第2話
「さて、そろそろ遊園地に行くか」
俺はスマホの電源を切って玄関に立った。
おばあちゃんは疲れるからとお留守番だ。
「おばあちゃん、お土産買ってくるね」
「はい、楽しんで来てね」
おばあちゃんが笑顔で手を振った。
玄関を出るとごうがいた。
「うわああ! びっくりした」
「沙雪、驚かせちまったな」
ごうはマッチョで背が高い。
普通に話すだけでも声が大きく迫力がある。
ごうががしがしと頭を撫でると沙雪がセットした髪が乱れる。
「達也、少しだけいいか?」
「……分かった。沙雪、ちょっと待っててな」
ごうと2人で公園に向かい歩く。
「今日は天気がいいぜ」
「そうだな」
「……」
「……」
ごうは俺を見て言った。
「なあ、招集に来る事はできないか?」
「俺は沙雪に時間を使いたい」
「このままじゃ冒険者レベルが下がっちまう。招集に応じなければポイントが大きく下がる。今から10分でもダンジョンに入ってゴーレムを狩るだけでいいんだ」
ごうは面倒見がいい。
俺が高校に入り冒険者になった頃から面倒を見てくれた。
ごうは俺の為を思って言ってくれている。
ダンジョンから溢れるモンスターを倒した後はダンジョンの中にいるモンスターを倒す事が多い。
ごうは俺の為にモンスター狩りを切り上げて俺の所に来てくれた。
「沙雪を育てたいのは分かる。だがよう、10分でいいんだ。招集があれば10分ダンジョンに来てすぐ帰ればいい。それだけで済む」
「ごう、ありがとう、でも俺は沙雪と遊園地に行きたい。俺は沙雪の両親のように出来なくても、いや、うまく出来ないからこそ出来る限りのことをしたいんだ」
「時間を全部沙雪に使うのか? 達也、前言ってただろ? 目標はそれだけじゃねえだろ?」
「変わっていない」
俺の目標は2つある。
沙雪を立派に育てる事、そして沙雪の両親を殺したモンスターを倒す事だ。
1番に沙雪を育てる為に時間を使う。
それ以外の時間は訓練に使う。
モンスターと戦っても基礎が身につかない。
まだ訓練が足りない。
俺は何度も奴の、あのモンスターの動画を見た。
今の俺では奴に勝てない。
「一緒にやろうぜ! 俺はよう、次の世代を育ててんだ、一緒に人を育てて10年、いや、20年もすれば冒険者のレベルは上がる。20年前にダンジョンが出来てから訓練の効率は上がってんだ! 時間をかければ次の世代が育つ。一緒にやろうぜ!」
ごうは両手を握り締めながら言った。
「俺は、自分を鍛えたい。まだ出来ていない事があるんだ」
「良いじゃねえか。道が違っても最後のゴールは同じだぜ! 一緒に行こうぜ! な!」
「ごう、みんなには言ってなかったんだけど、俺、一旦冒険者の資格を返そうと思う」
「沙雪の事ならメイドを雇えばいいじゃねえか。全部をお前がやる必要はねえよ」
「俺は出来る事は全部やりたい」
俺は託された。
出来る事は全部やりたいんだ。
「そう、か、悪かったな。時間を取らせちまった。沙雪がまた怒っちまうな」
「ああ、ごう」
「ん?」
「ありがとな」
「おう、いいって事よ!」
ごうはガッツポーズで笑顔を向けた。
そしてガッツポーズのまま言った。
「俺は人を育ててまとめる。達也は自分を高めてくれ。一緒に沙雪の両親を殺したモンスターを倒そうぜ!」
「ああ、そうだな」
俺達は公園に着く前に家に戻った。
沙雪が家の前に立ったままジト目で俺達を見る。
「はっはっはっは! お嬢様を待たせちまったな!」
「おーそーい!」
「悪かった。すぐに遊園地に行こう」
「なんのお話だったの?」
「仕事の話で達也に分からない事を聞いていただけだ。もう分かったから大丈夫だぜ!」
ごうは気を使って嘘にならないように答えた。
「遊園地、楽しんできな!」
「豪己さんにもお土産買って来てあげるね」
「おう、そりゃあ楽しみだぜ!」
ごうは明るく手を振って見送った。
ごう、悪いな。
俺は沙雪を優先するし、ごうのように人を育てるのも苦手だ。
沙雪の手を繋いで遊園地に向かった。
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