きっと叶う

 瞳さんは被検体だ。『ともだち』になったからといってその関係に変わりはない。

 要するに何が言いたいかというと、月初めの採血やバイタルチェックは変わらず行わなければならないという事だ。


「ぅ……」


細い腕に容赦なく突き刺さる注射針に、小さく呻き声を漏らす少女。

刺している俺は傍から見れば犯罪者だ。実際そうなのだが。


「よし。採血も終わりだ。あとは───」

「身長と体重とイコル制御の測定だね」


……先を越された。

専業じゃないんだ、半年に一回の検査なんていちいち覚えていられない。


「まず身長体重から測るか」

「うん」


 瞳さんは成長期なのか、目に見えて身長が伸びてきている。

しかし俺に比べればまだまだ低い。腰を折ってトントンくらいだ。

 体重も増えているが、身体の成長に伴ったものだ。決して訳ではない。

俺が毎日ご飯を作っているからとかそういうわけでは断じてない。絶対に。


「最後はイコル制御か。本気でやってみて」

「わかった……」


 瞳さんのイコル汚染は世にも珍しい二種混合。

『"波"を操る力』と『空間を歪ませる力』

どちらも強力無比なものだが、持ち主が穏やかな少女でよかった。


「……強くなったね」

「ありがとう……?」


特に嬉しくはなさそうだ。当然だろう。


「私、この力でやりたいことがあるの」

「へぇ、何したいの?」

「秘密……!」

「はは、そうか。きっと叶うよ」


 夢があるのはいいことだ。

決して叶わないとしても、無いよりずっといい。


「じゃあこれで終わりだから、お疲れ様」

「おつかれ……さま、で……」

「あ!? おい!!」


 突然、瞳さんが膝から崩れ落ちた。何とか支えられたものの、危ない所だった。

……よく聞けばすぅすぅと寝息を立てている。


「良かった……汚染使うのは疲れるか、ごめん……」


 研究所は残酷だ。それでも俺は、親代わりのここに縛られ続けている。

俺の過去を知った時、瞳さんは俺の事を嫌いになってしまうだろうか?




羽化まで残り▇年

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