第4話

「時系列順に事件を整理しよう。」

オレはこれが不可能犯罪なんかではないことを解説する。

「まず、政子ちゃんから学校でミカンを受け取る。各自帰宅してから、かまくらに集合してみんなでミカンを分け合おうと約束して下校。問注所は下校路の近くを通るのでかまくらにミカンを置いてから、下校した。オレはその後一番最初にかまくらに到着し、ミカンを確認してひと眠りした。そして、起きた時にはミカンは食べられていた。その後、臣下たちがかまくらに着いた時、出入り口付近には足跡は残っていないため、犯人は中にいたオレ一人に絞られる。これが臣下たちの言い分で間違いないか?」

反対意見はない。

「しかし、この時明らかにおかしいことがある。問注所とオレが鎌倉に入った時の足跡もなくなっている。新雪が足跡をかき消したんだ。つまり、オレが寝た直後にかまくらに侵入し、ミカンを食べて脱出すれば、その足跡はオレと問注所の足跡と同様に新雪により消える。つまり、犯行は誰にでも可能なんだ。オレと問注所の足跡が消えているのが何よりの証拠だ。」

この意見は的確なはずなのだが、誰にも響いていないように見えた。

既にこの考えは検討済みだというかのように白けた空気である。

「全員にアリバイがある。帰宅してから俺たちは頼朝も除く全員が集合していたんだ。せいぜい30分程度だが、そこから公園に向かうとなると新雪で足跡が消しきれないだろう。」

執権が全員を代表して答える。

「オレ抜きでなんの集まりだよ。そもそもお前たちかまくらに来るのが遅すぎなんだよ。」

記憶を遡ると確かにおかしい。

一度帰宅してからかまくらに再集合する予定だったのに誰一人来なかった。集合時間こそ決めていないがさすがに誰一人来ないのはおかしすぎる。

オレの脳裏に最悪のシナリオが生まれる。

「もしかして全員グルか?オレの政権を終わらせようとしているのか?」

「仮にそうだとしたら頼朝がどんな弁明をしようともう有罪確定だが?」

執権が軽く受け流す。

臣下全員が謀略を計っているというのであれば確かにもう手遅れである。オレが無罪であったと証明出来たとしても、臣下はオレに従う気などすでにないからだ。

つまり、臣下全員が足跡を残さずに出入りすることが可能な時間帯にアリバイがあるという前提のもとで思考の糸を巡らせなければならない。

しかし、それでもこれは不可能犯罪ではない。

「容疑者は別に臣下だけではないだろう。第三者が足跡が消える時間帯にかまくらを出入りし、ミカンを食った。」

侍所が首を振って否定する。

「あのミカンの価値を知っているのは俺たちだけだろ。かまくら内に人がいる状態で侵入してまで食う価値あるか?」

侍所の反論も良く分かる。オレたち以外からすればただのミカンだ。


正直なところ新雪が積もる前に侵入者がミカンを食べた説はオレ自身があり得ないと証言できる。なぜならオレはかまくらに来てすぐに寝たわけではないからだ。オレはかまくらで臣下の到着を待ったが、なかなか誰も来なかったから昼寝したのだ。その間に雪が降り始めたわけだから、新雪によって足跡が消える説はあり得ない。

オレにとっては不利な証言だから当然口にはしないのだが。


となると、オレは容疑者を臣下の中の誰かであると仮定した上で、雪に足跡をつけずにミカンを食べる方法を考えなければならない。

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