第2話
毎年、冬になると公園でのかまくら作りが活発化する。しかし、公園の面積も雪の量も限られているので、当然縄張り争いが発生する。単に早いもの勝ちでもいいのだろうがそれでは面白くない。
強者こそが公園を利用するべきだ。
雪上で最強を決めるもの__議論の余地などない。
雪合戦1択だ。
特に示し合わせるわけでもなく、雪合戦の勝者が公園を優先的に使用するようになった。しかし、雪合戦のルール自体は明確にされておらず、我の強い年上が幅を利かせる結果となった。雪玉を何回当てられたら負け、という基準がないため、負けを認めなければ永遠に続いてしまうのだ。どちらかが譲る(空気を読む)しか勝敗が着かないのが現状なのだ。明らかに勝っていたとしても、その後の関係性などを考慮すると負けを認めてくださいと強く言うことは出来ない。長期の雪合戦の末、忖度により勝敗が決する。そうして雪合戦による縄張り争いのルールは次第に形骸化していき、その実態は年功序列。基本的に同じ中学生の不良グループが公園を席巻していた。
このオレが参戦するまでは…。
オレは小5の3学期に初めて当時のクラスメイト4人と雪合戦に参戦した。
敵は近所の中学三年生の不良グループ5人。5対5の勝負である。
中学3年生と小学5年生の対決など勝敗が分かりきっている。オレ以外の4人はボコボコに打ちのめされ、世の中の理かのように淘汰される。
もちろん勝敗の基準などないわけだから負けが決まったわけではないのだが、圧倒的な実力差と凶暴性を前面に押し出したような容貌の年上たちに戦意を喪失してしまう。大人になってからの4歳差と小学校5年生の時の4歳差は全く違う。中学3年生というのは彼らにとって非常に大きな存在だ。親世代は子供に配慮した結果、対等に接してくることがないので、異種の存在として舐め腐れるが、中学3年生となると対等なうえで見下されていることを実感する。中学3年生は同種の最高峰であり、大人以上に怒らせてはいけない存在という認識なのだ。
この認識が雪合戦のルールを風化し、年上が幅を利かせる主因であることは間違いない。
戦況は完全に中学3年生が圧倒していた。
しかし、最終的に勝ったのは小学5年生である。
”勝ち”が認められない雪合戦で”勝ち”を認められざるを得ないくらいオレ1人で圧勝したのだ。
身軽で柔軟な身体と圧倒的な反射神経を生かしてすべての雪玉を避ける。
その様子には華麗という言葉がよく似合う。
攻撃も一流で、雪玉を薄く固めて手首のスナップを利かせて投じる。
すると雪玉は大きくカーブし、標的に命中する。
野球ボールでは出せない大きな変化量がもたらす雪玉の軌道に中学3年生は対応しきれない。雪壁をバリケードとしても。雪壁を迂回して真横から的中する。
とんでもない魔球にもかかわらず、コントロールも抜群なのだ。
威力こそ直球に劣るが不快感と敗北感を敵に募らせるには十分効果があった。
中学生が軌道を読み始め、雪壁の背後から移動し、雪壁の真横に位置取る。カーブ対策だ。
しかしそれでは直球のラインががら空きである。
オレは雪玉を高い軌道を描くように放る。
その落下点は当然中学3年生《ターゲット》である。
そのため中学三年生はこの攻撃を避けなければならない。
目線が上に向く。
そこに渾身の直球が突き刺さる。
威力はカーブ以上だ。
言うならば、遅球と速球の時間差による波状攻撃。
遅球の落下点を標的のやや左に設定し、標的の右端めがけて速球を投げることで左右の回避を封じるなんてことも可能だ。
さらには薄く固めた雪玉をアンダースローで投じることで雪玉が急上昇する魔球も
攻撃パターンにある。
多彩な攻撃パターンで相手に雪玉を命中させつつ敵の攻撃を全て避けるのだ。
敵がこれで勝ちを主張するのはどれだけ忖度したとしても無理がある。
オレの戦闘に魅入った連中が観衆に湧き、気づくと近所の小中学生20人ほどがギャラリーとなってこの戦いを見守っていた。
このギャラリーを前にはさすがの中学3年生グループも勝ちの主張を押し通すことが出来ず、負けを認めた。
その後、小学5年生1人に4人がかりで負けたという事実が恥ずかしいのか、その中学3年生たちは公園に現れなくなった。
公園の覇権を手にしたオレは同級生5人組で公園の一等地(公園の一角に位置し、かまくらの2辺が公園のフェンスに沿って作られており、背後を取られにい場所)にかまくらを築いた。その覇権は4年続き、オレも今や中3である。歴史は繰り返すものだ。結局中学3年生が支配する時代に戻ったわけだ。
公園の利用者たちはこの5人組による長期覇権をかまくらにちなんで「鎌倉幕府」と呼び、そのトップに君臨するオレを「源頼朝」と呼んだ。
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