第12話

問注所は注がれた視線に対し、動揺を隠すように早口で反論した。

「それは可能性のひとつに過ぎない。忘れているのか、みんな。そんな薄い線より、将軍が食ったという濃い線があることを。」

「それは不可能だ。その理由は、オレもついさっき政所が変な食べ方を指摘するまでは気づかなかったことなんだが…。」

オレはそういって両腕を前に出して臣下に見せた。

「見てくれ。オレは防寒対策で袖と手袋を紐で固定している。」

「だから、なんなんですか。」

「分からないか?ミカンを食べるとき、みんなならどうする?」

執権は少し考える様子をみせた後、納得するように深く頷いた。

「なるほど。手袋を外すのか。」

「そうだ。手袋を外してミカンの皮を剝く。それも、食べていないように見せかけるために皮を千切らずに器用に剥くには手袋は不都合だ。しかし、オレの手袋は袖と固定されている。外すことは出来ても一人でつけることは出来ない。いつもオレはママに結んでもらっているしな。蝶々結びするにも手袋したままじゃやりづらいだろ?」

オレは前に出していた右腕をそのまま問注所の方に向け、人差し指で指さした。

「よってオレに犯行は不可能。犯人はお前だ!」

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