魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ

第1話

「続きまして新入生の言葉をお願いします。市川沙雪いちかわさゆきさん、前へ」

「はい!」



 俺は保護者として入学式の様子を見つめる。

 高校生になるのか。

 沙雪が銀色のセミロングヘアを揺らして前に出る。

 

 沙雪は入試で主席だ。

 頑張ったんだ。

 俺は両親のように立派じゃなかった。

 それでも、娘は立派になったぞ。


 涙が込み上げる。

 沙雪に言われた事を思いだした。


『おじさん、恥ずかしいから泣かないでね』


 無理だ。

 今までの想いが込み上げた。


「黒矢あ、白帆おおおお、沙雪は立派に、りっぱにいい、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああん!」


 俺が泣くと大勢の記者が俺にカメラを向けた。


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!


 俺は号泣しながら昔の事を思いだす。



 ◇



「おじさん! 起きて! お・き・てえええええ!」


 ぴょんぴょんぴょん!


 沙雪が俺の上で飛び跳ねる。

 7才になりまだ手加減を知らない本気のジャンプキック目覚ましを腹に受けて目を覚ました。


「……沙雪、おはよう」

「おばあちゃんが呼んでるよ!」

「そう、か。すぐ降りる」

「今降りて」


「沙雪、俺がまた寝ると思ってるな?」

「うん!」

「俺は約束を守る男だぞ?」


「うっそだあ! いつもそう言って寝るよ!」

「そうだったか?」

「そう! ベッドの上だと絶対寝るよ!」


 沙雪が俺の手を全力で引っ張りベッドから降ろそうとする。


「今日はお休みで元気がいいな」

「うん!」


 沙雪は休日だけは早く起きるタイプだ。


 ベッドを降りてあくびをしながら新築住宅の1階に降りた。


「おばあちゃん、いつもありがとう」

「さあ、冷める前にどうぞ」


 おばあちゃんがにこにこして食事を出してくれる。

 具だくさんの味噌汁・ご飯・焼いたイワシ・納豆・わかめの和え物。

 高い材料は使っていないが手の込んだおばあちゃんのご飯だ。

 店で食べようと思えば結構な額になる。

 おばあちゃんの料理はそれだけ手間がかかっている。


 元々住む場所にはこだわらない俺だが沙雪の事を考えてダンジョンから離れたこの場所に家を買った。

 買ってよかった。

 元々冒険者として稼いでいた俺は生活には余裕があるのだ。


 ウオオオオオオオオオオオオオオン! 


 ウオオオオオオオオオオオオオオン!


 警報の耳障りな音が鳴った。



『ゴーレムダンジョンからモンスターが溢れました。ダンジョンの周辺に住んでいる方は速やかに避難をお願いします。繰り返します。ゴーレムダンジョンからモンスターが溢れました。ダンジョンの周辺に住んでいる方は速やかに避難をお願いします』


 俺のスマホも鳴り続ける。


「おじさん、出なくていいの?」

「……いいんだ。食事にしよう」

「最近多いよね?」

「そうだな」


 エースの不在、沙雪の父と母は最高の冒険者だった。

 2人が生きていればこんな事にはならなかっただろう。


「……おじさん、ほんとに行かなくていいの?」

「いい、食事だ」

「うん」


 沙雪は俺の言葉に安心して食事を再開する。

 俺は招集に応じず冒険者としての評価が下がるよりも沙雪を育てる事を優先する。

 そう決めたのだ。


 俺は親代わりとしての能力はない。

 それでも沙雪に出来る限りのことをしたい。

 

 テレビをつけるとモンスターが溢れて冒険者が戦っていた。


『おりゃあああああああああああああああ!』


 ザン!

 ゴーレムがマッチョな冒険者の剣で両断されて霧になり、魔石と鉱石を落とした。

 モンスターを倒すとエネルギーとなる魔石と固有のドロップ品を落とす。

 ゲームのようにモンスターを倒せばレベルが上がるわけではない、実戦経験は大事だが強くなるには地味な基礎訓練が必要だ。


「あ! 豪己ごうきさんだ!」

「ごうか、いつも動きが早いな」

「豪己さんがいるなら大丈夫だね」

「そうだな、ごうは強い、でもな、沙雪の父さんと母さんはもっと凄い冒険者だったんだぞ」

「それ何回も聞いたよ」


「そうだったか?」

「うん、いつも言ってる」

「そっか」


 俺は沙雪の両親のは凄いと毎日言うようにしている。

 もう聞いたよと言うくらいに言っている。


「お茶ですよ」

「おばあちゃん、ありがとう」


 おばあちゃんは食事を摂る俺と沙雪を柔らかい笑顔で見つめる。


「あーあ、これだと遊園地には行けないね」

「行くぞ、ゴーレムはごうが全部倒す、父さんと母さんの次にごうは凄いんだ」

「それもいつも言ってる」

「……そうだな」


 お茶をくいっと飲むと言った。


「とにかく、偉い冒険者がモンスターを倒してくれるから遊園地に行こう」

「うん」

「あ、全部倒した」

「な、ごうも凄いだろ?」

「うん」


 ごうがゴーレムを斬り倒すと剣を掲げた。


『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』』


 ごうの掲げた武器に呼応するようにみんなが杖や武器を掲げて叫ぶ。

 ごうは面倒見がいい。

 冒険者の兄貴的な存在だ。

 今日は沙雪を遊園地に連れて行く。


「1時間くらいしたら行くから準備はしておいてな」

「もう出来てるよ!」


 沙雪はパンパンに膨らんだバックパックを掲げて言った。

 その姿に3人同時に笑った。


 俺には招集よりも遊園地の方が大事だ。


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