第3話
「これは一体どういうことですか?」
三善a.k.a問注所はオレに嫌疑の目を向ける。
招集がかけられた4人の臣下が雪の机を囲んでいる。
「どういうことかはオレが聞きたい。お前たちの誰かがミカンを食ったんだろ?」
オレは目に見えて不機嫌な態度をとる。
「いや、それはあり得ない。なぜなら、頼朝が俺たちが呼ばれてかまくらに着いた時、唯一の出入り口の前に足跡は一つもなかった。ミカンを食えるのはかまくら内にいた頼朝だけなんだよ。」
和田a.k.a侍所が頼朝に反論すると同時に三善と同じようにオレを責めるように言う。
彼らの主張はこうだ。
オレに呼ばれてかまくらに着いた時、かまくら唯一の出入り口には足跡がなく、人の出入りは不可能であった。そのため、ミカンを食べることが出来るのはもともとかまくら内部にいたオレだけだという。
予想外の反論にオレも戸惑っている。誰がミカンを食べたのか責め立てるつもりがオレが責め立てられることになるとは思わなかったからだ。
さらに、オレはミカンを食べていないため、足跡が残っていないのはどう考えてもおかしいのだ。
「おい、侍所。オレは食ってないぞ。これは冤罪だ。」
「しかし、この状況で頼朝以外がミカンを食べる方法などあるのか?」
大江a.k.a政所は淡々と疑問点を挙げる。
「かまくらの出入り口は一つのみであり、その出入り口には頼朝が寝ている間に降り続けた雪が積もっており、足跡はついていなかった。つまり、脱出することも入ることも不可能。となるとかまくらの中にいた頼朝がミカンを食べたというのが自然である。」
既成事実を冷静に指摘されただけだが、オレは全員がオレを敵意の目をもって見ているような気がして苛立ちを隠しきれない。
オレが責めるべき立場のはずが、なぜオレが責められているのか。
確実にこの中にオレを陥れようとした人がいる。表では正義面しながらオレを犯人と見立てて詰問し、心の奥底ではしめしめとオレの表情を窺いながら嘲笑しているに違いない。
「オレは食べてないって言ってるだろ!問注所が触るなってしつこいから触れてすらいない!」
オレは怒鳴った。
雪が手元にあれば雪玉でも作ってぶつけているところだが、生憎かまくら内に雪玉を作れるほどの雪はない。
雪壁がしっかりしており、隙間がなく、入ってこないのだ。
「静粛に。」
問注所が一言でオレを諫める。
「頼朝が食べていないというのであれば、だれがどのような方法で足跡を付けずにかまくらに侵入し、ミカンを食べ、かまくらを脱出したのか。これを説明してもらおう。それができなければ、頼朝の犯行と断定するしかない。他に可能な人物がいないということになるからな。」
北条a.k.a執権が場をまとめる。
いつもオレたちの中で喧嘩が起きると仲介役に回ってくれるのは執権である。周りにはオレがNo.1であり、北条がNo.2であると思われているのはこういう大人な一面と発言力の強さを知っている人が多いからかもしれない。実際にはオレたちの中に上下関係などというものはなく、ただの友達である。
雪合戦に関してのみオレが輝くが、それ以外ではむしろオレは目立たないほうである。問注所は学年1位の学力の持ち主で、執権は生徒会長、侍所は運動神経抜群で学校の徒競走1位、政所は美術コンクールで県から優秀賞を獲得している。様々な分野で優秀な生徒の集まりなのだ。
「執権の言う通りだ。仮に将軍様といえど、ミカン食いは将軍失脚レベルの大罪ですよ。」
問注所は将軍失脚という罪状を提示してきた。ミカンひとつで大げさだと思うだろうが、このミカンは政子ちゃんa.k.aクラスのマドンナから貰った大切なものだ。他の人からすればただのミカンでも俺たちからすれば宝石級の代物だ。今日はそれをみんなでかまくらで分けて食べる予定だった。それを一人忍んで食らうような行為は確かに将軍失脚レベルだ。
そのため、集まった臣下たちも気が立っているように見える。
もちろん、オレもだ。オレにいたっては冤罪をかけられている。
将軍失脚レベルの大罪な上にその大罪を擦り付けようとしている極悪人が善人面して今も高みからツラツラと喋っていると思うと歯ぎしりが止まらない。
しかし、感情で喋っても何も解決しない。
オレが犯人でないとすると、かまくらは広義の密室であり、不可能犯罪のように見える。
しかし、この状況を密室と呼ぶには圧倒的に矛盾していることがある。
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