第11話
「どういうことだよ。」
全員がかまくらに戻るや否や侍所が不満を吐露する。
「将軍様の推理は外れていたということです。」
問注所が厳しい現実を突きつけてくる。
かまくらの上にも足跡は残っていなかった。
オレの推理は悉くすべて外れていた。
真相は闇の中。
オレからすると第三者による犯行が濃厚になった。
しかし、オレ以外の人間からすると「オレが食べた」というごく平凡な真相が残されている。
「これは頼朝の仕業で決定だな。」
侍所が呆れるように言った。
「ちょっと待ってくれよ。オレじゃない!」
声を荒げて否定するだけの振り出しに逆戻りだ。
「にしても、変な食べ方だな。」
政所はミカンの皮は摘まみ上げて、ミカンの皮を観察した。
ミカンの皮は底が抜けるように剝かれていた。
そういえばオレが起きた時ミカンは潰れるように萎んでいた。
それは当然中身がないからだ。
そうか。
中身がなくなったのか。
オレの中で最後の仮説が構成される。
「とりあえず、今日は中止にするか?」
執権が場を収めるように周りを見渡しながら発言する。
臣下たちは執権の言うことに異論はないようだ。中止もなにもミカンがなくなったのだから続行のしようがないじゃないか。
「今日は当然中止で解散だとして、執権殿どうします?将軍は当然失脚ですよね?」
問注所のオレへの敵意は他の3人よりも強いように思えた。
「そうだな、今日は解散に…。」
執権がそう言いかけたところでオレは割って入った。
「この事件…たった今”氷解”した。」
「ミカンはオレがかまくらに来た時にはもうすでに食われていたんだ。」
「え?」
驚きの声が上がる。
「頼朝はそれに気づかなかったと?」
「こんなに潰れているのに気づかないは無理があるだろ。」
「いいから、一度頼朝の話を聞こう。」
避難轟轟たる臣下の文句を執権が鎮めた。
「そう、オレは愚かにもこの謀略に気づかなかった。なぜなら、ミカンは中身が入っていたから。」
「中身?」
「ミカンの中には新雪が詰められていたんだ。新雪は固まりにくく塩でも振っておけば溶けやすくなる。ミカンは底の方から剥かれていた。それはオレにミカンの中身があるように錯覚させるためだ。そして時間が経ち、雪が解け、ミカンは潰れるように萎む。」
「触れば分かることですよ。」
問注所の批判はもはやオレには刺さらない。
「そうだな。でもオレはそれをしなかった。誰かさんに触るなと言われていたからな。つまり、犯人はオレがミカンを触らないということを知っている人物ーつまり臣下の誰かだ。そして臣下の中にこのミカンを仕込むことが出来たのは一人しかいない。なぜなら臣下は全員下校後のアリバイがあるんだろ?」
全員の視線が自然とその対象の人物に注がれる。
「この雪入りミカンを仕込めたのはかまくら内に持ち込んだ問注所、お前だけだ。」
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