒業しちゃうんだけどね」
「リンか。最近の流行りは分からない」
一瞬だけ凛の事かと思ったが凜はアイドルでもモデルでもない。
リンなんていっぱいいる。
別人だろうな。
「凄いんだよ。杖でモンスターを一気に倒して、今大人気なんだ」
黒魔法使いか?
攻撃特化だとすれば凛じゃない。
「凛さんが着ているバトルスーツが可愛くて、メーカーがスポンサーについてるんだ」
「おお、凄い人なんだな」
メーカーのスポンサーとかは聞かない。
気のせいだろう。
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