『ともだち』

 夕食。

詩熾の手料理が並ぶ食卓では、二人もただの家族に見えよう。

本の感想を言うようになってから、冬桜さんから話し掛けてくれることも増えた。


「……お兄さん。」

「なんでしょう?」

「お兄さんって、何歳なの…?」

「……二十、四……だったと思います。」

「そう、なんだ。私と……九歳違うね。」

「そうですね。………どうかしましたか?」

「お兄さんは、なんで私に……えっと……かたい言葉で話すの……? 私もっと…お兄さんとなかよく話したい…」


想定外のお願いに、言葉を出せなかった。


「あっ、その……イヤだったら……ごめんなさい……」

「いえ、嬉しいですが……どうして?」

「えっと、本で読んだ……『ともだち』……になりたいから……?」


 頭によぎる被検体管理規則。

───第八条。

『被検体との業務以上の関係構築を固く禁ずる。』


「やっぱり、ダメ……ですか?」

「……いいですよ。なりましょう、『ともだち』。ただ、一つお願いがあります」

「何……?」

「俺と『ともだち』になったことを他の人に言わないこと。守れますか?」

「守れる……!」


 こくりと、深く頷く。

この様子なら問題無いだろう。元々、俺以外にあまり口を開かないし。


「ありがとうございます。これから俺は『ともだち』としてあなたに接しますが、口調が変わっても驚かないでくださいね」

「驚かないよ」


 仰々しく咳払いをして、彼女の名前を呼ぶ。


「じゃあ改めてよろしく、瞳さん」

「よろしくね、涼神くん」

「はは、涼神くんか。まぁ……うん、これで『ともだち』かな」

「今までのおに、涼神くんって、お仕事の喋り方だったんだ……」

「まぁ。被検体にそう軽く接しても良い事なかったし」


 先程と雰囲気は変わらない。

しかし、お互いに笑顔が増えたのは気のせいではないだろう。


(『ともだち』になれた……やった……!)

(……これからどうなるか……今は、考えなくていいか……)


 被検体とその管理担当という関係を越え、二人は『ともだち』になった。

 しかし同時に、越えてはならない一線も越えていたのは言わずともわかるだろう。



羽化まで残り▅年。

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