返信

 柳本からの返信が来た。

「先輩からのお心遣い、誠に感謝致します。ですがもう疲れました。深夜残業を命じられて指示も無く、貴方は残業もせずに帰っていく。

 何が『俺、無理はしない主義なんで』ですか。

 困った時に部下に労いの言葉もかけず、上司失格だと思いません?

 異世界に行っていたという戯言の慰めは結構です。僕が必要とされるのは、この場所だと思いますのでここで生きて行こうと思います」


 頭が痛くなってきた。

 確かに俺がここ最近、柳本を始め部下に残業を命じ辛く当たっていたのは否めない。

 残業しない理由もあったが、今の柳本に言っても通じない気がした。


「どうしようかなぁ……」

 イスに持たれ、天を仰ぎつぶやいた。

 決算期の書類も終わりつつある中、俺の電話に内線が入る。

『青木です』

『北神です』

 思わず背筋が伸びる。

『社長、何か御用でしょうか?』

『相談がありましてね。お茶の相手ついでにカードゲームでもしませんか?』

『は、はい……』

 内線を切り、緩んでいたネクタイを締め直す。

 ホワイトボードに【会議中→社長室】と書くと、俺は足早に社長室へと向かった。


 □◆□


「やぁ、待ってましたよ」

 温厚な笑みを浮かべた青年が猫を撫でていた。

 北神織仁きたがみおりひと。若干10代で起業し20代後半で国内有数の企業の社長となった男。

 そして

「まぁ、座ってください。

 その言葉に俺は少し驚きながらイスに座った。

 そう。我が社長は俺の塾での教え子だ。

 北神はその天才ぶりに孤立していた。俺が基礎教育で教える事のさらに先を行っており、勉学で俺に教えられる事は無かった。だが、寂しそうな顔の北神を見るたびに、講師として俺はせめて何か言葉をかけられないかと考え、

『お前が人を集める存在になれ。そうすればお前は一人じゃない』

 そう言ったのを覚えている。

 その後、彼は海外に留学した。

 見送りにいった空港のエレベーターで見知らぬボタンを押した瞬間、俺は異世界へ転移した。


 異世界の1年はこちらの5年であり俺が帰った時には塾は倒産となり、職も無かった。

 そんな中、仕事を斡旋してくれたのは後輩の修であり、社長である織仁であった。

 企業勤めはまったく縁が無かったので、一から出直す事になったが、専務などの推薦から俺は人事部長となった。


 その後、異世界で知り合った転移者の仲間たちなどの協力も得て、カミさんと息子を呼びこちら側で暮らす事になった。


「柳本君が休職してますね」

「はい、申し訳ありません」

 立場は変わった以上、教え子とはいえ上司には変わりない。敬語で話すと織仁の目が細くなる。

「そう機嫌を悪くするなよ。公私混同しないのが俺の主義と言ったはずだぜ」

「それでもですよ。どうしたんですか、先生?今回はらしくないじゃないですか」

「柳本が異世界した」

「詳しく教えてもらえますか」

 興味を持ったのか、織仁は猫を自分の頭に乗せ顔を寄せてきた。

 俺は自分の転移した話と柳本の異世界転生をした話をした。

 織仁は楽しそうに、

「そういう世界が……楽しそうだなぁ」

「いや、大変だぞ。火を起こす、水を汲む。こういう日本で当たり前の事を自力でやらないと行けないからな」

「こういう場合、何か特殊能力とか備わるのじゃないのですか」

 俺は、ため息をつくと指を鳴らした。

 俺と織仁の間にプラネタリウムのような丸い星と色とりどりの光がつく。

「ついたのが検索能力でな。こうやってすると」

 指を再度鳴らす。

 光の中心に波が走り光が所々についてくる。

「これがうちの社内。どこに何人いるか分かる」

「すごいじゃないですか!これなら柳本さんもすぐに見つかるのでは?」

 俺は首を振る。

「俺ができるのはここまででな。どこに誰がいるかは分からない」

 指を三度鳴らし、空間を変える。

 レーダーを部屋型にして、光が三つになった。

「これで、俺と織仁。後、その猫ちゃんだな。社長室だと分かるだろ?」

「なるほど。しかし、消印でよく分かりましたね」

「消印の紋章がなぁ。俺たちが昔、武力介入した国の紋章に似ていたのさ」

「過激ですね」

「洒落にならない乱世だったしな。たまたま仲間に勇者と精霊機兵操縦士。後、軍師兼外交官やってる奴がいて和平条約結ばせたからな……魔王がいるとは聴いてなかったが」

「あの……所々ファンタジーな職業がありませんか?」

「言ったろ、異世界って。例えばこの世界がA世界とするならB世界やC世界からも転移してきたんだよ」

 俺はため息をついた。

「そして一番の問題。俺が巻き込まれたのは異世界だ。柳本は異世界した。つまり、。帰って来た時に柳本の肉体が無ければ生き返らないだろう?」

「あー」

「だから、まず柳本の肉体を探さなければいけない。新聞やネットニュースを見てもトラック事故はいくらでもあるが柳本が巻き込まれたというのは無い」

 顎に手を置き、織仁は考えると

「社長命令です。修君を連れ戻すまで異世界出張を命じます」

「柳本の肉体は?」

「それは僕らの方で探します。何か必要なものは?」

 俺は頭をかくと、

「まず、家庭手当とスタッフ雇うから資金。かつての仲間と召喚契約している精霊呼ぶから」

「いいですよ。他には?」

「制服手当かな」

「は?」

 指を鳴らし、レーダーを消す。

「この能力、スーツ着てないと発動しないんだよ」

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部下が異世界転生しちゃったので、上司責任で連れ戻しに行ってきます 睦 ようじ @oguna108

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