第3話
【
おばあちゃんが口を開いた。
「良かったらお茶でも飲んでいきます?」
「ちょっと待ってな」
スマホを開いてダンジョンにいるゴーレムが片付いた事を確認した。
「お邪魔するぜ」
「ええ、コーヒーとミルクとサイダー、どれがいいかしら?」
「ミルクをホットで」
「用意するわね」
おばあちゃんが俺を家の中に案内しホットミルクとクッキー、それとせんべいを出してくれた。
俺はミルクを一気に飲み干した。
「あらあら、お代わりが必要ね」
「サイダーを」
おばあちゃんがにこりと笑ってサイダーをジョッキに注ぐ。
俺はジョッキに注がれたサイダーをグイっと半分ほど飲んでせんべいをぼりぼりと食べ、そしてクッキーを3枚同時に口に入れた。
「うまい」
「どういたしまして」
出してもらったお菓子をすべて平らげる勢いで食べた。
するとおばあちゃんが話しだす。
「達也さんはね、沙雪ちゃんを育てようと頑張っているわ。子育ては苦手かもしれないけど、それでもやると決めたら絶対に達也さんはあきらめないわ」
おばあちゃんは何の話をしたのか察しているようだった。
元々おばあちゃんは達也の家族ではない。
近所に住む一人暮らしのおばあちゃんだった。
だが達也はお金の問題で困っていたおばあちゃんを家に住ませて家族のように扱った。
本人は『おかげで沙雪の子育てが助かった』と言っているが老人1人を養うのは並大抵の覚悟で出来る事じゃない。
おばあちゃんが倒れて、もし亡くなりでもすれば警察が来る。
取り調べだって受けるだろう。
若い女ではなく年寄りを家に住ませる所は達也らしいとは思う。
「私には何も言わないけれど、達也さんは冒険者の道をお休みすると思うわ」
達也の事をよく見ている。
達也が言った事と同じことをぴったり言い当てた。
おばあちゃんは俺がお菓子を全部食べても何も言わないし気にしていない。
それに動きに品がある。
若いころはモテただろうな。
「もっと食べる? 達也さんからお客さんにはいくら食べさせても良いと言ってくれているわ」
「……腹が減って食いすぎた。昔飯ばかり食べて親に怒られた事を思いだしちまった」
「まあ、たくさん食べて元気なのは良い事なのに、世の中には体が弱くて食欲のない人もいるわ。健康が一番よ」
おばあちゃんの顔を見て分かった。
年老いた自分の事を言っているわけではない。
長い人生だ。
家族か、それとも大切な誰かを病気か何かで失って来たのかもしれない。
「達也がおばあちゃんをここに住まわせて良かったのかもな」
「急にどうしたの?」
「達也は人付き合いが苦手で子育ては向かない。でも人を見る目はある、なんせ達也は魔眼を持っている」
「ええ、そう思うわ、あなたと仲が良いもの。人を見る目はあるわね」
俺を見てほほ笑むおばあちゃん。
俺はおばあちゃんの事を言ったつもりだった。
だがおばあちゃんは俺の事だと思ったようだ。
おだてているわけじゃなく本気でそう思っているその顔を見て照れてしまう。
俺のようなガサツな人間でもおばあちゃんは笑顔だ。
「私は、さみしかった。でも今は達也さんも沙雪ちゃんもいて毎日が楽しいわ。この生活があるのは達也さんのおかげよ」
「おう!」
達也は俺の見えない所で色々手を尽くしているのが分かった。
剣を極めて次は魔法の訓練をしていると思っていたら合間合間で色々と動いている。
「少し待てば食事を出せるけど、良かったら食べて行きましょう?」
「……ご馳走になるぜ」
いつもなら断る所だがおばあちゃんの優しい雰囲気でつい長居してしまう。
食事をご馳走になり『他に食べたいものは無い?』と聞かれ午後になると玄関から音がした。
ガチャリ!
「ただいまー!」
「ただいま」
「おかえりなさい。思ったより早かったわね」
「最初は遊園地に行こうとしてやっぱりお買い物に行く事になって食事が終わるとすぐにお土産を買う事になって帰ってきた」
「あ! 豪己さんだ!」
「おう、お邪魔してるぜ!」
「良かった、はい! お土産」
「ありがとな!」
「えへへへ!」
「おばあちゃんもお土産」
「はい、ありがとう。皆で食べましょう」
「えー! おばあちゃんにあげたのに!」
「皆で食べるのが美味しいのよ」
「……そっかー」
「4人いるんだし、夕食も4人で食べましょう」
「貰いすぎになっちまうな」
「じゃあねえ! じゃあ一斉に何が食べたいか言うのやろ?」
「そっか、みんな決まった?」
「俺は決めたぜ」
「私も決めたわ」
「わたしねえ、ちょっと待って、う~ん」
「沙雪は考えてなかったのか」
「決めた! いくよ、せーの!」
「焼肉定食」
「オムライス!」
「カツカレー」
「おそば」
「「あははははははははは!」」
「皆全然違うね!」
「全部作りましょう。私1度でいいから喫茶店をやってみたかったの」
「私も喫茶店やる!」
「多分、材料が足りないよな? 買って来よう」
「待っててね。メモを用意するわ」
「沙雪、他に作りたい物はないか?」
「ないよ、豪己さん、何で笑ってるの?」
「いや、みんな楽しそうでな」
沙雪は絶対に後で何かを追加する。
まだ7才だ、自分で自分が何をしたいのか、何が好きなのかすらまだよく分かっていない。
俺と達也はアイコンタクトをした。
「そうだなあ、もし追加があれば次は俺がお使いをして来るぜ」
「ごう、助かる」
「いいって事よ」
「あやしい」
「何がだ?」
「何か怪しい」
「沙雪、怪しい事は無いよ」
「豪己さんとおじさんは2人で遊んでる」
沙雪の言葉でおばあちゃんが笑った。
「名探偵には勝てないわね」
「沙雪名探偵?」
「ええ、名探偵ね」
「私名探偵になった!」
みんなの笑い声が響く。
その後達也が買い物に行っている間ケーキを作る事になり俺はにやにやしながら買い物に向かった。
やっぱり追加オーダーがあったか。
こういう時間もあっという間に過ぎる。
達也、沙雪はあっと言う間に大人になるぞ。
俺はお使いをして夕食とケーキを食べながら考えを巡らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。